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修学旅行の英雄譚 Ⅱ
剣は折れる、しかしその心は…
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リーナ先輩の魔法で学校が借りているホテルの部屋に転移した俺達は傷ついたミラをベットに寝かせてすぐに話し合いを始めた。
「敵の見当はついているわ。早く彼等を吹き飛ばしましょう」
「落ち着いてリーナ。既に負傷者が出ているの。そうノコノコと自分たちの身を差し出すものじゃありません」
会長の一言で激昂したリーナ先輩が少し声を荒らげる。
「相手はもう動き出したのよ!? それを何もせずに指をくわえて見てろって言うの !?あなた生徒会長なのでしょう!」
リーナ先輩とは対照的に言い寄られてもあくまで冷静に物事を整理して淡々と説明していく。
「私も決して、彼等を倒せれば生徒の命がどうでもいいとは考えていません。……だからこそです。被害を最小限に抑え、極力隠密に素早く解決することを念頭に置いて行動すべきです」
「それをしたところで敵は私たちの都合よく待ってくれるわけないのも事実でしょ!」
正直俺としてはリーナ先輩側の意見なんだけどこればかりは七宮会長の言うことが正しい。俺も一ヶ月前に感情的に動いたせいでみんなに迷惑をかけた。結果として氷翠を助けられたとしても一度俺のせいで死なせてしまっている。俺はそれを繰り返したくはない。
「グラシェール、お前が狼狽えてどうする。後輩が冷静であるのに先輩がそれでは結斗に笑われるぞ?」
「晶……」
拓翔、氷翠、久瀬、俺の順番に目を配らせから深呼吸ををして気分を落ち着かせる。
「そうね、私が取り乱しても仕方ないものね」
「リーナ、落ち着きましたか。私はこの件を団長に伝えてきます。これを私達だけの問題と過ごすわけにはいきません」
会長がそう言って部屋から出ていく。少しして廊下から会長と誰かの話し声が聞こえ、足音が部屋に近づいてくる。ドアが勢いよく開けられると息を荒らげたローランがいた。
「ミラ!」
傷だらけのミラに駆け寄る。
氷翠がさっき俺に言ったようにローラに謝る。
「ミラちゃんは生きてるよ。私が治すはずなのにごめんね」
「氷翠さんの気にすることじゃないよ。彼女が目を覚まさない理由は分かっているからね」
あくまで氷翠は悪くないと安心させるような笑顔で言うとすぐ真剣な顔に戻りミラの身体に手をかざす。
「リメイク・タイプディテクション・エクスチェンジ」
ローランの手の平からミラの体全体へと光が流れ包み込んでいきミラからたちこめていた不穏なオーラが無くなっていき顔色が良くなり、呼吸も安定してきた。
一安心して皆が胸をなでおろしていると、ローランからありえない量の汗が噴き出して近くのベッドに座り込む。
「お、おい。大丈夫か?」
「はは、氷翠さんといい、悠斗君といい、ミラといい、こんな短時間で三人の……しかも伝説級のを相手するとさすがにガタが来るね」
いつも通りのイケメンスマイルを貼り付けているが体全体が震えていて明らかに疲労がピークに達していた。
「おい。俺達はこれから聖剣が封印されていた場所へと向かい、あいつらを倒す。まぁ、俺に負ける程度の剣士ならこの戦いにおいては用無しだが……お前の志しはその程度なのか?」
光崎が疲弊しきっているローランに対してそう言う。
「おい!そんな言い方はないだろ!ローランが何して」
こいつは人一人の命を助けたんだぞ……それなのにその言い草は……!
