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Distortionな歪くん 02 「歪む現実」
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Distortionな歪くん 02 「歪む現実」
「『特待生制度』それは、異能、我々が“異能”と言う超常現象の特殊能力を持って生まれた者である!」
その言葉を聞いたわたしは、「蜘蛛の糸」の大泥棒、カンダタがあと一歩のところで、お釈迦様から見捨てられ、地獄へ落ちていくようなそんな、気持ちになり、それとともに、自分から湧き出る全ての『負の感情』を押しつぶすように、膝の上で両手を握りしめた。
何故か、それはわたしの心に「特待生制度」に対し、どす黒い嫉妬心が芽生えたからである。
自分の事を評価するわけでは無いが、わたしはなんでもやりたい事のできる、漫画みたいな青春を送れるこの異能高校に入学する為に、中学校生活の全てを費やしてきたのだ。中学校の青春を全て勉強に費やしてまで、此処へ来たのに……
それなのに…
「特殊能力を持って生まれたから」って理由で、「特待生」は不公平すぎる。だって、そんなのどうしようもないじゃないか…
そもそも、その特殊能力とは?手から炎出せるとか?時を止めるとか?いや、どうでもいい…エスカレーターみたいに登ってきた、苦労も努力も知らない、生まれついてのエリートなんて……
「ずるい」
暗い感情を整理しているうちに、つい心の声が口から漏れてしまう。一瞬焦ったが幸いにもそれは誰の耳にも届いてない。
「は?まじかよ」
「俺ら騙されてたの?」
「それって不公平じゃない?」
わたし以外にも不満を感じる人も当然いた。不満を言ったみんなだって、努力して此処にいるんだ。気持ちは同じはずだ…少しだけわたしの心が軽くなる。
体育館が不満でざわつく中、校長の話は続く。
「“特待生制度”を内密にしてたのは理由がある。それは、“異能”はあまりにも未知で、危険があり、そんな不安の中で入試を受けてほしくなかった為である!諸君!どうかこの不甲斐ない私を許してほしい!」
校長はほぼ直角の礼で謝罪する。
そんな光景を見てると逆に腹が立った。理由はわたしにもわからない。強いて言うなら、偽善ぶった態度だ。
「許してほい」…ふざけてるのか。そんなのでわたしの怒りは抑まらない。多分、わたしはこの高校生活を一生恨んだまま終えるだろう……わたしの心から、理想の高校生活の設計図にひびが入った音がした。
「でもなんか面白そうじゃね?」
「確かに。だって俺らもう入学しちゃったし」
「だな」
わたしと同じ気持ちだと思っていた者達が、次々と変わっていく。よくこんな状況をのみこめるものだ…わたしは小さなため息を吐く。
「あれ?校長泣いてね?」
何処からか聞こえた声。周りの生徒、主に一年生がその校長を見ようと、ステージの上に目を向ける。わたしも気になったので、目を凝らす。
校長は気をすると、ゆっくりと土下座のフォームに移行してた。
「本当に申し訳ない!!」
ピタッと額をステージの床に擦り付け、体育館中に響き渡る程の声で謝罪をする。
「こ、校長もういいですから!」
「校長の謝罪の気持ちはじゅ~~~ぶん伝わりましたから!」
体育館の端にいた教員達が、暴走する校長を止めに入る。しかし、校長も一人で必死に抵抗した。
「離せッ!君達!私に謝罪をさせてくれぇ!」
校長の暴走で体育館中がなんとも言えない雰囲気になる。
一年生には笑いを堪える者、先輩方にはまたか、と苦笑いをする者もいた。反応から察するに、校長の暴走は恒例行事のようなものらしい…
〈そ、それでは続いてーー〉
のっけから大波乱の入学式は淡々と進んだ。
その後のことは“特待生制度”の事が心残りで、よく覚えてない……
