37 / 41
第35話 レイヴン様、どうしてお見舞いに来なかったんです?
しおりを挟む
完全回復したネフィラは収集がつかなくなっていた。
いや、もちろんほぼほぼ放置していたレイにもその責任の一端はあるのだが、それは安静にして一刻も早く身体を治してほしかったからだった。つまり、レイは悪くない。いつだってこの件に関して悪いのはネフィラである。
この件というのは要するに、
「レイヴン様、どうしてお見舞いに来なかったんです? レイヴン様が虐めてくれないので自分で傷つけて余計治りが遅くなってしまったじゃないですか、どうしてくれるんです?」
「それ僕のせいなの!?」
「まあ、いいです。いまから虐めてください。さあお部屋に行きましょう。準備はしてあります」
ネフィラはレイの耳元でこそこそと話をしていて、隣にいるノヴァは全くそれが聞こえていない様子。朝食を口に運びながら怪訝な顔をして、
「ねえ、あなたたちなんの話してるの?」
「いや、なんでもない。気にしないで」
「お子様には刺激の強い話です」
(なんでそういう余計な事を言うかな!)
レイがぎょっとしていると、ノヴァは顔を少し赤らめた。歯を食いしばってネフィラを睨んでいる。
「お子様じゃないわよ! あたしだって立派な大人だわ。レイヴンと一緒に冒険者をやってるんだもの。お金だって稼いでるのよ!」
「時間がないので行きましょう、レイヴン様。今日の冒険者稼業はお休みです、ノヴァ。わたしが一日中レイヴン様と遊ぶので」
「な! ずるい! あたしを放置するつもり!? あたしも遊ぶわ!」
「……やめといた方がいいよ」
レイはかなりの親切心でそういった。すでにノヴァがネフィラの代わりに虐められたいんだという勘違いはなくなっていて(それに気づいたときは殴らなくて良かったとひやひやした)、ノヴァが一緒にいるのは魔界でおきたキャット家の演技の賠償を迫るためだと思っているレイである。虐めるなんてとんでもない。
とは言え、ノヴァはその「遊び」の詳細を知らない。仲間はずれにされた――と言うより、直前に言われたお子様という言葉から子供扱いされてるのだと思って憤慨した。
「レイヴンまであたしを子供扱いするのね!」
「いやそういうわけじゃなくて……」
むっとして頬を膨らませるノヴァだったが、ネフィラは冷静だった――見かけだけは。頭の中はきっと早く虐められたいという気持ちでいっぱいだっただろうけれど。
「ノヴァ。いままでレイヴン様と二人きりだったでしょう? だから今日はわたしの日です。譲りなさい」
「…………わかったわよ」
ノヴァは顔をますます赤くして口を噤んだ。もしこれ以上踏み込めば、レイを独り占めしてずっと一緒にいたいと宣言してしまうようなものだったから。レイのことが大好きと言ってしまうようなものだったから。
そんな気持ちなど全く知らないレイは、ノヴァが怒らなくて良かったなあとか単純な思考で安堵していた。相変わらずのバカ野郎である。
「と言うことで行きましょう、レイヴン様」
「え、まだ食べてる途中……」
「行きましょう」
ぐいぐいと強制的に連れてこられたのは魔界の時と寸分変わらない拷問部屋だった。またもやいつの間にか屋敷の一室が改造されている。
部屋に入った瞬間、ネフィラは鍵をかけて、防音の魔道具を発動させると、レイにナイフを握らせて、手を取ってベッドへと誘った。
「レイヴン様。わたし、お願いがあるんですけど聞いてくれます? 聞いてくれますよね? キャット家の一件で頑張ったわたしはまだご褒美もらってませんし、それに、お見舞いにも来ず、永遠とも言える時間を放置されましたし」
「…………はい、すみません。お願いって何ですか?」
「えっと……」
ネフィラは相変わらずの無表情ではあったけれど、ほんの少しだけ顔を赤らめていた。
(前にもこんなことあったな。そのときは殴ってくれって言われたんだよな。今度はどんなヤバいことを要求してくるのかな!?)
レイが身構えているのも知らず、ネフィラは言った。
「だ……だ、だ……」
「だ?」
ますますネフィラは顔を赤くして言った。
「抱きしめて頭撫でながら虐めてください」
なんだ、そんなことか、とレイは思った。もっとヤバいことを要求されると思ったので即答した。
「いいよ、はい」
ネフィラを抱きしめる。元『一縷』として隠密を専門にしてきたからだろうか、匂いはあまりしない。けれど柔らかくて温かくて、女の子だなと思った。頭を撫でるとネフィラはレイの首元に顔を埋めて服を噛みしめる。
「は、はやく……もう我慢できません。はやく――ひぃ!」
ネフィラの腹にナイフを突き立てた。
当然刺さりはしないけれど。
ネフィラは掻き抱くようにレイの身体にしがみつき、頭を撫でられて脳がとろけそうになりながら声を我慢している。レイはナイフを突き立てたままぐりぐりと回転させて、そのたびにネフィラは身体を跳ねさせる。涙を浮かべて恍惚とした顔でネフィラは久しぶりの快楽に身をよじっている。
二人は知らなかった。
このとき防音の魔道具が壊れてしまったことを。