「悠斗」
拓翔が俺の肩に手を置いて首を横に振る。
「こいつらにはこいつらにしかわからん何かがあるんだろ。それに口出しするもんじゃねぇよ」
「……分かったよ」
俺は二人の間から引き下がる。
「『その剣、その心、虚空に染まるが如く。儚くも確かに』お前も、その剣を使うなら聞いたことがあるだろ。俺からすればお前のことなどどうでもいいが……なんせそこの相方がな、お前を心配してしょうがないらしい」
光崎が顎で指した先はオリヴィエ。
なにか言い争うかと思いきや光崎がそれだけ言い残して部屋から出ていってしまった。
「ローラン様……」
ミラが起きた。ローランのおかげで目立った外傷は見当たらないが、あれだけの傷を負ったせいで体力を酷く消耗してしまっている。
「ミラ、無理して起きなくていいから。ゴートのところに行ったんだよね?ゴートはなんて言ってたんだい?」
そこでようやく自分がどこにいるかと何が起きたのかを思い出したミラが突然涙を流し顔を手で覆う。
「申し訳……ありません。私は父からデュランダルを……デュランダルを受け取り届けうとしました。けれど帰る道中に……神父と悪魔祓いに追われて……奪われてしまいました……」
やっぱりか……あんの野郎!俺達だけじゃなくてミラにまで……まさか他の修学旅行に来てる生徒にまで手ぇ出すつもりじゃないだろうな!ふざけんじゃねぇぞ……。
「分かったよミラ。僕なんかのためにありがとう」
「いいえ、お役に立てず……」
「気にしなくていいから。そもそもこれは僕が自分ですべきことなんだよ。疲れているだろう?ここでゆっくり休むといいよ」
ミラの額の中央を人差し指で軽くつつくとミラの瞼が降りてベッドに倒れる。
「そんなに心配な顔しなくてもいいよ。僕が眠らせただけだから──!?」
全員が突然の光に驚き目を細めながらも発光源に視線を集める。一本の太い光の筋は空にめがけて伸びていて、ミラノ体から感じたものよりもさらに強い嫌悪感と呼べるものが感じられた。そしてそこは俺達が向かうはずだった『聖剣の泉』と呼ばれる場所。
「こんな形で修学旅行の計画が完成しちまうなんてな。ま、俺は行けないんですけどね。悠斗、絶対生きて帰ってこいよ?俺は黒澤だけじゃねぇ、ここにいる生徒全員守ってやるからよ。じゃぁまたな」
拓翔が部屋から出ていく。窓から外にいる拓翔が見え、そしてあいつからはこの距離にいて痺れる程の電気が溢れていた。
先輩の携帯がなり、先輩が携帯をスピーカーにして通話を始める。
『団長にこの件を伝えました。援軍を送ってくれるそうですが……あちらも相当忙しいらしく手配に最低十時間かかってしまうそうです。私達は新條君と共に生徒たちを守ります。残念ですが、純粋な戦闘力ではあなた達には及びませんしね。討伐の決行は夕方、生徒たちをがこのホテルに戻ってからです。それでは』
決行は夕方……俺達はどうすればいいんだろ?
「さて、ローラン、悠斗、舞璃菜。ご飯行きましょうか」
リーナ先輩が疲れ切っているローランの手を取り俺達を昼食に誘う。
「いやいやいや、こんな緊迫した状況で何言ってんすか先輩?」
「そうだよリーナちゃん先輩、私達も何かしないと」
俺と氷翠の批判に意外そうな顔をする。
「だから今からご飯食べるんでしょ?日本にもあるじゃない。『腹が減っては戦ができぬ』これから最高のパフォーマンスをしたいならしっかりとお腹を満たして疲れを取りなさい。休息も戦いのうちよ。今から夕方までは藤舞がなんとかしてくれるから。オリヴィエさんも一緒にどう?」
「え?私も?でも……関係ない人から施しを受ける理由は……」
リーナ先輩からのまさかの誘いにモジモジしてるオリヴィエだったが、
「いいじゃないかオリヴィエ、久しぶりの再会なんだから君の話も聞かせてよ」
ローランの説得で結局は着いてくることになった。その答えにリーナ先輩は嬉しそうに、
「なら行きましょうか」
なんとも納得いかないし、気乗りもしないが……半ば強引に夕方までを楽しんだ。
──◇◇◇──
そして夕方──約束の時間になった。
