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第二章 魔女の森編
第52話 今日も『依頼』がきてるよ
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「お帰りだお! きゃぴ! 見て! お空が晴れてる! キシリアたんずっと心配してたんだお! 本当に達成するなんてすごぉーい! あ、きゃぴ! とっても助かったんだ…………ってなんじゃこりゃあ!」
教会に報告に行くと相変わらずきっついキシリアが俺の持つアーティファクトとライラの持つホウキ二本(穂の部分だけ)を見てそう言った。
「え……え……何で魔女のホウキ持ってんだ? キシリアたんパニック。魔女ぶっ殺したんだよな? ホウキって崩れるだろ? まさか魔女のこと殺さずに放置してきたのか!?」
「んなわけねえだろ。空晴れてんだろ。魔女はぶっ殺した。おら、ドロップした素材だ」
キシリアに魔女の心臓を見せる。
禍々しい見た目で、ライラは見るのも嫌がっていたけれど、キツいキャラを放棄したキシリアは平気でガッと掴みじろじろ眺めた。
「うわ、本物じゃねえか。じゃあ何でホウキ残ってんだ? キシリアたんパニック」
「まあ、いろいろあったんだよ。それから、そのキシリアたんパニックっての止めろ」
「うるせえ、可愛いやろがい」
「だまれヤニカス」
キシリアは俺に言われたのも気にせずじろじろと魔女の心臓を眺め、アーティファクトを眺め、ホウキを眺めて溜息をついた。
「とにかく入れ、中で話を聞く」
あれから、
骸骨野郎は友人との再会を祝し、俺は友人に盾をぶっ壊したことを(一応)わびた。
「なに、命には代えられんよ」
心の広い巨漢の彼はそう言ってくれた。
俺たちは魔女の家に向かい、『リンデの樹』の葉を大量に採取して、マンドレイクも一部採取して(骸骨野郎が身体を元に戻すための薬に必要だと言っていた)、影たちをダンジョンに残して外に運びだした。
そのまま「じゃあな」と言って影たちを置いていこうとしたらライラに肩を殴られたので止めた。
冗談だよ。
ミスリルの盾をぶっ壊した負い目もあるし、このくらいのことはやってやる。
影の身体は日の光を浴びられないから待っていてもらう必要がある。
骸骨野郎も友人と共に待っているらしい。
ダンジョンの入り口までくると魔動人形が、
「お帰り! お帰り!」「あ! マンドレイクもってる!」
「鑑定するよ! 登録するよ!」「早くよこせ!」
そう言うので布の袋ごと彼らに渡す。
「ぴきーん、ぴきーん」「ぴきーん、ぴきーん」
「じじっじじじじっじっじじじっじ」「ぴきーん」
「はい登録完了!」「全部本物だよ!」
「はいはいどうも」
「ちゃんと刻印を見せてギルドに提出するんだよ!」「そうしないとランクに反映されないからね!」
「別にランク上げたくて採ってきた訳じゃねえよ」
「なに!? じゃあ売るの!?」「ちゃんとしたところで売らないと違法だよ!」
「へえ。面倒だな。薬を作る時は?」
「ギルドから許可を得た薬師のところに持ってかないと違法だよ!」「認可を受けた店は看板にギルドのマークがあるよ」
「情報どうも」
俺は言ってライラと共に去ろうとしたが後ろの方から、
「ランクを上げないなんて物好きだね」「骸骨くそ野郎と一緒にいたから頭おかしくなったんじゃないの」
「「ぎゃはははは!」」
とか聞こえてくる。
うるせえ!