部屋の外でノヴァが聞き耳を立てていることを。
いや、もちろんほぼほぼ放置していたレイにもその責任の一端はあるのだが、それは安静にして一刻も早く身体を治してほしかったからだった。つまり、レイは悪くない。いつだってこの件に関して悪いのはネフィラである。
この件というのは要するに、
「レイヴン様、どうしてお見舞いに来なかったんです? レイヴン様が虐めてくれないので自分で傷つけて余計治りが遅くなってしまったじゃないですか、どうしてくれるんです?」
「それ僕のせいなの!?」
「まあ、いいです。いまから虐めてください。さあお部屋に行きましょう。準備はしてあります」
ネフィラはレイの耳元でこそこそと話をしていて、隣にいるノヴァは全くそれが聞こえていない様子。朝食を口に運びながら怪訝な顔をして、
「ねえ、あなたたちなんの話してるの?」
「いや、なんでもない。気にしないで」
「お子様には刺激の強い話です」
(なんでそういう余計な事を言うかな!)
レイがぎょっとしていると、ノヴァは顔を少し赤らめた。歯を食いしばってネフィラを睨んでいる。
「お子様じゃないわよ! あたしだって立派な大人だわ。レイヴンと一緒に冒険者をやってるんだもの。お金だって稼いでるのよ!」
「時間がないので行きましょう、レイヴン様。今日の冒険者稼業はお休みです、ノヴァ。わたしが一日中レイヴン様と遊ぶので」
「な! ずるい! あたしを放置するつもり!? あたしも遊ぶわ!」
「……やめといた方がいいよ」
レイはかなりの親切心でそういった。すでにノヴァがネフィラの代わりに虐められたいんだという勘違いはなくなっていて(それに気づいたときは殴らなくて良かったとひやひやした)、ノヴァが一緒にいるのは魔界でおきたキャット家の演技の賠償を迫るためだと思っているレイである。虐めるなんてとんでもない。
とは言え、ノヴァはその「遊び」の詳細を知らない。仲間はずれにされた――と言うより、直前に言われたお子様という言葉から子供扱いされてるのだと思って憤慨した。
「レイヴンまであたしを子供扱いするのね!」
「いやそういうわけじゃなくて……」
むっとして頬を膨らませるノヴァだったが、ネフィラは冷静だった――見かけだけは。頭の中はきっと早く虐められたいという気持ちでいっぱいだっただろうけれど。
「ノヴァ。いままでレイヴン様と二人きりだったでしょう? だから今日はわたしの日です。譲りなさい」
「…………わかったわよ」
ノヴァは顔をますます赤くして口を噤んだ。もしこれ以上踏み込めば、レイを独り占めしてずっと一緒にいたいと宣言してしまうようなものだったから。レイのことが大好きと言ってしまうようなものだったから。
そんな気持ちなど全く知らないレイは、ノヴァが怒らなくて良かったなあとか単純な思考で安堵していた。相変わらずのバカ野郎である。
「と言うことで行きましょう、レイヴン様」
「え、まだ食べてる途中……」
「行きましょう」
ぐいぐいと強制的に連れてこられたのは魔界の時と寸分変わらない拷問部屋だった。またもやいつの間にか屋敷の一室が改造されている。
部屋に入った瞬間、ネフィラは鍵をかけて、防音の魔道具を発動させると、レイにナイフを握らせて、手を取ってベッドへと誘った。
「レイヴン様。わたし、お願いがあるんですけど聞いてくれます? 聞いてくれますよね? キャット家の一件で頑張ったわたしはまだご褒美もらってませんし、それに、お見舞いにも来ず、永遠とも言える時間を放置されましたし」
「…………はい、すみません。お願いって何ですか?」
「えっと……」
ネフィラは相変わらずの無表情ではあったけれど、ほんの少しだけ顔を赤らめていた。
(前にもこんなことあったな。そのときは殴ってくれって言われたんだよな。今度はどんなヤバいことを要求してくるのかな!?)
レイが身構えているのも知らず、ネフィラは言った。
「だ……だ、だ……」
「だ?」
ますますネフィラは顔を赤くして言った。
「抱きしめて頭撫でながら虐めてください」
なんだ、そんなことか、とレイは思った。もっとヤバいことを要求されると思ったので即答した。
「いいよ、はい」
ネフィラを抱きしめる。元『一縷』として隠密を専門にしてきたからだろうか、匂いはあまりしない。けれど柔らかくて温かくて、女の子だなと思った。頭を撫でるとネフィラはレイの首元に顔を埋めて服を噛みしめる。
「は、はやく……もう我慢できません。はやく――ひぃ!」
ネフィラの腹にナイフを突き立てた。
当然刺さりはしないけれど。
ネフィラは掻き抱くようにレイの身体にしがみつき、頭を撫でられて脳がとろけそうになりながら声を我慢している。レイはナイフを突き立てたままぐりぐりと回転させて、そのたびにネフィラは身体を跳ねさせる。涙を浮かべて恍惚とした顔でネフィラは久しぶりの快楽に身をよじっている。
二人は知らなかった。
このとき防音の魔道具が壊れてしまったことを。
部屋の外でノヴァが聞き耳を立てていることを。
53
お気に入りに追加
416
あなたにおすすめの小説