入学式が終わって、わたし達一年生は教室に戻ると、力動先生からプリントが渡された。プリントには今後の学校生活の校則、主に“異能”についての注意点が書かれていた。
主な注意点は次の三つだ。
一、学校以外の人目につく場所では、“異能”を使わない事。
二、“異能”を持たない生徒、教員とも分け隔て無く学校生活を送る事。
三、月に一回の研究として、“異能”に関するテストを受けてもらうという事。
ーーまぁ、わたしには関係ないけど。
教室に戸惑いと期待が溢れる。
冷静に考えてみれば、わたし達は今、「国家機密」も関わっていることになる。“異能”という、漫画みたいな特殊能力の事だ。
なんだか現実じゃないみたいだ……
そういえば、朝会った征上 歪も、“異能”を知ってたみたいだったし、ホームルームの時も、志等奴 里壊が、“異能”を持ってるような話をしていた……この二人も神さまが選んだ、生れながらのエリートなんだろうなぁ…わたしは自己嫌悪に陥りながら、それから目を背けようと、窓の外の澄み渡った、青い、青い空を見た。
この日は「入学式」、「ホームルーム」、「教科書類の名前記入」で終わったーー
ーーかに見えたーー
帰りのホームルームの後、下駄箱から自分の靴を取り出し玄関で靴を整え、家に帰る為、正門に向かった。
他の人生徒は、この現実離れした現状にはしゃいでいるのか、口々に話しながら帰っていく。正直、耳障り……
なんか、思ってたのと違ったな……
わたしは下を向きながら歩き出し、ため息を吐いた。
いつもそうだろ。わたし。いつも予想以上の期待で、それを上回らなくて、いつも肩透かし。つくづく「わたし」が嫌になる。もう、悟れよ「わたし」。理想はそこに無いって……
「おい、そこのメガネの一年。止まれや」
わたしは前を向く。目の前にはがたいのいい、八十年代のヤンキーのように改造した学ランを着て、八十年代のヤンキーの髪型をした、肌の黒いの三年の先輩が、二年のパーカーを学ランの下にきた、ガラの悪い手下二人と正門を塞いでいた。
「な、なんですか…?」
わたしは脚の震えをなんとか抑えてながら訊く。さっき下駄箱ではしゃいでいた生徒も足止めをくらっていた。
まっぷ たつや
「俺様の名は魔風 断谷!お前は“異能”持ちか?それとも、“無能”か?」
「む、“無能”…?」
わたしの問いに対し、断谷先輩はなんだ知らねーのかぁと呟くと、親指を得意げに自分に突き立てて、
「“無能”ってのは、俺様がつけた『“異能”を持たない奴』のことよぅ」
“無能”ーーわたしはその言葉の意味を訊いて、断谷先輩、いや、断谷に強い怒りが湧いた。“無能”なんて言葉は、わたしーーわたし達、「努力してきた者」を馬鹿にした軽蔑の言葉だ。
わたしは小さい頃から、どんなに悔しくても「しかたない」で乗り切ってきた。だって、そっちの方が一番、わたしが傷つかない……
でもーー
ここで喰い下ったら、「わたし自身を否定する」…!わたしが“無能”と言う言葉を飲み込んだことになる…!!
「は、はい…わたしは“『“異能”を持って無い』ですが何か?無いならそこ、ど、どいてください」
わたしは“無能”と言う言葉をあえて、『“異能”を持ってない』と言う言葉に置き換え、それを強調しながら、慣れない尖った言い方をした。
すると周りは二年だろうか…断谷の顔色をチラチラと見て青ざめている…「馬鹿よせ」と言わんばかりの顔だ……
わたしは地雷を気づいてて踏みに行った……自ら『不幸』に飛び込んでいくのはただの馬鹿なのだろうが、後悔はしていない。
膝が抑えきれないほど震え、体中から冷や汗が出る。わたしは間違いなく、「恐怖」を感じている。てか、怖いに決まってる…
もう、どうにでもなれ!そうわたしは心で叫ぶ。
「ほう…“無能”のくせに、俺様に歯向かってくるたぁ、いい度胸じゃねぇか!!!!」
断谷は口から大量の唾を飛ばしながら叫ぶ。かかりそうになったので、わたしは少し後ろに避けた。
逆鱗に触れただろう。来るなら、来い…!どうにでもなれ…!
