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第33話 変装用チョーカー

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「まずいことになったね」

「まずいことになったわ」


 レイとノヴァは屋敷に戻ると夕食を口に運びながらそう呟いた。

 
 今日オーガをぶっ飛ばしたことも確かに問題だったけれどそれより大きな問題が浮上している。


 と言うのも、二人はギルドから出る直前、掲示板に貼られていた新しい依頼を確認していたのだけれど、その中に、


『調査依頼:森の中で少年少女を担いで走る巨大な女出現』


 と言うのがあってレイは悲鳴を上げそうになった。


(僕たちのことじゃん! 見られてたの!?)


 ヨルは完全に山賊担ぎで運んでいたので誘拐だと思われたのだろう。彼女が巨大な女だったのも相まって、もはやモンスターというか怪異怪談の類いとしての調査依頼になっていた。


 不必要に目立っている。


「それに今日のことだってさ、ノヴァ、目立ちすぎだよ」

「でも助けなかったら大変なことになってたわ! 見捨てろって言うの?」

「そうじゃないけど、もっとこう、陰ながら助けるとかさ」

「無理よ」

「防御力バカだもんね」

「バカって言ったな!」


 ノヴァは歯をむき出して憤慨した。けれどやっていることは脳筋で考えなしだったので、レイが言っていることは珍しく正しい。頭がいい奴はオーガに無視されただけで尻を蹴り上げたりしない。


(はあ。こういうときネフィラなら陰ながら攻撃したり助けてくれたりするんだけどな。さすが元『一縷』だよな。絶大な信頼)


 他の女と比較するレイである。
 失礼な奴だった。
 そうとは知らずノヴァは腕を組んで、


「でも、冒険者してたら絶対誰かを助けなきゃいけない場面って出てくるでしょ!?」

「まあそうだけど……」

「話は聞いたぜ!」


 と、デザートを運びながらヨルは言った。


「さすがレイヴン様とノヴァリエ様だぜ。冒険者一日目でがっつり活躍しちまうなんてな。ただまあ、あんまり目立ちすぎるのはよくねえよな。魔族だってバレたらかなわんし」

「それも……そうよね」


 ノヴァが「むーん」と考え込む隣でレイは、


(僕なにもしてないんだけどね。ヨルが助けてくれたのに活躍とか言ってるんだ。またしても不甲斐なさが証明されてしまっている!)


 そう考えて絶望していた。


 何も知らないヨルはデザートをテーブルに載せると、


「そこで、ちょっと考えがあるから、夕食後についてきてほしいぜ」

「何考えって?」

「いいからいいから」


 夕食を摂り終えた二人はヨルに続いて屋敷の中を進み、倉庫のような場所へとやってくる。そこは武器庫と言うより魔道具部屋という感じで、使い方も不明なモノがずらりと並んでいる。


「ええと、あったあった」


 ヨルが言って取り出したのはチョーカーだったけれど、レイは、チョーカーと言うよりデスゲームの首輪みたいな感じだなと思った。何か失敗したら爆発しそうだ。


「何これ?」

「我が君がいつも使ってた変装用の魔道具」

「父上が、変装?」

「若い頃は時々気晴らしに冒険者として活動してたらしいぜ。あくまでお忍びだけどな。ま、我が君はその頃から貴族としてもめきめき頭角を現していたらしいから、変装は仕方なかったんだぜ」


(それは出来損ないの僕への当てつけか!!)


 レイは悲しくなったがヨルは続けて、


「最強の我が君が市井に降りればそばを歩くだけで人を殺しかねないからな。お忍び用の変装をいつもしてたのさ」


 言ってチョーカーをノヴァに手渡した。ノヴァがつけると一瞬にしてその体がおっさんに変わる。無精ひげが生えていて、不健康で、歯が数本抜けている。


「ちょっといやよこれ!」

「すご! 声までおっさんだ!」

「いや!」


 ノヴァはすぐに外してしまったが、別のチョーカーもあるようで、ヨルから受け取るとつけてみる。ヨルと同じくらいグラマラスな女性に変身した。


「これもいや!」


 と言うのでいくつか試して結局、十七歳くらいに見える赤髪の女性姿に落ち着いた。


「まあこれで我慢するわ」


 微妙に不満そうにノヴァが言うのを見ながらレイもチョーカーを選ぶ、同じく十七歳くらいの黒髪の男の子に変装した。


 が、ノヴァがぎょっとして、


「え、何そのイケメン! 胸焼けしてくるから隣に立ってほしくないわ!」

「ええ? そう言われても……」

「それは我が君が愛用されていたチョーカーだぜ。かっくいい!」

「何やってんだ父上……。ええ……でも他に十七歳くらいの変装チョーカーないんだけど……。仕方ないから仮面かぶるよ」

「え、ずるい! あたしも仮面被るわ! その方が陰から助ける正義の味方っぽいじゃないの!」


 ノヴァは中二病を発症しかけていた。


(まあ、ノヴァの姿で変に目立たれるよりもずっといいよね。僕も失態とか不様な姿をこのイケメンに押しつけられるし。ノヴァとかヨルに愛想をつかれるまでは冒険者やってる間この姿でいよう)


 レイは後ろ向きながらそう思ったが、ヨルの話をちゃんと聞いてその意味を理解していれば、彼はこのチョーカーを使おうなどと思わなかっただろう。


 そのチョーカーは父が使っていた――最強と呼ばれ人間界で暗躍していた父が。


 知る人には忍ぶ英雄と呼ばれ、尊敬と恨みを買っていた存在。


 そうとは知らずレイは翌日からチョーカーをつけるようになった。
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