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123:遺跡の拠点整備2
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ディーネの放った魔法の弓矢は、レッサーベアの背中に突き立った。一瞬、今の一撃で仕留められるかと期待したが大型の魔物は肉厚なのか致命傷を与えるには到らなかったようだ。
(やはり十層の大型の魔物となると八層の蜘蛛みたいに一撃という訳にはいかないか)
蜘蛛は数が多いのと毒と糸が厄介だが、防御はそれほど高くないので手数と遠隔攻撃の手段さえあれば苦戦する相手ではなかった。
(変異種以来の大物……それに二足歩行の相手だから接近戦だとリーチの短い僕が不利だけど……今後はそういう相手とも戦う事になるから良い機会かも)
十一層からは二足歩行タイプの魔物が群れで集団行動していたり、そういった魔物が拠点を築いている場合もあるそうだ。
「ガアッ」不意を衝かれて怒り狂ったレッサーベアが、一番近くにいた僕に向かって猛然と突っ込んできて両手の巨大な爪を覆い被せるように振り降ろそうとした。
以前までの僕なら、こうなる前に距離を取って全力回避するか、それが無理なら盾とバゼラードで攻撃を弾くべく防御に集中するかのどちらかだったろう。
「【ストーンウォール】」ギリギリまで引き付けて僕は魔法を唱えた。
防御用として放った魔法は見事にカウンター攻撃としても機能しレッサーベアの顎を下から打ち上げた。
ニースの借り物であるこの魔法だが、生成できるサイズが小さいだけで幸い強度はニースの物と遜色ないのだ。
そんな物に突然打ち上げられたのだからかなりの衝撃を受けたようで、レッサーベアは後ろによろめいたように下がり完全に無防備な状態になった。
僕は素早く右側から回り込み、ここ最近で新たに手に入れたもう一つの力を試してみた。
「【風切斬】」変異種との戦いでサラが使った技だった。バゼラードが魔法陣書き換えにより黒魔武器となった事で、僕にも使えるようになったのだ。
普通の斬撃とは比べ物にならない威力の【風切斬】でレッサーベアの左腕を、僕は軽く切り飛ばした。
「【風切斬一閃】」後ろから接近してきたサラが鞘から抜き打ちで一閃し鞘に剣を納めた。
(僕の目にも辛うじて剣の軌跡が見えただけだ……恐ろしく速い剣閃だな)
一つ羽の探索者になった事でようやく出来るようになった技らしい。抜刀の段階から風の魔力を纏わせる事で剣速を上げ瞬断する。高度な魔力操作と高い魔力が必要な技のようだ。
「追撃も必要ないか……変異種に匹敵するほどの強度まではなかったみたいね」
サラがそう告げると、レッサーベアの首が落ち、胴体が音を立てて崩れ落ちたのだった。
◻ ◼ ◻
戦いが終わってレッサーベアの魔素吸収を行ってみたが、吸収の負荷を感じる事はなかった。それでも素材的な価値は在るので無駄というわけではなかったが……
「これ以上の成長を望むなら十一層に降りるしかないみたいだね」僕がそう告げると
「そうね~、さっきの戦いもユーリだけでも勝てたでしょうね。私達も見てただけで退屈だったわ~」
上空からふよふよと降りてきたフィーネがそんな感想を述べた。
「なんだか止めだけ刺して余計な事をしたみたいな気分だけど……まあ正直なところフィーネの言う通りね。さあ素材を回収したら土壁の件を早速試さないと」
戦いに集中してすっかり忘れそうになっていたけど、拠点の整備の為に川に来たのだった。
「遺跡までのルートは、さっき私達が通ってきた小道が良いわね。森の小道沿いに土壁を設置していきましょう」サラが拠点の方角を指差しながらそう指示をする。
僕はニースに二枚ずつ道なりに土壁を設置していくよう頼んだ。ニースはお願いされたのが嬉しいのか張り切ってどんどん土壁を設置していった。
作業を確認すると、二枚の土壁に挟まれた所はうまい具合に僕の膝が埋まるくらいの溝になっている。