「よ、要件があるなら、は、早く言ってください」
わたしが「恐怖」を押し殺すように、身構えて断谷に訊いた瞬間、断谷は不気味にニヤつく。
「おう、そうだったな……」
不気味な笑いの裏に、燃えるような怒りを感じる…目が笑って無い。嵐の前の静けさ、断谷の不気味な笑いで、辺りが一段と静まり返る。
「この学校はよう、お前達のような“無能”の出来損ないが居るとよう…俺様達エリートにとって、『目障り』でしかねーんだよ、だからよーー」
断谷が巨腕を振りかぶると、周りの生徒が音を殺して、わたしかは離れていく。間違いなく「嵐」が来る…わたしは更に身構える。
“異能”、か…生まれながらのエリートの断谷は、果たしてどんな優れた能力があるのか、はてさて、見ものなものだ、とわたしは心の中で皮肉をもらす。
「ちょ断谷さん、相手は女っすよ?」
「そーですよ!断谷さんの“異能”はヤベーんすから…」
振りかざす一歩手前で、手下二人が止めに入ると、断谷はピタッと巨腕を止めたままで、
「それもそうだな…お前、名前は?」
「…へ、平輪 亜依ですけど…」
唐突に名前を訊いてきたので、反応が遅れる。断谷の表情から、何か企んでるのがわかる。
周りはとばっちりを受けまいと、息を殺している。あの時、ホームルームで志等奴 里壊に雷が落ちそうになった時の、知らん顔のわたしみたいに……
「亜依か……よしお前、俺様の女になれ」
「へ?」
わたしは唖然とした。唐突すぎる。周りも目が点になっていた。間抜け面を数秒晒してしまったが、きっと、あの顔はわたしの顔の事なんて頭に入ってこないだろう。
さっきとは違う、変な沈黙、変な汗。
「な、何を言ってん、ですかっ!?」
呂律が回らなくなってきた。断谷はわたしの焦りようをみて、追い詰めるようにら
「“無能”は今すぐ半殺しにするんだが、お前のルックスも、その小せえ胸を除けば悪かねぇ!俺様もそろそろ彼女が欲しい、いい話だろ?」
「お!断谷さん彼女ゲット?」
「確かにかわいいっすもんね」
断谷は堂々と自分の願望を、わたしのコンプレックスを交えて、笑顔で言う。手下二人もそれを囃し立てる。
てか、「かわいい」ってから言われても、嬉しくない。挙げ句の果てに、わたしの悩みも言うなんて…デリカシーが全くない。悪い話でしかない。わたしも自分のこの学校に対する不満を交えて、
「あ、あなた達みたいに努力もしないで、エスカレーター方式にこの学校に上がってきて、自分の優遇された権力を振りかざして威張り散らしてる性格の悪い人なんかと、付き合うわけないじゃないですか!」
わたしは早口で不満をぶつけると、手下の一人が断谷を茶化すように、もう一人がわたしに警告するように、
「断谷さんwまさか早くも失恋ですかw」
「馬鹿!おい、メガネ!今すぐ考え直せ!死ぬぞ!?」
断谷の巨腕がピクッと動き、断谷は無理に笑顔をキープしようとする。
「じゃあ…なんでお前ごときが、此処に来たんだよ?」
わたしは意を決して、わたしの理想を叫んだ。
「わ、わたしは!誰もが…いえ、わたし自身が理想とする学校生活を送るために来ました!」
「ほう…」
断谷の笑顔が引きつっているが、わたしはなおも、理想を謳う。
「誰もが考えるーーいや、わたし自身が理想とする学校生活は、世間一般的に自殺防止で封鎖された屋上で、お弁当食べたり、遊んだり、夢を…語ったり、放課後は漫画みたいな部活を作って、友達とはしゃいで青春を謳歌して…謳歌してーー」
「もういい」
喋ってるうちに、わたしは気づくと下を向いていて、断谷の殺意に満ちた声で、前を向いた。
断谷の顔の眉間に、これでもかと言わんばかりにシワがよる…もう、笑っていない…
「そんな薄っぺらい理想なら…死ね」
「た、断谷さん…」
「やっべ…」
「ふんッ!!!」
断谷の巨腕がわたしに向かって、振り下ろされたが、わたしはつい、後ずさりをしてしまいつまずくいて、尻餅を着いてしまった。が、運良く攻撃を避けることができた。
そして、わたしに当たるはずだった巨腕は、大理石で作られた、白亜の道に巨腕かま振り下ろされる。
断谷の手が大理石に触れた瞬間、その地点から、わたしの方向へ、ビキビキと大きな音を立て、亀裂が入いり、真っ二つに割れる。
