上 下
63 / 213

063:蜂狩り解禁1

しおりを挟む
 噴水広場から逃げ出すようにして出てきた僕は、足早にギルド裏の納品所に向かっていた。

 (ウサギは一日、最大でも五匹が限度かな。今日みたいに悪目立ちしたくないしな……最低限三匹は狩って、後は何か他の獲物を考えないと)

 数をこなす事を考えれば、やはり蜂狩りが最適そうだ。

 (ローダンヌ商会の蜂蜜の確保はどうなったのかな? 何か事態に進展がないかマリアさんに聞いてみようかな)

 さっきの騒ぎで戻って来る探索者が少なかった事もあってか、ギルド迄は誰にも見咎められずに到着した。

 ギルドの納品所で、吊るしていた四匹とポーチから一匹のレッサーラビットの納品を行った。

 すると前回納品の対応をしてくれた職員の男性が、「親父から聞いてるぜ、もしポーチにまだ入ってるなら心配しないで出してくれていいぜ」と言ってきた。

 僕は驚いて「親父って?」と尋ねた。

「ああ、文字通りさ、俺の父親は元ウサギ狩りのゼダっていう。俺の名はゼンって言う。よろしくな」

 驚いた事に、ゼダさんの息子さんのようだ。言われて見れば顔も良く似ている。ただ、口調は丁寧なゼダさんとは随分違った。

 僕は三人の家族については詳しく聞いてなかったので驚いてしまった。

「親父が世話になった人の孫らしいな、少なくとも俺に関しては心配しないでいい。ギルドも実績重視で細かい詮索をしてくる事はないから安心しな」

 僕はゼダさんの息子さんの言うことならと信用して、取り敢えず三匹を納品する事にした。

「総数八匹かよ、すげえな」そう言いながら、ギルド証に情報を記録して返してくれた。

「蜂蜜に関しては、何か情報はありますか?」マリアさんに聞くつもりだった件をゼンさんに、尋ねてみた。

「ああ、ローダンヌ商会の件だな、こっちは獲物の納品が無ければ情報が入って来ねえからな。その辺の話は表で聞いてくれ」

 どうやら、ローダンヌ商会は獲物を直接購入しているのかもしれない。僕は手続きのお礼をゼンさんに言った後、表のギルドに向かった。 

◻ ◼ ◻

 表のギルドに入った僕は、屋台のダンさんの依頼を見つけ、後は何枚かウサギ狩りの依頼書を剥がして、マリアさんの元に向かった。

 順番がやって来て、マリアさんの前に座った僕は「ユーリさん、この前は誠に申し訳ありませんでした」といきなり無表情で謝罪をされてしまった。

「あの、どうされましたか?」僕は謝罪を受けるような迷惑をマリアさんから受けた覚えはなかったからだ。

「蜂狩りの件です。狩り場が荒れる可能性を、お知らせする事が出来ませんでした。ローダンヌ商会の件はギルドも多少、甘く見ていたようです。まさか、狩り場の占有までするとは……」

 僕はギルドも黙認している行為だと思っていたので意外だった。

「明日には占有も解除されているでしょう。どうやら蜂蜜の流通問題も解消したようです。ギルドからの警告に対してあっさり従う旨、ローダンヌ商会から連絡がありました」

 どうやら、ローダンヌ商会もかなり追い詰められていたのかもしれない。だが、僕にはそういう政治的なやり取りに関心は無かった。

「それじゃあ、蜂蜜狩りは?」僕が期待を込めて尋ねると

「ええ、蜂蜜の相場も落ち着きましたし……何の問題もありません!」

 マリアさんに力強く請け負ってもらった、心なしかマリアさんも嬉しそうに見えた。

 もちろん、無表情だったけど……
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

【12/29にて公開終了】愛するつもりなぞないんでしょうから

真朱
恋愛
この国の姫は公爵令息と婚約していたが、隣国との和睦のため、一転して隣国の王子の許へ嫁ぐことになった。余計ないざこざを防ぐべく、姫の元婚約者の公爵令息は王命でさくっと婚姻させられることになり、その相手として白羽の矢が立ったのは辺境伯家の二女・ディアナだった。「可憐な姫の後が、脳筋な辺境伯んとこの娘って、公爵令息かわいそうに…。これはあれでしょ?『お前を愛するつもりはない!』ってやつでしょ?」  期待も遠慮も捨ててる新妻ディアナと、好青年の仮面をひっ剥がされていく旦那様ラキルスの、『明日はどっちだ』な夫婦のお話。    ※なんちゃって異世界です。なんでもあり、ご都合主義をご容赦ください。  ※新婚夫婦のお話ですが色っぽさゼロです。Rは物騒な方です。  ※ざまあのお話ではありません。軽い読み物とご理解いただけると幸いです。 ※コミカライズにより12/29にて公開を終了させていただきます。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

異世界でもプログラム

北きつね
ファンタジー
 俺は、元プログラマ・・・違うな。社内の便利屋。火消し部隊を率いていた。  とあるシステムのデスマの最中に、SIer の不正が発覚。  火消しに奔走する日々。俺はどうやらシステムのカットオーバの日を見ることができなかったようだ。  転生先は、魔物も存在する、剣と魔法の世界。  魔法がをプログラムのように作り込むことができる。俺は、異世界でもプログラムを作ることができる! ---  こんな生涯をプログラマとして過ごした男が転生した世界が、魔法を”プログラム”する世界。  彼は、プログラムの知識を利用して、魔法を編み上げていく。 注)第七話+幕間2話は、現実世界の話で転生前です。IT業界の事が書かれています。   実際にあった話ではありません。”絶対”に違います。知り合いのIT業界の人に聞いたりしないでください。   第八話からが、一般的な転生ものになっています。テンプレ通りです。 注)作者が楽しむ為に書いています。   誤字脱字が多いです。誤字脱字は、見つけ次第直していきますが、更新はまとめてになります。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

【完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界に召喚されたけど、聖女じゃないから用はない? それじゃあ、好き勝手させてもらいます!

明衣令央
ファンタジー
 糸井織絵は、ある日、オブルリヒト王国が行った聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界ルリアルークへと飛ばされてしまう。  一緒に召喚された、若く美しい女が聖女――織絵は召喚の儀に巻き込まれた年増の豚女として不遇な扱いを受けたが、元スマホケースのハリネズミのぬいぐるみであるサーチートと共に、オブルリヒト王女ユリアナに保護され、聖女の力を開花させる。  だが、オブルリヒト王国の王子ジュニアスは、追い出した織絵にも聖女の可能性があるとして、織絵を連れ戻しに来た。  そして、異世界転移状態から正式に異世界転生した織絵は、若く美しい姿へと生まれ変わる。  この物語は、聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界転移後、新たに転生した一人の元おばさんの聖女が、相棒の元スマホケースのハリネズミと楽しく無双していく、恋と冒険の物語。 2022.9.7 話が少し進みましたので、内容紹介を変更しました。その都度変更していきます。

処理中です...