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阿鼻叫喚な大魔導戦
File.1 後輩できました!
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「いやっスー!僕は絶対戻らないっスから!」
俺の家でも、リーナ先輩の家でもない場所で朝からうるさい声が響く。しかも扉を挟んで……。
「今日は結門はいないから。見つからないうちに帰りましょう?」
ん?結門さんなら俺の隣にいるんだけど……?
「あの──」
「悠斗、絶対余計なこと言わないでよ?」
俺が結門さんならここにいると言おうとした時に、リーナ先輩に睨まれながら言われてしまった。
「はい……」
さっきの会話が中にまで聞こえたのか、声が外出を頑なに拒む。
「ほらやっぱりー!結門さんいるなら僕は絶対行かないっスからね!学校も行ってるしいいじゃないっスか!なんで今になって僕を連れ戻そうとするんですかぁ!」
「言い方に気をつけなさいよ。私があなたを追いやったみたいじゃない!」
なんでこんなことになっているかというと、昨日の夜に遡る。
──◇◇◇──
フランス旅行から帰ってきて家に着いたのは夜の七時頃。一度リーナ先輩の家に荷物を置いてから久しぶりに家族に会いにここまで足を運んだ。
鍵を開けて扉のドアノブに手をかけると、俺の力と関係なく扉が勢いよく開いた。
「「兄ちゃんお帰り!」」
元悟と三葉が二人並んで出迎えてくれた。
「ただいま。よいしょっと」
「兄ちゃん離せー!」
「離せー!」
二人を両脇に抱えて、両親がいるリビングに向かう。廊下を歩いていると、父さんと母さん以外に、聞き覚えのない笑い声が聞こえてくる。
「そういえばなんかスーツのおじちゃんと金髪の兄ちゃんと同じ制服着た人来てたよ」
抱えられたままの元悟がそう言う。
なるほど、そういうことか……。
廊下を曲がってリビングに入ると同時に目に映った金髪の人にあいさつする。
「リーナ先輩。いらっしゃい、先に来てたんすね。そちらの男の人は誰ですか?」
「あら悠斗。遅いわよ?この人は私の父」
先輩の隣に座って両親と話していたスーツの男性が席を立ち俺に挨拶をしてくれる。
「君が噂の悠斗君か。私は橘・グランシェール・賀栄。リーナの父です。いつも娘がお世話になっております」
俺も元悟と三葉を解放し、頭を下げて挨拶をする。
「あああ、際神悠斗といいます!先輩には大きな恩があり、むしろお世話になってるのは俺の方で──」
俺の慣れない慌てた様子を見ておかしそうに笑う。
「ハッハッハ、そんなに固まらずに。ここは君の家なんだからいつも通りでいてくれて構わないよ。なにしろ君が現れてから娘が本当に楽しそうでね、ここ数ヶ月も、そして将来も、リーナを支えてくれるとありがたい」
そう言うと席の横に置いてあったカバンを持ち上げて両親に別れの挨拶をする。
「今日は突然のことですみません。また、こちらに足を運べたから光栄です」
そんな腰の低い態度に父さんが席を立つ。
「いえいえ!こちらこそ息子を預かってる身ですから、グランシェールさんならいつでも歓迎しますよ!」
軽く会釈をし、そのまま玄関から帰る。俺とリーナ先輩は玄関まで見送りに行った。
靴を履き、扉を開けたところで、グランシェールさんが先輩に言う。
「あぁそうだ。リーナ、そろそろ彼を家に戻しなさい。最近嫌な予感がするんだ。戦力は一人でも多いほうがいい」
「分かった。なら明日の朝に迎えに行く」
「うん。それじゃぁまた仕事に向かうよ」
扉が閉まり、俺とリーナ先輩はリビングに戻る──ん?