割れたヒビの先が、ちょうどわたしの足元まで来て止まると、そこには深さが計り知れないほどの溝ができていた。
断谷はぐちゃぐちゃにヒビが入った、スタート地点に腕を突っ込んでいた。
「え」
「は」
「嘘」
口を噤んでいた周りも、この状況に口が嫌でも開いてしまう。無論、わたしもだ。口をあんぐり開けて、どうにか口を閉じようとするが真の恐怖を目の当たりにしてしまい、塞がらない。
正門中が恐怖で、深い沈黙に陥る……体が…動かない…どうやらわたしはとんでもないものを、怒らせてしまったようだ……
逃げたい…逃げたい…逃げたい…
怖い…怖い…怖い…
わたしは真の恐怖に負け、現実から切り離すように、目を強く閉じた。
「歪め」
聞き覚えのある男子生徒の声に、思わずわたしは目を開ける。
「え?」
わたしは目を疑った。
ぐちゃぐちゃにヒビの入った、大理石の道が、あたかも「壊れる前に戻った」みたいに綺麗に直されている。
「なんだこれ!?抜けねぇ!?」
そして何より、断谷の巨腕がすっぽりと、大理石の道に埋まっていたのだ。
さらにはこの光景、よくよく見れば、わたしが朝見た時と「同じ正門前の光景」なのだ。
そう…ある一人の特徴的な寝癖を付けた妙に印象に残る、男子生徒と会った時と同じ光景…
「先輩!学校の一部をぶっ壊わして。誇り高い異能高校生として恥ずかしくないんですかぁ!?」
にわかに信じがたい状況に混乱するわたし前に、微塵もそんなことを思って無いよう口ぶりで、見覚えも、聞き覚えもある、張り付いた笑みの男子生徒が現れた。
「てめぇ誰だ!?」
「断谷さんに何をした!?」
張り付いた笑みをした男子生徒ーー征上 歪は演技がかった礼をして、満面の、気持ち悪いほどの歪んだ笑みを浮かべ、
「すいませんエリートの先輩。僕、エリート供の足を引っ張るのが大好きでつい…僕の“異能”『歪む現実』[ディスリアル]で歪ませてもらいましたぁ!」
征上 歪はそう言うと、奇怪なポーズをとった。
Distortionな歪くん2 「歪む現実」 完
「『特待生制度』それは、異能、我々が“異能”と言う超常現象の特殊能力を持って生まれた者である!」
その言葉を聞いたわたしは、「蜘蛛の糸」の大泥棒、カンダタがあと一歩のところで、お釈迦様から見捨てられ、地獄へ落ちていくようなそんな、気持ちになり、それとともに、自分から湧き出る全ての『負の感情』を押しつぶすように、膝の上で両手を握りしめた。
何故か、それはわたしの心に「特待生制度」に対し、どす黒い嫉妬心が芽生えたからである。
自分の事を評価するわけでは無いが、わたしはなんでもやりたい事のできる、漫画みたいな青春を送れるこの異能高校に入学する為に、中学校生活の全てを費やしてきたのだ。中学校の青春を全て勉強に費やしてまで、此処へ来たのに……
それなのに…
「特殊能力を持って生まれたから」って理由で、「特待生」は不公平すぎる。だって、そんなのどうしようもないじゃないか…
そもそも、その特殊能力とは?手から炎出せるとか?時を止めるとか?いや、どうでもいい…エスカレーターみたいに登ってきた、苦労も努力も知らない、生まれついてのエリートなんて……
「ずるい」
暗い感情を整理しているうちに、つい心の声が口から漏れてしまう。一瞬焦ったが幸いにもそれは誰の耳にも届いてない。
「は?まじかよ」
「俺ら騙されてたの?」
「それって不公平じゃない?」
わたし以外にも不満を感じる人も当然いた。不満を言ったみんなだって、努力して此処にいるんだ。気持ちは同じはずだ…少しだけわたしの心が軽くなる。
体育館が不満でざわつく中、校長の話は続く。
「“特待生制度”を内密にしてたのは理由がある。それは、“異能”はあまりにも未知で、危険があり、そんな不安の中で入試を受けてほしくなかった為である!諸君!どうかこの不甲斐ない私を許してほしい!」
校長はほぼ直角の礼で謝罪する。
そんな光景を見てると逆に腹が立った。理由はわたしにもわからない。強いて言うなら、偽善ぶった態度だ。
「許してほい」…ふざけてるのか。そんなのでわたしの怒りは抑まらない。多分、わたしはこの高校生活を一生恨んだまま終えるだろう……わたしの心から、理想の高校生活の設計図にひびが入った音がした。
「でもなんか面白そうじゃね?」
