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第37話 フルール・ダストフィンガー

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 フルール・ダストフィンガーがその任務に就いたのは全くの偶然だった。【聖女】として登録され、教会の仕事に就くと決めた彼女はその能力から上位の聖職者として仕事を始めていた。


 ゲームとは違って。


 ゲームでは下級も下級、教会のシスターとかお手伝いさんくらいの職でしかなかった低レアキャラの彼女ではあるけれど、レイが爆発から救ってしまったので、身体に怪我などしていない。


 大教会勤務となった彼女は聖騎士の訓練場に赴いては、祈りを捧げるフリをして男たちの肢体をなめ回すように鑑賞し、組んずほぐれつする姿に鼻血を出している。


 帰れ。


 レイが爆発から救わなければ、フルールは両目を失っていたはずで、このような趣味を持たなかっただろうことを思うと、この行動はレイのせいとも言えてしまうのかもしれないが、とは言え、煩悩は煩悩であり、ゲーム時点でも色々とやらかしていた彼女だった。


 手に負えない。


 そんな彼女に任務が言い渡されたのはレイが仮面の英雄として活動し始めた一週間後のことだった。司祭に呼び出されたフルールはなんだろなと思いながら部屋にやってきて、扉の前に立つ二人のイケメン聖騎士をみて頭をお花畑(薔薇)にしてから部屋に入り、司祭の前で背筋を伸ばした。


 背筋だけ。


 頭の中は未だ妄想の世界である。


「フルール・ダストフィンガー。着任早々申し訳ないが仕事だ」

「なんでしょう?」

「スプリング・ブルームに行きなさい。【漆黒の霧】近くにある街だ」

「ええと、そこで何か問題でも?」

「あそこには有名なダンジョンがある。【月と太陽の塔】だ。そこのモンスターたちがこぞって形態変化をして、難易度が一気に上がったという報告が上がっている……魔族の仕業かもしれない」


 魔族ねえ、とフルールは思った。百年以上姿を見せていないのに何を言っているんだこのじいさんは、アタシは聖騎士を見るので忙しいんだ、とすら思った。


【聖女】なんかやめちまえ。


 とは言え、表には出さない。ここの生活は気に入ってるので職を失う訳にはいかない。ちょっとくらい仕事をしてやるかくらいの考えで、司祭に合わせて会話を続ける。


「それは……調査が必要ですね」

「そのとおり。そこで君に向かってもらいたい。初任務だな。ただこれは危険な任務だ。ダンジョンの調査だからな。もちろん一人で向かわせるつもりはない。護衛に聖騎士をつけよう」

「是非是非」


 ウハウハしながらフルールは司祭の部屋を後にした。司祭はそんなフルールの姿をみて「意気揚々と危険な任務に向かうとは聖人としての自覚がはっきりしているな」と思っていたがフルールの頭の中は汚れている。


 数日後。


 ついてきたのはこれまたイケメン聖騎士四人で、どうしてこの大教会にはイケメンばかりなんだろう、きっと顔で選んでるんだと思いながら、それもいいよねと思いながらフルールは馬車に乗り込んだ。それが本当だとしたら一大事だぞ、実力が伴っていない。


 ネフィラたちと違って本当にただの十二歳――つまり子供であるフルールにはまだその判断ができていなかったけれど。


 スプリング・ブルームは辺境も辺境で向かうには馬車で一週間近くかかったが、フルールは全く退屈しなかった。きっとこの聖騎士四人は誰かと誰かが恋人同士なのだというあらぬ妄想をしながら、道中のモンスター相手に戦う姿に妄想を重ねながら、フルールはスプリング・ブルームまでやってきた。

 レイたちのいる街にして、すでにモンスターに異変が起きている場所に。
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