自由都市のダンジョン探索者 ~精霊集めてダンジョン攻略~【第一部:初級探索者編完結】

高田 祐一

文字の大きさ
上 下
106 / 213

106:調査隊3

しおりを挟む
「ミリア様! 今の【遠吠え】……もしかして例の魔物でしょうか?」

 周囲を査察団のエルフ達に囲まれたギルド受付孃のマリアが、隣を疾走するミリアに声をかけた。

「そうかもしれないわね……しかし領主殿への出立の挨拶に、思ったより手間取ったのは誤算でしたね」

 適当に理由を付けて少数の調査隊を編成し出立しようとしたのだが、領主から呼び出しを受け事情の説明を余儀なくされてしまい、こんな時間になってしまったのだ。

「領主殿の情報収集能力もなかなか侮れないという事でしょうか? いや、これはマリア殿の前で失礼しました」

 横から会話に入ってきたのは、この査察団の副長として実質的に団を率いていると言っても良い、銀髪の美しいエルフの女性で名前をリサという。

 ミリアが自由に動き回れるのも、彼女が査察団に関する実務全般を担っているからで、最も信頼する右腕とも呼べる人物といえた。

 実力もミリアを除けば、実力者集団で構成された査察団でもトップの実力者であり、団員からの信頼も篤かった。

「恐らく、ギルドからの協力要請が伝わったのでしょう」マリアは取り立てて気にする素振りも見せず無表情にそう言った。

「だがそのお陰で良いタイミングで来れたのかもしれない。情報もなく三層を闇雲に探し回るのは遠慮したかったのよね……あの【遠吠え】の主が目的の相手ならだけどね」

 集団はひたすら【遠吠え】の聞こえてきたと思われる方角を目指して走り続けた。

 そのスピードは凄まじく、そに速さと表情一つ変えることなく進む集団を端から見るものがいれば、其だけで尋常ではない者達だと理解出来たに違いない。

「見えました!」「間もなく会敵します!」

 先頭を走る二人から、同時に声が掛かった。

「会敵!」

「第二種装備武器の使用を許可します! 抜剣!」リサの号令と同時にミリアとマリアを除く、その場の全員が黒魔剣を抜いた。

「どうやら、逃げられないと分かって、観念して戦うつもりみたいね。それとも、私達を誘き寄せたつもりかしら?」

 ミリアがまるで緊張感の無い声音で、まるで話しかけるようにそう言った。

 森を抜けた先には、三層中から集まったのかと思うほどの数のレッサーウルフの大群が待ち構えており、中央にはまるで守られる王でもあるように、他の三倍近くのサイズのある角の生えた狼が佇んでいた。

「報告とは少し色が違うようですが……」リサがミリアに語りかけ、ミリアも頷いて「だがこの階層にいて良い魔物ではない……やるぞ」

「ハッ! 総員突撃!」リサの号令を受けて抜刀していた調査隊のメンバーが一斉にレッサーウルフの群れに向かっていったのだった。

◻ ◼ ◻

 僕達は、二十匹近くのレッサーウルフの魔素吸収を終え、魔石の回収作業を行っていた。装填式の魔法武器を使うようになり今後は、攻略に魔石が必要になるからだ。

「これだけギルドに納品したら、また孤児院に仕事が沢山いきそうだね」

 魔石以外は全て納品に廻すつもりだった。肉は干し肉なら需要があるらしい。単純に素材としてならレッサーシープのほうが価値が高かった。

「みんな張り切っている事だし、良いことよ」同じく魔石を回収していたサラも嬉しそうに頷いた。

 僕達が作業を終え、レッサーウルフを全て収納しこれからどうするか話していると、「ちょっと今回は本気で不味いかもしれないわ~」フィーネがふよふよと飛んできてそう報告した。

 近くの森から現れたのは、白い毛並みで角の生えた[変異種]と思われる巨大な狼の姿だった。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

悪役令嬢、資産運用で学園を掌握する 〜王太子?興味ない、私は経済で無双する〜

言諮 アイ
ファンタジー
異世界貴族社会の名門・ローデリア学園。そこに通う公爵令嬢リリアーナは、婚約者である王太子エドワルドから一方的に婚約破棄を宣言される。理由は「平民の聖女をいじめた悪役だから」?——はっ、笑わせないで。 しかし、リリアーナには王太子も知らない"切り札"があった。 それは、前世の知識を活かした「資産運用」。株式、事業投資、不動産売買……全てを駆使し、わずか数日で貴族社会の経済を掌握する。 「王太子?聖女?その程度の茶番に構っている暇はないわ。私は"資産"でこの学園を支配するのだから。」 破滅フラグ?なら経済で粉砕するだけ。 気づけば、学園も貴族もすべてが彼女の手中に——。 「お前は……一体何者だ?」と動揺する王太子に、リリアーナは微笑む。 「私はただの投資家よ。負けたくないなら……資本主義のルールを学びなさい。」 学園を舞台に繰り広げられる異世界経済バトルロマンス! "悪役令嬢"、ここに爆誕!

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

処理中です...