「リーナ先輩は帰らないんですか?」
「あら?言ってなかった?明日のために今日はここに泊まらせてもらうわよ?」
「リーナさん!悠斗も帰ってきたところだしそろそろご飯にしましょうか。お友達も待ってますよ」
うちの母さんが楽しそうにしながら玄関にいる俺とリーナ先輩を夕飯に呼ぶ。
「お友達」という言葉に多少感づきながらもそうであって欲しくないと願いながら恐る恐る部屋を除く。
──あー……やっぱりかよ!
「なんでみんながいるんだよ!どっから出てきた!?」
てかよくうちのテーブルにそんなスペースあったなぁおい!
ローラン、氷翠、結門さんの三人に拓翔までいる。
「僕達はずっと奥の部屋でくつろがせてもらってたよ。おかえりも言ったのに気づかないなんて酷いなぁ悠斗君」
ローランにそう言われるがどうにも納得いかない。
「コラ悠斗、お友達にそんなこと言わないの。早く座って」
「母さん…そんなこと言ったってよぉ……」
そして夕飯を食べ終わり結門さんとローランと氷翠が帰り、リーナ先輩と拓翔がうちに泊まることになった(俺は何度も出ていくように説得はした)。先輩は別の部屋に、拓翔は俺の部屋で寝ると決まり、俺達は寝る前に三人で俺の部屋に集まってこの間のこと、これからのことを話し合っていた。
「拓翔君には迷惑かけたわね。あの時は協力してくれてありがとう」
「いやいや、気にしないでくたさいよ。俺がやりたかったからやっただけですからいいっすよ」
先輩はあの事件に無関係の人間を巻き込んだことを相当後悔してるようだった。あれは俺が無理言って協力してくれとせがんだからなんだけど、まぁリーナ先輩の前でそれを言わないだけ拓翔なりの優しさだと受け取っておこうか。
「私は悠斗があなたに無理言って協力してくれたのかと思っていてね?そうじゃないならあなたの優しさとして受け取っておくわ」
リーナ先輩はそうは言うけれどやっぱりまったく気にしないというわけにはいかないようだ。
そんな先輩の顔を見て拓翔が提案する。
「あー、じゃぁ……俺をグランシェール先輩のチームに入れてくれませんかね?俺が、こいつの親友ですし何かと面倒見れますよ?それで今回の件はチャラってことでどう……っすか?」
自分で言いながら自分が困り出すなよ。それを提案された先輩というと──。あー、よく分かんない顔してるよ。そりゃそうだわ、だって会って二日三日で「仲間にしてくれ!」急すぎる。
「こいつの事情は修学旅行中に全部聞きましたし、それを外に流すつもりもないっす。だから俺もその中に入れてくれるとありがたいなっていうかなんというか」
どうせこいつの腹は関係者じゃなくなったしなんとなく面白そうだからって感じだと思うけど、でもまぁ単純に戦力が増すって考えればプラスなんじゃないか?
俺からも先輩に拓翔の加入をお願いする。
「俺からもお願いします。こいつ、基本バカですけど強いっす。それに将来のこと考えればこいつを入れておいて損はないと思います」
先輩は自分の沈黙が俺達に反対と取られたことに慌てながらそれは違うと説明する。
「拓翔君の加入は私としては大歓迎だわ。でも、ほんとにいいの?」
「いいって、なにがっすか?」
「あなたのことは去年から目を付けていて、あなたが卒業してから勧誘するつもりだったのに……だって私達の周りの世界はあなたが関わるはずのない世界、それなら高校生活を楽しんでからって思っていたのに」
なんだ、リーナ先輩もこいつを狙ってたのか。それなら断る理由なんてないじゃないか。だってこいつはどうせそういう非常な世界が大好きなバカなんだし。
「そういうことなら余計っすよ、俺はそういう世界が大好きっすからね。それに、どうせ勧誘されてたなら今その時期が早まっただけってだけですよ」
ほらな、やっぱりこいつはいいバカだよ。
リーナ先輩も拓翔の言ったことに折れて、こいつを新しいチームとして迎え入れることにした。
「そういうことならこれからよろしくね」
「はい、よろしくっす」
拓翔の件で一安心した先輩は長い溜息をひとつついてから別の話題を切り出す。
「拓翔君が仲間に入ってくれたならこれをあなたに隠す必要も無いわね」
あの件?……あの件…あの件……あぁ!あれか!
