上 下
33 / 40
第二章 選択する、選択させる

復讐

しおりを挟む
 国王を殺すのはそう難しくないと思っていたがそうでもないらしい。

 物理的に殺すのはそう難しくない。ただバリスタや魔法兵器で殺せばいいだけの話だ。問題は俺の心理だ。何も殺すことをためらっているわけではない。そんな感傷的な部分はとうの昔に捨てた。

 難しいのは、別に殺したい奴が現れてしまったからだ。

 塚原を殺したからだろうか、国王は完全に守りを固める姿勢に入ったようで、ほかのメンバーを守護に置いていた。
 スーツ姿の伊ヶ崎。
 革ジャンの古田。
 そしてニートなのだろうか、スウェット姿の星澤が謁見の場におり、王の姿はなかった。

「敵っていうのはお前のことかユキハル」

 スーツの伊ヶ崎が言った。

「敵と言えばそうかもね」
「ふっ、3対1じゃ話にならないな」

 革ジャンの古田がそう言ったが食い気味に星澤が言った。

「そうでもない」

 星澤は、革ジャンの腕を切り落とした。

「ぎゃああああ、てめえ何しやがる」
「あの頃は俺に力がなかったからお前たちに反抗できなかった。だが、今なら反抗できる」

 どうやら仲間割れを始めたらしい。その間に伊ヶ崎でもいじめておこう。

「伊ヶ崎」
「なん……ぐああああ」

 俺は伊ヶ崎の両足を奪った。常套手段だ。
 革ジャンは未だに腕の痛みに呻き続け、スーツの様子に気づいていない。
 俺は伊ヶ崎の足に中級ポーションをかけると言った。

「首謀者のお前にはすべての苦痛を味わってもらう」
「何を言ってる。俺はただ遊びでやってただけだ」

 皆同じようなことをいう。支配者は、上層部にいる人間ってのは皆同じようなことを言うんだな。下の人間のことなんか考えやしない。

 だから人間なんてくそなんだ。

 俺はまず、伊ヶ崎のみぞおちを蹴り上げた奴が腕で痛みをこらえるために、防御するためにみぞおちを抑え始めたので。俺はさらに両腕を切り落とした。
 呼吸を失った後の痛みだ。伊ヶ崎はひどく苦しんでいるようだった。
 両腕両足を失った体にスーツをびしっと来ている姿がそこにはある。

「俺の腕が、俺の脚がああ」

 伊ヶ崎は自分の身体を見ながら嘆いている。嘆けるうちはまだ大丈夫だ。
 生きている。
 俺は仰向けに寝転がる伊ヶ崎のみぞおちを殴った。何度も、何度も。
 伊ヶ崎は仰向けのまま嘔吐した。いいものでも食べてきたのだろう、肉片やら何やらが口からあふれ、呼吸が苦しそうだ。まだだ。俺はみぞおちを殴り続ける。革ジャンの古田にやられたように、何度も何度も。呼吸ができず、意識を失った伊ヶ崎を蹴り上げて、顔面に大量の水を浴びせる。
 ばっと目を覚ました伊ヶ崎は体を苦の字に曲げて、その後エビぞり、何とか逃げようとしている。

「逃げんなよ」

 みぞおちを蹴り上げる。

「みぞおちばかり蹴るんじゃねえよ」
「そう古田に指示してきたのは誰だ? あ? おまえ高校時代自分が俺に何をしたのか覚えてねえだろ。俺ははっきりと覚えてるんだよ」

 蹴り上げる、蹴り上げる。

「作業着着てた塚原は俺に虫を喰わせるのが好きだったよな。だから虫を喰わせて殺してやった。お前は首謀者だ。全ての痛みを受けてもらう」

 俺は、今度は煙草を取り出した。火をつける。

「何をするつもりだ」
「お前の大好きなことだよ」

 俺は腕の丸くなった肉に煙草を押し付けた。

「ぎゃ」

 伊ヶ崎はのけぞる。
 もう一本煙草の箱を取り出す。
 今度は火をつけると、目に近付けた。

「やめろやめろ! 死んじまう」
「失明するだけだろ。それくらいで騒ぐな」

 押し付けた。喉の奥がガラガラと震えるような悲鳴が上がる。

「ほら、もう一方もだ」
「やめ、……やめてくださ……ぎゃああああああああああああああああああ」

 両目を焼かれた伊ヶ崎はびくびくと痙攣していた。

「おい、寝てんじゃねえぞ」

 タバコの火を足の肉に押し付ける。

「ぎゃ」

 寝たふりをしていた伊ヶ崎が目を覚ます。すでに目はないが。
 俺はさっきからやけにうるさい星澤の方を見た。奴は革ジャンの古田を八つ裂きにしていた。目を突き刺し、両腕を切り裂き、身体は肉塊になっていた。星澤のスウェットは真っ黒に染まっている。