「確かに。だって俺らもう入学しちゃったし」
「だな」
わたしと同じ気持ちだと思っていた者達が、次々と変わっていく。よくこんな状況をのみこめるものだ…わたしは小さなため息を吐く。
「あれ?校長泣いてね?」
何処からか聞こえた声。周りの生徒、主に一年生がその校長を見ようと、ステージの上に目を向ける。わたしも気になったので、目を凝らす。
校長は気をすると、ゆっくりと土下座のフォームに移行してた。
「本当に申し訳ない!!」
ピタッと額をステージの床に擦り付け、体育館中に響き渡る程の声で謝罪をする。
「こ、校長もういいですから!」
「校長の謝罪の気持ちはじゅ~~~ぶん伝わりましたから!」
体育館の端にいた教員達が、暴走する校長を止めに入る。しかし、校長も一人で必死に抵抗した。
「離せッ!君達!私に謝罪をさせてくれぇ!」
校長の暴走で体育館中がなんとも言えない雰囲気になる。
一年生には笑いを堪える者、先輩方にはまたか、と苦笑いをする者もいた。反応から察するに、校長の暴走は恒例行事のようなものらしい…
〈そ、それでは続いてーー〉
のっけから大波乱の入学式は淡々と進んだ。
その後のことは“特待生制度”の事が心残りで、よく覚えてない……
入学式が終わって、わたし達一年生は教室に戻ると、力動先生からプリントが渡された。プリントには今後の学校生活の校則、主に“異能”についての注意点が書かれていた。
主な注意点は次の三つだ。
一、学校以外の人目につく場所では、“異能”を使わない事。
二、“異能”を持たない生徒、教員とも分け隔て無く学校生活を送る事。
三、月に一回の研究として、“異能”に関するテストを受けてもらうという事。
ーーまぁ、わたしには関係ないけど。
教室に戸惑いと期待が溢れる。
冷静に考えてみれば、わたし達は今、「国家機密」も関わっていることになる。“異能”という、漫画みたいな特殊能力の事だ。
なんだか現実じゃないみたいだ……
そういえば、朝会った征上 歪も、“異能”を知ってたみたいだったし、ホームルームの時も、志等奴 里壊が、“異能”を持ってるような話をしていた……この二人も神さまが選んだ、生れながらのエリートなんだろうなぁ…わたしは自己嫌悪に陥りながら、それから目を背けようと、窓の外の澄み渡った、青い、青い空を見た。
この日は「入学式」、「ホームルーム」、「教科書類の名前記入」で終わったーー
ーーかに見えたーー
帰りのホームルームの後、下駄箱から自分の靴を取り出し玄関で靴を整え、家に帰る為、正門に向かった。
他の人生徒は、この現実離れした現状にはしゃいでいるのか、口々に話しながら帰っていく。正直、耳障り……
なんか、思ってたのと違ったな……
わたしは下を向きながら歩き出し、ため息を吐いた。
いつもそうだろ。わたし。いつも予想以上の期待で、それを上回らなくて、いつも肩透かし。つくづく「わたし」が嫌になる。もう、悟れよ「わたし」。理想はそこに無いって……
「おい、そこのメガネの一年。止まれや」
わたしは前を向く。目の前にはがたいのいい、八十年代のヤンキーのように改造した学ランを着て、八十年代のヤンキーの髪型をした、肌の黒いの三年の先輩が、二年のパーカーを学ランの下にきた、ガラの悪い手下二人と正門を塞いでいた。
「な、なんですか…?」
わたしは脚の震えをなんとか抑えてながら訊く。さっき下駄箱ではしゃいでいた生徒も足止めをくらっていた。
まっぷ たつや
「俺様の名は魔風 断谷!お前は“異能”持ちか?それとも、“無能”か?」
「む、“無能”…?」
わたしの問いに対し、断谷先輩はなんだ知らねーのかぁと呟くと、親指を得意げに自分に突き立てて、
「“無能”ってのは、俺様がつけた『“異能”を持たない奴』のことよぅ」
“無能”ーーわたしはその言葉の意味を訊いて、断谷先輩、いや、断谷に強い怒りが湧いた。“無能”なんて言葉は、わたしーーわたし達、「努力してきた者」を馬鹿にした軽蔑の言葉だ。
わたしは小さい頃から、どんなに悔しくても「しかたない」で乗り切ってきた。だって、そっちの方が一番、わたしが傷つかない……
でもーー
ここで喰い下ったら、「わたし自身を否定する」…!わたしが“無能”と言う言葉を飲み込んだことになる…!!