「家に戻すとか何とか言ってたやつですよね?」
「そう。明日の早朝に向かうわよ?その時は拓翔君も来てね」
拓翔は首を傾げるがとりあえずと言った感じに頷いた。
「その人って誰なんですか?」
俺がそう聞くと先輩が人差し指で頬を掻きながら答えた。
「あなた達の後輩よ。私の弟でもあるわ」
──◇◇◇──
と、いう経緯があり、朝(午前六時半)からこの知らない建物の一番奥の部屋の前にいるというわけですね。
ちなみに拓翔は俺が起こしても微動だにしなかったから家に置いてきている。
「百鬼、いい加減にしておいた方が君のためなんじゃないかな?」
結門さんが扉の前に立ちドアノブに手をかけてそう言う。するとさっきまで部屋のなかから聞こえていた騒がしい声がピタリと止み、ボソボソとした声に変化した。
「い、いやぁ……ちょっと今日は用事あるんで出られないっスかねぇ……」
「そうか、その用事は何時からだい?」
「今日の正午から……っス」
結門さんが握っているドアノブが少し……溶けた。
「そうか、そういうことなら帰れるね」
ドアノブが全て溶けてかかっていた鍵もなくなり扉がひとりでに開いた。
玄関前に立っていたのは背の低い全体的に痩せ気味の男子だった。
「なんで開いたの!?結門さんを想定してタングステン注文して作ったのに!」
その少年は扉が開いたことに困惑しており、結門さんとリーナ先輩以外の俺たちに気づいていない。
「やっぱり嘘か。ほら、俺達を中に入れて」
「はいっス……」
そう言われると、諦めた様子で俺達をしぶしぶ部屋に上げてくれた。
部屋はいたって普通で一介の高校生が住んでいる枠を外れない簡素なものだった。雰囲気がなんとなく前まで俺が住んでた部屋に似ていて既視感がある。
小さめのテーブルを六人で囲うように座り、リーナ先輩が初対面の俺と氷翠に俺達の間で縮こまって座る後輩を紹介してくれる。
「二人ははじめましてね。この子は百鬼十環、真波学園の一年生で、私達の弟。鬼と人間のハーフよ」
リーナ先輩の最後の一言に俺と氷翠は目を丸くしながら百鬼の頭をマジマジと見る。鬼なら頭に角があるはず、でもこいつの頭にはそれらしきものはどこにも……。
「十環君は純血の鬼じゃないから角は生えてない。もう少しいえば自分で角出し入れができるんだよ。基本はしまってあるけど……十環君、二人に見せてあげてよ」
ローランがそう言うと、縮こまったままの百鬼が「フンッ」と力んだ声を出す。百鬼が妖しげな力に覆われると黒かった髪が白くなり、黒目が赤く染る。力を緩めると前髪の生え際の部分からちっちゃい角がひょこっと出てきた。
「なにこれかわいい!ちょっと触らせてよ!」
氷翠が百鬼の頭をわしゃわしゃとまさぐる。
「ちょっ、なにするんスか!やめてくださいっス!」
百鬼はそれをいやがり逃げようとするがガッチリとホールドされてしまっているせいでその場から逃げ出すことができない。
じゃれあう二人に脇目も振らず、リーナ先輩は更にとんでもないことを口にする。
「もう仲が良さそうで安心ね。もう一度紹介させてもらうわ」
先輩が言ったのは百鬼の名前……なんだけど……。
「この子の名前は百鬼酒呑十環。鬼と人間のハーフで、鬼の首領、酒呑童子の末裔よ」
俺の後輩は、ちっちゃくて、気弱で、最強の鬼でした。
俺の家でも、リーナ先輩の家でもない場所で朝からうるさい声が響く。しかも扉を挟んで……。
「今日は結門はいないから。見つからないうちに帰りましょう?」
ん?結門さんなら俺の隣にいるんだけど……?
