自由都市のダンジョン探索者 ~精霊集めてダンジョン攻略~【第一部:初級探索者編完結】

高田 祐一

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008:猪鹿亭2

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 ラナさんに取り敢えず、十日分の銀貨一枚を支払い、まだ準備出来ていなかった部屋の寝具の準備や置いてあった荷物の移動を手伝った。

 作業が終わって部屋で寛ごうとした僕に、「旅の汚れを落としましょう、生活魔法の水の洗浄を行います」ラナさんは突然宣言した。

「これは水の魔道具です。魔石が装着されてるんですよ」ラナさんは、指輪をかざしてみせた。

 指輪には水色で透明な魔石が輝いている。

「息を止めて下さい。よろしいですか?」僕が頷くのを確認すると

「始めます!」そう言うと、僕の身体に水の膜のようなものが循環していく。

 暫くすると何事もなかったように膜が消えた。

「はい、終わりました、どうです?」と尋ねられた。

 驚いた事に、水浴びでもしたみたいな気分の良さで服も、水洗い後のようにさっぱりしている。

「驚きました、凄くすっきりしました」僕は服を摘まんで全く湿ってもいないのに驚いていると。

「スッキリしたところで、食事に致しましょう。うちの主人を紹介しないと。食堂に下りてきてくださいな」ラナさんは足早に階段を下りていった。

 僕はまた置き去りにされ、慌てて階段を下りていった。

 一階の食堂に下りるとカウンター席に食事が一人分用意されていてカウンター内で笑顔の男性が立っていた。

 白髪の背の高い、細身の人だった。

(年齢を感じさせない所なんか、似た者夫婦だよね……)

 食事の側ではラナさんが笑顔で立っている。「紹介するわね、私の主人のカロです。料理とお庭のお手入れ担当です」ラナさんのにこやかな紹介に

「カロです、遠い所から大変だったろう、うちの料理だゆっくり食べてくれ」口調は静かだが、優しそうな声で食事を勧められた。

「ゆっくり話したいとこだが、私は夕食の仕込みがあるから失礼するよ。すまんな……」そう言うと、早々に奥に引っ込んでしまった。

 笑顔のラナさんが楽しそうに、「ごめんなさいね、これから夕食時は食堂の準備で結構忙しいのよ」厨房内の様子を伺っている。どうやら相当忙しいらしい

「そんなことより、さあさあ、遠慮しないで召し上がって。お手伝いしてくれたお礼です」食事を前に困っている僕に言った。

「えっ……あのくらい当然ですよ、格安で宿も貸して頂いているし……」

「そう……じゃあこれは宣伝ですわね。お気に召したら、明日からは他のお客様のように注文をお願いしますね」そう言ってラナさんは微笑んだ。

 食事の煮込みはとても美味しかった。久しぶりの暖かい食事はあっという間に僕の胃袋に収まった。

 僕は、準備を手伝う為に奥に引っ込んだラナさんに、一声かけた後、二階にある自分の部屋に戻った。

◻ ◼ ◻

 部屋に戻って寝台に寝転んでいると、久し振りに寛ろいだ気分になった。

 実際の所、村を出てまだ三日程しか経っていない。それでも慣れない初めての旅と巨大都市の人々……僕を取り巻く環境の変化は大きかった。

 都市の門を越えた時の、この場所で自分の力を試すという決意に、今も変わりはなかった。

 それでも、森に囲まれたこの場所を見た時、村に帰ってきた気がした。その裏の森を抜ければ、自分の家に帰れる気がしたのだ。

 僕は急に悲しい気持ちになり、気分が落ち込んだ。そのうち疲れていたのだろう、眠ってしまった。

僕はまた……夢をみた……

 部屋の奥の寝台には、じいちゃんが横になっている。

 僕にはこの情景に覚えがあった。

 じいちゃんが亡くなる前の最後の夜だったからだ……

「ユーリよ、話がある……」冬になって酷い熱風邪を拗らせたじいちゃんは、熱が引いても思ったほど体調は回復せず、最近は寝ている事が多くなった。

「村長とも相談したが、薬草栽培は今回の収穫で終わりにする。雪が溶けたら、農作物の栽培を行う」

 僕はその話しを聞いてもそれほど驚かなかった。最近の村の食糧事情の悪さを知っていたからだ。トネ村との食糧の交換率が下がってきているからだ。

「ガザフへの人の流入は年々増加しておる、食糧はいくらでもガザフに高値で売れる。トネ村の強気な取引はそれが理由じゃろう。それにどうやら、ガザフで新しい魔法を使った建築素材が普及してきておるそうじゃ、そのせいで、木材の需要が徐々に落ちてきているようじゃのう」

「じゃあ、木材は要らなくなるって事?」村の危機に僕は心配になってきた……
 
「まあ魔法素材は高価だしのう……すぐに木材が要らなくなるとは思えんが。木材のような切り出しと輸送が要らんのが大きい。それにガザフの発展による乱伐も近頃、問題になっておる。ワシはこの流れは変わらんと思っとる。だからな……」

「ユーリ、お前は都市ガザフに行き、探索者として生きるのが良いとワシは思うんじゃよ」じいちゃんは驚く提案をした。
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