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Distortionな歪くん 11 「無知と狂気」
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Distortionな歪くん 11 「狂気と無知」
漫画では同じみの「路地裏」。
そこは、摩天楼が作り出した闇の迷宮。
そこは、ゴミの入り入り混じった臭い。
そこは、湿った空気の溜まり場。
そして何よりーー
「まぁ、兎にも角にも君は僕を『実験材料』と言うだね」
「当たり前だろ。だってお前、殺しても蘇るじゃん。だからどんな危険な実験だって、お前にできる」
「そうか、ならーー」
「こいつらが相手だぁ!!」
「俺!?」
「アタシ!?」
ーー漫画でありがちな、そして、うってつけの戦闘の舞台。
歪くんはあたかも、ラスボスが側近の部下に命令するそぶりでに、里壊くんと兵子さんに指を指した。
もちろん、二人は納得しないで歪くんをボコスカとリンチする。
「なんで俺等なんだよ!!」
「アンタがご指名されたんだろッ!!」
「痛い痛い痛い!ちょ、ちょっと待って!」
「…」
歪くんが何回も自分の状態を戻しながら、二人に言う。二人もまぁ聞いてやろうと、手を止めた。わたしはそんな光景を苦笑いで見つめる。彼の方は病院とかの待ち時間の様な様子で、退屈そうに本を読んでいた。
「僕がお前達をピックアップした理由は二つある!」
歪くんは演技がましく汚れてないのに、学生服を手で払って理由を説明しだす。
「一、最近は僕の出番ばかりじゃないか。これじゃあ『主人公』としてはやっぱ、モブのお前らに出番与えたいじゃん?」
「モブ?」
何食わぬ顔で話す歪くんに、里壊くんがイラついた表情をした。
「二、『異能高校 生徒規約 “異能”の部』第一条。『学校以外の人目につく場所では、“異能”を使用する事は禁ずる』。よって、素晴らしい学校生活を送りたい僕は、“異能”を使いたくないから戦わない!」
「は」
これまた何食わぬ顔で自分の保身に走る歪くんに、兵子さんが銃を構えそうになる。
歪くんが言ったのは、生徒手帳に書かれていた事だから、わたしも知っている。が、歪くんが読んでいたのは意外だ。だって、歪くんは自分の興味のある事しか見ようとしないし。
「そんなに自分が可愛いなら仕方ないーー」
彼は本を閉じて、倒れている断谷を親指で指し、
「こいつらを『お前の“異能”が発動しない方法』で殺す」
「な…!」
彼の狂気的な発言に、「自分の事以外はどうでもいい」歪くんが戸惑う。ただ戸惑っているわけではない。何というか…こう…焦ってる…
「どうしたの歪くん?」
気になってわたしは歪くんに訊く。わたしの呼びかけに対し歪くんは、
「どうしたもこうしたも木下もないぜ!断谷達が死んだら、この場にいた僕達が事情聴取される。そうなったら、僕の華々しい学校生活がパァっだ!」
「結局自分かよ」
里壊くんが白い目で、自分の危機に焦る歪くんを見る。「人でなし」の言動だが、自分の事を一番に考える歪くんは誰よりも「人間らしい」。「人でなしの人間らしさ」、とでも言うべきか……そんな矛盾が、征上 歪というものを作っていく。
彼は歪くんをさらに焦らせる。
「そうか、なら、尚更こいつらを殺してみたくなった。あ、後訂正する。『お前の“異能”の能力が意味をなさない方法』で殺す」
彼はそう言うと、後ろを向いて断谷達の倒れている方向に足を出した。
「ま、待てよ話せばわかる!話せばならん何事も!」
彼の行動に焦り、判断が鈍った歪くんは彼の方にふざけた言葉と生真面目な走り方で駆け寄る。
「待て歪!」
兵子さんが歪くんを止めようとしたが、保身に、文字通り走っている歪くんには届かない。このままだと、彼の“あの攻撃”がくる…
兵子さんの忠告も届かず、歪くんが荒い息で彼の肩に手を置いたその時ーー
「待ってたぜ…狂え」
「しっ、しまっ、たぁっ!!」
まんまと彼の術中にはまる歪くんはバタバタと足を荒ぶらせ、ものの数秒で小汚い地面に倒れ痙攣、そして、やがて静かに動きが止まった。
歪くんには少し悪いが、その動きはまるで、映画でよくある恐怖演出をする為の「やられ役」にさえ見えきてしまう。
本当に悪い事を言ってしまうが、歪くんの目指す「主人公」とは程遠い「やられ方」であった。