「あの──」
「悠斗、絶対余計なこと言わないでよ?」
俺が結門さんならここにいると言おうとした時に、リーナ先輩に睨まれながら言われてしまった。
「はい……」
さっきの会話が中にまで聞こえたのか、声が外出を頑なに拒む。
「ほらやっぱりー!結門さんいるなら僕は絶対行かないっスからね!学校も行ってるしいいじゃないっスか!なんで今になって僕を連れ戻そうとするんですかぁ!」
「言い方に気をつけなさいよ。私があなたを追いやったみたいじゃない!」
なんでこんなことになっているかというと、昨日の夜に遡る。
──◇◇◇──
フランス旅行から帰ってきて家に着いたのは夜の七時頃。一度リーナ先輩の家に荷物を置いてから久しぶりに家族に会いにここまで足を運んだ。
鍵を開けて扉のドアノブに手をかけると、俺の力と関係なく扉が勢いよく開いた。
「「兄ちゃんお帰り!」」
元悟と三葉が二人並んで出迎えてくれた。
「ただいま。よいしょっと」
「兄ちゃん離せー!」
「離せー!」
二人を両脇に抱えて、両親がいるリビングに向かう。廊下を歩いていると、父さんと母さん以外に、聞き覚えのない笑い声が聞こえてくる。
「そういえばなんかスーツのおじちゃんと金髪の兄ちゃんと同じ制服着た人来てたよ」
抱えられたままの元悟がそう言う。
なるほど、そういうことか……。
廊下を曲がってリビングに入ると同時に目に映った金髪の人にあいさつする。
「リーナ先輩。いらっしゃい、先に来てたんすね。そちらの男の人は誰ですか?」
「あら悠斗。遅いわよ?この人は私の父」
先輩の隣に座って両親と話していたスーツの男性が席を立ち俺に挨拶をしてくれる。
「君が噂の悠斗君か。私は橘・グランシェール・賀栄。リーナの父です。いつも娘がお世話になっております」
俺も元悟と三葉を解放し、頭を下げて挨拶をする。
「あああ、際神悠斗といいます!先輩には大きな恩があり、むしろお世話になってるのは俺の方で──」
俺の慣れない慌てた様子を見ておかしそうに笑う。
「ハッハッハ、そんなに固まらずに。ここは君の家なんだからいつも通りでいてくれて構わないよ。なにしろ君が現れてから娘が本当に楽しそうでね、ここ数ヶ月も、そして将来も、リーナを支えてくれるとありがたい」
そう言うと席の横に置いてあったカバンを持ち上げて両親に別れの挨拶をする。
「今日は突然のことですみません。また、こちらに足を運べたから光栄です」
そんな腰の低い態度に父さんが席を立つ。
「いえいえ!こちらこそ息子を預かってる身ですから、グランシェールさんならいつでも歓迎しますよ!」
軽く会釈をし、そのまま玄関から帰る。俺とリーナ先輩は玄関まで見送りに行った。
靴を履き、扉を開けたところで、グランシェールさんが先輩に言う。
「あぁそうだ。リーナ、そろそろ彼を家に戻しなさい。最近嫌な予感がするんだ。戦力は一人でも多いほうがいい」
「分かった。なら明日の朝に迎えに行く」
「うん。それじゃぁまた仕事に向かうよ」
扉が閉まり、俺とリーナ先輩はリビングに戻る──ん?
