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第27話 もう僕が人間界に追放される話が広まっている!
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「人間界に行くって話は聞いたわ! あたしもそろそろ行かないと『先祖返り』が起きちゃうからついてってあげる。ふふん。療養中のネフィラの代わりよ、代わり。感謝しなさい!」
と、キャット家を訪問するやいなやノヴァがそういった。事件から一週間くらいしか経ってないのに元気な奴である。
対してレイは元気じゃない。
(もう僕が人間界に追放される話が広まっている! いや、キャット家には迷惑をかけたんだから当然か。ちゃんと罰を受けてるってメイドちゃんあたりが報告したんだろうな)
ドラゴンに襲われた一件で、最後のシナリオを変え適当なことをしたと思っているレイである――実際にレイがした適当なことはもっといろいろあるけれど。
もっとちゃんと怒られろ。
と言って、無駄に結果を出してしまっている上に誰もが勘違いしているので、キャット家からは感謝されている――それすら皮肉だと思っているレイだけど。
嫌みを言われてるんだと思っている。
「まさか、ドラゴンを追い返すなんて!」
と言われれば、
「セットを壊しやがって」
と言われていると思ったし、
「ノヴァを救うためにわざと捕まって、危険に身をさらすなんて!」
と言われれば、
「お前が不甲斐ないからノヴァがダルトンに捕まるシーンで、ナイフを首に押し当てなきゃいけないような危険な目に遭っただろうが」
と言われていると思った。
(お仕置きされるかも。椅子に縛られて殴られるんだきっと)
そう思っていたから、なぜノヴァがついてくるのかが解らない。
「怒ってないの?」
「は? 何を怒ることがあるのよ?」
「(演技とは言え)危険な目に遭わせたし」
「でも助けてくれたじゃない。まあ、そのあとのあれはちょっとイラッてしたけど……あなた本当にやるときしかやらない奴よね」
「……すいません」
ノヴァの言う「あれ」とは、レイが彼女を背負わなかったことであり、口論したことだったけれど、レイはもちろんシナリオを変えたことだと思っている。
(でも思った以上に怒ってないな。嫌われ者の僕がこんなことしたらお仕置きされてもおかしくないのに。なんでぇ? イラッてしたって言ってるから演技はもうしてないはずなのに)
レイは首を傾げたけれど、隅でこっそりスローライフを送るために手を貸してくれるというのなら、裏切られるまでは手伝ってもらおうと思った。
「えっとそれで……ネフィラの代わりって話だけど……と言うか、ネフィラのこと知ってたんだ」
「あったり前じゃない。スパイダー家とキャット家は本家と分家の関係だし、それに、同い年なのよ? 交流くらいあるわ。幼なじみってところね」
「ふうん」
(じゃあ、ネフィラの被虐趣味も知ってるのかな? あ、ネフィラの代わりってそういうこと? ネフィラの代わりに虐めればいいのかな?)
違う。
やめろ。
相手は王族だぞ。
レイが危ないことを考えていることなど知らず、ノヴァは胸を張って、
「今回はおかしな薬を使われちゃったから活躍できなかったけど、いつものあたしはモンスターに噛まれても平気なのよ!」
「それは……知ってるけど……」
(つまり、モンスターに虐めさせれば良いってこと? ゴブリンの巣に置いてこようかな)
評議会以上の絶望に突き落とそうとするんじゃない。
いろんなところでずれている。
とは言え、レイは大真面目なので、
「じゃあ、人間界でダンジョンに潜ろうか」
「え! いいの!? やったあ! あたしずっとダンジョン探検したかったの! お父様がダメだって言うから『調教の森』で我慢してたけど、レイヴンと一緒なら大丈夫よね!」
ノヴァは顔を輝かせて喜んだ。
この子もゲームでは上位を争うくらいには人気なキャラクターなので、その笑顔は容易く恋に落ちる類いのかわいらしさがあったけれど、レイには響かない。
(ああ、やっぱり合ってたんだ。モンスターをけしかけて僕は逃げよう)
最悪かよ。
こんな奴に助けられたのが運の尽きというか、ノヴァはそもそも運がない。ダルトンに裏切られて絶望に落とされたことからそれはよくわかる。
不憫。
ギャンブルの類いはしない方が良い。
そんな、自分に運がないことにまだ気づいていないノヴァは、
「そうと決まれば準備しなきゃ! ダンジョンって言ったら冒険者登録よね! 装備だってたくさん買わないと! あ! どんな子をパーティにしたらいいかしら!?」
ノヴァがきゃっきゃっと喜ぶ一方で、レイは少し考えて、
(スローライフのためには冒険者登録も必須だろうから今のうちにやっておいて損はないし、それに、モノを売って生活するのに商人ギルドにも登録しておこうかな)
とゲーム知識を洗い出していた――あんまり覚えていないけれど。
「ねえ、聞いてるの?」
「ああ、うん。聞いてる。人間界に色々持って行かないとね」
「何言ってるの? 人間界にモノは持って行けないでしょ? そんなことあたしだって知ってるわ」
(そうだっけ――ああ、そうだった)
魔界と人間界を隔てる【漆黒の霧】は基本的に物体を通さない――レイたちは【女王】の加護があるから通り抜けられるけれど。
(ってことは向こうで金を稼がないと、最初から食い扶持すらないってことか。うわ、きっつ!)