地下鉄で聖剣の泉手前まで来ている俺達は敵にバレないように草むらの裏に隠れていた。
「先輩、いつまでここにいるんですか?早く倒しに行きましょうよ」
「もう少し待ちなさい。もうすぐ来るから」
「来るって誰がですか?会長が援軍の手配にはかなり時間がかかるって言ってたじゃないですか。待ってないで行きましょうよ」
「あれ?僕が来るって悠斗君達には言ってなかったのかい?」
どこからか結斗さんの声が聞こえた。見渡してもどこにも結斗さんの姿は見えないし気配すら感じない。
「悠斗君、こっちだよこっち。下見て」
聞こえる声のとおりに下を向くと、俺の影から先輩の顔が出ていた。
「うわぁ!結斗さん!?どこにいるんすか!」
「よっと、どこって悠斗君の影じゃないか。いやぁ久しぶりの影移動は疲れるなぁ」
「『影』って……てことはずっと俺の影にいたんすか?」
なるほど、これで合点がいった。結斗さんがいつもいつもなんの前触れもなく現れるのは影にいるからだ。ブレイビンフィールドでも、学校のリーナ先輩の部屋でも、結斗さんは影の中で移動してるから誰にも見つからないのか。
「でも影に隠れてたならもっと早く来てくれても」
「人数はなるべく少ない方がいいだろう?俺は影の中なら瞬間移動に等しい速さで移動できるからね。だからこうやってギリギリまで来なかったんだ」
またまた、この先輩は奇妙な力をお持ちで……。
不思議な先輩の秘密がまたひとつ解けたと納得していると、オリヴィエが結斗さんに話しかける。
「あなたが深那結斗ね?」
「そういう君は、オリヴィエさんだね。晶がお世話になってるようだね」
「そうでもないわよ。それにしても……お互い、厄介な相棒を持ったわね」
なんの話しか分からなかったが結斗さんには伝わったようで薄い笑みを浮かべて首を傾げる。
「まぁその話はおいといて、もうすぐ向かうんだろ?だから団長からこれを貰ってきたよ」
俺の影の中から俺達が着ているのと全く同じ制服が、男子用三着と女子用二着ずつ出てきた。
「ありがとう結斗。さぁ、みんな着替えて。もうすぐ出るわよ」
着替え終わって何か特別な何かがあるかと思いきやそんなこともなかった。
「先輩、この服なんですか?」
「これ?ただの服よ?」
はい!?じゃぁただ着替えただけじゃん!
「嘘よ、そんなに驚いた顔しないの」
「そりゃ驚きますよ!何かあるかと思うじゃないですか」
「これには防御用魔法陣が繊維レベルで組み込まれている特注の戦闘服よ。完全な防御力はゼロだけどそれでも致命傷は免れられるほどには丈夫よ」
おお!やっぱちゃんとすげぇじゃん!
「さて、みんな準備万端ね?みんなの楽しい修学旅行を潰した罰、そして私達の家族のローランを苦しめた罰を彼らに受けてもらいましょう!」
『はい!』「おう!」「うん!」
待ってろよ!絶対ぇぶっ倒してやる!
「敵の見当はついているわ。早く彼等を吹き飛ばしましょう」
「落ち着いてリーナ。既に負傷者が出ているの。そうノコノコと自分たちの身を差し出すものじゃありません」
会長の一言で激昂したリーナ先輩が少し声を荒らげる。
「相手はもう動き出したのよ!? それを何もせずに指をくわえて見てろって言うの !?あなた生徒会長なのでしょう!」
リーナ先輩とは対照的に言い寄られてもあくまで冷静に物事を整理して淡々と説明していく。
「私も決して、彼等を倒せれば生徒の命がどうでもいいとは考えていません。……だからこそです。被害を最小限に抑え、極力隠密に素早く解決することを念頭に置いて行動すべきです」
「それをしたところで敵は私たちの都合よく待ってくれるわけないのも事実でしょ!」
正直俺としてはリーナ先輩側の意見なんだけどこればかりは七宮会長の言うことが正しい。俺も一ヶ月前に感情的に動いたせいでみんなに迷惑をかけた。結果として氷翠を助けられたとしても一度俺のせいで死なせてしまっている。俺はそれを繰り返したくはない。
「グラシェール、お前が狼狽えてどうする。後輩が冷静であるのに先輩がそれでは結斗に笑われるぞ?」
「晶……」
拓翔、氷翠、久瀬、俺の順番に目を配らせから深呼吸ををして気分を落ち着かせる。