「リーナ先輩は帰らないんですか?」
「あら?言ってなかった?明日のために今日はここに泊まらせてもらうわよ?」
「リーナさん!悠斗も帰ってきたところだしそろそろご飯にしましょうか。お友達も待ってますよ」
うちの母さんが楽しそうにしながら玄関にいる俺とリーナ先輩を夕飯に呼ぶ。
「お友達」という言葉に多少感づきながらもそうであって欲しくないと願いながら恐る恐る部屋を除く。
──あー……やっぱりかよ!
「なんでみんながいるんだよ!どっから出てきた!?」
てかよくうちのテーブルにそんなスペースあったなぁおい!
ローラン、氷翠、結門さんの三人に拓翔までいる。
「僕達はずっと奥の部屋でくつろがせてもらってたよ。おかえりも言ったのに気づかないなんて酷いなぁ悠斗君」
ローランにそう言われるがどうにも納得いかない。
「コラ悠斗、お友達にそんなこと言わないの。早く座って」
「母さん…そんなこと言ったってよぉ……」
そして夕飯を食べ終わり結門さんとローランと氷翠が帰り、リーナ先輩と拓翔がうちに泊まることになった(俺は何度も出ていくように説得はした)。先輩は別の部屋に、拓翔は俺の部屋で寝ると決まり、俺達は寝る前に三人で俺の部屋に集まってこの間のこと、これからのことを話し合っていた。
「拓翔君には迷惑かけたわね。あの時は協力してくれてありがとう」
「いやいや、気にしないでくたさいよ。俺がやりたかったからやっただけですからいいっすよ」
先輩はあの事件に無関係の人間を巻き込んだことを相当後悔してるようだった。あれは俺が無理言って協力してくれとせがんだからなんだけど、まぁリーナ先輩の前でそれを言わないだけ拓翔なりの優しさだと受け取っておこうか。
「私は悠斗があなたに無理言って協力してくれたのかと思っていてね?そうじゃないならあなたの優しさとして受け取っておくわ」
リーナ先輩はそうは言うけれどやっぱりまったく気にしないというわけにはいかないようだ。
そんな先輩の顔を見て拓翔が提案する。
「あー、じゃぁ……俺をグランシェール先輩のチームに入れてくれませんかね?俺が、こいつの親友ですし何かと面倒見れますよ?それで今回の件はチャラってことでどう……っすか?」
自分で言いながら自分が困り出すなよ。それを提案された先輩というと──。あー、よく分かんない顔してるよ。そりゃそうだわ、だって会って二日三日で「仲間にしてくれ!」急すぎる。
「こいつの事情は修学旅行中に全部聞きましたし、それを外に流すつもりもないっす。だから俺もその中に入れてくれるとありがたいなっていうかなんというか」
どうせこいつの腹は関係者じゃなくなったしなんとなく面白そうだからって感じだと思うけど、でもまぁ単純に戦力が増すって考えればプラスなんじゃないか?
俺からも先輩に拓翔の加入をお願いする。
「俺からもお願いします。こいつ、基本バカですけど強いっす。それに将来のこと考えればこいつを入れておいて損はないと思います」
先輩は自分の沈黙が俺達に反対と取られたことに慌てながらそれは違うと説明する。
「拓翔君の加入は私としては大歓迎だわ。でも、ほんとにいいの?」
「いいって、なにがっすか?」
「あなたのことは去年から目を付けていて、あなたが卒業してから勧誘するつもりだったのに……だって私達の周りの世界はあなたが関わるはずのない世界、それなら高校生活を楽しんでからって思っていたのに」
なんだ、リーナ先輩もこいつを狙ってたのか。それなら断る理由なんてないじゃないか。だってこいつはどうせそういう非常な世界が大好きなバカなんだし。
「そういうことなら余計っすよ、俺はそういう世界が大好きっすからね。それに、どうせ勧誘されてたなら今その時期が早まっただけってだけですよ」
ほらな、やっぱりこいつはいいバカだよ。
リーナ先輩も拓翔の言ったことに折れて、こいつを新しいチームとして迎え入れることにした。
「そういうことならこれからよろしくね」
「はい、よろしくっす」
拓翔の件で一安心した先輩は長い溜息をひとつついてから別の話題を切り出す。
「拓翔君が仲間に入ってくれたならこれをあなたに隠す必要も無いわね」
あの件?……あの件…あの件……あぁ!あれか!
