上 下
28 / 41

第26話 最近ネフィラ様とエッチなことしてますよねぇ?

しおりを挟む
 キャット家をダルトンや『零落』から守ったレイではあるが、それらは全て「自分を立てるための演技」だと思っているので、メイドちゃんやら《創痍工夫カットリスト》やらに「さすがです」と言われたところで良い気分にはならない。


 むしろ申し訳なさでいっぱいだった。


「今度からわざわざ僕を立てるようなことしなくていいよ。僕が活躍する場を与えてくれるのは嬉しいけどさ、そのせいで今回、キャット家にものすごく迷惑がかかったでしょ」


 レイが自室にやってきたメイドちゃんたちに言うと二人は唇を尖らせた。


 彼女たちはこう思った。


 レイヴン様は「わざわざ僕の手を煩わせるな。自分たちで先になんとかしろ」と言っている、と。


 キャット家にものすごく迷惑がかかったのは、もっと早くヴィラン家が対処しなかったからであり、そのせいで、自分が出て行かなきゃならなかったんだ――そうレイは言っているんだとメイドちゃんたちは思った。


「「すみません」」

「いいよ、次から気をつけてくれれば」

「でも……レイヴン様、変わりましたね」「いままでこんなに誰かを助けようとか善行を働こうとかありませんでしたよね?」

「……気づいたんだよ。僕はヴィラン家の一員としてちゃんとやってかないといけないって」

「「ご立派です」」


 とメイドちゃんたちは大きく頷いて言ったけれど、レイは、


(気づいたのは「転生したこと」だけど。それに、不甲斐なくてお荷物な僕はヴィラン家としてちゃんとやっていかないと君たちに見放されて追放されちゃうからね!)


 と思っていた。


 相変わらずネガティヴである。


「それで、二人は何しに僕の部屋に来たの?」

「覗くためです」「レイヴン様、最近ネフィラ様とエッチなことしてますよねぇ?」

「してないよ!」

「ほんとですかぁ?」「時々シーツを自分で交換してますよねぇ? いままでメイドにやらせてたのに」

「そ、それは……」

「それに、時々部屋から声が漏れてるみたいですよぉ?」「防音の魔道具、つけ忘れちゃったんですかねぇ?」

「そんなことない! いつも何度もついてるの確認して……あ! カマかけるなんてずるい!」

「あーあ、白状しちゃいましたねぇ」「防音の魔道具なんてつけてなにしてるんですかぁ?」

「…………やましいことはなにもしてない」

「えー? ネフィラ様に聞いたらいつも無表情なのにちょっと顔赤くしてましたよ?」「可愛いですよねぇ」

「何で顔赤くするんだ! おかしいだろ!」

「まあ我が君には黙っててあげますよ」「弱みを握りました」

「ううう……」

「レイヴン様可愛いですー」「可愛いですー」


(いぢめだ! 僕はいぢめに遭っている!!)


 メイドちゃんたちはついさっきレイに責められた仕返しをしているだけである――それもどうかと思うけれど。


 とは言え、彼女たちはこれが軽いいじりだと思っていて、はっきり言えば、レイたちがまずいことをしているとは思っていない――ネフィラとしているのはチューとかギューとかお遊び程度だと思っている。


 だから「あはは」と笑っているけれど、


 本当のことを知ったら引く。
 絶対、ドン引きする。


(メイドちゃんたちに覗かれるわけにはいかない。でも、ネフィラを虐めるのはゲームには必要な事だから、止められないし……)


 ここ数日、療養と『先祖返り』対策のためにネフィラは人間界に行っているけれど、彼女のことだから次会ったときには必ず虐めを要求してくる――ドラゴンの一件でいろいろ約束してしまったし、そもそも、ネフィラがあまり我慢できないのはその行動から十分に察しがつく。