で、道行く人に聞きつつ(この頃にはすでに空は晴れやかでみんな空を見上げていた)、薬師の店に行き大量の薬を注文して金を払って(あとで絶対回収する)、今に至るというわけ。
そこまで話すとキシリアは、
「じゃあ、探索者と冒険者は無事だったんだな。そりゃいいニュースだ。マジ感謝。ちげえ。ありがとね! ご褒美にチューしてあげる!」
「止めろ! 気色悪い!」
「んだとこらぁ!」
キシリアはタバコを取り出して火をつけた。
キレてからタバコを取り出すまでが速すぎる。
「骸骨の仮面かぶったおっさんにチューしてやれ。アイツもがんばったんだから」
「気が向いたらな」
キシリアはスパスパとタバコをすった。
絶対しないだろお前。
◇◇◇
薬ができあがったのが翌日。
俺たちは受け取るとすぐにまた『魔女の森』に向かい、影たちに飲ませた。
「うおおお! 戻る戻る!」
骸骨野郎が口に含んだ瞬間、真っ暗な部屋に光が差し込むように、その身体を包んでいた影が消えて、髪が生え、人間に戻っていく。
他の影たちもそうで、身体が完全に人間に戻ると恐る恐る外へと歩き出した。
日の光を浴びても、彼らの身体に支障はない。
完全に人間に戻っている。
「ちょっ! シオンさん助けてください!」
ライラが喚いているので見ると、人間に戻ったブレアが彼女に頬ずりをして「天使のぬくもり! 天使のぬくもり!」とか騒いでいる。
短髪で中性的な彼女はこうしてみるとナンパ野郎に見えなくもない。
ホウキの穂先がライラの腕から跳び上がってブレアの顔面を強打した。
「痛い! このホウキめ! 私の天使を奪うつもりだな! 容赦はしない!」
ホウキと張り合うな。
そうだ、と俺は思いだして、
「おい、骸骨」
「なんだ! 私はもう骸骨ではない! イケオジへとクラスチェンジしたのだ!」
「……自分で言うのかよ」
少なくとも酒場の隅でグラスを煽っていれば絵になるような見た目だった。
元王立騎士団の人間とあらばさらに人気も高まるだろう。
俺は彼に言った。
「ダンジョン踏破はお前がやったと報告しておいてくれ」
「は? なぜだ?」
「ランク上げたくないから」
魔女の森を踏破して魔女をぶっ殺したとあれば魔石がなくてもランクが上がってしまいそうだった。
不都合にもほどがある。
「君はほんとに……はあ、いや、感謝するよ。ダンジョンの途中にある君が倒したモンスターの魔石とか素材ももらっていいんだろ? 念のため集めておいたんだが……」
「当然だろ。処理してくれるなら万々歳だ」
ランク上げに直結してしまう。
そう呟くと周りにいた冒険者たちが顔を合わせて、
「え、いいのかよ!」
「長いことここにいたから外に出ても金なくてどうしようかと思ってたんだ」
「うわ、ありがとう!」
冒険者たちは次々に山になった魔石やら素材やらに群がって、持てる分を持って行った。
あんなにたくさんあった魔石の山が次々になくなっていって、やっぱりものを運ぶには人手が欲しいよなと今更ながらに思った。
「ありがとな!」とか
「この恩は忘れません!」とか
いままでそうそう言われることがなかった言葉をかけられてチヤホヤされる。
ブレアも魔石の方へと行ったのでようやく解放されたライラが近づいてくる。
「どうです、誰かのためになることをして感謝されるっていいことでしょう?」
「こそばゆい」
性に合わない。
けれど、まあ、
誰か一人のためならやってもいいかもなと思わないでもなかった。
◇◇◇
数日後、
アザリアのいるいつもの街に戻り、いつものように倒したゴブリンの魔石を持ってギルドに戻ると、ライラの姿があった。
彼女の両脇には二本のホウキが浮かんでいる。
俺が切り落とした柄は集めておいたので、それを使って直し終わったらしい。
新たな魔女の誕生だった。
「あ、シオンさん! 見てくださいこの子たち治ったんですよ! お金ありがとうございました」
修理費用は俺が出した。
殊勝なことをするかと思われるかもしれないがそんなわけねえ。
「よし、じゃあこれから荷物持ちとしてこきつかってやる」
「な! そのためですか!?」
「そりゃそうだ! こいつらならダンジョンにも入れるし、馬みたいに飯食わねえし便利だろ」
二本のホウキは抗議するように「キーキー」喚いている。
ライラは溜息をついて、
「この子たちだって生きてるんですよ! 見てください、こんなに可愛い」
「俺はそいつらに殺されかけたんだぞ」
今も布は巻いてあるが、ホウキの先端は槍のようになっているはずだ。
まじでこわい。
弱点だった魔女ももういねえし。
「ま、修理費用を返済すると思って働くんだな」
「むむむ……借金仲間ですね。よろしくね、ブルちゃん、ムーちゃん」
二本のホウキはライラにすり寄った。
名前つけてやがる。
「じゃあ、まあ行くか。教会に情報が届いてるサインが出てたからな。返済第一号だ」
「次はなんでしょうね」
ライラはニコニコしながらついてくる。
俺は思う。
ライラが危険に陥ったときに思ったあの感情はなんだったのか。
まさか、グウェンやブレアみたいにライラを「信仰」しはじめた訳じゃねえだろうしな。
となると……。
ま、考えすぎか。
教会に着くとアザリアがいつものようにタバコを吸っていて、俺たちを見るとニッと微笑んだ。
「やあ、迷える鼠君、野良聖女にして魔女様。今日も『依頼』がきてるよ。あーしの言葉を聞きたいなら、いつものやつをくれな」
そしてまた、次の依頼にむかう。
「拾遺者よ、漏れ落ちた作品たちを集め、補いたまえ。神のご加護があらんことを」
――――――――――――――――
これにて一旦完結です!