「へ、こんなもんかよ」
彼は横たわる歪くんの頭を踏みつけて、また本を開く。
その時、場面が切り替わり、歪くんが倒れる前の状態で彼の目の前に立っていた。
「残念だったな。トリックだよ」
歪くんが映画、コマンドーに出てくる、 ベネットの似てない声マネと、そぶりに加えて、肩をすくめて彼を挑発する。
しかし、彼は動じない。さっきの発言も気になる。
歪くんの「“異能”の能力が意味を持たない方法で殺す」…わたしが考えてる最中にその答えはすぐに出た。
歪くんは電池が突然切れたように倒れる。だが、また改変され数秒前に歪くんは戻った。
しかしーー
「な、なんでっ、息がっ!?改変したはずだっ!?なん、で………」
歪くんは悶え苦しんで、バタンと倒れた。もちろん再び立ったけど、また呼吸困難で死を迎える。その繰り返しだ。兵子さんの時と同じ道を辿る予感がする…無限ループに陥っている…
けど、一つだけ違う点がある。彼はわたし達が見る中では「何もしていない」。そう、彼は何もしていないのだ。だから、もし無限ループに陥ったとしても、被害者は歪くんただ一人。兵子さんの時みたいに、永遠に付き合わせられる訳ではない。
つまりは、この無限ループに歪くんだけが入っているこの状況は、誰が見ても、明らかにこれだけは言える。
歪くんの負けだ。
わたしはバクみたいに、死んでは起きて、死んでは起きてを繰り返す異様な光景を見て、「死」とは何かが曖昧に薄れてく感じがして、それが怖くなって、一瞬だが目を逸らしてしまった。
「お前の“異能”は、オレの推測だが『自分の見た時間軸そのものを貼り付ける能力』だろ?だから『目に映らない酸素』は改変する事が出来ないまま、その場に残って数秒足らずで酸欠になる。簡単なトリックだ」
彼は本のページをめくりながら歪くんに言う。しかし歪くんは、自分のコンテニューに手一杯で聞こえていないようだ。
わたしはこの状況を打開しようと、隣にいる兵子さんの制服を引っ張りって、子供がアレ買ってと、歪くんに指を指して親に懇願するように頼み。
「お願い!歪くんを助けて!」
「ホントは嫌だが、亜依の頼みならッ!『コルト ガバメントM1911』!!」
兵子さんは瞬く間に、両手にハンドガンを精製し、完成と同時に引き金を絞る。
「こいつ何処から銃を!?チッ!」
彼は本を空中に放り投げ、両手を体の前でクロスさせる。銃相手にそんは手段で防御できるとは考えにくい……
そして、弾丸は彼の両手をーー貫かず、弾けれて路地裏の壁に衝突した。
「なんだと!?コイツ、弾丸を両手で弾きやがったッ!『酸素を操る』“異能”じゃねーのか!」
彼は驚く兵子さんを睨みつけて、空中に投げた本をノールックでキャッチすると、
「計算外だったな…まさか『銃を精製する』“異能”だとは…」
「アンタこそ、『酸素を操る』“異能”だと思ってたがな…驚かされたよ」
兵子さんは失敗を押し殺すように笑った。額からは汗が滴り落ちる。
お互いがお互いを警戒した、張り詰めた緊張感でこの場が満ちる。数は無限ループ中の歪くんを抜かすなら、二対一でこちらが有利。だが、それを感じさせない強さを「持つ」彼は、今まで戦ってきた誰よりも、異質な存在を放つ。
思い浮かぶ言葉は「狂気」。
イキイキ
「ッハァァァ!息してる生きてる!息生きしてるぅ!」
緊迫して息が詰まりそうなこの場を、台無しにするように、酸欠無限ループ中だった歪くんが、彼の背後から奇怪な立ち方で、復活した。
「あー。『リセット』しちまった…」
彼が残念そうに参ったなぁと、ため息を吐く。それを見た歪くんは、彼を追い詰めるように、
「残念だったなぁ!トリックだよ(二回目)漫画では、『最初に有利になった方から負ける』んだよ!故に、お前に最初に負けて不利になった僕の勝利だぁ!!」
どの漫画の「主人公」が絶対にしないであろう、「背後からの攻撃」を彼の後頭部を目掛けて繰り出す歪くん。
わたし達は打ち合わせをするでもなく、自然に口を揃えてこう言ったーー
「「「最低だぁ~~~!!!」」」
「不正はなかっーーっだぁ!?」
バキッと骨が砕ける音。しかし、歪くんが彼の後頭部を砕いた訳ではない。そもそも歪くんは“異能”は強くても、フィジカルはとてつもなく弱い。里壊くんが前に言っていたが、歪くんの全力のパンチは「小突かれた程度」らしい。よって、音の出所は、歪くんの砕けた拳からだ。
