レイヴン・ヴィランは陰で生きたい~低レアキャラ達を仲間にしたはずなのに、絶望を回避してたらいつのまにか最強に育ってた、目立つな~

嵐山紙切

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第38話 ダンジョン【月と太陽の塔】

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「これはこれは【聖女】様。よくぞいらっしゃいました。ダンジョン調査の件は伺っております。【月と太陽の塔】ですね」


 そう言って迎え入れたのはギルドマスターの男で、なかなかいい体をしていたので、聖騎士との妄想に使ってやろうとフルールは思った。ちゃんと仕事をしろ。


 とは言え彼女も十二歳。詳しい話はわからないだろうと言う配慮もあって、主に聖騎士たちがギルドマスターと話をしていた。言い合う姿が痴話喧嘩みたいに見えてフルールは歓喜に震えた。ちゃんと仕事をしろ。


 そうとは知らない聖騎士の一人が言った。


「やはり一度入ってみないことには解りません」

「いや、危険ですよ。我々もギルド総出で調査を行おうとしていたところですから。そちらに参加されてはいかがです?」

「ふふふ、僕たちをなんだと思っているのです? 聖騎士ですよ。それも【聖女】をお守りする聖騎士です。冒険者で言えばAランク、いや、Sランクと言っても過言ではないでしょう」


 イケメン聖騎士たちは全員腕を組んで自慢げだったが、一方でギルドマスターは曖昧な表情を浮かべていた。そういう無駄に尊大な冒険者を何人も見てきた彼は、その言葉が実力に見合っていないことを重々承知していた。


 ただし相手は聖騎士だ。教会の人間だ。わざわざ大教会からやってきた彼らを無下に追い返すこともできず、かといって危険な場所に無垢な【聖女】(無垢ではない)を連れていかせる訳にもいかず、頭を掻いて唸った。


 それが気に入らなかったのか、聖騎士の中でも喧嘩っぱやそうな短髪黒髪の男が不機嫌そうにして、


「俺たちの実力が信じられねえってんだな」

「いえ、そういうわけでは……」

「まあまあ、突然やってきた僕たちが信じられないのも仕方ありません。ギルドマスターという立場上、冒険者たちの命を危険から守るという職務があるのも理解していますよ」


 聖騎士の中心になって話していたブロンドの男がにこやかに言う。彼は四人の中ではとっつきやすそうではあるけれど、戦闘になると真っ先に飛び出すことをフルールは知っていた。英雄になりたいらしい。とは言え、いまはその特性を潜めて冷静に話を進めている。


「ただ少しは僕たちのことも信じてほしい。ご心配には及びませんよ。危険と解ればすぐに戻ってきます。【聖女】もいることですし」


 ギルドマスターは少し考えこんでから、ブロンドがいれば他の聖騎士が暴走しても抑制されるだろうと考えて頷いた。一番暴走するのがブロンドだということも知らずに。


「わかりました。今わかっている情報を渡しましょう。ただし、危険と解ればすぐに戻ってきてくださいね。失敗や敗走などと思わないことです。我々ギルドも調査することをお忘れなく」

「肝に銘じておきますよ」


 ブロンドはにっこりと笑って言い、ギルドマスターからダンジョンのマップと現在の状況を記した紙をうけとった。


 一部始終を見ていたフルールはもしかしたらヤバいかもなと言う気はしていたけれど、十二歳で実戦などまだまだの彼女である。聖騎士の実力がどれほどのものかなど、見ただけでは解らない。


 実際ダンジョンに入ってから、聖騎士の活躍はめざましいものがあった。塔という都合上、第一階層から、上に登っていくのだが、一人がフルールを背負ったままでも、残りの聖騎士が次々にモンスターを駆逐していく。声が大きいだけではない。実力が伴っている、とフルールは安心した。


 第十階層に来るまでは。


 くりぬかれた壁から見える景色はすでに雲と同じ高さで遙か下に街や森が見えている。下を見るとぞっとしてフルールは身を縮めていた。さすがにもう聖騎士たちが恋人同士などと言う妄想に耽っている段階ではない。聖騎士たちの疲労もかなり溜まっているようで、フルールは歩いて彼らの後をついていった。


「そろそろいいのではないですか? 危険は無さそうですよ?」

「まだ解りませんよ、【聖女】様。それにあのギルドマスターに失敗だと思われたくありませんから」


 どうもこのブロンドは否が応でも冒険者たちの上に立ちたいらしい。ギルドマスターが「次があるから大丈夫」という意味で言った言葉も、「お前らの尻拭いをしてやる」という意味にとらえているようで、意地になってこのダンジョンを登っているようだった。


 螺旋階段を上って、十階層にたどりつく。


 ブロンドが大きな扉を開いて中に入ると……


「あれー? もう来ちゃったのー? もう少し遊べると思ったのになー」


 そう言ってにっこりと笑う少女の姿があった。


 焦点が合っているのか解らない薄暗い瞳、幼く無邪気なように見えてどこか仄暗さのある表情、ニッと笑うときに見える不健康な歯茎。


『零落』イズメイ・スピナーがそこにいた。
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