ズボラな私の異世界譚〜あれ?何も始まらない?〜
野鳥
ファンタジー
小町瀬良、享年35歳の枯れ女。日々の生活は会社と自宅の往復で、帰宅途中の不運な事故で死んでしまった。
気が付くと目の前には女神様がいて、私に世界を救えだなんて言い出した。
自慢じゃないけど、私、めちゃくちゃズボラなんで無理です。
そんな主人公が異世界に転生させられ、自由奔放に生きていくお話です。
※話のストックもない気ままに投稿していきますのでご了承ください。見切り発車もいいとこなので設定は穴だらけです。ご了承ください。
※シスコンとブラコンタグ増やしました。
短編は何処までが短編か分からないので、長くなりそうなら長編に変更いたします。
※シスコンタグ変更しました(笑)

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・
転生リンゴは破滅のフラグを退ける
古森真朝
ファンタジー
ある日突然事故死してしまった高校生・千夏。しかし、たまたまその場面を見ていた超お人好しの女神・イズーナに『命の林檎』をもらい、半精霊ティナとして異世界で人生を再スタートさせることになった。
今度こそは平和に長生きして、自分の好きなこといっぱいするんだ! ――と、心に誓ってスローライフを満喫していたのだが。ツノの生えたウサギを見つけたのを皮切りに、それを追ってきたエルフ族、そのエルフと張り合うレンジャー、さらに北の王国で囁かれる妙なウワサと、身の回りではトラブルがひっきりなし。
何とか事態を軟着陸させ、平穏な暮らしを取り戻すべく――ティナの『フラグ粉砕作戦』がスタートする!
※ちょっとだけタイトルを変更しました(元:転生リンゴは破滅フラグを遠ざける)
※更新頑張り中ですが展開はゆっくり目です。のんびり見守っていただければ幸いです^^
※ただいまファンタジー小説大賞エントリー中&だいたい毎日更新中です。ぜひとも応援してやってくださいませ!!

1人生活なので自由な生き方を謳歌する
さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。
出来損ないと家族から追い出された。
唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。
これからはひとりで生きていかなくては。
そんな少女も実は、、、
1人の方が気楽に出来るしラッキー
これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

こちらに、サインをお願いします。(笑)
どくどく
ファンタジー
普通の一般家庭に生まれた悠は、とあるきっかけでいじめの犠牲者になってしまった。
家族も友達との関係も段々と壊れて行く。そんな中で、もがいていく悠もまた壊れていった。
永遠のように長いと感じる毎日。だがその毎日もまた壊れてしまう、異世界への召喚によって。
異世界で自分の幸せを壊すきっかけになった力に憧れて悠は自由を手に生きて行く
契約無双のお話です。
いろいろ初めてなのでお手柔らかに

前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。
棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。
これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。
それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる