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Distortionな歪くん12 「《タケミカヅチ》」
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Distortionな歪くん12 「《タケミカヅチ》」
里壊くんの“異能”「理解できない」の強さは、理解しなければあらゆる現象が無効になるところだけではない。「理解させなくてはならない」と、相手が自分から里壊くんに情報を与えてくるところだ。それにより、弱点までも引き出せる可能性もあるというところにある。
「邪魔だ」
本原はそう言うと左手で本を強く握りしめて里壊くんに向かっていく。本原はなおも狂気的な目をしていた。
「こいよ」
里壊くんは決意じみた眼差しで挑発する。
「フンッ!」
本原は“異能”「狂原師」の能力で硬化した右腕を里壊に振りかざす。里壊くんはそれを両手で防ぐ。
「くッ!こいつ、思ったよりフィジカル強い!」
里壊くんは本原の右手に押され気味で両手で防ぐのが精一杯。そこに本原は漬け込む。
「なら、『凍って』狂え」
「まずい、腕が凍って…!!」
本原の拳の先から徐々に里壊くんの両手が凍りだす。本原が『凍れ』っと強調した事と、断谷戦の時に使った技だったので里壊くんは理解できてしまったのだ。
「このッ!離せっ!」
里壊くんは慌てて本原を蹴飛ばそうとした。
その時、蹴りが、火事場の馬鹿力なのか、いつもよりスピードが速くなる。
本原はかろうじて後ろに避けることができたものの、後数センチで当たるところだった。
「速い!?」
里壊くんの変則的な蹴りを避けた本原は、肩で息をして態勢を立て直す。
「はぁ、はぁ、はぁ…何だ…今の動きは…?」
それを見てわたしに疑問がわく。確かにあの蹴りを避けるのは相当体力もいる。ましてや攻撃をしてる途中の反撃だ。だが、本原の疲れ様は何か違う…攻撃回避の疲労に、もう一つ「疲労が上乗されてる」…
「『何だ』ってよ…俺すら分からんのだぜ?無我夢中で蹴ったからな」
里壊くんは両手に付いた氷を砕きながら答える。
本原がさっきの蹴りを警戒するのと、息を整えきっていなかったため、なかなか攻めてこないので、その隙に里壊くんは氷を完全に取り除くと、
「今度はこっちから行くぜ!うぉぉぉぉ!」
「っ…!」
里壊くんが本原に向かって一心不乱に走り出す。
本原はさらに先程の蹴りを警戒して、後ろに下がる。
その時だ。里壊くんのスピードが奇妙な所で加速したのだ…
本原は予想だにしない里壊くんの動きに、一瞬反応が遅れる。
「まただ…!お前の“異能”は『情報に応じて発動する能力』の筈…なのに何故…!?」
本原の問いに対し、里壊くんは乾いて無責任な返答をした。
「知るかよ」
次の瞬間、急所こそ避けた本原だったが、大事な本を持った左手に、里壊くんの回し蹴りが直撃した。
「っ!!」
「狂原師」で硬化してでも、本原が軽く飛ばされるほどの威力。それどころか、蹴られた所が赤紫に腫れていて、里壊くんの蹴りの破壊力が見て伺える。
「はぁ、はぁ、はぁ…オレの本をーー痛っ!…手ガ折れテ、やがル…原子の配置までリセットされチマった…はぁ、はぁ……お前ェ…殺ス…!!!」
本原は自分の折れた手を見て怒りをあらわにした。歪くんと戦った時の冷静さ…いや、冷酷さは消え、どす黒い負の感情ーー燃える様な「憤怒」に狂っていた……言葉すらろくに話せていない……
里壊くんはそんな怒り狂う本原を鼻で笑う。
「お前、怒ってるのか?ハッ!脆いプライドだな!?本を蹴飛ばされたぐらいでさ!言っとくが俺も怒ってるんだぜ…!?大切な友達が傷つけられた事によぉ!!!」
ここで始めて里壊くんは怒りを見せる。
いつも鈍感で気が抜けたような感じだけど、友達の事になると全力で向き合ってくれる。そんなアイデンティティが垣間見えた瞬間だった。
「オレの邪魔しテ来たかラだろ!自業自得ダ!」
本原は目を血走らせて狂ったように叫ぶ。その声は路地裏のビルとビルの間に反響し、化け物の鳴き声にすら聞こえるほどになっていく。カラスですら、飛んで逃げるほど……
「お前ハ、これで殺ス!!」
突如、バチバチと本原の周りに青白い電気が走る。その一閃の瞬きは心を奪われるほど綺麗に見えたが、その電気の激しさが強くなっていくにつれ、本原の血管がくっきりと浮かび上がってきたのだ。
漫画でよく禁忌の力に触れたとか、人の手に余る力を手に入れたキャラクターは、それを使うときにいつも、血管がくっきりと浮かび上がってきて『命を削ってる』とかそういう設定を読んだ事がある……
わたしはなんだか胸騒ぎがして、ジッと、里壊の猛々しく友の思いを背負った背中を見つめた。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……オレノ本気……!!オレの“異能”『狂原師』のフェーズ2《タケミカヅチ》!!」
その電気はやがて槍の形に変化していき、本原の周りに何本かの槍が完成すると、シンクロするように、里壊くんに先端を向けて静止した。
「っはぁ、はぁ、はぁ…お前ノ“異能”ハ『情報に応じて発動する“能力』ーーもっト簡単に言エバ、『馬鹿だからこそ発動する能力』…!ダカラ、教エテやル!分カラせてヤる!」
本原は宙に浮く、一本の電気の槍を右手で掴むと、赤紫に腫れる左手を里壊に見せて、狂気的に笑うが、同時にだんだんと呼吸が荒々しくなっていく…
「ハハハハハッ…はぁ、はぁ…こノ槍は、オレガ原子を変エて作ッタ、プラズマの槍だ…ハぁ、はぁ…細かイ説明は無しにシテ結論カら『見せよう』……!!」
「お前…何する気だ!」
本原は持っている槍を振りかぶり、何の躊躇も迷いもなく、赤紫に晴れた左手に突き刺したのだ。
ズバッ グチャァッ!
人の肉が抉られる音。
本原の左手は完全に焼け焦げていて、中心には十円玉くらいの丸い穴が空いていた。完全に貫通している……
「な!?お前!?」
「はぁ、はぁ、はぁ…あンマり、痛クモネぇなァ……!ワカッただロ?こノ槍二貫かレたらドウなるノか!?オレの“異能”『狂原師』のフェーズ2《タケミカヅチ》がヨォ!」
もう使いものにならなくなってしまったーー使いものにならなくしてしまった、自分の左手を自慢げに見せて、本原は怒り狂いながら笑みをこぼす……
あれだけの自傷行為をしたのにもかかわらず、本原があんな状態で居られるのは、アドレナリンが分泌している結果なのだろう………
この異質さは歪くんと同等か、それ以上……
だが、それにしても呼吸が荒々しい……もしかして、「能力を使うたびに呼吸が荒くなっている」……?
