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第一章 ライラ・マリー編
第5話 俺が生活できるくらい毎日毎日簡単に見つかるくらい死んでいたら冒険者ギルドから人がいなくなるだろ。よく考えろ。
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嫌悪と忌避の目を向けられながら、ギルドから外に出る。
さて、俺は、死んだ冒険者やら敗走した冒険者の装備品を集めて生活していると思われているが、実際にはそうじゃない。
つーかよく考えろ。
そもそも、俺が生活できるくらい、毎日毎日簡単に見つかるくらい死んでいたら冒険者ギルドから人がいなくなるだろ。
お前らそんなに死んでる奴見てきたのか?
戦争じゃあるまいし。
同時に、これが【荒れ地】から出たばかりの俺がぶつかった問題の一つだった。
装備品を集めるだけではどう頑張っても生活できないし、金持ちになるなんてもってのほか。
で、その対処法はすでに見つけてある。
ギルドを出た足で俺は教会に向かった。
孤児を世話する役目を兼ねたその場所は、最近増築された新しい壁が夕日に染められている。
稼ぎのほとんどをここに費やして、たくさんの孤児を救っている、
などという殊勝なことを俺がするはずない。
俺は聖人君子じゃない。
そしてそれはここのシスター長であるアザリアもそう。
教会入り口近くに花の鉢植えが置いてある。
情報が届いています、の印。
俺は敷地内に脚を入れる。
礼拝堂に入ると、十字架の前でアザリアがたばこを吸っていた。
二十代前半の女性。
長い裾が邪魔だと言って、ドレスを短く切り、代わりに黒いタイツをはいている。
惜しげもなくさらされたその美脚。
子供たちの性癖を歪ませたいのかこいつは。
椅子の背もたれに体をがっつりと預けて、脚を説教台の上に載せてゆらゆらと揺れていた彼女は、俺の姿に気づくとぱっと説教台の上から脚を離す。
椅子の脚が地面を鳴らす。
立ち上がったアザリアはたばこをもう一吸いして、
「迷える鼠君。あーしの言葉を聞きたいなら、いつものやつをくれな」
本人はあたしと言ってるつもりなのだろうけれど、あーしに聞こえる。
俺はポーチから銀貨を三枚出して彼女の手に載せる。
チャラチャラと音を立て手の中で弄びながら、アザリアはさっきまで座っていた席に俺を促した。
彼女は説教台に飛び乗るように腰掛けるとその長い脚を組んで頬杖をつき、ニッと笑みを浮かべる。
「最近どお、装備品集めのチョーシはさ」
「全然だな。毎日の夕食代にもならねえ」
「ま、そうだろうねえ。情報がないとそんなもんだよねえ。やっぱり、君が稼げるのはあーしのおかげなんだよ。感謝してほしいよねえ」
アザリアは言ってクスクスと笑う。
情報。
上級冒険者がこのダンジョンで死んだとか、数百年前の遺物が眠っているとか、誰かが隠したまま死んで忘れられた宝物があるとか。
そういう直接金になりそうな情報をアザリアは集めていて、それを俺は買っている。
自分の足で見つけるより、明らかに効率よく金を稼げるからな。
「その分払ってるだろうが。早く情報よこせ」
「んだよ、つれないなあ。そんなんだと女の子にモテないよ。こーゆーちょっとした会話が関係作りには重要なんだよ」
「嫌われすぎて会話もままならねえよ。なんで嫌われてるのか俺が知りたい」
「なあんだ相変わらずか。モッタイナイね。顔も悪くない、稼ぎも悪くない、それに、いい体してるのにねえ。あーしが食べちゃおうかなあ」
「お前、曲がりなりにも聖職者だろうが」
「曲がりなりにも、ねえ」
アザリアはスパスパとたばこを吸う。
俺は煙を払って、
「それに仕事仲間とドロドロになんかなりたくねえ」
「ドロドロになるのは愛があるからでしょう。愛なんて必要なーい。味見するだけ」
シスターの言葉とは思えない。
靴を脱いだ彼女の脚が伸びて俺の膝の上に乗る。
手で払う。
「きたねえなあ」
クスクスと気にした風もなくアザリアは笑う。
俺はため息をついて、
「で、情報早くくれよ」
「ま、お代はもらったからねえ。今回は情報ってより、ちゃんとした『依頼』だよ。拾遺者のお仕事ってわけ。心して聞くが良いよ」
アザリアは言ってまたタバコを吸った。
拾遺者とは、
情報屋から『依頼』を受けて、ダンジョンの最下層まで潜り、忘れられた宝を手に入れる奴らのことを言う。
最下層まで潜るには、当然魔物を倒さなければならない。
途中、エリアボスはいるし、最下層の宝は魔物が守っていることが多い。
問題は、どうして俺が魔物を倒していないなんて話が出回っているのかと言うことだった。
そもそも、俺はいつも冒険者の装備品を見つけるときでさえ、ダンジョンに潜れば魔物を倒している。
タイロンは、そのことを知っている。
知っているのに嘘をつく。
ま、どうでもいいんだけどさ。
噂の出所も俺が嫌われている原因の一部もタイロンだろうが、止めさせようとしたところで、どうせ、金にならねえから。
無駄な労力だ。
さて、俺は、死んだ冒険者やら敗走した冒険者の装備品を集めて生活していると思われているが、実際にはそうじゃない。
つーかよく考えろ。
そもそも、俺が生活できるくらい、毎日毎日簡単に見つかるくらい死んでいたら冒険者ギルドから人がいなくなるだろ。
お前らそんなに死んでる奴見てきたのか?