歪くんのグチャグチャになった拳から、ひたひたと真紅の血液が零れ落ちる。混乱しているのか、歪くんはいつもなら、すぐに“異能”で自分の拳に「無傷の状態の映像」を貼り付けるが、ただただ拳を虚ろな目で見つめているばかりだ。彼は、そんな歪くんの方を向かずに本のページをめくりながら、独り言のように呟いた。
「オレ自身の体の皮膚を『硬く』したダイヤモンド並みにな。そりゃあ拳も砕けて当然だ」
その直後、歪くんの目がより深く虚ろに染まって、こんな時でもーーいや、歪くんはこんな時だからこそ、舞台で悪役が華々しく散るように、膝をガクッと落として、まるで深淵に身を投げるように倒れた。
歪くんは“異能”を使って復活した形跡はあるが、その後、立つことはなかった。
「歪が…『完全に負けた』…」
里壊くんが静かに驚く。それもそうだ、「自分の見たい結果になるまで向かってくる」のが歪くんだ。それなのに、今この瞬間、歪くんは諦めたのだ。つまり、歪くんが立ち上がらない=歪くんが完全に負けを認め証拠なのである。
「そうだ、そうだった。お前、オレの邪魔したから殺さないと」
淡々と狂気的な発言をして、彼は兵子さんの頭上に本を投げたると、全力疾走で向かってくる。
兵子さんは一瞬、頭上の本に気を取られて、彼の接近を許してしまい、あっという間に懐へ入られてしまう。
「『銃を精製する』“異能”なら精製する前に、こんだけ近づいちまえば余裕はねえよな」
「くっ!ーー」
彼は兵子さんの腹部に、銃弾を弾いた時みたいに、硬化した腕で右ストレートを入れた。
「がはッ!?」
ドスッと重く鈍い音が鳴り、兵子さんはボールが弾むみたいに飛ばされ、荒れた地面に腹部を抑えて横たわり、口を目一杯開いて苦しんだ表示で呼吸するが、酸素がうまく取り込めていない様子。
それは彼の「酸素を操る」能力によるものではなく、あまりの強い打撃によって起こされた呼吸困難であった。
彼の“異能”がさっきから観えない…「酸素を操る」能力かに見えたが、今度は体を硬くした……
ん?よくよく考えれば、断谷を凍らせた時もそうだ。彼は「空気を圧縮して凍らせた」っと言ったが、普通、空気を圧縮すると高温になるはず…何か妙だ……………
ハッと一つの結論が、雷が走るが如くわたしの頭によぎって、恐ろしい結論にいきついてしまう。
「ぐっ!…ゲホッ!ゲホッ!…ッハァ…ハァ…ハァ…」
やっと酸素が取り込めて、嗚咽混じりに呼吸する兵子さんに、空中に投げた本をキャッチしながら、彼が近づく。それをか細い目で見た兵子さんはぎこちない動きであるが、気づかれないように武器を精製しようとする。
こんな時にまで……
「いつもなら時間も惜しいし、『酸欠』でぶっ倒しているんだが、今回は流石に頭にきた。今からオレはお前の腹ん中の内臓が、デロッデロッのペースト状になるまで殴り続ける」
彼は冷酷で狂気的な発言をして、硬くした拳を本を挟んで打ち鳴らし近づく。
動くのがやっとで、薄い本が捗りそうなほどに、制服が擦れてボロボロになった兵子さんの首根っこを掴んで、そのまま上に上げた。
彼は顔色をピクリとも変えずに、この一連の流れを行なっている。
「へ…このアタシに…それで勝った気かよ…何処ぞの…捻くれ者が言ってたぜ……『最初に有利になった方から負けていく』ってな…」
兵子さんは苦しそうに、けれどもヘラヘラと笑う。わたし達と会った時は、こんな状況になったら我も忘れて銃を撃ち続けてたのに…わたしと同じだ。兵子さんも歪くんと会って歪んじゃったんだ。もちろん、いい意味で…
「そうか…いくぞ?」
彼は拳を振りかぶって、冷酷に死刑宣告を告げ、狂気的な無表情で拳を振りかざす。
「FIRE…!」
「グハッ!?」
刹那、気づかれないように前もって精製していた銃で彼の膝を撃ち抜く。その時の兵子さんは不敵に笑ってた。
兵子さんを掴んでいた彼の腕緩み。心なしか兵子さんは呼吸しやすそうーー
「本当に、これで終わりか?負け犬の最後の足掻きってヤツは…」
ドクドクと膝の空いた穴から、血液が流れ出ているのに彼は無表情に、より一層冷酷で狂気の眼差しで兵子さんを睨み、どうってことないように立っている。
「あ…あ~そうだよ…アタシの最後の悪あがきだよ…痛かったんだろ……強がってんのが見え見えなんだよ…」