 とは言え、今後いままで通りこの部屋でネフィラを虐められるかというとそれは解らない――メイドちゃんが外出していたのはドラゴンが暴れ回っていたからであり、それはレイがすでに解決してしまっている。


 どうしよう、とレイが思っていると、メイドちゃんたちは「あ」と思い出したように、


「レイヴン様」「私たちがここに来たのにはもう一つ理由がありました」

「なに?」

「我が君からの伝言です」「大事な話なのでよく聞いて忘れないように」

「……二人はその大事な話を伝え忘れてたのに?」

「うるさいです」「ネフィラ様のこと我が君に言いますよ」

「すみませんでした」


(この二人怖いんだよ。なんでちょっと言い返しただけで倍返ってくるのかな。おかしいじゃん)


 二人なので倍返ってくるのは当然なのだけど、言ってる内容を含めると十倍返しくらいしている気がする――ちょっとしたことでもやられたらやり返す。


 ヤンキーみたいな二人だった。


 やられてもいないのに被害妄想で身を守ろうとしてやり返そうとするレイが言える立場ではないけれど。


 もっとたちが悪い。


「それで、伝言ってなに?」

「「我が君はこう仰ってました」」


 メイドちゃんたちは声をそろえて、言った。



「「レイヴン様を人間界に送る、と」」



「え!! 僕もう追放されるの!? 早すぎる!!」

「違いますよ、そんなわけないじゃないですか」「我が君は少し怒ってましたけど」

「やっぱり怒ってるんじゃん!!」


 レイは頭を抱えた。


 とは言え、我が君ことヴィラン家当主――すなわちレイの父が怒っているのは、レイが迷惑をかけたからではなく、ここ最近レイが危険に足を踏み入れすぎているからだった。


 ヴィラン家当主はこう考えていた。


 レイは何らかの情報網を構築して、魔族を救い出す活動に力を入れている、と。


 ドラゴンと相対する危険に身を投じてまで魔族を救うために奔走している、と。


 実際には他家の事情に土足で上がり込んで、しっちゃかめっちゃかかき回して、結果論として救っているだけである。


 その上、本人にはまったく自覚がない――助けたことすら知らない。


 死ぬほどたちが悪い。


(僕はただ、社交をしたかっただけなのに! ヴィラン家のお荷物にならないように頑張っただけなのに! どうしてこうなったの!? こんなの結局は、ていの良い追放でしょ!!)


 レイはそう思ったが実際には違う。


「我が君は仰ってました」「これ以上、魔界で活動するのは危険すぎる、と」


(僕が活動すればするだけヴィラン家の評価が下がるからってこと!? お前はもう魔界でなにもするなってことでしょ!?)


 追放という考えに固執しているレイなのでヴィラン家当主がなにを言わんとしているのかまったく考えない。


 ばーか。


 と言って、レイが考えたところで勘違いでまみれている現状答えには絶対にたどり着けないのだけれど。


 それでも、実際、当主が言う危険は存在してしまっている。


 例えば評議会とか、
 例えば『零落』とか。


 当主はそこまで具体的に何が危険で敵になるのかまでは解ってはいないけれど、メイドちゃんからの報告を受けた結果、少なくとも、このままレイが活動を続ければ多くの敵を作ってしまうと考えていた。


 多分それは正しい。


 レイは無自覚に敵を作り続ける。


 つまるところ、レイを人間界に送るというのは避難であり、親心なのだけれど、レイは全く気づかない。


(いいもんね! いいもんね! 『荒れ地』なんかに追放されるよりずっといいもんね! きっと辺鄙な場所に飛ばされるんだろうから、最初の目的通りひっそりと細々と暮らしてやるんだ!)


