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第31話 オーガ:五体、ゴブリン:集団、魔族:二人
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なんかおかしいとレイは思った。
ゲームでもオーガは出てきたけれど、序盤では倒すのに苦労する、初期ダンジョンのボスくらいの強さはあったはずだった。つまり、ノヴァのような低レア、かつ、この時点でレベル上げなど全くしていないキャラが太刀打ちできるはずもなく、パーティを組んでようやく一体倒せるかどうかと言うモンスター。
そのはずだった。
(何で攻撃全く効いてないの?)
それはレイが救ったからであるが彼はもちろんそんなことなど知らない。ステータスを下げる薬を一度しか使われていないノヴァの防御力は、異常値を保ち続けている。
ゲームで言うなら、高レアキャラが防具を装備した場合の防御力に匹敵する。こんな奴が初期にいたら、ゲームバランスを破滅させてしまう。
と言うか実際にいま、目の前で崩壊している。
オーガは短くなった棍棒でなおもノヴァを叩く。けれど、殴るたびに棍棒が短くなるだけで、ノヴァには全くダメージが入っていない。
「あーっはっは! 全然痛くないわ! なによ、もっとちゃんと殴りなさいよ! ほらほら!」
ノヴァは得意げに言う。
それを見たレイは、
(ああ、やっぱりネフィラの代わりに殴られたかったんだろうな。でも僕が殴ったら僕の腕ポッキンしちゃうだろうなあれ)
そんな勘違いをしていた。
そうこうしているうちに、オーガは棍棒ではダメだと気づいたのだろう。投げ捨てて、今度は思い切り蹴り飛ばそうと足を構える。
そのまま横薙ぎにするようにノヴァを蹴飛ばす。蹴られた衝撃で、ぐんっとノヴァの身体は少し飛ばされていたが傷一つ負っていない。
対してオーガは、
ボキン!
蹴った瞬間、足の骨が折れ、悲鳴とともにその場に倒れこんでいた。
「次はどいつ!? ほらかかってきなさいよ!」
ノヴァは冒険に心を躍らせて顔をキラキラさせている。オーガにとってはたまったもんじゃない。
それはレイにとっても。
(何でゲームと違うんだろ。ノヴァってこんなに強くないじゃん。困るんだけど! このままだと目立っちゃう!! ほら! いまだって冒険者たちがびっくりしちゃってるじゃん!)
十二歳の女の子がオーガに殴られてびくともしていないんだからそれは当然である。はっきり言って異常だし、人間を止めてる。
人間じゃないんだけど。
(魔族だってバレたらどうすんの!!)
レイはそう心配していたけれど杞憂である――冒険者たちは魔族が人間界にいるなんて毛ほども信じていない。大人がサンタクロースを信じないのと同じくらい信じていない。
とは言え、目の前の事実も同じくらい信じられないだろうけれど。
「なんなんだあの子……」
「魔法? でも魔力の流れ感じないわ……」
「まじかよ。魔法じゃないなら……そういう技術ってことか!?」
冒険者たちは助かったという安堵以前に目の前のことを理解しようと頭を働かせていたけれど、脳筋を前にして思考は無意味。
ノヴァは次々にオーガに立ち向かい、殴られ蹴られ、そのたびにオーガの骨を折る。レイはそれを見ながら、
(今度からノヴァを盾にしよう。そうしよう)
と、ひでえことを考えながらその様子を見守っていた。
だから罰が当たる。
オーガが次々やられていくのをみてゴブリンたちは一目散に逃げ出した――レイの方へと。
(ぎゃあああああああ!)
レイは声にならない悲鳴を上げて駆け出したが、そこは敏捷1、ゴブリンとのかけっこに負けて普通に追いつかれる。目の前に緑色の肌のひっどい匂いをしたモンスターが迫り、その口から牙とだらだらこぼれる涎が見えて、レイは身をすくませた。
(僕ゴブリンにやられて死ぬんだ!)