「確かに痛いが、我慢すればお前にトドメを刺すチャンスは逃さない。勝負は『痛み』と言う『恐怖』に耐えた方が勝利する…!」
「あ、そう。じゃあーー」
「アタシの出番はここまでだ………里壊!!」
兵子さんが叫ぶと、里壊くんが彼の後ろから現れ、
「いささか背後からの攻撃は卑怯だが、お前をブチのめす為には仕方ない!」
「分かってたぜ。お前が攻撃してくんの。狂えーーぐぶはッ!!?」
彼が能力で里壊くんを窒素させようとしたのかは定かではないが、里壊くんには効いていない。それは里壊くんの“異能”「理解できない」によるものだ。
彼は里壊くんが倒れると踏んでいたので、防御態勢を取らないでいた。それにより、もろに里壊くんの蹴りをわき腹に受けてしまい、本と一緒に蹴り飛ばされる。その直後彼の手がさらに緩み、兵子さんの首根っこから手が離れて、兵子さんはそのまま床に落ちて、体の限界がきたのか倒れた。
「何んでだ…?確かに“異能”を…発動させて『原子の配置を変えた』筈だ…何で?」
彼は蹴りをくらったわき腹を抑えて、何が起きたのかを「理解しようとする」。解けない謎に直面した彼は謎に気を取られ、「痛み」を我慢できないでいる。表情からも戸惑いが感じられた。
里壊くんは突き上げた脚を下ろしながら、
「ん?その顔、なんかしたのか?それなら言っておく。?俺はお前が何をしたのかを理解できなかった?」
里壊くんは本当にわからない顔をしているが、さっきの彼の発言で、わたしの考えの答え合わせができた。
里壊くんの発言で彼の戸惑いが消え、彼は抑えていたわき腹から手を離し、血で真っ赤になった脚のまま不気味に立ち上がる。
「なるほど…お前、『りかい』って言ったな?」
「そうだが」
「りかい、お前の“異能”はもう解けた。お前の能力は『情報に応じて発動する』能力だろ?」
「どうだろうな?お前の好きな解釈でいいぜ」
里壊くんは自分の“異能”のネタが割れないように、すっとぼけたフリをした。
すると彼は、一緒に蹴り飛ばされ、汚れが随分とついてしまった本を拾い上げ、
もとはら すすむ
「オレの名前は本原 素澄。オレの“異能”は『自分の近くにある原子を操る』能力、『狂原師』[ニュークリア・コネクター]…これぐらいの情報があればいいだろう……」
嬉しくない大正解。「原子を操る」能力。それはこの場にいる誰よりも、強く、狂気的な能力であった。断谷を凍らせる事が出来たのも、酸素だけではなく、別の原子の配置を変えて起こしたのだろう。
それを聞いても里壊くんはキョトンとして、
「大体お前の“異能”を理解した。まぁとにかく強そうだな!」
まったく危機感を感じてない!『原子を操る』って事は、つまりは、どんな化学反応も思いのまま。しかもあたり前の事だが、原子の動きなんて見える筈がない。気づかないままで死に近づいている可能性だってあるーー
ーー気づかないまま…気づかないまま…って事は、「理解できてない」…!という事はこの勝負、「その現象を理解しなければ無効になる」“異能”「理解できない」[ノットアンダースタンド]を持つ、里壊くんに勝機がある。
しかもそれさえも里壊くんは理解してない!
わたしは二人が向かい合っている間に、兵子さんへ駆け寄り、わたしの膝を枕がわりにして、出来るだけ安静な状態を保つ。
「兵子さん大丈夫!?」
「ハァ…ハァ…ハァ…がッ!…大丈夫…じゃないな…」
兵子さんは荒い呼吸で、反応する。よかった。まだ意識はあるみたいだ。わたしはボロボロの制服をめくり、殴られた腹部の状態を確認する。
兵子さんの腹部は赤く滲んでいて、体中あちこちに深いものや、浅い擦り傷が見られた。銃の事を詳しい訳ではないが、よくこんな傷で銃を撃てたものだ。反動もあったろうに…喋るのもやっとの筈だ。歪くんが立ってくれたら、こんな傷すぐに戻せるのに…わたしは友達にしか頼れないわたしを、この時だけ呪った。
「ひとまず兵子さん。安静にーー」
「…ハァ…ハァ……!里壊!!負けんなよ!頼れんのはもうアンタしかいねぇ!…!ゲホッ!ゲホッ!」
「ちょ、兵子さん!安静にしないと!」
「ハァ…ハァ…ご、ごめん…じゃあ…寝るわ……ハァ…決着着いたら起こしてく…れ…」
(うひゃー!亜依に膝枕されてる!?しかも、アタシの事心配してくれてる!?おいおい、こんなチャンス二度とねーぞ!?こいつはぁ願ってもねーチャンスだなッ!!!)