戦争じゃあるまいし。
同時に、これが【荒れ地】から出たばかりの俺がぶつかった問題の一つだった。
装備品を集めるだけではどう頑張っても生活できないし、金持ちになるなんてもってのほか。
で、その対処法はすでに見つけてある。
ギルドを出た足で俺は教会に向かった。
孤児を世話する役目を兼ねたその場所は、最近増築された新しい壁が夕日に染められている。
稼ぎのほとんどをここに費やして、たくさんの孤児を救っている、
などという殊勝なことを俺がするはずない。
俺は聖人君子じゃない。
そしてそれはここのシスター長であるアザリアもそう。
教会入り口近くに花の鉢植えが置いてある。
情報が届いています、の印。
俺は敷地内に脚を入れる。
礼拝堂に入ると、十字架の前でアザリアがたばこを吸っていた。
二十代前半の女性。
長い裾が邪魔だと言って、ドレスを短く切り、代わりに黒いタイツをはいている。
惜しげもなくさらされたその美脚。
子供たちの性癖を歪ませたいのかこいつは。
椅子の背もたれに体をがっつりと預けて、脚を説教台の上に載せてゆらゆらと揺れていた彼女は、俺の姿に気づくとぱっと説教台の上から脚を離す。
椅子の脚が地面を鳴らす。
立ち上がったアザリアはたばこをもう一吸いして、
「迷える鼠君。あーしの言葉を聞きたいなら、いつものやつをくれな」
本人はあたしと言ってるつもりなのだろうけれど、あーしに聞こえる。
俺はポーチから銀貨を三枚出して彼女の手に載せる。
チャラチャラと音を立て手の中で弄びながら、アザリアはさっきまで座っていた席に俺を促した。
彼女は説教台に飛び乗るように腰掛けるとその長い脚を組んで頬杖をつき、ニッと笑みを浮かべる。
「最近どお、装備品集めのチョーシはさ」
「全然だな。毎日の夕食代にもならねえ」
「ま、そうだろうねえ。情報がないとそんなもんだよねえ。やっぱり、君が稼げるのはあーしのおかげなんだよ。感謝してほしいよねえ」
アザリアは言ってクスクスと笑う。
情報。
上級冒険者がこのダンジョンで死んだとか、数百年前の遺物が眠っているとか、誰かが隠したまま死んで忘れられた宝物があるとか。
そういう直接金になりそうな情報をアザリアは集めていて、それを俺は買っている。
自分の足で見つけるより、明らかに効率よく金を稼げるからな。
「その分払ってるだろうが。早く情報よこせ」
「んだよ、つれないなあ。そんなんだと女の子にモテないよ。こーゆーちょっとした会話が関係作りには重要なんだよ」
「嫌われすぎて会話もままならねえよ。なんで嫌われてるのか俺が知りたい」
「なあんだ相変わらずか。モッタイナイね。顔も悪くない、稼ぎも悪くない、それに、いい体してるのにねえ。あーしが食べちゃおうかなあ」
「お前、曲がりなりにも聖職者だろうが」
「曲がりなりにも、ねえ」
アザリアはスパスパとたばこを吸う。
俺は煙を払って、
「それに仕事仲間とドロドロになんかなりたくねえ」
「ドロドロになるのは愛があるからでしょう。愛なんて必要なーい。味見するだけ」
シスターの言葉とは思えない。
靴を脱いだ彼女の脚が伸びて俺の膝の上に乗る。
手で払う。
「きたねえなあ」
クスクスと気にした風もなくアザリアは笑う。
俺はため息をついて、
「で、情報早くくれよ」
「ま、お代はもらったからねえ。今回は情報ってより、ちゃんとした『依頼』だよ。拾遺者のお仕事ってわけ。心して聞くが良いよ」
アザリアは言ってまたタバコを吸った。
拾遺者とは、
情報屋から『依頼』を受けて、ダンジョンの最下層まで潜り、忘れられた宝を手に入れる奴らのことを言う。
最下層まで潜るには、当然魔物を倒さなければならない。
途中、エリアボスはいるし、最下層の宝は魔物が守っていることが多い。
問題は、どうして俺が魔物を倒していないなんて話が出回っているのかと言うことだった。
そもそも、俺はいつも冒険者の装備品を見つけるときでさえ、ダンジョンに潜れば魔物を倒している。
タイロンは、そのことを知っている。
知っているのに嘘をつく。
ま、どうでもいいんだけどさ。
噂の出所も俺が嫌われている原因の一部もタイロンだろうが、止めさせようとしたところで、どうせ、金にならねえから。
無駄な労力だ。
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