里壊くんは日常生活で見ることは無いであろう、肉体の内側を空に晒した左手を見て、少し尻込みをしたが、
「俺より馬鹿な大馬鹿野郎が起きてたら、きっとこう言ってただろうよ…『自分すらも大切にできねぇ奴が勝てるはずが無い』ってよ」
里壊くんは肩をすくめて大袈裟な歪くんの真似をする。
本原は怒り狂った顔で、全ての槍に指示をすると里壊くんに一斉攻撃を仕掛けた。
「はぁ、はぁ、はぁ…オレの手ヲ犠牲にシテまで、オ前ニ見せタんダ!イくラお前デも分カルよなァ!?『貫かれたらどうなるか』ッて事がヨ…!」
里壊くんは本原と逆の方向ーーつまりはわたしと倒れる兵子さんの方に逃げようとしたが、わたしと兵子さんを危険に晒さない為か、躊躇して本原の方向を向き直す。
「はぁはぁ…っはぁ…逃げルノを迷ッてイルノか?『自分を大切にする』んダロ?仲間ヲ庇ッテる場合カヨ」
里壊くんは虚勢を張って答える。
「自分と同じくらい友達を大切にしてるからな」
本原は怒り狂いながら、大声で笑う。
「アッハハハッ!!そんナ“無能”と敗者ノ為に死ぬノカよッ!!揃いモ揃っテ、大大馬鹿野朗ダナァ!!!安心しナお前ノ大切にしテるゴミ共は助けテヤルよ」
「ありがーー」
ズバッ ズバッ ズバッーー
「アッッッッッグァァァァァァ!!!!!」
「り、里壊くん!」
たくさんのプラズマの槍に体中を貫かれ、断末魔が路地裏中に反響する。数秒して里壊くんの体を貫いた槍は散り散りに消えていって、残ったのは黒焦げになってしまった里壊くんの「肉体」だけだった。
ばたんっと「魂」の抜けた「肉体」は、自立できなくなって自由落下し始めた。一瞬見えた黒焦げになった里壊くんの表情が、誇らしげなように見えた……
「歪め」
刹那ーー
ーー黒焦げになって「魂」が抜け落ち、空になった「肉体」が映像が切り替わるように、元の状態に戻る。
「何!?」
本原は復活した里壊くんを見て驚いた。
「分かっていたぜ。お前が『立ち上がる』のを…!」
里壊くんは首をポキポキ鳴らして、本原の背後から歩いてくる人影に言う。
「おいおいおいおい……お前だけ『主人公』してんじゃねぇーよ!僕の立場は!?てか、なんで僕、復活でけた??」
歪くんだ。酸欠デスループを繰り返していた歪くんだ…
でもなんであのデスループから抜け出せたんだろう…わたしは記憶を辿り答えを探す…
「さぁな…お前が言う『主人公補正』とかじゃねぇのか?」
里壊くんは乾いた返答をした。
「あ、やっぱり?『主人公』だから復活でけたの?スゲェな、僕…!」
歪くんは顎に手を当ててナルシストのポーズでドヤ顔をして、わたしの方に歩いてくると、わたしの膝で眠る兵子さんを能力で、元の状態に戻した。
「チッ!コイツに借りみてーなもん作っちまった…!」
兵子さんは長くて荒い赤毛をかきあげて、わたしの膝から、舌打ち混じりに立ち上がると、両手に銃を精製した。
「『MK60』、『M24OB』……(もうちょっと亜依の膝で寝たかったな……)」
「え?今なんてーー」
「なんでもない…」
兵子さんは両手に自分の腕ぐらいの大きさのある重そうな機関銃を軽々と持って、気だるそうに里壊くん達の方へ歩いていく。一瞬、何か呟いたが聞き取れなかった……兵子さん…少し…顔赤くなってる…?
