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055:ダンジョンの役割1

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「私はまだ生まれてなかったから詳しくは知らないけど、三十年前の、この大陸中央にあたる森林地帯は木々はあるけど土地の痩せた不毛の大地と呼ばれて、周辺国からも見捨てられたような場所だったらしいの」
 
 僕にはこの話の内容が実感として理解出来た。僕の村の土地がまさに不毛の大地だったからだ。

「土地が荒れるのは濃い魔素に原因があるらしいの。森林の木々は精霊樹程では無いけど大気中の魔素を吸収するの。でも浄化する様な能力は無いから周辺に魔素溜まりが発生し、土地が徐々に荒れていったようね」

 僕は村の土地が荒れている原因を、まさか知る事になるとは思わなかった。僕が物心ついた時から、土地は荒れているのが普通で原因など考えた事もなかったのだ。

「周辺国からは不毛の大地と蔑まれているけど、森林が魔素を一身に引き受けているお陰で無事でいられたと言えるのよ。でも、それもいつしか限界が来て周辺国の土地も徐々に荒れだした時、ダンジョンが発見されたの」

 僕は住んでいた森の犠牲を悲しんだ、そして身勝手な周辺国に少し腹を立てた。

 (知らない事だから仕方ないとはいえ、何て愚かなんだろう……)

「三十年前に突然、森林の中央地帯であるこの場所に白く輝く柱が立ったの。それで調査に派遣された調査隊がこのダンジョンの入り口を発見したのよ」

 柱の事は、じいちゃんからも、よく聞かされたから知っている。何週間も輝きが止まず村では、この世の終わりだと騒ぎ出す人もいたらしい。

「周辺各国は色めき立ったわ、調査の結果、ダンジョンが資源の宝庫だと分かったからよ。そしてダンジョンの管理について話し合いが持たれたの。議論は紛糾し、各国を巻き込んでの戦争にまで発展しかけた時、利権争いには参加しなかった、エルフィーデ女王国からある提案がなされたの」

「この地に独立した自由交易都市を各国共同で作るという案よ。全ての国が交易の形で恩恵を受けられる。都市管理は第一発見者の一人でもあるガザフ辺境伯をエルフィーデ女王国が推薦したの。各国もこの譲歩案に賛同したわ」

「よく賛同しましたね。独占したがる国が出そうだけど」

 人種の欲深さをそれなりに理解している僕は不思議でならなかった。

「そうね、最も早く調査団を派遣し、第一発見者と言っても良いエルフィーデ女王国がダンジョンの管理という巨大な利権を放棄したのも大きいけど……人種の国々はエルフィーデ女王国の力を秘かに恐れていたのよ」

 シルフィーは思い出すように考え込み、そして話を再開した。

 (じいちゃんも、よく話してる最中に考え込んでたな……)

 僕は少し懐かしく感じていた。

「過去に野心的な強国の王が、エルフィーデ女王国に手を出して大敗し、その後、衰退してしまったの。エルフィーデ女王国側が人種の国へ侵略してくる事は無かったので、刺激したくなかったというのもあるかしら」

 この意見はシルフィーの個人的な考えなのかもしれない。自信ありげにウンウンと頷いている。

「とにかく消極的にだけど各国は賛同したの。魔素で疲弊した状態での戦争は今は避けたいという本音もあったでしょうね。そんな経緯で、今のような形になったのよ」

 話を終えて達成感に浸っている雰囲気のシルフィーに僕は、

「あの……それでダンジョンの役割って……」と申し訳なさそうに尋ねたのだった。
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