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第二章 選択する、選択させる
決断
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家に戻ると王都側近たちが再会を祝福しているところだった。俺はまずいところに出くわしたと思った。みなが俺を見た瞬間、感謝ではなく、恐怖を抱いたからだ。
「ああ、すまない。俺は部屋に戻る。飯は勝手に作って食ってくれそこの箱に入っているから」
そう言って俺は2階へ上がっていった。
「おかえりなさいませ、ユキハル様」
「ただいま、ナオミ。あ、俺汚れてる、風呂に入ってくる」
「お背中お流ししましょうか」
「……」
俺は首を振った。
体を洗い、部屋に戻るとナオミの膝を枕にしてベッドに横になった。ナオミは俺の頭をなでてくれる。
安らぐ。
彼女だけが俺を見ていてくれる。本当の俺を愛してくれる。愛してくれるよねそうだよね。
俺のものだ。
絶対傷つけたりしない。
俺は体を起こすとナオミを抱きしめ、ベッドへと倒れ込んだ。
◇
「国を取り戻します」
本来の王だという少女は言った。
「それはいいんだけど、名前教えてくれる? なんて呼んだらいいかわかんないから」
「私はステイシーです!」
「ああ、宜しくステイシー」
俺は朝飯のパンと誰かが作った肉の料理に舌鼓を打ちながら言った。
「それと、その膝に女の人乗せるの止めてもらえませんか! 集中できません」
俺はナオミと目を合わせた。
「何が悪い。俺の家だ、俺が何をしようが勝手だろう」
「くっ」
ステイシーはこぶしを握りしめた。齢13だという彼女は思春期だからだろうか、ナオミを見るたびに顔を赤らめた。別に裸ってわけじゃあるまいし。ナオミはセーターにジーンズという姿。体の線は少し強調されているが、ちゃんと服を着ている。
「国を取り戻すんだろ、てか、今の王を殺せばいいんだろ」
「そう簡単には……」
「簡単だよ。王を殺して、反抗する貴族を殺して、民を全員奴隷にすればいい。人間なんてみんなゴミみたいなもんだ。あ、ナオミは違うよ愛してる」
「それは国王に対する冒涜か!」
鷹頭の元宰相が叫んだ。
「なんで俺があんたたちを助けたと思う? 俺は別にこの国の人間じゃない。国王に対する忠誠心もない。世界を変えたいとも思わない。人間は嫌いだ。獣人はそうでもない。ただそれだけなのにどうして助けたか。そうしないとナオミが傷つけられるから、ただそれだけだよ。俺だって奴隷みたいなものだ。誰だってなにかの奴隷になっている」
俺はステイシーを見据えた。
「あんたも国の奴隷だろ、ステイシー。もしくは血の奴隷か」
「それ以上言うと叩き切るぞ」
元騎士団のテリーがテーブルを叩いて立ち上がった。その拍子に料理がいくつか落ちてしまった。コップも倒れた。
「あ? やってみろよ」
俺はナオミを膝から下ろすと丸腰でテリーに近づいた。
「その殺気だ。昨日帰ってきたときから思っていた。お前は危険すぎる。助けてくれたことには感謝しよう。だが、お前を王のそばにおくことはできない」
「俺の使命は国王と側近を助け出し、現国王を殺すことだ。そうしないとナオミが傷つけられる。奴隷にするのはさ、簡単で早い。全員が奴隷になれば国は最強だろう」
「お前は。殺す」
テリーは剣を抜いた。何人かの貴族が震え上がった。
やつは叫び、俺の首を撥ねた。首が飛び、元の位置に戻った。
俺は咳き込んで血を吐き出すと、振り返る。
「殺せたか? げほげほ」
「どうして……」
「俺は異世界からきた。不死身なんだよ。一回自殺も試みたが死ななかった。死なない人間をどう殺す?」
「とにかく! 奴隷にするのは無しです。現国王は、ゲイラードは……」
「俺はどちらにせよ殺すぞ。そうしろとの命令だからな」
俺が言うとステイシーは頭を抱えた。
「仕方ありませんね。たしかにどちらにせよ生かしてはおけません」
「ステイシー様……それではゲイラードとおなじでは……」
「ええ、そうかも知れません。でも獣人たちを思えばこそ、どんな手を使ってでも取り戻さなくては……」
「……わかりました」
鷹頭とテリーは跪いた。
「国王の仰せのままに」
「じゃあ決まりな。あいつとその家族をもろとも殺してくる」
「子供にまで手を出す必要は……」
「この国は直系優先じゃないのか?」
「うっ、そうです。確かに次の国王候補は息子のレイです。ですが……」