「家に戻すとか何とか言ってたやつですよね?」
「そう。明日の早朝に向かうわよ?その時は拓翔君も来てね」
拓翔は首を傾げるがとりあえずと言った感じに頷いた。
「その人って誰なんですか?」
俺がそう聞くと先輩が人差し指で頬を掻きながら答えた。
「あなた達の後輩よ。私の弟でもあるわ」
──◇◇◇──
と、いう経緯があり、朝(午前六時半)からこの知らない建物の一番奥の部屋の前にいるというわけですね。
ちなみに拓翔は俺が起こしても微動だにしなかったから家に置いてきている。
「百鬼、いい加減にしておいた方が君のためなんじゃないかな?」
結門さんが扉の前に立ちドアノブに手をかけてそう言う。するとさっきまで部屋のなかから聞こえていた騒がしい声がピタリと止み、ボソボソとした声に変化した。
「い、いやぁ……ちょっと今日は用事あるんで出られないっスかねぇ……」
「そうか、その用事は何時からだい?」
「今日の正午から……っス」
結門さんが握っているドアノブが少し……溶けた。
「そうか、そういうことなら帰れるね」
ドアノブが全て溶けてかかっていた鍵もなくなり扉がひとりでに開いた。
玄関前に立っていたのは背の低い全体的に痩せ気味の男子だった。
「なんで開いたの!?結門さんを想定してタングステン注文して作ったのに!」
その少年は扉が開いたことに困惑しており、結門さんとリーナ先輩以外の俺たちに気づいていない。
「やっぱり嘘か。ほら、俺達を中に入れて」
「はいっス……」
そう言われると、諦めた様子で俺達をしぶしぶ部屋に上げてくれた。
部屋はいたって普通で一介の高校生が住んでいる枠を外れない簡素なものだった。雰囲気がなんとなく前まで俺が住んでた部屋に似ていて既視感がある。
小さめのテーブルを六人で囲うように座り、リーナ先輩が初対面の俺と氷翠に俺達の間で縮こまって座る後輩を紹介してくれる。
「二人ははじめましてね。この子は百鬼十環、真波学園の一年生で、私達の弟。鬼と人間のハーフよ」
リーナ先輩の最後の一言に俺と氷翠は目を丸くしながら百鬼の頭をマジマジと見る。鬼なら頭に角があるはず、でもこいつの頭にはそれらしきものはどこにも……。
「十環君は純血の鬼じゃないから角は生えてない。もう少しいえば自分で角出し入れができるんだよ。基本はしまってあるけど……十環君、二人に見せてあげてよ」
ローランがそう言うと、縮こまったままの百鬼が「フンッ」と力んだ声を出す。百鬼が妖しげな力に覆われると黒かった髪が白くなり、黒目が赤く染る。力を緩めると前髪の生え際の部分からちっちゃい角がひょこっと出てきた。
「なにこれかわいい!ちょっと触らせてよ!」
氷翠が百鬼の頭をわしゃわしゃとまさぐる。
「ちょっ、なにするんスか!やめてくださいっス!」
百鬼はそれをいやがり逃げようとするがガッチリとホールドされてしまっているせいでその場から逃げ出すことができない。
じゃれあう二人に脇目も振らず、リーナ先輩は更にとんでもないことを口にする。
「もう仲が良さそうで安心ね。もう一度紹介させてもらうわ」
先輩が言ったのは百鬼の名前……なんだけど……。
「この子の名前は百鬼酒呑十環。鬼と人間のハーフで、鬼の首領、酒呑童子の末裔よ」
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