「おい、殺してんじゃねえよ星澤」
「あ、ごめん。楽しくてつい」

 俺は舌打ちをすると、伊ヶ崎に向き直った。インベントリから例の虫の肉を取り出す。

「伊ヶ崎。伊ヶ崎! 聞いているか」

 奴は肯いた。

「今から選択してもらう。虫の肉を食うか、今までされたことをもう一度全部やり直されるかだ。俺は特級ポーションを持ってる腕だろうが脚だろうが、目だろうが直してやるよ。ま、そのあとまた破壊するんだけどな。どうする? 選べよ」

 伊ヶ崎はためらうことなく

「虫の肉を食べます」

 そう言った。

「あ、言い忘れてたけど、これ毒あるからな。死ぬほど、いや、死にたいいと思うほど辛いみたいだぞ。塚原が言っていたから間違いない。でも選択しちゃったからな。しょうがない。ほら喰えよ」

 すでに腐り始めている虫の肉はひどい悪臭がした。伊ヶ崎は口元に押し付けられたそれのにおいをかいで嘔吐いたが、最終的には噛みついた。

「もっと喰えよ。てめえ飲み込んでねえのわかってんだからな。全部喰えよほら」

 俺は奴の口の中に指を突っ込んで、無理やり飲み込ませた。
 体の痙攣が始まる。
 声にならない叫び声があたりに響く。
 少量しか与えていない。死ぬまでずいぶん時間をかけてもがき苦しむだろう。

 俺は星澤のもとへ近づいた。

「星澤」
「ユキハル君……。ごめん俺、あのときは怖かったんだ。またいじめられるのが怖くて、それで、いやだったけど、ユキハル君を一緒にいじめちゃって」
「そうだったのか」

 俺は微笑む演技をした。

「だから、これから罪滅ぼしするよ。力になる。なんでも言ってよ」
「そうか、じゃあ」

 俺はバリスタを発動させた。

「え?」
「死ねよ、星澤」

 バリスタの矢が星澤の眉間を貫く、脳漿をぶちまけて、星澤は死んだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

王国の女王即位を巡るレイラとカンナの双子王女姉妹バトル

ヒロワークス
ファンタジー
豊かな大国アピル国の国王は、自らの跡継ぎに悩んでいた。長男がおらず、2人の双子姉妹しかいないからだ。 しかも、その双子姉妹レイラとカンナは、2人とも王妃の美貌を引き継ぎ、学問にも武術にも優れている。 甲乙つけがたい実力を持つ2人に、国王は、相談してどちらが女王になるか決めるよう命じる。 2人の相談は決裂し、体を使った激しいバトルで決着を図ろうとするのだった。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

異世界の片隅で引き篭りたい少女。

月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!  見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに 初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、 さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。 生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。 世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。 なのに世界が私を放っておいてくれない。 自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。 それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ! 己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。 ※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。 ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。  

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

虚無の統括者 〜両親を殺された俺は復讐の為、最強の配下と組織の主になる〜

サメ狐
ファンタジー
———力を手にした少年は女性達を救い、最強の組織を作ります! 魔力———それは全ての種族に宿り、魔法という最強の力を手に出来る力 魔力が高ければ高い程、魔法の威力も上がる そして、この世界には強さを示すSSS、SS、S、A、B、C、D、E、Fの9つのランクが存在する 全世界総人口1000万人の中でSSSランクはたったの5人 そんな彼らを世界は”選ばれし者”と名付けた 何故、SSSランクの5人は頂きに上り詰めることが出来たのか? それは、魔力の最高峰クラス ———可視化できる魔力———を唯一持つ者だからである 最強無敗の力を秘め、各国の最終戦力とまで称されている5人の魔法、魔力 SSランクやSランクが束になろうとたった一人のSSSランクに敵わない 絶対的な力と象徴こそがSSSランクの所以。故に選ばれし者と何千年も呼ばれ、代変わりをしてきた ———そんな魔法が存在する世界に生まれた少年———レオン 彼はどこにでもいる普通の少年だった‥‥ しかし、レオンの両親が目の前で亡き者にされ、彼の人生が大きく変わり‥‥ 憎悪と憎しみで彼の中に眠っていた”ある魔力”が現れる 復讐に明け暮れる日々を過ごし、数年経った頃 レオンは再び宿敵と遭遇し、レオンの”最強の魔法”で両親の敵を討つ そこで囚われていた”ある少女”と出会い、レオンは決心する事になる 『もう誰も悲しまない世界を‥‥俺のような者を創らない世界を‥‥』 そしてレオンは少女を最初の仲間に加え、ある組織と対立する為に自らの組織を結成する その組織とは、数年後に世界の大罪人と呼ばれ、世界から軍から追われる最悪の組織へと名を轟かせる 大切な人を守ろうとすればする程に、人々から恨まれ憎まれる負の連鎖 最強の力を手に入れたレオンは正体を隠し、最強の配下達を連れて世界の裏で暗躍する 誰も悲しまない世界を夢見て‥‥‥レオンは世界を相手にその力を奮うのだった。              恐縮ながら少しでも観てもらえると嬉しいです なろう様カクヨム様にも投稿していますのでよろしくお願いします

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...