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001:プロローグ
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空がとても澄みきって、出発するには最適な天候のようだ。
この日、一人の少年が生まれ育った村を後にしようとしている。
「おーい、ユーリそろそろ出発していいかね?」馬車の上から中年の男が声をかけてきた。
「あー、モルおじさん、お待たせ! それじゃあトネ村までお願いします」
「あいよっ!」モルと呼ばれた男が、ユーリが荷馬車に荷物を積み込み、そのまま荷台に乗り込んだのを確認して馬車を発車させた。
「おーい、ユーリそんなとこにいないでって……まあそうだな……これで見納めかもしれんしな」
最後は呟きになった男の声は、今のユーリの耳には届かないようだ。
「じいちゃん、行ってくるね」ユーリは次第に遠ざかる我が家と、今は亡き祖父に別れの挨拶をした。
少年の名はユーリ、今日十四歳になったばかりだった。そしてその日に村から旅立った。
◻ ◼ ◻
ユーリの暮らすコルネ村は険しい山に囲まれ、そこで狩りや木材の切り出しを行う村人の家が点在する、そんな山村だった。その村でユーリと祖父は二人で暮らした。
二人の暮らし向きは、薬草から[ポーション]と呼ばれる回復薬を作り、定期的に村を訪れる行商人に売却する事で収入を得ていた。
村の暮らしは基本的に自給自足だったが、全ての生活に必要な品を賄える訳ではなく、貨幣での取引と物々交換で成り立つそんな小さな村だった。
ユーリには、物心ついた頃から両親がいなかった。余所の家庭との違いを素朴に尋ねるユーリに、祖父は両親がいない理由を少し困惑した表情で話してくれた。
「実のところワシもお前の両親の事は詳しく知らんのじゃよ……亡くなったと聞いただけでの。ワシと同じ[ダンジョン]探索者だったようだ」
ユーリは両親については残念に思ったが、物心ついた時からいない二人について悲しい気持ちは起こらなかった。少し薄情にも思えたがそれが正直な感想だった。
「ダンジョン? 探索者?」
しかし、この聞き慣れない言葉には興味を示した。
◻ ◼ ◻
この世界には魔素と呼ばれる物が、大地の至るところに存在すると言われている。そして魔素濃度の高い場所には魔物が発生する。
とりわけ、洞窟や地下空洞は地上に比べて魔素が溜まり易く、魔物の発生率が高かった。
そうした魔力溜まりを広い意味で[ダンジョン]と呼ぶ事が多い。
「そうさの、ダンジョンじゃ……お前には話した事はなかったが、ワシは昔ダンジョンの探索者をやっておった。だが、少し無茶な冒険の怪我で引退する事になってな、お前を引き取って生まれ故郷に帰ってきた訳じゃよ」
そう言ったきり暫く昔の事でも思い出すように祖父は天井を見上げた。
ユーリは祖父とは呼んでいるが自分との血の繋がりが無い事はとっくに知っていた。狭い村の事だからなかなか隠し事は難しいものなのだ。
だから、祖父を困らせないようにその話題は避けて他の事を尋ねた。
「探索者ってどんなお仕事なの? 何する人?」
無邪気に尋ねるユーリに、祖父は少し目を細めて答えた。
「お仕事か、まあお仕事じゃな……あまり真っ当とは言えんがな。魔物を討伐して魔石や素材採集、後は……階層によっては鉱石採掘かのう」
祖父はそこでフーッと息を吐いて、また話し始めた。
「特に、[都市ガザフ]にはかなり巨大で特殊な[地下ダンジョン]があってな、これが他の洞窟に魔素が溜まり魔物が発生する[洞窟ダンジョン]とは別物なんじゃよ」
興味津々という表情のユーリをみて少し興がのったのだろう、熱の籠った表情でこう言った。
「それは、神々が創りし[ダンジョン遺跡]生きているダンジョンじゃ」
この日、一人の少年が生まれ育った村を後にしようとしている。
「おーい、ユーリそろそろ出発していいかね?」馬車の上から中年の男が声をかけてきた。
「あー、モルおじさん、お待たせ! それじゃあトネ村までお願いします」
「あいよっ!」モルと呼ばれた男が、ユーリが荷馬車に荷物を積み込み、そのまま荷台に乗り込んだのを確認して馬車を発車させた。
「おーい、ユーリそんなとこにいないでって……まあそうだな……これで見納めかもしれんしな」
最後は呟きになった男の声は、今のユーリの耳には届かないようだ。
「じいちゃん、行ってくるね」ユーリは次第に遠ざかる我が家と、今は亡き祖父に別れの挨拶をした。
少年の名はユーリ、今日十四歳になったばかりだった。そしてその日に村から旅立った。
◻ ◼ ◻
ユーリの暮らすコルネ村は険しい山に囲まれ、そこで狩りや木材の切り出しを行う村人の家が点在する、そんな山村だった。その村でユーリと祖父は二人で暮らした。
二人の暮らし向きは、薬草から[ポーション]と呼ばれる回復薬を作り、定期的に村を訪れる行商人に売却する事で収入を得ていた。
村の暮らしは基本的に自給自足だったが、全ての生活に必要な品を賄える訳ではなく、貨幣での取引と物々交換で成り立つそんな小さな村だった。
ユーリには、物心ついた頃から両親がいなかった。余所の家庭との違いを素朴に尋ねるユーリに、祖父は両親がいない理由を少し困惑した表情で話してくれた。
「実のところワシもお前の両親の事は詳しく知らんのじゃよ……亡くなったと聞いただけでの。ワシと同じ[ダンジョン]探索者だったようだ」
ユーリは両親については残念に思ったが、物心ついた時からいない二人について悲しい気持ちは起こらなかった。少し薄情にも思えたがそれが正直な感想だった。
「ダンジョン? 探索者?」
しかし、この聞き慣れない言葉には興味を示した。
◻ ◼ ◻
この世界には魔素と呼ばれる物が、大地の至るところに存在すると言われている。そして魔素濃度の高い場所には魔物が発生する。
とりわけ、洞窟や地下空洞は地上に比べて魔素が溜まり易く、魔物の発生率が高かった。
そうした魔力溜まりを広い意味で[ダンジョン]と呼ぶ事が多い。
「そうさの、ダンジョンじゃ……お前には話した事はなかったが、ワシは昔ダンジョンの探索者をやっておった。だが、少し無茶な冒険の怪我で引退する事になってな、お前を引き取って生まれ故郷に帰ってきた訳じゃよ」
そう言ったきり暫く昔の事でも思い出すように祖父は天井を見上げた。
ユーリは祖父とは呼んでいるが自分との血の繋がりが無い事はとっくに知っていた。狭い村の事だからなかなか隠し事は難しいものなのだ。
だから、祖父を困らせないようにその話題は避けて他の事を尋ねた。
「探索者ってどんなお仕事なの? 何する人?」
無邪気に尋ねるユーリに、祖父は少し目を細めて答えた。
「お仕事か、まあお仕事じゃな……あまり真っ当とは言えんがな。魔物を討伐して魔石や素材採集、後は……階層によっては鉱石採掘かのう」
祖父はそこでフーッと息を吐いて、また話し始めた。
「特に、[都市ガザフ]にはかなり巨大で特殊な[地下ダンジョン]があってな、これが他の洞窟に魔素が溜まり魔物が発生する[洞窟ダンジョン]とは別物なんじゃよ」
興味津々という表情のユーリをみて少し興がのったのだろう、熱の籠った表情でこう言った。
「それは、神々が創りし[ダンジョン遺跡]生きているダンジョンじゃ」
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