瞬間、ぐんっとゴブリンたちは跳ね返されて、後続にごつんと頭をぶつける。ゴブリンたちは頭を抱えて「ぎゃあぎゃあ」と痛がり、レイを睨み、第二撃を喰らわそうと持っていた木の棒を振ったが、それも跳ね返されて別のゴブリンの頭を打つ。
(何やってんのこいつら)
そうしているうちにゴブリンたちは殴り殴られ互いにケンカを始めて、レイのことなど忘れて大乱闘に発展した。
レイはしばらくキョトンと目の前の様子を眺めていたが、不意に気づいて、
(あ! わかった! ヨルだ! ついてこなくていいって言ったのにヨルがついてきて助けてくれたんだ! きっと幻惑か何かの魔法を使ってゴブリンを仲違いさせたんだ! ありがとうヨル! こなくていいなんて言ってごめん! 僕はクソザコでした!)
どこにいるとも知らないヨルに向かってレイは感謝した。
ヨルはついてきてない。
ついてきてない奴に感謝している姿がまるで祈りを捧げているみたいに見えて、冒険者たちはまた勘違いしている。
「幻惑魔法!? 相当な上級魔法よ、あれ!」
「祈りを捧げているところを見ると、教会関係者か?」
「男の子だよな? この二人なんなんだ?」
ゴブリンたちはバタバタと仲間割れで倒れ、そうしているうちにノヴァも最後のオーガをぶっ倒した――オーガの自滅で。
結局、この場にいた全てのモンスターが自滅したわけである。
ノヴァはパタパタと服を払って、
「あーあ、終わったわ。レイヴンの方も終わったのね。まあ、ゴブリンの集団なんて楽勝よね」
「楽勝じゃないよ。(ヨルの)幻惑魔法がなかったらどうなってたか」
「へえ(あなた)そんな魔法も使えるのね。さすがね」
「さすがでしょ(ヨルが)。まあ時々ちょっと暴れるのが玉に瑕だけどね」
「(幻惑魔法って)扱いが難しいのね」
「ケーキあげれば大体落ち着くけどね」
「幻惑魔法に?」
「え?」
「は?」
ズレまくって何が何だか解らなくなっている二人だが、もっと危機感を持った方がいい。
明らかにこの二人は目立っていた――レイは無自覚だけれど。
冒険者たちはレイたちをみて、実はただの子供じゃないんだと確信していた。
ゲームでもオーガは出てきたけれど、序盤では倒すのに苦労する、初期ダンジョンのボスくらいの強さはあったはずだった。つまり、ノヴァのような低レア、かつ、この時点でレベル上げなど全くしていないキャラが太刀打ちできるはずもなく、パーティを組んでようやく一体倒せるかどうかと言うモンスター。
そのはずだった。
(何で攻撃全く効いてないの?)
それはレイが救ったからであるが彼はもちろんそんなことなど知らない。ステータスを下げる薬を一度しか使われていないノヴァの防御力は、異常値を保ち続けている。
ゲームで言うなら、高レアキャラが防具を装備した場合の防御力に匹敵する。こんな奴が初期にいたら、ゲームバランスを破滅させてしまう。
と言うか実際にいま、目の前で崩壊している。
オーガは短くなった棍棒でなおもノヴァを叩く。けれど、殴るたびに棍棒が短くなるだけで、ノヴァには全くダメージが入っていない。
「あーっはっは! 全然痛くないわ! なによ、もっとちゃんと殴りなさいよ! ほらほら!」
ノヴァは得意げに言う。
それを見たレイは、
(ああ、やっぱりネフィラの代わりに殴られたかったんだろうな。でも僕が殴ったら僕の腕ポッキンしちゃうだろうなあれ)
そんな勘違いをしていた。
そうこうしているうちに、オーガは棍棒ではダメだと気づいたのだろう。投げ捨てて、今度は思い切り蹴り飛ばそうと足を構える。
そのまま横薙ぎにするようにノヴァを蹴飛ばす。蹴られた衝撃で、ぐんっとノヴァの身体は少し飛ばされていたが傷一つ負っていない。
対してオーガは、
ボキン!
蹴った瞬間、足の骨が折れ、悲鳴とともにその場に倒れこんでいた。
「次はどいつ!? ほらかかってきなさいよ!」
ノヴァは冒険に心を躍らせて顔をキラキラさせている。オーガにとってはたまったもんじゃない。
それはレイにとっても。
(何でゲームと違うんだろ。ノヴァってこんなに強くないじゃん。困るんだけど! このままだと目立っちゃう!! ほら! いまだって冒険者たちがびっくりしちゃってるじゃん!)