そう言って兵子さんは満足気に、わたしに身を預けるように目を閉じた。里壊くんは何も言わず、コクッとこちらへ頷いて、彼に向けて戦闘態勢をとる。
夕暮れが近づいているのにまだ、分厚い雲が太陽を隠しているが、少しずつ晴れへと近づいている。心なしか、そう感じる。
Distortionな歪くん 11 「狂気と無知」 完
漫画では同じみの「路地裏」。
そこは、摩天楼が作り出した闇の迷宮。
そこは、ゴミの入り入り混じった臭い。
そこは、湿った空気の溜まり場。
そして何よりーー
「まぁ、兎にも角にも君は僕を『実験材料』と言うだね」
「当たり前だろ。だってお前、殺しても蘇るじゃん。だからどんな危険な実験だって、お前にできる」
「そうか、ならーー」
「こいつらが相手だぁ!!」
「俺!?」
「アタシ!?」
ーー漫画でありがちな、そして、うってつけの戦闘の舞台。
歪くんはあたかも、ラスボスが側近の部下に命令するそぶりでに、里壊くんと兵子さんに指を指した。
もちろん、二人は納得しないで歪くんをボコスカとリンチする。
「なんで俺等なんだよ!!」
「アンタがご指名されたんだろッ!!」
「痛い痛い痛い!ちょ、ちょっと待って!」
「…」
歪くんが何回も自分の状態を戻しながら、二人に言う。二人もまぁ聞いてやろうと、手を止めた。わたしはそんな光景を苦笑いで見つめる。彼の方は病院とかの待ち時間の様な様子で、退屈そうに本を読んでいた。
「僕がお前達をピックアップした理由は二つある!」
歪くんは演技がましく汚れてないのに、学生服を手で払って理由を説明しだす。
「一、最近は僕の出番ばかりじゃないか。これじゃあ『主人公』としてはやっぱ、モブのお前らに出番与えたいじゃん?」
「モブ?」
何食わぬ顔で話す歪くんに、里壊くんがイラついた表情をした。
「二、『異能高校 生徒規約 “異能”の部』第一条。『学校以外の人目につく場所では、“異能”を使用する事は禁ずる』。よって、素晴らしい学校生活を送りたい僕は、“異能”を使いたくないから戦わない!」
「は」
これまた何食わぬ顔で自分の保身に走る歪くんに、兵子さんが銃を構えそうになる。
歪くんが言ったのは、生徒手帳に書かれていた事だから、わたしも知っている。が、歪くんが読んでいたのは意外だ。だって、歪くんは自分の興味のある事しか見ようとしないし。
「そんなに自分が可愛いなら仕方ないーー」
彼は本を閉じて、倒れている断谷を親指で指し、
「こいつらを『お前の“異能”が発動しない方法』で殺す」
「な…!」
彼の狂気的な発言に、「自分の事以外はどうでもいい」歪くんが戸惑う。ただ戸惑っているわけではない。何というか…こう…焦ってる…
「どうしたの歪くん?」
気になってわたしは歪くんに訊く。わたしの呼びかけに対し歪くんは、
「どうしたもこうしたも木下もないぜ!断谷達が死んだら、この場にいた僕達が事情聴取される。そうなったら、僕の華々しい学校生活がパァっだ!」
「結局自分かよ」
里壊くんが白い目で、自分の危機に焦る歪くんを見る。「人でなし」の言動だが、自分の事を一番に考える歪くんは誰よりも「人間らしい」。「人でなしの人間らしさ」、とでも言うべきか……そんな矛盾が、征上 歪というものを作っていく。
彼は歪くんをさらに焦らせる。
「そうか、なら、尚更こいつらを殺してみたくなった。あ、後訂正する。『お前の“異能”の能力が意味をなさない方法』で殺す」
彼はそう言うと、後ろを向いて断谷達の倒れている方向に足を出した。
「ま、待てよ話せばわかる!話せばならん何事も!」
彼の行動に焦り、判断が鈍った歪くんは彼の方にふざけた言葉と生真面目な走り方で駆け寄る。
「待て歪!」
兵子さんが歪くんを止めようとしたが、保身に、文字通り走っている歪くんには届かない。このままだと、彼の“あの攻撃”がくる…
兵子さんの忠告も届かず、歪くんが荒い息で彼の肩に手を置いたその時ーー
「待ってたぜ…狂え」
「しっ、しまっ、たぁっ!!」
まんまと彼の術中にはまる歪くんはバタバタと足を荒ぶらせ、ものの数秒で小汚い地面に倒れ痙攣、そして、やがて静かに動きが止まった。
歪くんには少し悪いが、その動きはまるで、映画でよくある恐怖演出をする為の「やられ役」にさえ見えきてしまう。
本当に悪い事を言ってしまうが、歪くんの目指す「主人公」とは程遠い「やられ方」であった。
「へ、こんなもんかよ」
彼は横たわる歪くんの頭を踏みつけて、また本を開く。
