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134:遺跡の拠点にて3

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 ファングボアの解体作業を職人達にお願いしたラルフさんは、キャロ達の煮込みを暖め直すのを手伝っていたようだ。普段から野営暮らしが日常なおかげで火を起こすような作業は得意なようだ。

 キャロに呼ばれた僕達が美味しそうな香りが漂うその作業場所に来ると「更に経験を重ねたから美味しくなってるのよ」リーゼが自慢そうにそう言うと、お椀に入れた煮込みを手渡してくれた。

 作業場所にはレンガで作られた簡単なかまどが、いつの間にか出来上がっていた。

「職人さん達が魔精レンガを持ってきてあっという間に作って下さったんです」ルナが煮込みをかき混ぜる手を休める事なく、嬉しそうにそう説明してくれた。

「おーい、お嬢ちゃん、ワシにもその旨そうな煮込み料理をくれんかね」

 さっきまでファングボアの解体を主導していた白髪の親方が、孫のような年齢のリーゼの前で小さくなってお願いしている。

「おじいちゃん、ファングボア解体してくれてありがとう!」リーゼが笑顔で煮込みのお椀を差し出した。

「お、おう、なあにワシらにかかればあのくらいの事、容易いもんよ! あ、ああ、ありがとよ! お嬢ちゃん」

「私はリーゼって言うの! そしてこの子はルナ、覚えておいてね」

「かまどを作って下さって、ありがとうございます」ルナが丁寧に頭を下げてお礼をしている。

「なあに、お安い御用さ、また何かあったら遠慮なく言ってくれ。ありがとうリーゼちゃん、ルナちゃん」

 二人の女の子にお礼を言われて、少し照れくさそうな様子で親方は自分の席に戻っていった。その職人の食事の輪の中にいつの間にかラルフさんと並んでキャロとティムがファングボアの焼き肉を食べている姿があった。

「すっかり馴染んでいるわね、あの子達、リーゼとルナには少し悪いけど先に私達も一緒にいただきましょう」

 サラに促されて、僕達もキャロ達の輪の一部になるべくみんなのいる所に移動したのだった。

◻ ◼ ◻

 夕食も終わり拠点の喧騒はすっかり収まっていた。僕とラルフさんは拠点の僕の小屋で休んでいる。床に村の家から持ってきた草で編んだ敷物を敷いただけの状態だったけど、地面で直接休むよりは快適だった。
 
 夕食の煮込みはとても好評だったが肉体労働の職人さん達には少し物足りないようだった。それでもファングボアの焼き肉のおかげで皆の食欲を満足させられたのは幸いだった。

 ラルフさんは功労者として職人の皆にエールを注がれてすっかり酔っぱらってしまい、拠点の僕の小屋までやっとの事で連れて来たのだった。

 ルナ達は遅くなるといけないので、ある程度食事をした後は早々に転移魔法陣で帰っていった。

 僕も本当は一緒に帰るつもりだったけど、ラルフさんをここに置いていく訳にもいかなかったので今日はここで一晩過ごす事になった。

 拠点は夜には職人さん達によって取り付けられた門と門扉によって完全に閉ざされた状態になり、かなり安全な状態になっている。

 それでも篝火は絶やさず歩哨としての最低限の警戒は行われている。それでもサラに言わせれば、ここに最初に来たときと比べれば天と地ほどの違いだと言われた。

「すいません、ユーリさんすっかりご迷惑をおかけしたみたいですね」

 目を覚ましたラルフさんは、まだ少し酔いが残っているみたいだが大丈夫そうだ。

「かなり回復したみたいですけど、もう少し休まれたらどうですか?」僕はポーチから水筒を取り出してラルフさんに渡した。

「ありがとうございます、もう大丈夫ですよ。ですが久しぶりにあんなに飲みましたよ。なかなか楽しいお酒の席でした。最近は一人で野宿が多かったですからね」

 ラルフさんはさっきまでの夕食を思い出したのか、楽しそうに笑顔を見せた。

「あの、失礼かと思いますが……どうしてそこまでしてこの階層に留まっているんですか?」

 階層攻略をする訳でもなく、金銭的にも負担ばかりの多いこの十一層にラルフさんがいる理由が分からなかった。

「初めて会ったゴブリンの拠点の側で、私の精霊に意識があるのか尋ねましたよね?」

 どうやらゴブリンの移動が始まったので、話が途中になった件のようだった。

「私の精霊には確かに意識はあるようです。そして私が十層以前の低層で初級探索者に戻ろうとする度に囁くんですよ」

『ソナタのデキルコトヲせよソレガ……オマエタチのタメダ……コレハ……ワレノ【慈悲】デアル』 
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