「まぁ、形勢逆転って奴だ」
里壊くんは腕のストレッチをしながら、本原を見つめる。
「アタシに怪我させてくれた分、落とし前つけてもらうからな…!」
兵子機関銃二つを軽々と本原に構える。
「よし!お前ら頑張れ!僕は問題行動を起こしたくない!」
歪くんは相変わらずに人で無しみたいなセリフを吐いて、人間らしく自分の保身に走る。
二人はもちろん、
「はぁ!?お前も戦うんだよっ!」
「そもそもアンタ、アタシらを元の状態に戻した時点で“異能”を使ってだろうが!」
「あぁ!!痛い痛い!待って待って!すごく痛い!暴力反対!僕が“異能”を使ったことに関しては不正はなかった!」
歪くんは二人にボコボコにされてしまうが、能力で元の状態に戻って復活する。
ボコボコにされる、戻る、ボコボコにされるーーと、しばらくその繰り返しをして、
「ストップ!僕らの敵はアレ!あの、血管くっきりバーサーカーね!?わかるぅ!?」
二人は満足いかぬ表情で手を止めると、
「くそっ!お前が改変能力みてーなもん持ってなけりゃあ……」
「同感。コイツ、自分の都合悪い事全部戻して『リセット』しちまうからな……」
兵子さんの「リセット」と言う言葉で本原の能力の謎が、脳中で次々と、パズルのピースを埋め込むように完成していく……
「ゴミが何人集まロうが同ジダろうガ!」
本原は三人とも復活した事に腹を立ててか、より狂気に染まって、理性は完全に消し飛んでいた。
「無駄口叩いてないでいけぃ!」
歪くんは本原に指を指して、上から目線に二人に指示を出す。二人は歪くんをどうにかできないので、仕方なく本原に向かっていく。
「FIRE!!」
ダダダダダっと、兵子さんは引き金を絞って銃を連射した。銃弾は夥しい数が宙を飛び、本原に直撃ーー
「狂エ」
ーー本原は手前にプラズマの壁を形勢すると銃弾全ては煙を出して消えていった。プラズマの熱で蒸発したのだ。
兵子さんは一旦銃を撃つのをやめて、
「チッ。アイツ、プラズマで銃弾を蒸発させやがった…」
「ハァ…ハァ…ハァ…そンナ攻ゲキがオレに通ジルかヨ…!」
「これならどうだッ!!」
里壊くんは走り出して、本原をパンチしようとしたが、無数のプラズマの槍が飛んで来てなかなか近づけない…
「くそっ…!ダメだ近づけない…!」
里壊くんは必死に攻撃を喰らうまいと、プラズマの槍を避け続ける。だが、これでは身動きが取れない…完全に封じ込まれている…やはり理性は無くなっていても、本原は本能で一番自分に近づけさせたくない者を分かっている……
兵子さんも同様で、遠距離の銃による攻撃はプラズマの壁で遮断されている……
「クソが!コイツの“異能”に『弱点』はねぇのか!」
「『弱点』の無い“異能”なんてあるのかよっ!」
「理解できない」と「妄想武器庫」という、最強に近い“異能”を持った二人でも、本原を倒せない…それどころか、押されてる……今の状況を端的に表現するなら、「絶望的」っと言う言葉がふさわしい……
歪くんは貼りついた笑みを浮かべてるだけで、戦ってくれないみたい……
ずるい話だ。“異能”を持ってるのに、力があるのに、可能性だってあるのに…歪くんはどこまでいっても愚かで怠惰だ。
……でも、一番愚かなのはわたしだ。ずっと後ろで、ただただ友達を心配するだけ…わたしはいつも後ろで状況の終息を怠惰に待っている……いじめとかで一番悪いと言われるのはーー
「傍観者」、見てるだけで何もしない者。
歪くんは今は確かに何もしていないが、一様里壊くんと兵子さんを助けた。わたしはずっと、心配して見ていただけだった…
わたし
こんな自分を変えたい…
(わたしにできる事は……!)