その時、場面が切り替わり、歪くんが倒れる前の状態で彼の目の前に立っていた。
「残念だったな。トリックだよ」
歪くんが映画、コマンドーに出てくる、 ベネットの似てない声マネと、そぶりに加えて、肩をすくめて彼を挑発する。
しかし、彼は動じない。さっきの発言も気になる。
歪くんの「“異能”の能力が意味を持たない方法で殺す」…わたしが考えてる最中にその答えはすぐに出た。
歪くんは電池が突然切れたように倒れる。だが、また改変され数秒前に歪くんは戻った。
しかしーー
「な、なんでっ、息がっ!?改変したはずだっ!?なん、で………」
歪くんは悶え苦しんで、バタンと倒れた。もちろん再び立ったけど、また呼吸困難で死を迎える。その繰り返しだ。兵子さんの時と同じ道を辿る予感がする…無限ループに陥っている…
けど、一つだけ違う点がある。彼はわたし達が見る中では「何もしていない」。そう、彼は何もしていないのだ。だから、もし無限ループに陥ったとしても、被害者は歪くんただ一人。兵子さんの時みたいに、永遠に付き合わせられる訳ではない。
つまりは、この無限ループに歪くんだけが入っているこの状況は、誰が見ても、明らかにこれだけは言える。
歪くんの負けだ。
わたしはバクみたいに、死んでは起きて、死んでは起きてを繰り返す異様な光景を見て、「死」とは何かが曖昧に薄れてく感じがして、それが怖くなって、一瞬だが目を逸らしてしまった。
「お前の“異能”は、オレの推測だが『自分の見た時間軸そのものを貼り付ける能力』だろ?だから『目に映らない酸素』は改変する事が出来ないまま、その場に残って数秒足らずで酸欠になる。簡単なトリックだ」
彼は本のページをめくりながら歪くんに言う。しかし歪くんは、自分のコンテニューに手一杯で聞こえていないようだ。
わたしはこの状況を打開しようと、隣にいる兵子さんの制服を引っ張りって、子供がアレ買ってと、歪くんに指を指して親に懇願するように頼み。
「お願い!歪くんを助けて!」
「ホントは嫌だが、亜依の頼みならッ!『コルト ガバメントM1911』!!」
兵子さんは瞬く間に、両手にハンドガンを精製し、完成と同時に引き金を絞る。
「こいつ何処から銃を!?チッ!」
彼は本を空中に放り投げ、両手を体の前でクロスさせる。銃相手にそんは手段で防御できるとは考えにくい……
そして、弾丸は彼の両手をーー貫かず、弾けれて路地裏の壁に衝突した。
「なんだと!?コイツ、弾丸を両手で弾きやがったッ!『酸素を操る』“異能”じゃねーのか!」
彼は驚く兵子さんを睨みつけて、空中に投げた本をノールックでキャッチすると、
「計算外だったな…まさか『銃を精製する』“異能”だとは…」
「アンタこそ、『酸素を操る』“異能”だと思ってたがな…驚かされたよ」
兵子さんは失敗を押し殺すように笑った。額からは汗が滴り落ちる。
お互いがお互いを警戒した、張り詰めた緊張感でこの場が満ちる。数は無限ループ中の歪くんを抜かすなら、二対一でこちらが有利。だが、それを感じさせない強さを「持つ」彼は、今まで戦ってきた誰よりも、異質な存在を放つ。
思い浮かぶ言葉は「狂気」。
イキイキ
「ッハァァァ!息してる生きてる!息生きしてるぅ!」
緊迫して息が詰まりそうなこの場を、台無しにするように、酸欠無限ループ中だった歪くんが、彼の背後から奇怪な立ち方で、復活した。
「あー。『リセット』しちまった…」
彼が残念そうに参ったなぁと、ため息を吐く。それを見た歪くんは、彼を追い詰めるように、
「残念だったなぁ!トリックだよ(二回目)漫画では、『最初に有利になった方から負ける』んだよ!故に、お前に最初に負けて不利になった僕の勝利だぁ!!」
どの漫画の「主人公」が絶対にしないであろう、「背後からの攻撃」を彼の後頭部を目掛けて繰り出す歪くん。
わたし達は打ち合わせをするでもなく、自然に口を揃えてこう言ったーー
「「「最低だぁ~~~!!!」」」
「不正はなかっーーっだぁ!?」
バキッと骨が砕ける音。しかし、歪くんが彼の後頭部を砕いた訳ではない。そもそも歪くんは“異能”は強くても、フィジカルはとてつもなく弱い。里壊くんが前に言っていたが、歪くんの全力のパンチは「小突かれた程度」らしい。よって、音の出所は、歪くんの砕けた拳からだ。
歪くんのグチャグチャになった拳から、ひたひたと真紅の血液が零れ落ちる。混乱しているのか、歪くんはいつもなら、すぐに“異能”で自分の拳に「無傷の状態の映像」を貼り付けるが、ただただ拳を虚ろな目で見つめているばかりだ。彼は、そんな歪くんの方を向かずに本のページをめくりながら、独り言のように呟いた。
