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第一章 House_management.exe

初めての自殺

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 俺はまた死体の処理をした。
 インベントリに入った死体を今度は躊躇なく解体して処分した。
 全部で8人。8000ポイントだ。剣は一本だけ残しておいた。

 俺は外に出るとダンジョンへ向かう。
 新緑が世界を緑色に染めその匂いをせいいっぱい拡散している。
 
 苦悩で死んだ例はない、なんて誰かが言っていた気がする。
 原因であれ、直接的ではない。
 ナイフを突き刺す、電車に飛び込む、首をくくる。
 
 俺はダンジョンを選ぶ。

 ポイントを使えるだけ使ってダンジョンの魔物を強化した。スケルトンナイトはボスではなくいくらでも湧く様になり、代わりにボスはイエロードラゴンになった。ドラゴンの中では最下級だ。

 だが冒険者でもない、武道の経験もない俺はオークにすら勝てるはずはない。一方的にやられて死ぬだけだ。

 死ぬだけだ。

 あれだけ痛みを恐れていたのに、今はそれが恋しい。

 俺はダンジョンの前についた。洞窟の入り口に続く獣道。かすかに動物の匂い。
 俺は手ぶらだ。
 もしも恐怖で逃げてしまったら、家で死ぬために剣を残しておいた。

 手が震える。まだ肌寒いのに汗が流れる。血の気が引く。
 怖い。
 恐怖を感じているうちは絶望していない。
 俺は絶望しているから死ぬのではない。
 簡単なことだ。

 罪悪感と葛藤だ。

 一歩前に足を踏み出す。獣の匂いが色濃くなる。
 スマホのライトを付けて、俺はダンジョンに踏み込んだ。

 入り口は洞窟のようだったが、中は石造りになっている。苔むしている。苔が光を放っていて、明るい。スマホのライトを消して先に進む。

 ダンジョンの角を曲がるとオークが現れた。武器は持っていないがその筋肉は俺の胴ほどの太さがある。巨体はずんずんと足音を立てて俺の前に立った。

 でかい。

 3メートルに届くのではないか。凄まじい獣の匂い。へその周りに汚らしい毛が生えている。それは胸毛までつながっていて、血の跡だろうか、茶色い汚れがついている。
 二本の牙は頬に突き刺さりそうなほど湾曲している。その上にある2つの目が俺をにらみつける。

 ああ、俺はこいつに殺されるんだ。
 あの腕で殴られたら頭蓋骨は陶器のように簡単に割れるだろう。

 俺は目をつぶった。
 早く殺してくれ。
 早く。
 ……。
 
 俺は目を開けた。
 オークは目の前から消えていた……わけではない。
 跪いている。
 この俺に。

 混乱する。
 これは……俺がこのダンジョンの持ち主だからか?
 そうだ、そうに違いない。

 計画が狂ってしまった。
 俺はダンジョンを後にした。

 俺は家に戻るとインベントリから剣を取り出した。長い剣は重く、切れ味が悪い。どう考えたって自殺には向かない物体だ。
 なんでこんなものを残しておいたのか。アホらしい。
 部屋の中に入って包丁を取り出した。
 コンビニ飯を続けてきたと言っても、新入社員だった当初、この家に引っ越してきた当初は料理だってしていた。

 4畳半の部屋にいく。

 ここが俺の死に場所だ。
 手首を切って湯船に浸すなんて真似はしない。
 苦痛を伴わなければならない。
 罪の清算にならない。

 逃げるだけだろ。

 そんな声が聞こえた気がした。
 俺は気にもとめず、首元に刃を当てた。血が垂れる。垂れた血は首筋を伝って、鎖骨を通り、服に沁みる。痛みが俺を現実に引き戻す。
 恐怖がむくむくと心のなかで広がっていく。
 一気に引くんだ。
 きっと想像を絶する痛みだ。
 包丁を握る手に力が入る。
 
 引け!
 切れ!
 切れ!
 切れ!

 力を入れる。

 そのとき……
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