「殺すなら徹底的に殺せよ。後で復讐されるぞ」
ステイシーはうつむいて、しばらくそうしていたが、最後には肯いた。
「お願いします」
その声は泣いていた。
「ああ、すまない。俺は部屋に戻る。飯は勝手に作って食ってくれそこの箱に入っているから」
そう言って俺は2階へ上がっていった。
「おかえりなさいませ、ユキハル様」
「ただいま、ナオミ。あ、俺汚れてる、風呂に入ってくる」
「お背中お流ししましょうか」
「……」
俺は首を振った。
体を洗い、部屋に戻るとナオミの膝を枕にしてベッドに横になった。ナオミは俺の頭をなでてくれる。
安らぐ。
彼女だけが俺を見ていてくれる。本当の俺を愛してくれる。愛してくれるよねそうだよね。
俺のものだ。
絶対傷つけたりしない。
俺は体を起こすとナオミを抱きしめ、ベッドへと倒れ込んだ。
◇
「国を取り戻します」
本来の王だという少女は言った。
「それはいいんだけど、名前教えてくれる? なんて呼んだらいいかわかんないから」
「私はステイシーです!」
「ああ、宜しくステイシー」
俺は朝飯のパンと誰かが作った肉の料理に舌鼓を打ちながら言った。
「それと、その膝に女の人乗せるの止めてもらえませんか! 集中できません」
俺はナオミと目を合わせた。
「何が悪い。俺の家だ、俺が何をしようが勝手だろう」
「くっ」
ステイシーはこぶしを握りしめた。齢13だという彼女は思春期だからだろうか、ナオミを見るたびに顔を赤らめた。別に裸ってわけじゃあるまいし。ナオミはセーターにジーンズという姿。体の線は少し強調されているが、ちゃんと服を着ている。
「国を取り戻すんだろ、てか、今の王を殺せばいいんだろ」
「そう簡単には……」
「簡単だよ。王を殺して、反抗する貴族を殺して、民を全員奴隷にすればいい。人間なんてみんなゴミみたいなもんだ。あ、ナオミは違うよ愛してる」
「それは国王に対する冒涜か!」
鷹頭の元宰相が叫んだ。
「なんで俺があんたたちを助けたと思う? 俺は別にこの国の人間じゃない。国王に対する忠誠心もない。世界を変えたいとも思わない。人間は嫌いだ。獣人はそうでもない。ただそれだけなのにどうして助けたか。そうしないとナオミが傷つけられるから、ただそれだけだよ。俺だって奴隷みたいなものだ。誰だってなにかの奴隷になっている」
俺はステイシーを見据えた。
「あんたも国の奴隷だろ、ステイシー。もしくは血の奴隷か」
「それ以上言うと叩き切るぞ」
元騎士団のテリーがテーブルを叩いて立ち上がった。その拍子に料理がいくつか落ちてしまった。コップも倒れた。
「あ? やってみろよ」
俺はナオミを膝から下ろすと丸腰でテリーに近づいた。
「その殺気だ。昨日帰ってきたときから思っていた。お前は危険すぎる。助けてくれたことには感謝しよう。だが、お前を王のそばにおくことはできない」
「俺の使命は国王と側近を助け出し、現国王を殺すことだ。そうしないとナオミが傷つけられる。奴隷にするのはさ、簡単で早い。全員が奴隷になれば国は最強だろう」
「お前は。殺す」
テリーは剣を抜いた。何人かの貴族が震え上がった。
やつは叫び、俺の首を撥ねた。首が飛び、元の位置に戻った。
俺は咳き込んで血を吐き出すと、振り返る。
「殺せたか? げほげほ」
「どうして……」
「俺は異世界からきた。不死身なんだよ。一回自殺も試みたが死ななかった。死なない人間をどう殺す?」
「とにかく! 奴隷にするのは無しです。現国王は、ゲイラードは……」
「俺はどちらにせよ殺すぞ。そうしろとの命令だからな」
俺が言うとステイシーは頭を抱えた。
「仕方ありませんね。たしかにどちらにせよ生かしてはおけません」
「ステイシー様……それではゲイラードとおなじでは……」
「ええ、そうかも知れません。でも獣人たちを思えばこそ、どんな手を使ってでも取り戻さなくては……」
「……わかりました」
鷹頭とテリーは跪いた。
「国王の仰せのままに」
「じゃあ決まりな。あいつとその家族をもろとも殺してくる」
「子供にまで手を出す必要は……」
「この国は直系優先じゃないのか?」
「うっ、そうです。確かに次の国王候補は息子のレイです。ですが……」
「殺すなら徹底的に殺せよ。後で復讐されるぞ」
ステイシーはうつむいて、しばらくそうしていたが、最後には肯いた。
「お願いします」
その声は泣いていた。
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