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第13話 二人だけの秘密

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「んんっ! あんっ! そこ、ダメです! いやあ! ぐりぐりしないで! 壊れちゃいます!」


 部屋にネフィラの嬌声きょうせいが響いて、どうやら猿ぐつわが外れてしまったらしいと知る。

 
 ベッドの上で麻袋を頭にかぶせられ、服を乱した彼女は全身からじっとりと汗をかいている。シーツは汗なのか涙なのか解らない彼女の体液で濡れ、あとで交換しないとなとレイは思う。


 全身を胎動させるみたいにはあはあと息をしているネフィラの麻袋を取ると、その顔が露わになった。頬は紅潮し、二つの大きな瞳は焦点が合わずとろんとしている。


 相変わらずの無表情だけれど、美しいのも相変わらずで、レイは思わずドキッとしてしまった。


「早く……早く次のをください、ご主人様。お願いします、お願いします」


 もう一度、ぎゅっと猿ぐつわを絞めると、麻袋をかぶせてベッドから離れ、


 
 壁に立て掛けてあった攻撃力10000を超える禍々しい剣に持ち替えてネフィラの腹に向けた。


「そりゃ」

「んひぃ!」


 レイの手によって攻撃力1になったその刺突では、傷がつかないどころか服すら破れない。おもちゃの棒をお腹にぐりぐり押しつけているのと同じである――にもかかわらずネフィラは恍惚とした悲鳴を上げる。


 それを聞きながら、レイは、


(…………何してんだろう、僕)


 一人冷静になっていた。


 とは言え、ネフィラを満足させようと努力はしている――早く終わらせたいから。
 

 どうやら彼女は下腹部をいじられるのが好きらしく、剣を突き立てたままぐりぐりすると顎をあげ、いつもの彼女なら考えられないような乱れた声を上げてビクンと跳ねる――猿ぐつわのせいでその声はくぐもっているけれど。


 ちなみに、この部屋ではいま防音の魔道具が使われているし、メイドちゃんたちは外出していて、突然この部屋を訪れる魔族はいない。それでも念には念をいれて、ネフィラにはレイがお願いして猿ぐつわをつけてもらっている。


 それに対して、麻袋で顔を隠しているのはネフィラが望んだことだった――訓練場で殴られた経験からいつもの無表情を保てないと判断した彼女が、顔を見られるのを防ぐために。


 結果、こんなにもいかがわしい――というか犯罪的な状況になっていた。


(絶対こんなの誰にも見せられない。メイドちゃん含めたゴースト族のメイドが外出してる今だからこそできるけど)


 そのメイドちゃんたちが外出するという情報を仕入れてきたのはもちろんネフィラだし、防音の魔道具を持ってきたのもネフィラだった。


 どうやら訓練場で判明した「攻撃力1にもかかわらず痛みはある」と言うレイの特性を知ってから、彼女はずっと準備をしていたらしい。


 今朝――というかついさっき目を覚ますとほとんどレイに覆い被さるようにしてネフィラがベッドのそばに立っていて、軽く息の切れた声で、


「おはようございます、レイヴン様。今日はメイドちゃんたちが外出しているのでチャンスですよ」

「…………何の?」

「決まってるじゃないですか。ここでわたしを虐めるチャンスです。準備だってしてあります」


 寝ぼけたまま身体を起こし部屋を見回すと防音の魔道具が準備されて、何やら禍々しい武器が部屋の片隅に並んでいた。


 一夜にしてレイの部屋は拷問部屋と化していた。


 レイはそれらを順番に見てからネフィラに視線をもどして、


「先に朝ご飯」


 そう言って外に出ようとしたが裾を掴まれて立ち止まる。振り返るといつもは無表情なネフィラは少しだけ切なそうな顔をして、


「ダメです。ダメなんです。お願いします。もう我慢できません。何日我慢したと思ってるんですか。どれだけお預けされたと思ってるんですか」

「……訓練場で叩いてから一週間しか経ってないけど」

、です。レイヴン様にされてからもう他のじゃ満足できなくなってしまったんです。レイヴン様のじゃなきゃダメなんです」


 と言うわけで今に至る。


(ほんと、何してんだろう、僕)


 相も変わらず、レイはネフィラを虐めるこの行為が、低レアキャラである彼女を引き留めるための行為だと思っているので、


(でもこれで攻撃力1の僕でもネフィラが満足するような虐める方法が見つかったから一歩前進だよね!)


 そう思っていた。
 

 後退だろ。


 いつもネガティヴ思考と勘違いのせいでやっている事が意味不明なので、後ろ走りで前進するみたいな状況を続けているレイだった。


 転んでしまえ。


「おりゃ」


 と、最後に一突きするとネフィラの身体が大きく跳ねて、それから静かになる。


 そろそろネフィラも満足したかなと思ってレイは下腹部から剣を離すと、鞘に収めて壁に立て掛け、ネフィラの麻袋を取って猿ぐつわを外す。


 はあはあと呼吸を続ける彼女の顔は涙やらはなやらにまみれていて、乱れた髪も相まって被害に遭った直後みたいに見えなくもない。


 実際、虐めていたんだけど。
 

 やってることだけ見れば悪の所業そのものである。


 さすが悪役、と言えてしまうくらいにはネフィラをいじめ抜いたレイは、ベッドに腰掛けて、言った。


「僕は僕の評価を上げないといけないと思うんだ」


 どのタイミングで言ってんだお前は。
 

 ネフィラは余韻に浸っているようで、もとより無表情なのも相まってあんまり反応がないけれどレイは続けて、


「僕はヴィラン家の中じゃ不出来でお荷物だから、このままだと僕だけじゃなくてヴィラン家全体の評価を落とすことになる。それじゃダメなんだ」


 訓練場では、「ヴィラン家の子息があれだと先が思いやられる」とさえ言われた――そう勘違いしているレイは、やっぱりこのままだと追放まっしぐらだと証明されたと思った。


 人間界に行く前に裏切られる、と。


(だからこそ、僕がこれからやる方針は――善行やら社交やらを積極的にすることで自分の評価を上げてヴィラン家の評価を保ち、父上やメイドちゃんたちに裏切られないようにすること)


 それは、レイの勘違いによって設定された方針ではあるのだけれど、レイ自身は大真面目だった。


 死にたくないから。


「……わたしは……何をお手伝いすれば良いでしょう」


 ネフィラは身体を起こそうとしていたが、ブルブルとその腕が震えて体勢を崩したために、レイにしなだれかかって、そのままレイが膝枕をするような状況になる。


「あ、すみま――」


 レイは反射的にその頭を撫でてしまい、ネフィラが驚いて口を閉じる――ここら辺、前世の名残が身体に染みついている。そうしないと攻撃されたから。


「まずはキャット家に行こうと思うんだ。招待状が来てたからね。そこで僕ができる奴だってことを示したいから……ネフィラ。キャット家の情報を調べてほしい」

「…………解りました」

「あ、ごめん。つい撫でてた。嫌だったよね。やめるね」

「いえ…………」


 ネフィラは身体を起こして少しだけ複雑そうな顔をして、レイを見る。


「ん?」

「…………キャット家のことはすぐに調べます。スパイダー家の分家なので、情報は蓄積してありますし」

「そう。よろしくね」


 キャット家。


 そこには低レアキャラにして主人公の仲間になる魔族、ノヴァリエ・キャットがいる。
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