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035:精霊樹
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僕がそんな物思いに耽っているうちに、庭にある一本の樹木についての話題に移っていた。
「ラナ、やはりあの樹木をここで育てるのは無理があったのかもしれないね……」カロさんが庭にある樹木を見ながらそう言った。
「そう、もう少し成長すれば自力で大気中の薄い魔素を吸収出来るようになると、あの方も仰ってたけど……」
僕は初めて見た時から、あの不思議な雰囲気の樹木が気になっていた。
「あの、あの樹木がどうかしたんですか?……森に囲まれて暮らしていた僕でもあんな樹木は初めて見ました」
「あら、ごめんなさい、そうねユーリちゃんが見たことが無くても無理がないと思うわね……あれは……」そこで言葉を切ったラナさんは、
「エルフィーデ女王国にある[世界樹の森]にしか生育しない[精霊樹]の若木ですから」と答えたのだった。
◻ ◼ ◻
僕達はお茶を終えて、精霊樹の周りに集まり樹木の様子を確認している。
近くで見ると普通の森の樹とは違い、明らかに樹木には魔力が循環しているのが分かった。
試しに精霊石にいつもやっているように魔力を注いでみたが、精霊石のように吸収する力はないようだった。
カロさんが「土には栄養になりそうな物や魔石なんかを砕いたものをあげたりしてるんだけどね……」と残念そうに呟いた。
僕は土を確認してみたが、普通に作物を育てるなら問題ない良い土だったが、それでも魔力は感じられなかった。
「良い土ですけど魔力は感じませんね……特殊な樹木みたいですけど、どういう経緯でこの土地に?」僕は不思議に思って尋ねた。
この夫婦が育てるのが無理なものを無理矢理に育てようとすると思えなかったからだ。
ラナさんが少し困惑したように「うーん……偶然に苗木が根付いてしまったのよ、随分昔にエルフの方々が弓を作る必要があって、その時に精霊樹の枝木が使われたの。その時、こぼれ落ちたものが根付いたみたい」そう言った。
「よくここまで育ちましたね」
こんな魔力の少ない場所に根付いて、ここまで大きく育った事が不思議だった。
「この森はダンジョンが近いせいなのか魔素が普通の森より豊富みたいなの。エルフの方々も珍しがって、この家の守護木になるかもしれないからこのまま育ててみて下さいと仰って頂いたので、ここまで大切にしてきたんだけど……やはり魔力がたりなかったみたい」
どうやら精霊樹の成長に伴い魔力不足になっているようだった。
僕は悩んでいた……精霊石の癒しなら、なんとかなるかもと……そして決心した。
「今から、ある事を試してみようかと思います。出来ればこの事は秘密にして頂きたいんです」僕はそう言って皆の顔を見渡した。
僕の真剣な表情に皆は頷きかえしてくれ、キャロが口を手で隠すように当てて頷いている。
そんなキャロを見ていて、一つ試してみる気になった。
僕は精霊石をキャロに渡し右手に握らせ、左手を握り「今から、キャロに僕の魔力を流すから力を感じたら、【小石さん大地を癒して下さい】と、お願いしてみて」
そう言って昔、僕がじいちゃんにして貰った事をキャロに試してみた。
「いくよ!」僕はそう言って魔力操作を始めた。
キャロは思ったより飲み込みがよく、自分の体に魔力の循環を感知すると、「小石さん大地を癒して下さい」と呟き右手を掲げた。
すると精霊石から光る砂粒のようなものが吹き出し、精霊樹の周辺にサラサラと砂粒が染み込んでいくのが分かった。
暫くすると、僕の魔力が徐々に厳しくなってきた。
その時、精霊樹の繁った枝葉から何か淡く光る玉の様な物が下に降りてきた。
その淡く光る玉の中に、少女の姿で背中に二枚の羽根が生えている姿が見える。