「思ってたより上手くいきそうね。最終的な調整はガザフの建築作業者の人々が行ってくれるでしょう」作業を確認していたサラが満足そうにそう言った。
暫くニースが作業するのを黙って見ていた僕だったが、どんどん土壁を作っていくニースの事が心配になってきた。
「ニース! 凄いペースで土壁作ってくれてるのは助かるんだけど、魔力が心配になってきたからそろそろ終わりにしようか?」
僕の呼び掛けを聞いたニースはルピナスに乗って僕のもとに戻ってきた。
「心配?」ニースが不思議そうに僕の顔を見た。
「ユーリ~、精霊石を出してみて~」ふよふよとやって来たフィーネが僕にそう催促した。
僕はポーチに入れていた精霊石を取りだしてみて驚いた。
「これって、大気中の魔素を吸収しているんだよね⁉」
僕の手の平の上で精霊石は少し輝いている。
「どうやら成長した精霊樹と同じように、その精霊石も成長する事で自力で大気中の魔素を吸収出来るようになったみたいね~」
最近、猪鹿亭にあるシルフィーの精霊樹も、キャロが一つ羽の探索者になった事で自力で魔素を取り込めるようになった。
「土壁は魔力操作系の魔法だから、その場の材料を使うので魔力の消費はそれほどではないの。だから大気からの吸収分で賄えるみたいね~」
この後もニースは土壁を作り続け、僕もその後を追いながら隙間があれば埋める作業を行い、その日のうちに拠点と川が繋がる事になった。
「もう終わったのか……今日は状況の調査くらいで終わると考えていたのだがな」
戻ってリサさんに報告すると些か、呆れられてしまったようだった。僕は作業に区切りがついたので明日から階層攻略に戻る事を告げた。
「ああ、そうだなまだ少しお願いしたい事もあったのだが……あまり拘束するわけにもいかないな……そうだ、これを君に渡しておくとしよう。転移魔法陣の起動板だ入り口の認証用にもなっている」
僕はそのギルドの身分証に似た金属板を受け取った。表面に複雑な文字と魔法陣らしき物が描かれている。
「明日からの攻略に役立つだろう。本人以外は使用出来ないが紛失しないように注意してくれ」
僕はリサさんにお礼を言ってその場を辞したのだった。
(やはり十層の大型の魔物となると八層の蜘蛛みたいに一撃という訳にはいかないか)
蜘蛛は数が多いのと毒と糸が厄介だが、防御はそれほど高くないので手数と遠隔攻撃の手段さえあれば苦戦する相手ではなかった。
(変異種以来の大物……それに二足歩行の相手だから接近戦だとリーチの短い僕が不利だけど……今後はそういう相手とも戦う事になるから良い機会かも)
十一層からは二足歩行タイプの魔物が群れで集団行動していたり、そういった魔物が拠点を築いている場合もあるそうだ。
「ガアッ」不意を衝かれて怒り狂ったレッサーベアが、一番近くにいた僕に向かって猛然と突っ込んできて両手の巨大な爪を覆い被せるように振り降ろそうとした。
以前までの僕なら、こうなる前に距離を取って全力回避するか、それが無理なら盾とバゼラードで攻撃を弾くべく防御に集中するかのどちらかだったろう。
「【ストーンウォール】」ギリギリまで引き付けて僕は魔法を唱えた。
防御用として放った魔法は見事にカウンター攻撃としても機能しレッサーベアの顎を下から打ち上げた。
ニースの借り物であるこの魔法だが、生成できるサイズが小さいだけで幸い強度はニースの物と遜色ないのだ。
そんな物に突然打ち上げられたのだからかなりの衝撃を受けたようで、レッサーベアは後ろによろめいたように下がり完全に無防備な状態になった。
僕は素早く右側から回り込み、ここ最近で新たに手に入れたもう一つの力を試してみた。
「【風切斬】」変異種との戦いでサラが使った技だった。バゼラードが魔法陣書き換えにより黒魔武器となった事で、僕にも使えるようになったのだ。
普通の斬撃とは比べ物にならない威力の【風切斬】でレッサーベアの左腕を、僕は軽く切り飛ばした。
「【風切斬一閃】」後ろから接近してきたサラが鞘から抜き打ちで一閃し鞘に剣を納めた。