と、ヴィラン家の金を最初から当てにしていないレイである。もちろん、キャット家の金も当てにしていない。
十日で一割の利率で返せとか言われたら死ぬから。
(お金は借りない。自分のことは自分でなんとかする――僕モンスター倒せないけど。ダンジョンとかで植物を採取してお金にしよう。そうしよう)
レイはそう考えて頷いた。
と、キャット家を訪問するやいなやノヴァがそういった。事件から一週間くらいしか経ってないのに元気な奴である。
対してレイは元気じゃない。
(もう僕が人間界に追放される話が広まっている! いや、キャット家には迷惑をかけたんだから当然か。ちゃんと罰を受けてるってメイドちゃんあたりが報告したんだろうな)
ドラゴンに襲われた一件で、最後のシナリオを変え適当なことをしたと思っているレイである――実際にレイがした適当なことはもっといろいろあるけれど。
もっとちゃんと怒られろ。
と言って、無駄に結果を出してしまっている上に誰もが勘違いしているので、キャット家からは感謝されている――それすら皮肉だと思っているレイだけど。
嫌みを言われてるんだと思っている。
「まさか、ドラゴンを追い返すなんて!」
と言われれば、
「セットを壊しやがって」
と言われていると思ったし、
「ノヴァを救うためにわざと捕まって、危険に身をさらすなんて!」
と言われれば、
「お前が不甲斐ないからノヴァがダルトンに捕まるシーンで、ナイフを首に押し当てなきゃいけないような危険な目に遭っただろうが」
と言われていると思った。
(お仕置きされるかも。椅子に縛られて殴られるんだきっと)
そう思っていたから、なぜノヴァがついてくるのかが解らない。
「怒ってないの?」
「は? 何を怒ることがあるのよ?」
「(演技とは言え)危険な目に遭わせたし」
「でも助けてくれたじゃない。まあ、そのあとのあれはちょっとイラッてしたけど……あなた本当にやるときしかやらない奴よね」
「……すいません」
ノヴァの言う「あれ」とは、レイが彼女を背負わなかったことであり、口論したことだったけれど、レイはもちろんシナリオを変えたことだと思っている。
(でも思った以上に怒ってないな。嫌われ者の僕がこんなことしたらお仕置きされてもおかしくないのに。なんでぇ? イラッてしたって言ってるから演技はもうしてないはずなのに)
レイは首を傾げたけれど、隅でこっそりスローライフを送るために手を貸してくれるというのなら、裏切られるまでは手伝ってもらおうと思った。
「えっとそれで……ネフィラの代わりって話だけど……と言うか、ネフィラのこと知ってたんだ」
「あったり前じゃない。スパイダー家とキャット家は本家と分家の関係だし、それに、同い年なのよ? 交流くらいあるわ。幼なじみってところね」
「ふうん」
(じゃあ、ネフィラの被虐趣味も知ってるのかな? あ、ネフィラの代わりってそういうこと? ネフィラの代わりに虐めればいいのかな?)
違う。
やめろ。
相手は王族だぞ。
レイが危ないことを考えていることなど知らず、ノヴァは胸を張って、
「今回はおかしな薬を使われちゃったから活躍できなかったけど、いつものあたしはモンスターに噛まれても平気なのよ!」
「それは……知ってるけど……」
(つまり、モンスターに虐めさせれば良いってこと? ゴブリンの巣に置いてこようかな)
評議会以上の絶望に突き落とそうとするんじゃない。
いろんなところでずれている。
とは言え、レイは大真面目なので、
「じゃあ、人間界でダンジョンに潜ろうか」
「え! いいの!? やったあ! あたしずっとダンジョン探検したかったの! お父様がダメだって言うから『調教の森』で我慢してたけど、レイヴンと一緒なら大丈夫よね!」
ノヴァは顔を輝かせて喜んだ。
この子もゲームでは上位を争うくらいには人気なキャラクターなので、その笑顔は容易く恋に落ちる類いのかわいらしさがあったけれど、レイには響かない。
(ああ、やっぱり合ってたんだ。モンスターをけしかけて僕は逃げよう)
最悪かよ。
こんな奴に助けられたのが運の尽きというか、ノヴァはそもそも運がない。ダルトンに裏切られて絶望に落とされたことからそれはよくわかる。
不憫。
ギャンブルの類いはしない方が良い。
そんな、自分に運がないことにまだ気づいていないノヴァは、
「そうと決まれば準備しなきゃ! ダンジョンって言ったら冒険者登録よね! 装備だってたくさん買わないと! あ! どんな子をパーティにしたらいいかしら!?」
ノヴァがきゃっきゃっと喜ぶ一方で、レイは少し考えて、
(スローライフのためには冒険者登録も必須だろうから今のうちにやっておいて損はないし、それに、モノを売って生活するのに商人ギルドにも登録しておこうかな)
とゲーム知識を洗い出していた――あんまり覚えていないけれど。
「ねえ、聞いてるの?」
「ああ、うん。聞いてる。人間界に色々持って行かないとね」
「何言ってるの? 人間界にモノは持って行けないでしょ? そんなことあたしだって知ってるわ」
(そうだっけ――ああ、そうだった)
魔界と人間界を隔てる【漆黒の霧】は基本的に物体を通さない――レイたちは【女王】の加護があるから通り抜けられるけれど。
(ってことは向こうで金を稼がないと、最初から食い扶持すらないってことか。うわ、きっつ!)
と、ヴィラン家の金を最初から当てにしていないレイである。もちろん、キャット家の金も当てにしていない。
十日で一割の利率で返せとか言われたら死ぬから。
(お金は借りない。自分のことは自分でなんとかする――僕モンスター倒せないけど。ダンジョンとかで植物を採取してお金にしよう。そうしよう)
レイはそう考えて頷いた。
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