お読みいただきましてありがとうございました!
教会に報告に行くと相変わらずきっついキシリアが俺の持つアーティファクトとライラの持つホウキ二本(穂の部分だけ)を見てそう言った。
「え……え……何で魔女のホウキ持ってんだ? キシリアたんパニック。魔女ぶっ殺したんだよな? ホウキって崩れるだろ? まさか魔女のこと殺さずに放置してきたのか!?」
「んなわけねえだろ。空晴れてんだろ。魔女はぶっ殺した。おら、ドロップした素材だ」
キシリアに魔女の心臓を見せる。
禍々しい見た目で、ライラは見るのも嫌がっていたけれど、キツいキャラを放棄したキシリアは平気でガッと掴みじろじろ眺めた。
「うわ、本物じゃねえか。じゃあ何でホウキ残ってんだ? キシリアたんパニック」
「まあ、いろいろあったんだよ。それから、そのキシリアたんパニックっての止めろ」
「うるせえ、可愛いやろがい」
「だまれヤニカス」
キシリアは俺に言われたのも気にせずじろじろと魔女の心臓を眺め、アーティファクトを眺め、ホウキを眺めて溜息をついた。
「とにかく入れ、中で話を聞く」
あれから、
骸骨野郎は友人との再会を祝し、俺は友人に盾をぶっ壊したことを(一応)わびた。
「なに、命には代えられんよ」
心の広い巨漢の彼はそう言ってくれた。
俺たちは魔女の家に向かい、『リンデの樹』の葉を大量に採取して、マンドレイクも一部採取して(骸骨野郎が身体を元に戻すための薬に必要だと言っていた)、影たちをダンジョンに残して外に運びだした。
そのまま「じゃあな」と言って影たちを置いていこうとしたらライラに肩を殴られたので止めた。
冗談だよ。
ミスリルの盾をぶっ壊した負い目もあるし、このくらいのことはやってやる。
影の身体は日の光を浴びられないから待っていてもらう必要がある。
骸骨野郎も友人と共に待っているらしい。
ダンジョンの入り口までくると魔動人形が、
「お帰り! お帰り!」「あ! マンドレイクもってる!」
「鑑定するよ! 登録するよ!」「早くよこせ!」
そう言うので布の袋ごと彼らに渡す。
「ぴきーん、ぴきーん」「ぴきーん、ぴきーん」
「じじっじじじじっじっじじじっじ」「ぴきーん」
「はい登録完了!」「全部本物だよ!」
「はいはいどうも」
「ちゃんと刻印を見せてギルドに提出するんだよ!」「そうしないとランクに反映されないからね!」
「別にランク上げたくて採ってきた訳じゃねえよ」
「なに!? じゃあ売るの!?」「ちゃんとしたところで売らないと違法だよ!」
「へえ。面倒だな。薬を作る時は?」
「ギルドから許可を得た薬師のところに持ってかないと違法だよ!」「認可を受けた店は看板にギルドのマークがあるよ」
「情報どうも」
俺は言ってライラと共に去ろうとしたが後ろの方から、
「ランクを上げないなんて物好きだね」「骸骨くそ野郎と一緒にいたから頭おかしくなったんじゃないの」
「「ぎゃはははは!」」
とか聞こえてくる。
うるせえ!