十二歳の女の子がオーガに殴られてびくともしていないんだからそれは当然である。はっきり言って異常だし、人間を止めてる。
人間じゃないんだけど。
(魔族だってバレたらどうすんの!!)
レイはそう心配していたけれど杞憂である――冒険者たちは魔族が人間界にいるなんて毛ほども信じていない。大人がサンタクロースを信じないのと同じくらい信じていない。
とは言え、目の前の事実も同じくらい信じられないだろうけれど。
「なんなんだあの子……」
「魔法? でも魔力の流れ感じないわ……」
「まじかよ。魔法じゃないなら……そういう技術ってことか!?」
冒険者たちは助かったという安堵以前に目の前のことを理解しようと頭を働かせていたけれど、脳筋を前にして思考は無意味。
ノヴァは次々にオーガに立ち向かい、殴られ蹴られ、そのたびにオーガの骨を折る。レイはそれを見ながら、
(今度からノヴァを盾にしよう。そうしよう)
と、ひでえことを考えながらその様子を見守っていた。
だから罰が当たる。
オーガが次々やられていくのをみてゴブリンたちは一目散に逃げ出した――レイの方へと。
(ぎゃあああああああ!)
レイは声にならない悲鳴を上げて駆け出したが、そこは敏捷1、ゴブリンとのかけっこに負けて普通に追いつかれる。目の前に緑色の肌のひっどい匂いをしたモンスターが迫り、その口から牙とだらだらこぼれる涎が見えて、レイは身をすくませた。
(僕ゴブリンにやられて死ぬんだ!)
瞬間、ぐんっとゴブリンたちは跳ね返されて、後続にごつんと頭をぶつける。ゴブリンたちは頭を抱えて「ぎゃあぎゃあ」と痛がり、レイを睨み、第二撃を喰らわそうと持っていた木の棒を振ったが、それも跳ね返されて別のゴブリンの頭を打つ。
(何やってんのこいつら)
そうしているうちにゴブリンたちは殴り殴られ互いにケンカを始めて、レイのことなど忘れて大乱闘に発展した。
レイはしばらくキョトンと目の前の様子を眺めていたが、不意に気づいて、
(あ! わかった! ヨルだ! ついてこなくていいって言ったのにヨルがついてきて助けてくれたんだ! きっと幻惑か何かの魔法を使ってゴブリンを仲違いさせたんだ! ありがとうヨル! こなくていいなんて言ってごめん! 僕はクソザコでした!)
どこにいるとも知らないヨルに向かってレイは感謝した。
ヨルはついてきてない。
ついてきてない奴に感謝している姿がまるで祈りを捧げているみたいに見えて、冒険者たちはまた勘違いしている。
「幻惑魔法!? 相当な上級魔法よ、あれ!」
「祈りを捧げているところを見ると、教会関係者か?」
「男の子だよな? この二人なんなんだ?」
ゴブリンたちはバタバタと仲間割れで倒れ、そうしているうちにノヴァも最後のオーガをぶっ倒した――オーガの自滅で。
結局、この場にいた全てのモンスターが自滅したわけである。
ノヴァはパタパタと服を払って、
「あーあ、終わったわ。レイヴンの方も終わったのね。まあ、ゴブリンの集団なんて楽勝よね」
「楽勝じゃないよ。(ヨルの)幻惑魔法がなかったらどうなってたか」
「へえ(あなた)そんな魔法も使えるのね。さすがね」
「さすがでしょ(ヨルが)。まあ時々ちょっと暴れるのが玉に瑕だけどね」
「(幻惑魔法って)扱いが難しいのね」
「ケーキあげれば大体落ち着くけどね」
「幻惑魔法に?」
「え?」
「は?」
ズレまくって何が何だか解らなくなっている二人だが、もっと危機感を持った方がいい。
明らかにこの二人は目立っていた――レイは無自覚だけれど。
冒険者たちはレイたちをみて、実はただの子供じゃないんだと確信していた。
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