「オレ自身の体の皮膚を『硬く』したダイヤモンド並みにな。そりゃあ拳も砕けて当然だ」
その直後、歪くんの目がより深く虚ろに染まって、こんな時でもーーいや、歪くんはこんな時だからこそ、舞台で悪役が華々しく散るように、膝をガクッと落として、まるで深淵に身を投げるように倒れた。
歪くんは“異能”を使って復活した形跡はあるが、その後、立つことはなかった。
「歪が…『完全に負けた』…」
里壊くんが静かに驚く。それもそうだ、「自分の見たい結果になるまで向かってくる」のが歪くんだ。それなのに、今この瞬間、歪くんは諦めたのだ。つまり、歪くんが立ち上がらない=歪くんが完全に負けを認め証拠なのである。
「そうだ、そうだった。お前、オレの邪魔したから殺さないと」
淡々と狂気的な発言をして、彼は兵子さんの頭上に本を投げたると、全力疾走で向かってくる。
兵子さんは一瞬、頭上の本に気を取られて、彼の接近を許してしまい、あっという間に懐へ入られてしまう。
「『銃を精製する』“異能”なら精製する前に、こんだけ近づいちまえば余裕はねえよな」
「くっ!ーー」
彼は兵子さんの腹部に、銃弾を弾いた時みたいに、硬化した腕で右ストレートを入れた。
「がはッ!?」
ドスッと重く鈍い音が鳴り、兵子さんはボールが弾むみたいに飛ばされ、荒れた地面に腹部を抑えて横たわり、口を目一杯開いて苦しんだ表示で呼吸するが、酸素がうまく取り込めていない様子。
それは彼の「酸素を操る」能力によるものではなく、あまりの強い打撃によって起こされた呼吸困難であった。
彼の“異能”がさっきから観えない…「酸素を操る」能力かに見えたが、今度は体を硬くした……
ん?よくよく考えれば、断谷を凍らせた時もそうだ。彼は「空気を圧縮して凍らせた」っと言ったが、普通、空気を圧縮すると高温になるはず…何か妙だ……………
ハッと一つの結論が、雷が走るが如くわたしの頭によぎって、恐ろしい結論にいきついてしまう。
「ぐっ!…ゲホッ!ゲホッ!…ッハァ…ハァ…ハァ…」
やっと酸素が取り込めて、嗚咽混じりに呼吸する兵子さんに、空中に投げた本をキャッチしながら、彼が近づく。それをか細い目で見た兵子さんはぎこちない動きであるが、気づかれないように武器を精製しようとする。
こんな時にまで……
「いつもなら時間も惜しいし、『酸欠』でぶっ倒しているんだが、今回は流石に頭にきた。今からオレはお前の腹ん中の内臓が、デロッデロッのペースト状になるまで殴り続ける」
彼は冷酷で狂気的な発言をして、硬くした拳を本を挟んで打ち鳴らし近づく。
動くのがやっとで、薄い本が捗りそうなほどに、制服が擦れてボロボロになった兵子さんの首根っこを掴んで、そのまま上に上げた。
彼は顔色をピクリとも変えずに、この一連の流れを行なっている。
「へ…このアタシに…それで勝った気かよ…何処ぞの…捻くれ者が言ってたぜ……『最初に有利になった方から負けていく』ってな…」
兵子さんは苦しそうに、けれどもヘラヘラと笑う。わたし達と会った時は、こんな状況になったら我も忘れて銃を撃ち続けてたのに…わたしと同じだ。兵子さんも歪くんと会って歪んじゃったんだ。もちろん、いい意味で…
「そうか…いくぞ?」
彼は拳を振りかぶって、冷酷に死刑宣告を告げ、狂気的な無表情で拳を振りかざす。
「FIRE…!」
「グハッ!?」
刹那、気づかれないように前もって精製していた銃で彼の膝を撃ち抜く。その時の兵子さんは不敵に笑ってた。
兵子さんを掴んでいた彼の腕緩み。心なしか兵子さんは呼吸しやすそうーー
「本当に、これで終わりか?負け犬の最後の足掻きってヤツは…」
ドクドクと膝の空いた穴から、血液が流れ出ているのに彼は無表情に、より一層冷酷で狂気の眼差しで兵子さんを睨み、どうってことないように立っている。
「あ…あ~そうだよ…アタシの最後の悪あがきだよ…痛かったんだろ……強がってんのが見え見えなんだよ…」
「確かに痛いが、我慢すればお前にトドメを刺すチャンスは逃さない。勝負は『痛み』と言う『恐怖』に耐えた方が勝利する…!」
「あ、そう。じゃあーー」
「アタシの出番はここまでだ………里壊!!」
兵子さんが叫ぶと、里壊くんが彼の後ろから現れ、
「いささか背後からの攻撃は卑怯だが、お前をブチのめす為には仕方ない!」