脳中でいろいろな情報が行き交い、情報からワードを取り出し、取り出したワードはやがて形になっていき、パズルのピースが出来上がる。そして、形の合うピースを繋げていくと、多少穴は空いてるが、本原 素澄と言う人間のパズルが完成した。
(この答えならーー)
わたしは力を込めて「変えたい自分」を打ち破る様に叫んだ。
「みんな!あの人、本原には大きな『弱点』がある!!」
Distortionな歪くん12 「《タケミカヅチ》」 完
里壊くんの“異能”「理解できない」の強さは、理解しなければあらゆる現象が無効になるところだけではない。「理解させなくてはならない」と、相手が自分から里壊くんに情報を与えてくるところだ。それにより、弱点までも引き出せる可能性もあるというところにある。
「邪魔だ」
本原はそう言うと左手で本を強く握りしめて里壊くんに向かっていく。本原はなおも狂気的な目をしていた。
「こいよ」
里壊くんは決意じみた眼差しで挑発する。
「フンッ!」
本原は“異能”「狂原師」の能力で硬化した右腕を里壊に振りかざす。里壊くんはそれを両手で防ぐ。
「くッ!こいつ、思ったよりフィジカル強い!」
里壊くんは本原の右手に押され気味で両手で防ぐのが精一杯。そこに本原は漬け込む。
「なら、『凍って』狂え」
「まずい、腕が凍って…!!」
本原の拳の先から徐々に里壊くんの両手が凍りだす。本原が『凍れ』っと強調した事と、断谷戦の時に使った技だったので里壊くんは理解できてしまったのだ。
「このッ!離せっ!」
里壊くんは慌てて本原を蹴飛ばそうとした。
その時、蹴りが、火事場の馬鹿力なのか、いつもよりスピードが速くなる。
本原はかろうじて後ろに避けることができたものの、後数センチで当たるところだった。
「速い!?」
里壊くんの変則的な蹴りを避けた本原は、肩で息をして態勢を立て直す。
「はぁ、はぁ、はぁ…何だ…今の動きは…?」
それを見てわたしに疑問がわく。確かにあの蹴りを避けるのは相当体力もいる。ましてや攻撃をしてる途中の反撃だ。だが、本原の疲れ様は何か違う…攻撃回避の疲労に、もう一つ「疲労が上乗されてる」…
「『何だ』ってよ…俺すら分からんのだぜ?無我夢中で蹴ったからな」
里壊くんは両手に付いた氷を砕きながら答える。
本原がさっきの蹴りを警戒するのと、息を整えきっていなかったため、なかなか攻めてこないので、その隙に里壊くんは氷を完全に取り除くと、
「今度はこっちから行くぜ!うぉぉぉぉ!」
「っ…!」
里壊くんが本原に向かって一心不乱に走り出す。
本原はさらに先程の蹴りを警戒して、後ろに下がる。
その時だ。里壊くんのスピードが奇妙な所で加速したのだ…
本原は予想だにしない里壊くんの動きに、一瞬反応が遅れる。
「まただ…!お前の“異能”は『情報に応じて発動する能力』の筈…なのに何故…!?」
本原の問いに対し、里壊くんは乾いて無責任な返答をした。
「知るかよ」
次の瞬間、急所こそ避けた本原だったが、大事な本を持った左手に、里壊くんの回し蹴りが直撃した。
「っ!!」
「狂原師」で硬化してでも、本原が軽く飛ばされるほどの威力。それどころか、蹴られた所が赤紫に腫れていて、里壊くんの蹴りの破壊力が見て伺える。
「はぁ、はぁ、はぁ…オレの本をーー痛っ!…手ガ折れテ、やがル…原子の配置までリセットされチマった…はぁ、はぁ……お前ェ…殺ス…!!!」
