自由都市のダンジョン探索者 ~精霊集めてダンジョン攻略~【第一部:初級探索者編完結】

高田 祐一

文字の大きさ
上 下
8 / 213

008:猪鹿亭2

しおりを挟む
 ラナさんに取り敢えず、十日分の銀貨一枚を支払い、まだ準備出来ていなかった部屋の寝具の準備や置いてあった荷物の移動を手伝った。

 作業が終わって部屋で寛ごうとした僕に、「旅の汚れを落としましょう、生活魔法の水の洗浄を行います」ラナさんは突然宣言した。

「これは水の魔道具です。魔石が装着されてるんですよ」ラナさんは、指輪をかざしてみせた。

 指輪には水色で透明な魔石が輝いている。

「息を止めて下さい。よろしいですか?」僕が頷くのを確認すると

「始めます!」そう言うと、僕の身体に水の膜のようなものが循環していく。

 暫くすると何事もなかったように膜が消えた。

「はい、終わりました、どうです?」と尋ねられた。

 驚いた事に、水浴びでもしたみたいな気分の良さで服も、水洗い後のようにさっぱりしている。

「驚きました、凄くすっきりしました」僕は服を摘まんで全く湿ってもいないのに驚いていると。

「スッキリしたところで、食事に致しましょう。うちの主人を紹介しないと。食堂に下りてきてくださいな」ラナさんは足早に階段を下りていった。

 僕はまた置き去りにされ、慌てて階段を下りていった。

 一階の食堂に下りるとカウンター席に食事が一人分用意されていてカウンター内で笑顔の男性が立っていた。

 白髪の背の高い、細身の人だった。

(年齢を感じさせない所なんか、似た者夫婦だよね……)

 食事の側ではラナさんが笑顔で立っている。「紹介するわね、私の主人のカロです。料理とお庭のお手入れ担当です」ラナさんのにこやかな紹介に

「カロです、遠い所から大変だったろう、うちの料理だゆっくり食べてくれ」口調は静かだが、優しそうな声で食事を勧められた。

「ゆっくり話したいとこだが、私は夕食の仕込みがあるから失礼するよ。すまんな……」そう言うと、早々に奥に引っ込んでしまった。

 笑顔のラナさんが楽しそうに、「ごめんなさいね、これから夕食時は食堂の準備で結構忙しいのよ」厨房内の様子を伺っている。どうやら相当忙しいらしい

「そんなことより、さあさあ、遠慮しないで召し上がって。お手伝いしてくれたお礼です」食事を前に困っている僕に言った。

「えっ……あのくらい当然ですよ、格安で宿も貸して頂いているし……」

「そう……じゃあこれは宣伝ですわね。お気に召したら、明日からは他のお客様のように注文をお願いしますね」そう言ってラナさんは微笑んだ。

 食事の煮込みはとても美味しかった。久しぶりの暖かい食事はあっという間に僕の胃袋に収まった。

 僕は、準備を手伝う為に奥に引っ込んだラナさんに、一声かけた後、二階にある自分の部屋に戻った。

◻ ◼ ◻

 部屋に戻って寝台に寝転んでいると、久し振りに寛ろいだ気分になった。

 実際の所、村を出てまだ三日程しか経っていない。それでも慣れない初めての旅と巨大都市の人々……僕を取り巻く環境の変化は大きかった。

 都市の門を越えた時の、この場所で自分の力を試すという決意に、今も変わりはなかった。

 それでも、森に囲まれたこの場所を見た時、村に帰ってきた気がした。その裏の森を抜ければ、自分の家に帰れる気がしたのだ。

 僕は急に悲しい気持ちになり、気分が落ち込んだ。そのうち疲れていたのだろう、眠ってしまった。

僕はまた……夢をみた……

 部屋の奥の寝台には、じいちゃんが横になっている。

 僕にはこの情景に覚えがあった。

 じいちゃんが亡くなる前の最後の夜だったからだ……

「ユーリよ、話がある……」冬になって酷い熱風邪を拗らせたじいちゃんは、熱が引いても思ったほど体調は回復せず、最近は寝ている事が多くなった。

「村長とも相談したが、薬草栽培は今回の収穫で終わりにする。雪が溶けたら、農作物の栽培を行う」

 僕はその話しを聞いてもそれほど驚かなかった。最近の村の食糧事情の悪さを知っていたからだ。トネ村との食糧の交換率が下がってきているからだ。

「ガザフへの人の流入は年々増加しておる、食糧はいくらでもガザフに高値で売れる。トネ村の強気な取引はそれが理由じゃろう。それにどうやら、ガザフで新しい魔法を使った建築素材が普及してきておるそうじゃ、そのせいで、木材の需要が徐々に落ちてきているようじゃのう」

「じゃあ、木材は要らなくなるって事?」村の危機に僕は心配になってきた……
 
「まあ魔法素材は高価だしのう……すぐに木材が要らなくなるとは思えんが。木材のような切り出しと輸送が要らんのが大きい。それにガザフの発展による乱伐も近頃、問題になっておる。ワシはこの流れは変わらんと思っとる。だからな……」

「ユーリ、お前は都市ガザフに行き、探索者として生きるのが良いとワシは思うんじゃよ」じいちゃんは驚く提案をした。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。 ※第二章は全体的に説明回が多いです。 <<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>

異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです

ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。 転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。 前世の記憶を頼りに善悪等を判断。 貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。 2人の兄と、私と、弟と母。 母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。 ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。 前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。

処理中です...