(僕の目にも辛うじて剣の軌跡が見えただけだ……恐ろしく速い剣閃だな)
一つ羽の探索者になった事でようやく出来るようになった技らしい。抜刀の段階から風の魔力を纏わせる事で剣速を上げ瞬断する。高度な魔力操作と高い魔力が必要な技のようだ。
「追撃も必要ないか……変異種に匹敵するほどの強度まではなかったみたいね」
サラがそう告げると、レッサーベアの首が落ち、胴体が音を立てて崩れ落ちたのだった。
◻ ◼ ◻
戦いが終わってレッサーベアの魔素吸収を行ってみたが、吸収の負荷を感じる事はなかった。それでも素材的な価値は在るので無駄というわけではなかったが……
「これ以上の成長を望むなら十一層に降りるしかないみたいだね」僕がそう告げると
「そうね~、さっきの戦いもユーリだけでも勝てたでしょうね。私達も見てただけで退屈だったわ~」
上空からふよふよと降りてきたフィーネがそんな感想を述べた。
「なんだか止めだけ刺して余計な事をしたみたいな気分だけど……まあ正直なところフィーネの言う通りね。さあ素材を回収したら土壁の件を早速試さないと」
戦いに集中してすっかり忘れそうになっていたけど、拠点の整備の為に川に来たのだった。
「遺跡までのルートは、さっき私達が通ってきた小道が良いわね。森の小道沿いに土壁を設置していきましょう」サラが拠点の方角を指差しながらそう指示をする。
僕はニースに二枚ずつ道なりに土壁を設置していくよう頼んだ。ニースはお願いされたのが嬉しいのか張り切ってどんどん土壁を設置していった。
作業を確認すると、二枚の土壁に挟まれた所はうまい具合に僕の膝が埋まるくらいの溝になっている。
「思ってたより上手くいきそうね。最終的な調整はガザフの建築作業者の人々が行ってくれるでしょう」作業を確認していたサラが満足そうにそう言った。
暫くニースが作業するのを黙って見ていた僕だったが、どんどん土壁を作っていくニースの事が心配になってきた。
「ニース! 凄いペースで土壁作ってくれてるのは助かるんだけど、魔力が心配になってきたからそろそろ終わりにしようか?」
僕の呼び掛けを聞いたニースはルピナスに乗って僕のもとに戻ってきた。
「心配?」ニースが不思議そうに僕の顔を見た。
「ユーリ~、精霊石を出してみて~」ふよふよとやって来たフィーネが僕にそう催促した。
僕はポーチに入れていた精霊石を取りだしてみて驚いた。
「これって、大気中の魔素を吸収しているんだよね⁉」
僕の手の平の上で精霊石は少し輝いている。
「どうやら成長した精霊樹と同じように、その精霊石も成長する事で自力で大気中の魔素を吸収出来るようになったみたいね~」
最近、猪鹿亭にあるシルフィーの精霊樹も、キャロが一つ羽の探索者になった事で自力で魔素を取り込めるようになった。
「土壁は魔力操作系の魔法だから、その場の材料を使うので魔力の消費はそれほどではないの。だから大気からの吸収分で賄えるみたいね~」
この後もニースは土壁を作り続け、僕もその後を追いながら隙間があれば埋める作業を行い、その日のうちに拠点と川が繋がる事になった。
「もう終わったのか……今日は状況の調査くらいで終わると考えていたのだがな」
戻ってリサさんに報告すると些か、呆れられてしまったようだった。僕は作業に区切りがついたので明日から階層攻略に戻る事を告げた。
「ああ、そうだなまだ少しお願いしたい事もあったのだが……あまり拘束するわけにもいかないな……そうだ、これを君に渡しておくとしよう。転移魔法陣の起動板だ入り口の認証用にもなっている」
僕はそのギルドの身分証に似た金属板を受け取った。表面に複雑な文字と魔法陣らしき物が描かれている。
「明日からの攻略に役立つだろう。本人以外は使用出来ないが紛失しないように注意してくれ」
僕はリサさんにお礼を言ってその場を辞したのだった。
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