「は、はい…わたしは“『“異能”を持って無い』ですが何か?無いならそこ、ど、どいてください」
わたしは“無能”と言う言葉をあえて、『“異能”を持ってない』と言う言葉に置き換え、それを強調しながら、慣れない尖った言い方をした。
すると周りは二年だろうか…断谷の顔色をチラチラと見て青ざめている…「馬鹿よせ」と言わんばかりの顔だ……
わたしは地雷を気づいてて踏みに行った……自ら『不幸』に飛び込んでいくのはただの馬鹿なのだろうが、後悔はしていない。
膝が抑えきれないほど震え、体中から冷や汗が出る。わたしは間違いなく、「恐怖」を感じている。てか、怖いに決まってる…
もう、どうにでもなれ!そうわたしは心で叫ぶ。
「ほう…“無能”のくせに、俺様に歯向かってくるたぁ、いい度胸じゃねぇか!!!!」
断谷は口から大量の唾を飛ばしながら叫ぶ。かかりそうになったので、わたしは少し後ろに避けた。
逆鱗に触れただろう。来るなら、来い…!どうにでもなれ…!
「よ、要件があるなら、は、早く言ってください」
わたしが「恐怖」を押し殺すように、身構えて断谷に訊いた瞬間、断谷は不気味にニヤつく。
「おう、そうだったな……」
不気味な笑いの裏に、燃えるような怒りを感じる…目が笑って無い。嵐の前の静けさ、断谷の不気味な笑いで、辺りが一段と静まり返る。
「この学校はよう、お前達のような“無能”の出来損ないが居るとよう…俺様達エリートにとって、『目障り』でしかねーんだよ、だからよーー」
断谷が巨腕を振りかぶると、周りの生徒が音を殺して、わたしかは離れていく。間違いなく「嵐」が来る…わたしは更に身構える。
“異能”、か…生まれながらのエリートの断谷は、果たしてどんな優れた能力があるのか、はてさて、見ものなものだ、とわたしは心の中で皮肉をもらす。
「ちょ断谷さん、相手は女っすよ?」
「そーですよ!断谷さんの“異能”はヤベーんすから…」
振りかざす一歩手前で、手下二人が止めに入ると、断谷はピタッと巨腕を止めたままで、
「それもそうだな…お前、名前は?」
「…へ、平輪 亜依ですけど…」
唐突に名前を訊いてきたので、反応が遅れる。断谷の表情から、何か企んでるのがわかる。
周りはとばっちりを受けまいと、息を殺している。あの時、ホームルームで志等奴 里壊に雷が落ちそうになった時の、知らん顔のわたしみたいに……
「亜依か……よしお前、俺様の女になれ」
「へ?」
わたしは唖然とした。唐突すぎる。周りも目が点になっていた。間抜け面を数秒晒してしまったが、きっと、あの顔はわたしの顔の事なんて頭に入ってこないだろう。
さっきとは違う、変な沈黙、変な汗。
「な、何を言ってん、ですかっ!?」
呂律が回らなくなってきた。断谷はわたしの焦りようをみて、追い詰めるようにら
「“無能”は今すぐ半殺しにするんだが、お前のルックスも、その小せえ胸を除けば悪かねぇ!俺様もそろそろ彼女が欲しい、いい話だろ?」
「お!断谷さん彼女ゲット?」
「確かにかわいいっすもんね」
断谷は堂々と自分の願望を、わたしのコンプレックスを交えて、笑顔で言う。手下二人もそれを囃し立てる。
てか、「かわいい」ってから言われても、嬉しくない。挙げ句の果てに、わたしの悩みも言うなんて…デリカシーが全くない。悪い話でしかない。わたしも自分のこの学校に対する不満を交えて、
「あ、あなた達みたいに努力もしないで、エスカレーター方式にこの学校に上がってきて、自分の優遇された権力を振りかざして威張り散らしてる性格の悪い人なんかと、付き合うわけないじゃないですか!」
わたしは早口で不満をぶつけると、手下の一人が断谷を茶化すように、もう一人がわたしに警告するように、
「断谷さんwまさか早くも失恋ですかw」
「馬鹿!おい、メガネ!今すぐ考え直せ!死ぬぞ!?」