本原は自分の折れた手を見て怒りをあらわにした。歪くんと戦った時の冷静さ…いや、冷酷さは消え、どす黒い負の感情ーー燃える様な「憤怒」に狂っていた……言葉すらろくに話せていない……
里壊くんはそんな怒り狂う本原を鼻で笑う。
「お前、怒ってるのか?ハッ!脆いプライドだな!?本を蹴飛ばされたぐらいでさ!言っとくが俺も怒ってるんだぜ…!?大切な友達が傷つけられた事によぉ!!!」
ここで始めて里壊くんは怒りを見せる。
いつも鈍感で気が抜けたような感じだけど、友達の事になると全力で向き合ってくれる。そんなアイデンティティが垣間見えた瞬間だった。
「オレの邪魔しテ来たかラだろ!自業自得ダ!」
本原は目を血走らせて狂ったように叫ぶ。その声は路地裏のビルとビルの間に反響し、化け物の鳴き声にすら聞こえるほどになっていく。カラスですら、飛んで逃げるほど……
「お前ハ、これで殺ス!!」
突如、バチバチと本原の周りに青白い電気が走る。その一閃の瞬きは心を奪われるほど綺麗に見えたが、その電気の激しさが強くなっていくにつれ、本原の血管がくっきりと浮かび上がってきたのだ。
漫画でよく禁忌の力に触れたとか、人の手に余る力を手に入れたキャラクターは、それを使うときにいつも、血管がくっきりと浮かび上がってきて『命を削ってる』とかそういう設定を読んだ事がある……
わたしはなんだか胸騒ぎがして、ジッと、里壊の猛々しく友の思いを背負った背中を見つめた。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……オレノ本気……!!オレの“異能”『狂原師』のフェーズ2《タケミカヅチ》!!」
その電気はやがて槍の形に変化していき、本原の周りに何本かの槍が完成すると、シンクロするように、里壊くんに先端を向けて静止した。
「っはぁ、はぁ、はぁ…お前ノ“異能”ハ『情報に応じて発動する“能力』ーーもっト簡単に言エバ、『馬鹿だからこそ発動する能力』…!ダカラ、教エテやル!分カラせてヤる!」
本原は宙に浮く、一本の電気の槍を右手で掴むと、赤紫に腫れる左手を里壊に見せて、狂気的に笑うが、同時にだんだんと呼吸が荒々しくなっていく…
「ハハハハハッ…はぁ、はぁ…こノ槍は、オレガ原子を変エて作ッタ、プラズマの槍だ…ハぁ、はぁ…細かイ説明は無しにシテ結論カら『見せよう』……!!」
「お前…何する気だ!」
本原は持っている槍を振りかぶり、何の躊躇も迷いもなく、赤紫に晴れた左手に突き刺したのだ。
ズバッ グチャァッ!
人の肉が抉られる音。
本原の左手は完全に焼け焦げていて、中心には十円玉くらいの丸い穴が空いていた。完全に貫通している……
「な!?お前!?」
「はぁ、はぁ、はぁ…あンマり、痛クモネぇなァ……!ワカッただロ?こノ槍二貫かレたらドウなるノか!?オレの“異能”『狂原師』のフェーズ2《タケミカヅチ》がヨォ!」
もう使いものにならなくなってしまったーー使いものにならなくしてしまった、自分の左手を自慢げに見せて、本原は怒り狂いながら笑みをこぼす……
あれだけの自傷行為をしたのにもかかわらず、本原があんな状態で居られるのは、アドレナリンが分泌している結果なのだろう………
この異質さは歪くんと同等か、それ以上……
だが、それにしても呼吸が荒々しい……もしかして、「能力を使うたびに呼吸が荒くなっている」……?