「私の名前はシルフィー、風の眷族よ……貴方が私の宿り木を救ってくれた人ね?」
そう言って僕の顔を見つめてきたのだった。
「ラナ、やはりあの樹木をここで育てるのは無理があったのかもしれないね……」カロさんが庭にある樹木を見ながらそう言った。
「そう、もう少し成長すれば自力で大気中の薄い魔素を吸収出来るようになると、あの方も仰ってたけど……」
僕は初めて見た時から、あの不思議な雰囲気の樹木が気になっていた。
「あの、あの樹木がどうかしたんですか?……森に囲まれて暮らしていた僕でもあんな樹木は初めて見ました」
「あら、ごめんなさい、そうねユーリちゃんが見たことが無くても無理がないと思うわね……あれは……」そこで言葉を切ったラナさんは、
「エルフィーデ女王国にある[世界樹の森]にしか生育しない[精霊樹]の若木ですから」と答えたのだった。
◻ ◼ ◻
僕達はお茶を終えて、精霊樹の周りに集まり樹木の様子を確認している。
近くで見ると普通の森の樹とは違い、明らかに樹木には魔力が循環しているのが分かった。
試しに精霊石にいつもやっているように魔力を注いでみたが、精霊石のように吸収する力はないようだった。
カロさんが「土には栄養になりそうな物や魔石なんかを砕いたものをあげたりしてるんだけどね……」と残念そうに呟いた。
僕は土を確認してみたが、普通に作物を育てるなら問題ない良い土だったが、それでも魔力は感じられなかった。
「良い土ですけど魔力は感じませんね……特殊な樹木みたいですけど、どういう経緯でこの土地に?」僕は不思議に思って尋ねた。
この夫婦が育てるのが無理なものを無理矢理に育てようとすると思えなかったからだ。
ラナさんが少し困惑したように「うーん……偶然に苗木が根付いてしまったのよ、随分昔にエルフの方々が弓を作る必要があって、その時に精霊樹の枝木が使われたの。その時、こぼれ落ちたものが根付いたみたい」そう言った。
「よくここまで育ちましたね」
こんな魔力の少ない場所に根付いて、ここまで大きく育った事が不思議だった。
「この森はダンジョンが近いせいなのか魔素が普通の森より豊富みたいなの。エルフの方々も珍しがって、この家の守護木になるかもしれないからこのまま育ててみて下さいと仰って頂いたので、ここまで大切にしてきたんだけど……やはり魔力がたりなかったみたい」
どうやら精霊樹の成長に伴い魔力不足になっているようだった。
僕は悩んでいた……精霊石の癒しなら、なんとかなるかもと……そして決心した。
「今から、ある事を試してみようかと思います。出来ればこの事は秘密にして頂きたいんです」僕はそう言って皆の顔を見渡した。
僕の真剣な表情に皆は頷きかえしてくれ、キャロが口を手で隠すように当てて頷いている。
そんなキャロを見ていて、一つ試してみる気になった。
僕は精霊石をキャロに渡し右手に握らせ、左手を握り「今から、キャロに僕の魔力を流すから力を感じたら、【小石さん大地を癒して下さい】と、お願いしてみて」
そう言って昔、僕がじいちゃんにして貰った事をキャロに試してみた。
「いくよ!」僕はそう言って魔力操作を始めた。
キャロは思ったより飲み込みがよく、自分の体に魔力の循環を感知すると、「小石さん大地を癒して下さい」と呟き右手を掲げた。
すると精霊石から光る砂粒のようなものが吹き出し、精霊樹の周辺にサラサラと砂粒が染み込んでいくのが分かった。
暫くすると、僕の魔力が徐々に厳しくなってきた。
その時、精霊樹の繁った枝葉から何か淡く光る玉の様な物が下に降りてきた。
その淡く光る玉の中に、少女の姿で背中に二枚の羽根が生えている姿が見える。
「私の名前はシルフィー、風の眷族よ……貴方が私の宿り木を救ってくれた人ね?」
そう言って僕の顔を見つめてきたのだった。
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