断谷の巨腕がピクッと動き、断谷は無理に笑顔をキープしようとする。
「じゃあ…なんでお前ごときが、此処に来たんだよ?」
わたしは意を決して、わたしの理想を叫んだ。
「わ、わたしは!誰もが…いえ、わたし自身が理想とする学校生活を送るために来ました!」
「ほう…」
断谷の笑顔が引きつっているが、わたしはなおも、理想を謳う。
「誰もが考えるーーいや、わたし自身が理想とする学校生活は、世間一般的に自殺防止で封鎖された屋上で、お弁当食べたり、遊んだり、夢を…語ったり、放課後は漫画みたいな部活を作って、友達とはしゃいで青春を謳歌して…謳歌してーー」
「もういい」
喋ってるうちに、わたしは気づくと下を向いていて、断谷の殺意に満ちた声で、前を向いた。
断谷の顔の眉間に、これでもかと言わんばかりにシワがよる…もう、笑っていない…
「そんな薄っぺらい理想なら…死ね」
「た、断谷さん…」
「やっべ…」
「ふんッ!!!」
断谷の巨腕がわたしに向かって、振り下ろされたが、わたしはつい、後ずさりをしてしまいつまずくいて、尻餅を着いてしまった。が、運良く攻撃を避けることができた。
そして、わたしに当たるはずだった巨腕は、大理石で作られた、白亜の道に巨腕かま振り下ろされる。
断谷の手が大理石に触れた瞬間、その地点から、わたしの方向へ、ビキビキと大きな音を立て、亀裂が入いり、真っ二つに割れる。
割れたヒビの先が、ちょうどわたしの足元まで来て止まると、そこには深さが計り知れないほどの溝ができていた。
断谷はぐちゃぐちゃにヒビが入った、スタート地点に腕を突っ込んでいた。
「え」
「は」
「嘘」
口を噤んでいた周りも、この状況に口が嫌でも開いてしまう。無論、わたしもだ。口をあんぐり開けて、どうにか口を閉じようとするが真の恐怖を目の当たりにしてしまい、塞がらない。
正門中が恐怖で、深い沈黙に陥る……体が…動かない…どうやらわたしはとんでもないものを、怒らせてしまったようだ……
逃げたい…逃げたい…逃げたい…
怖い…怖い…怖い…
わたしは真の恐怖に負け、現実から切り離すように、目を強く閉じた。
「歪め」
聞き覚えのある男子生徒の声に、思わずわたしは目を開ける。
「え?」
わたしは目を疑った。
ぐちゃぐちゃにヒビの入った、大理石の道が、あたかも「壊れる前に戻った」みたいに綺麗に直されている。
「なんだこれ!?抜けねぇ!?」
そして何より、断谷の巨腕がすっぽりと、大理石の道に埋まっていたのだ。
さらにはこの光景、よくよく見れば、わたしが朝見た時と「同じ正門前の光景」なのだ。
そう…ある一人の特徴的な寝癖を付けた妙に印象に残る、男子生徒と会った時と同じ光景…
「先輩!学校の一部をぶっ壊わして。誇り高い異能高校生として恥ずかしくないんですかぁ!?」
にわかに信じがたい状況に混乱するわたし前に、微塵もそんなことを思って無いよう口ぶりで、見覚えも、聞き覚えもある、張り付いた笑みの男子生徒が現れた。
「てめぇ誰だ!?」
「断谷さんに何をした!?」
張り付いた笑みをした男子生徒ーー征上 歪は演技がかった礼をして、満面の、気持ち悪いほどの歪んだ笑みを浮かべ、
「すいませんエリートの先輩。僕、エリート供の足を引っ張るのが大好きでつい…僕の“異能”『歪む現実』[ディスリアル]で歪ませてもらいましたぁ!」
征上 歪はそう言うと、奇怪なポーズをとった。
Distortionな歪くん2 「歪む現実」 完
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キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
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