里壊くんは日常生活で見ることは無いであろう、肉体の内側を空に晒した左手を見て、少し尻込みをしたが、
「俺より馬鹿な大馬鹿野郎が起きてたら、きっとこう言ってただろうよ…『自分すらも大切にできねぇ奴が勝てるはずが無い』ってよ」
里壊くんは肩をすくめて大袈裟な歪くんの真似をする。
本原は怒り狂った顔で、全ての槍に指示をすると里壊くんに一斉攻撃を仕掛けた。
「はぁ、はぁ、はぁ…オレの手ヲ犠牲にシテまで、オ前ニ見せタんダ!イくラお前デも分カルよなァ!?『貫かれたらどうなるか』ッて事がヨ…!」
里壊くんは本原と逆の方向ーーつまりはわたしと倒れる兵子さんの方に逃げようとしたが、わたしと兵子さんを危険に晒さない為か、躊躇して本原の方向を向き直す。
「はぁはぁ…っはぁ…逃げルノを迷ッてイルノか?『自分を大切にする』んダロ?仲間ヲ庇ッテる場合カヨ」
里壊くんは虚勢を張って答える。
「自分と同じくらい友達を大切にしてるからな」
本原は怒り狂いながら、大声で笑う。
「アッハハハッ!!そんナ“無能”と敗者ノ為に死ぬノカよッ!!揃いモ揃っテ、大大馬鹿野朗ダナァ!!!安心しナお前ノ大切にしテるゴミ共は助けテヤルよ」
「ありがーー」
ズバッ ズバッ ズバッーー
「アッッッッッグァァァァァァ!!!!!」
「り、里壊くん!」
たくさんのプラズマの槍に体中を貫かれ、断末魔が路地裏中に反響する。数秒して里壊くんの体を貫いた槍は散り散りに消えていって、残ったのは黒焦げになってしまった里壊くんの「肉体」だけだった。
ばたんっと「魂」の抜けた「肉体」は、自立できなくなって自由落下し始めた。一瞬見えた黒焦げになった里壊くんの表情が、誇らしげなように見えた……
「歪め」
刹那ーー
ーー黒焦げになって「魂」が抜け落ち、空になった「肉体」が映像が切り替わるように、元の状態に戻る。
「何!?」
本原は復活した里壊くんを見て驚いた。
「分かっていたぜ。お前が『立ち上がる』のを…!」
里壊くんは首をポキポキ鳴らして、本原の背後から歩いてくる人影に言う。
「おいおいおいおい……お前だけ『主人公』してんじゃねぇーよ!僕の立場は!?てか、なんで僕、復活でけた??」
歪くんだ。酸欠デスループを繰り返していた歪くんだ…
でもなんであのデスループから抜け出せたんだろう…わたしは記憶を辿り答えを探す…
「さぁな…お前が言う『主人公補正』とかじゃねぇのか?」
里壊くんは乾いた返答をした。
「あ、やっぱり?『主人公』だから復活でけたの?スゲェな、僕…!」
歪くんは顎に手を当ててナルシストのポーズでドヤ顔をして、わたしの方に歩いてくると、わたしの膝で眠る兵子さんを能力で、元の状態に戻した。
「チッ!コイツに借りみてーなもん作っちまった…!」
兵子さんは長くて荒い赤毛をかきあげて、わたしの膝から、舌打ち混じりに立ち上がると、両手に銃を精製した。
「『MK60』、『M24OB』……(もうちょっと亜依の膝で寝たかったな……)」
「え?今なんてーー」
「なんでもない…」
兵子さんは両手に自分の腕ぐらいの大きさのある重そうな機関銃を軽々と持って、気だるそうに里壊くん達の方へ歩いていく。一瞬、何か呟いたが聞き取れなかった……兵子さん…少し…顔赤くなってる…?
「まぁ、形勢逆転って奴だ」
里壊くんは腕のストレッチをしながら、本原を見つめる。
「アタシに怪我させてくれた分、落とし前つけてもらうからな…!」
兵子機関銃二つを軽々と本原に構える。
「よし!お前ら頑張れ!僕は問題行動を起こしたくない!」
歪くんは相変わらずに人で無しみたいなセリフを吐いて、人間らしく自分の保身に走る。
二人はもちろん、
「はぁ!?お前も戦うんだよっ!」
「そもそもアンタ、アタシらを元の状態に戻した時点で“異能”を使ってだろうが!」
「あぁ!!痛い痛い!待って待って!すごく痛い!暴力反対!僕が“異能”を使ったことに関しては不正はなかった!」
歪くんは二人にボコボコにされてしまうが、能力で元の状態に戻って復活する。
ボコボコにされる、戻る、ボコボコにされるーーと、しばらくその繰り返しをして、
「ストップ!僕らの敵はアレ!あの、血管くっきりバーサーカーね!?わかるぅ!?」
二人は満足いかぬ表情で手を止めると、
「くそっ!お前が改変能力みてーなもん持ってなけりゃあ……」
「同感。コイツ、自分の都合悪い事全部戻して『リセット』しちまうからな……」