で、道行く人に聞きつつ(この頃にはすでに空は晴れやかでみんな空を見上げていた)、薬師の店に行き大量の薬を注文して金を払って(あとで絶対回収する)、今に至るというわけ。
そこまで話すとキシリアは、
「じゃあ、探索者と冒険者は無事だったんだな。そりゃいいニュースだ。マジ感謝。ちげえ。ありがとね! ご褒美にチューしてあげる!」
「止めろ! 気色悪い!」
「んだとこらぁ!」
キシリアはタバコを取り出して火をつけた。
キレてからタバコを取り出すまでが速すぎる。
「骸骨の仮面かぶったおっさんにチューしてやれ。アイツもがんばったんだから」
「気が向いたらな」
キシリアはスパスパとタバコをすった。
絶対しないだろお前。
◇◇◇
薬ができあがったのが翌日。
俺たちは受け取るとすぐにまた『魔女の森』に向かい、影たちに飲ませた。
「うおおお! 戻る戻る!」
骸骨野郎が口に含んだ瞬間、真っ暗な部屋に光が差し込むように、その身体を包んでいた影が消えて、髪が生え、人間に戻っていく。
他の影たちもそうで、身体が完全に人間に戻ると恐る恐る外へと歩き出した。
日の光を浴びても、彼らの身体に支障はない。
完全に人間に戻っている。
「ちょっ! シオンさん助けてください!」
ライラが喚いているので見ると、人間に戻ったブレアが彼女に頬ずりをして「天使のぬくもり! 天使のぬくもり!」とか騒いでいる。
短髪で中性的な彼女はこうしてみるとナンパ野郎に見えなくもない。
ホウキの穂先がライラの腕から跳び上がってブレアの顔面を強打した。
「痛い! このホウキめ! 私の天使を奪うつもりだな! 容赦はしない!」
ホウキと張り合うな。
そうだ、と俺は思いだして、
「おい、骸骨」
「なんだ! 私はもう骸骨ではない! イケオジへとクラスチェンジしたのだ!」
「……自分で言うのかよ」
少なくとも酒場の隅でグラスを煽っていれば絵になるような見た目だった。
元王立騎士団の人間とあらばさらに人気も高まるだろう。
俺は彼に言った。
「ダンジョン踏破はお前がやったと報告しておいてくれ」
「は? なぜだ?」
「ランク上げたくないから」
魔女の森を踏破して魔女をぶっ殺したとあれば魔石がなくてもランクが上がってしまいそうだった。
不都合にもほどがある。
「君はほんとに……はあ、いや、感謝するよ。ダンジョンの途中にある君が倒したモンスターの魔石とか素材ももらっていいんだろ? 念のため集めておいたんだが……」
「当然だろ。処理してくれるなら万々歳だ」
ランク上げに直結してしまう。
そう呟くと周りにいた冒険者たちが顔を合わせて、
「え、いいのかよ!」
「長いことここにいたから外に出ても金なくてどうしようかと思ってたんだ」
「うわ、ありがとう!」
冒険者たちは次々に山になった魔石やら素材やらに群がって、持てる分を持って行った。
あんなにたくさんあった魔石の山が次々になくなっていって、やっぱりものを運ぶには人手が欲しいよなと今更ながらに思った。
「ありがとな!」とか
「この恩は忘れません!」とか
いままでそうそう言われることがなかった言葉をかけられてチヤホヤされる。
ブレアも魔石の方へと行ったのでようやく解放されたライラが近づいてくる。
「どうです、誰かのためになることをして感謝されるっていいことでしょう?」
「こそばゆい」
性に合わない。
けれど、まあ、
誰か一人のためならやってもいいかもなと思わないでもなかった。
◇◇◇
数日後、
アザリアのいるいつもの街に戻り、いつものように倒したゴブリンの魔石を持ってギルドに戻ると、ライラの姿があった。
彼女の両脇には二本のホウキが浮かんでいる。
俺が切り落とした柄は集めておいたので、それを使って直し終わったらしい。
新たな魔女の誕生だった。
「あ、シオンさん! 見てくださいこの子たち治ったんですよ! お金ありがとうございました」
修理費用は俺が出した。
殊勝なことをするかと思われるかもしれないがそんなわけねえ。
「よし、じゃあこれから荷物持ちとしてこきつかってやる」
「な! そのためですか!?」
「そりゃそうだ! こいつらならダンジョンにも入れるし、馬みたいに飯食わねえし便利だろ」
二本のホウキは抗議するように「キーキー」喚いている。
ライラは溜息をついて、
「この子たちだって生きてるんですよ! 見てください、こんなに可愛い」
「俺はそいつらに殺されかけたんだぞ」
今も布は巻いてあるが、ホウキの先端は槍のようになっているはずだ。
まじでこわい。
弱点だった魔女ももういねえし。
「ま、修理費用を返済すると思って働くんだな」
「むむむ……借金仲間ですね。よろしくね、ブルちゃん、ムーちゃん」
二本のホウキはライラにすり寄った。
名前つけてやがる。
「じゃあ、まあ行くか。教会に情報が届いてるサインが出てたからな。返済第一号だ」
「次はなんでしょうね」
ライラはニコニコしながらついてくる。
俺は思う。
ライラが危険に陥ったときに思ったあの感情はなんだったのか。
まさか、グウェンやブレアみたいにライラを「信仰」しはじめた訳じゃねえだろうしな。
となると……。
ま、考えすぎか。
教会に着くとアザリアがいつものようにタバコを吸っていて、俺たちを見るとニッと微笑んだ。
「やあ、迷える鼠君、野良聖女にして魔女様。今日も『依頼』がきてるよ。あーしの言葉を聞きたいなら、いつものやつをくれな」
そしてまた、次の依頼にむかう。
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