 いじけてレイはそう思いながら、メイドちゃんたちに尋ねた。


「で、僕はどこに飛ばされるの?」

「『スプリング・ブルーム』と言う街です」「ヴィラン家が人間界に持つ領地の一つですよ」


 レイはこの時点でその地名を思い出せなかったが、それも当然かもしれない。


 ゲームにおいて『スプリング・ブルーム』は、


 このときからちょうど一ヶ月後に消滅している。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~

月並 瑠花
ファンタジー
※ファンタジー大賞に微力ながら参加させていただいております。応援のほど、よろしくお願いします。 「出て行けっ! この家にお前の居場所はない!」――父にそう告げられ、家を追い出された澪は、一人途方に暮れていた。 そんな時、幻聴が頭の中に聞こえてくる。 『秋篠澪。お前は人生をリセットしたいか?』。澪は迷いを一切見せることなく、答えてしまった――「やり直したい」と。 その瞬間、トラックに引かれた澪は異世界へと飛ばされることになった。 スキル『倉庫(アイテムボックス)』を与えられた澪は、一人でのんびり二度目の人生を過ごすことにした。だが転生直後、レイは騎士によって迷宮へ落とされる。 ※2018.10.31 hotランキング一位をいただきました。(11/1と11/2、続けて一位でした。ありがとうございます。) ※2018.11.12 ブクマ3800達成。ありがとうございます。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

【魔力商人】の僕は異世界を商売繫盛で成り上がる~追放で海に捨てられた為、海上ギルド建てたら実力も売上も波に乗って異世界最強に~

きょろ
ファンタジー
飛ぶ鳥を落とす勢いで、たちまち一目を置かれる存在となったギルド【フレイムナイツ】 この剣と魔法の異世界では、数多の冒険者達が日々活躍していた。 基本は4人編成のパーティから始まるが、ランクや実績を重ねたパーティは人数を増やし、自分達でギルド経営をする事が多い。 この世界では、10歳になると全ての人間が“職種適正”を受け、その適正で【剣士】や【魔法使い】といった職種が決まる。そうして、決まった職種と生まれ持った魔力を合わせて冒険者となる人が多い。 そんな中で、パーティ結成から1年しか経たないにも関わらず、その確かな実力で頭角を現してきたギルド……フレイムナイツー。 ギルドには【剣士】【魔法使い】【ヒーラー】【タンク】等の花形の職種が当然メインだが、ギルド経営となるとその他にも【経営】【建設】【武器職人】等々のサポート職種もとても重要になってくる。 フレイムナイツのマスターで剣士の『ラウギリ・フェアレーター』 彼を含めた、信頼できる幼馴染み4人とパーティ結成したのが全ての始まり―。 ラウギリの目標は異世界一の最強ギルドを築き上げる事。 実力も仲間も手に入れ、どんどん成長していくラウギリとその仲間達が織り成す怒涛の異世界成り上がりストーリー!! ………ではなく、 「無能で役立たずなお前はもういらねぇ!俺のギルドの邪魔だ!消え失せろッ!」 「え……そんな……嘘だよね……?僕達は幼馴染みで……ここまで皆で頑張ってきたのに……!」 「頑張ったのは“私達”ね!【商人】のアンタは何もしていない!仕方なくお世話してあげてたのよ。アンタはもう要らないの」 信じて疑わなかったラウギリと幼馴染達……。仲間達から突如お荷物扱いされ、挙句にギルド追放で海のど真ん中に放り棄てられた【商人】担当、『ジル・インフィニート』のお話――。 「そういえば……ギルドって沢山あるけど、この“海”には1つも無いよね……」 役立たずと捨てられたジルであったが、開花した能力と商才で1からギルドを立ち上げたら何故か実力者ばかり集まり、気が付いたら最強勢力を誇る異世界No.1のギルドになっちゃいました。 婚約破棄された人魚に蛙と融合した武術家、剣を抜けない最強剣士に追放された聖女から訳アリ悪役令嬢までその他諸々……。 変わり者だが実力者揃いのジルのギルドは瞬く間に異世界を揺るがす程の存在となり、国の護衛から魔王軍との戦いまで、波乱万丈な日々がジル達を迎える―。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

処理中です...