兵子さんの「リセット」と言う言葉で本原の能力の謎が、脳中で次々と、パズルのピースを埋め込むように完成していく……
「ゴミが何人集まロうが同ジダろうガ!」
本原は三人とも復活した事に腹を立ててか、より狂気に染まって、理性は完全に消し飛んでいた。
「無駄口叩いてないでいけぃ!」
歪くんは本原に指を指して、上から目線に二人に指示を出す。二人は歪くんをどうにかできないので、仕方なく本原に向かっていく。
「FIRE!!」
ダダダダダっと、兵子さんは引き金を絞って銃を連射した。銃弾は夥しい数が宙を飛び、本原に直撃ーー
「狂エ」
ーー本原は手前にプラズマの壁を形勢すると銃弾全ては煙を出して消えていった。プラズマの熱で蒸発したのだ。
兵子さんは一旦銃を撃つのをやめて、
「チッ。アイツ、プラズマで銃弾を蒸発させやがった…」
「ハァ…ハァ…ハァ…そンナ攻ゲキがオレに通ジルかヨ…!」
「これならどうだッ!!」
里壊くんは走り出して、本原をパンチしようとしたが、無数のプラズマの槍が飛んで来てなかなか近づけない…
「くそっ…!ダメだ近づけない…!」
里壊くんは必死に攻撃を喰らうまいと、プラズマの槍を避け続ける。だが、これでは身動きが取れない…完全に封じ込まれている…やはり理性は無くなっていても、本原は本能で一番自分に近づけさせたくない者を分かっている……
兵子さんも同様で、遠距離の銃による攻撃はプラズマの壁で遮断されている……
「クソが!コイツの“異能”に『弱点』はねぇのか!」
「『弱点』の無い“異能”なんてあるのかよっ!」
「理解できない」と「妄想武器庫」という、最強に近い“異能”を持った二人でも、本原を倒せない…それどころか、押されてる……今の状況を端的に表現するなら、「絶望的」っと言う言葉がふさわしい……
歪くんは貼りついた笑みを浮かべてるだけで、戦ってくれないみたい……
ずるい話だ。“異能”を持ってるのに、力があるのに、可能性だってあるのに…歪くんはどこまでいっても愚かで怠惰だ。
……でも、一番愚かなのはわたしだ。ずっと後ろで、ただただ友達を心配するだけ…わたしはいつも後ろで状況の終息を怠惰に待っている……いじめとかで一番悪いと言われるのはーー
「傍観者」、見てるだけで何もしない者。
歪くんは今は確かに何もしていないが、一様里壊くんと兵子さんを助けた。わたしはずっと、心配して見ていただけだった…
わたし
こんな自分を変えたい…
(わたしにできる事は……!)
脳中でいろいろな情報が行き交い、情報からワードを取り出し、取り出したワードはやがて形になっていき、パズルのピースが出来上がる。そして、形の合うピースを繋げていくと、多少穴は空いてるが、本原 素澄と言う人間のパズルが完成した。
(この答えならーー)
わたしは力を込めて「変えたい自分」を打ち破る様に叫んだ。
「みんな!あの人、本原には大きな『弱点』がある!!」
Distortionな歪くん12 「《タケミカヅチ》」 完
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※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
マインハールⅡ ――屈強男×しっかり者JKの歳の差ファンタジー恋愛物語
花閂
キャラ文芸
天尊との別れから約一年。
高校生になったアキラは、天尊と過ごした日々は夢だったのではないかと思いつつ、現実感のない毎日を過ごしていた。
天尊との思い出をすべて忘れて生きようとした矢先、何者かに襲われる。
異界へと連れてこられたアキラは、恐るべき〝神代の邪竜〟の脅威を知ることになる。
――――神々が神々を呪う言葉と、誓約のはじまり。
〈時系列〉
マインハール
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マインハールⅡ
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ゾルダーテン 獣の王子篇( Kapitel 05 )

ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
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