「分かってたぜ。お前が攻撃してくんの。狂えーーぐぶはッ!!?」
彼が能力で里壊くんを窒素させようとしたのかは定かではないが、里壊くんには効いていない。それは里壊くんの“異能”「理解できない」によるものだ。
彼は里壊くんが倒れると踏んでいたので、防御態勢を取らないでいた。それにより、もろに里壊くんの蹴りをわき腹に受けてしまい、本と一緒に蹴り飛ばされる。その直後彼の手がさらに緩み、兵子さんの首根っこから手が離れて、兵子さんはそのまま床に落ちて、体の限界がきたのか倒れた。
「何んでだ…?確かに“異能”を…発動させて『原子の配置を変えた』筈だ…何で?」
彼は蹴りをくらったわき腹を抑えて、何が起きたのかを「理解しようとする」。解けない謎に直面した彼は謎に気を取られ、「痛み」を我慢できないでいる。表情からも戸惑いが感じられた。
里壊くんは突き上げた脚を下ろしながら、
「ん?その顔、なんかしたのか?それなら言っておく。?俺はお前が何をしたのかを理解できなかった?」
里壊くんは本当にわからない顔をしているが、さっきの彼の発言で、わたしの考えの答え合わせができた。
里壊くんの発言で彼の戸惑いが消え、彼は抑えていたわき腹から手を離し、血で真っ赤になった脚のまま不気味に立ち上がる。
「なるほど…お前、『りかい』って言ったな?」
「そうだが」
「りかい、お前の“異能”はもう解けた。お前の能力は『情報に応じて発動する』能力だろ?」
「どうだろうな?お前の好きな解釈でいいぜ」
里壊くんは自分の“異能”のネタが割れないように、すっとぼけたフリをした。
すると彼は、一緒に蹴り飛ばされ、汚れが随分とついてしまった本を拾い上げ、
もとはら すすむ
「オレの名前は本原 素澄。オレの“異能”は『自分の近くにある原子を操る』能力、『狂原師』[ニュークリア・コネクター]…これぐらいの情報があればいいだろう……」
嬉しくない大正解。「原子を操る」能力。それはこの場にいる誰よりも、強く、狂気的な能力であった。断谷を凍らせる事が出来たのも、酸素だけではなく、別の原子の配置を変えて起こしたのだろう。
それを聞いても里壊くんはキョトンとして、
「大体お前の“異能”を理解した。まぁとにかく強そうだな!」
まったく危機感を感じてない!『原子を操る』って事は、つまりは、どんな化学反応も思いのまま。しかもあたり前の事だが、原子の動きなんて見える筈がない。気づかないままで死に近づいている可能性だってあるーー
ーー気づかないまま…気づかないまま…って事は、「理解できてない」…!という事はこの勝負、「その現象を理解しなければ無効になる」“異能”「理解できない」[ノットアンダースタンド]を持つ、里壊くんに勝機がある。
しかもそれさえも里壊くんは理解してない!
わたしは二人が向かい合っている間に、兵子さんへ駆け寄り、わたしの膝を枕がわりにして、出来るだけ安静な状態を保つ。
「兵子さん大丈夫!?」
「ハァ…ハァ…ハァ…がッ!…大丈夫…じゃないな…」
兵子さんは荒い呼吸で、反応する。よかった。まだ意識はあるみたいだ。わたしはボロボロの制服をめくり、殴られた腹部の状態を確認する。
兵子さんの腹部は赤く滲んでいて、体中あちこちに深いものや、浅い擦り傷が見られた。銃の事を詳しい訳ではないが、よくこんな傷で銃を撃てたものだ。反動もあったろうに…喋るのもやっとの筈だ。歪くんが立ってくれたら、こんな傷すぐに戻せるのに…わたしは友達にしか頼れないわたしを、この時だけ呪った。
「ひとまず兵子さん。安静にーー」
「…ハァ…ハァ……!里壊!!負けんなよ!頼れんのはもうアンタしかいねぇ!…!ゲホッ!ゲホッ!」
「ちょ、兵子さん!安静にしないと!」
「ハァ…ハァ…ご、ごめん…じゃあ…寝るわ……ハァ…決着着いたら起こしてく…れ…」
(うひゃー!亜依に膝枕されてる!?しかも、アタシの事心配してくれてる!?おいおい、こんなチャンス二度とねーぞ!?こいつはぁ願ってもねーチャンスだなッ!!!)
そう言って兵子さんは満足気に、わたしに身を預けるように目を閉じた。里壊くんは何も言わず、コクッとこちらへ頷いて、彼に向けて戦闘態勢をとる。
夕暮れが近づいているのにまだ、分厚い雲が太陽を隠しているが、少しずつ晴れへと近づいている。心なしか、そう感じる。
Distortionな歪くん 11 「狂気と無知」 完
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