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第一章 ライラ・マリー編
第18話 ヘイグ・スコデラリオと『呪物』
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ヘイグは視線をライラに移すと、
「そいつをママと呼んでるみたいだね。『ぎゃははは、ママだってよ!』。君、そんな奴だったっけ?」
「うるさい。ママはボクを救ってくれたんだ」
「……大枠は俺が救ったんだけどな」
ぼそりと俺は言ったがグウェンは無視して、
「ヘイグ、その剣を捨てるんだ。それのせいでボクを置き去りにして、他の二人のことまで……」
「捨てない。『捨てる訳ねえだろ、アホか!』。でも、僕は君をおいていくつもりなんてなかったんだ。『お前は邪魔だったんだよ、グウェン!』。ううう……」
ヘイグと『呪物』の言葉が食い違うと、彼はひどく苦しそうに呻いて、頭をかきむしった。
ヘイグが反抗するのを押さえつけるように、『呪物』が苦しめているのだろうか。
ヘイグはすぐに頭を掻くのを止めると何事もなかったかのように顔を上げて、
「やっぱり君を置いていくべきだったんだ。『そうだお前は邪魔だったんだ!』。置き去りにして正解だった」
意見を変えた。
確実に蝕まれている。
「そうやって他の二人も殺したのか」
俺が尋ねると、ヘイグは首を横に振った。
「ううん違うよ。『あいつらは別の呪いにやられてどっか行っちまったぜ! ぎゃははは』。今頃ダンジョンの中をさまよってるんじゃない?」
「別の呪い?」
なんだか話がややこしくなってきた気がする。
まあいい。
俺がしなければならないのは、この『呪物』の回収だけだ。
俺は手を出して、
「とにかくその剣返せ。お前が持ってるとろくなことにならない」
「ダメだ! 『ボケが!』。僕はこれを使ってSランクになる。『そうだ!』。その願いは叶えてもらうんだ。『こいつはSランクになるんだよ! 止めんなボケ!』」
ヘイグを覆うどす黒いオーラが強くなる。
青かった瞳まで黒く染まり、首と額に血管が浮き出て、何か無理矢理血流を送り込んで筋肉を動かしているように見える。
腐ってもAランク冒険者。
立ち上がった彼は剣を構える。
その姿は、熟練者のそれだった。
ヘイグはすぐに襲ってくることはせず、
「グウェンは治りきってなくてまだ戦えないんだろ? 『両腕両足折ってやったからなあ!』。移動させてくれ」
「へえ、律儀だな」
俺が言うとヘイグは引きつるように笑って、
「『Sランク冒険者になるんだからな、正々堂々やるんだよ!』。そうだ、正々堂々だ」
三人でグウェンを襲った奴の台詞とは思えなかったが、『呪物』を手にした瞬間と今とでは魂の乗っ取られ具合も違うのかもしれない。
願いという契約じみた関係性だって変わっているはずだ。
「ライラ、グウェンを連れて下がってろ」
俺は言って、ライラに近づく。
ライラは箱を身体の前に持ってくると、グウェンを背負って、俺を見上げた。
「気をつけてください」
「なんとかする」
グウェンも俺をみて、
「頼んだ」
「別に頼まれねえよ。俺は俺の金のために働いてんだ」
「それでも、頼んだ」
俺は頷いた。
ライラたちが離れたのを確認して、ヘイグに向き合う。
「『じゃあやろうぜやろうぜ! 正々堂々!』。僕は僕の力がどれくらい強化されたのか知りたいんだ。『木っ端微塵になっても知らないぜ!』」
「そいつをママと呼んでるみたいだね。『ぎゃははは、ママだってよ!』。君、そんな奴だったっけ?」
「うるさい。ママはボクを救ってくれたんだ」
「……大枠は俺が救ったんだけどな」
ぼそりと俺は言ったがグウェンは無視して、
「ヘイグ、その剣を捨てるんだ。それのせいでボクを置き去りにして、他の二人のことまで……」
「捨てない。『捨てる訳ねえだろ、アホか!』。でも、僕は君をおいていくつもりなんてなかったんだ。『お前は邪魔だったんだよ、グウェン!』。ううう……」
ヘイグと『呪物』の言葉が食い違うと、彼はひどく苦しそうに呻いて、頭をかきむしった。
ヘイグが反抗するのを押さえつけるように、『呪物』が苦しめているのだろうか。
ヘイグはすぐに頭を掻くのを止めると何事もなかったかのように顔を上げて、
「やっぱり君を置いていくべきだったんだ。『そうだお前は邪魔だったんだ!』。置き去りにして正解だった」
意見を変えた。
確実に蝕まれている。
「そうやって他の二人も殺したのか」
俺が尋ねると、ヘイグは首を横に振った。
「ううん違うよ。『あいつらは別の呪いにやられてどっか行っちまったぜ! ぎゃははは』。今頃ダンジョンの中をさまよってるんじゃない?」
「別の呪い?」
なんだか話がややこしくなってきた気がする。
まあいい。
俺がしなければならないのは、この『呪物』の回収だけだ。
俺は手を出して、
「とにかくその剣返せ。お前が持ってるとろくなことにならない」
「ダメだ! 『ボケが!』。僕はこれを使ってSランクになる。『そうだ!』。その願いは叶えてもらうんだ。『こいつはSランクになるんだよ! 止めんなボケ!』」
ヘイグを覆うどす黒いオーラが強くなる。
青かった瞳まで黒く染まり、首と額に血管が浮き出て、何か無理矢理血流を送り込んで筋肉を動かしているように見える。
腐ってもAランク冒険者。
立ち上がった彼は剣を構える。
その姿は、熟練者のそれだった。
ヘイグはすぐに襲ってくることはせず、
「グウェンは治りきってなくてまだ戦えないんだろ? 『両腕両足折ってやったからなあ!』。移動させてくれ」
「へえ、律儀だな」
俺が言うとヘイグは引きつるように笑って、
「『Sランク冒険者になるんだからな、正々堂々やるんだよ!』。そうだ、正々堂々だ」
三人でグウェンを襲った奴の台詞とは思えなかったが、『呪物』を手にした瞬間と今とでは魂の乗っ取られ具合も違うのかもしれない。
願いという契約じみた関係性だって変わっているはずだ。
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「気をつけてください」
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「頼んだ」
「別に頼まれねえよ。俺は俺の金のために働いてんだ」
「それでも、頼んだ」
俺は頷いた。
ライラたちが離れたのを確認して、ヘイグに向き合う。
「『じゃあやろうぜやろうぜ! 正々堂々!』。僕は僕の力がどれくらい強化されたのか知りたいんだ。『木っ端微塵になっても知らないぜ!』」
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