「そうね、私が取り乱しても仕方ないものね」
「リーナ、落ち着きましたか。私はこの件を団長に伝えてきます。これを私達だけの問題と過ごすわけにはいきません」
会長がそう言って部屋から出ていく。少しして廊下から会長と誰かの話し声が聞こえ、足音が部屋に近づいてくる。ドアが勢いよく開けられると息を荒らげたローランがいた。
「ミラ!」
傷だらけのミラに駆け寄る。
氷翠がさっき俺に言ったようにローラに謝る。
「ミラちゃんは生きてるよ。私が治すはずなのにごめんね」
「氷翠さんの気にすることじゃないよ。彼女が目を覚まさない理由は分かっているからね」
あくまで氷翠は悪くないと安心させるような笑顔で言うとすぐ真剣な顔に戻りミラの身体に手をかざす。
「リメイク・タイプディテクション・エクスチェンジ」
ローランの手の平からミラの体全体へと光が流れ包み込んでいきミラからたちこめていた不穏なオーラが無くなっていき顔色が良くなり、呼吸も安定してきた。
一安心して皆が胸をなでおろしていると、ローランからありえない量の汗が噴き出して近くのベッドに座り込む。
「お、おい。大丈夫か?」
「はは、氷翠さんといい、悠斗君といい、ミラといい、こんな短時間で三人の……しかも伝説級のを相手するとさすがにガタが来るね」
いつも通りのイケメンスマイルを貼り付けているが体全体が震えていて明らかに疲労がピークに達していた。
「おい。俺達はこれから聖剣が封印されていた場所へと向かい、あいつらを倒す。まぁ、俺に負ける程度の剣士ならこの戦いにおいては用無しだが……お前の志しはその程度なのか?」
光崎が疲弊しきっているローランに対してそう言う。
「おい!そんな言い方はないだろ!ローランが何して」
こいつは人一人の命を助けたんだぞ……それなのにその言い草は……!
「悠斗」
拓翔が俺の肩に手を置いて首を横に振る。
「こいつらにはこいつらにしかわからん何かがあるんだろ。それに口出しするもんじゃねぇよ」
「……分かったよ」
俺は二人の間から引き下がる。
「『その剣、その心、虚空に染まるが如く。儚くも確かに』お前も、その剣を使うなら聞いたことがあるだろ。俺からすればお前のことなどどうでもいいが……なんせそこの相方がな、お前を心配してしょうがないらしい」
光崎が顎で指した先はオリヴィエ。
なにか言い争うかと思いきや光崎がそれだけ言い残して部屋から出ていってしまった。
「ローラン様……」
ミラが起きた。ローランのおかげで目立った外傷は見当たらないが、あれだけの傷を負ったせいで体力を酷く消耗してしまっている。
「ミラ、無理して起きなくていいから。ゴートのところに行ったんだよね?ゴートはなんて言ってたんだい?」
そこでようやく自分がどこにいるかと何が起きたのかを思い出したミラが突然涙を流し顔を手で覆う。
「申し訳……ありません。私は父からデュランダルを……デュランダルを受け取り届けうとしました。けれど帰る道中に……神父と悪魔祓いに追われて……奪われてしまいました……」
やっぱりか……あんの野郎!俺達だけじゃなくてミラにまで……まさか他の修学旅行に来てる生徒にまで手ぇ出すつもりじゃないだろうな!ふざけんじゃねぇぞ……。
「分かったよミラ。僕なんかのためにありがとう」
「いいえ、お役に立てず……」
「気にしなくていいから。そもそもこれは僕が自分ですべきことなんだよ。疲れているだろう?ここでゆっくり休むといいよ」
ミラの額の中央を人差し指で軽くつつくとミラの瞼が降りてベッドに倒れる。
「そんなに心配な顔しなくてもいいよ。僕が眠らせただけだから──!?」
全員が突然の光に驚き目を細めながらも発光源に視線を集める。一本の太い光の筋は空にめがけて伸びていて、ミラノ体から感じたものよりもさらに強い嫌悪感と呼べるものが感じられた。そしてそこは俺達が向かうはずだった『聖剣の泉』と呼ばれる場所。
「こんな形で修学旅行の計画が完成しちまうなんてな。ま、俺は行けないんですけどね。悠斗、絶対生きて帰ってこいよ?俺は黒澤だけじゃねぇ、ここにいる生徒全員守ってやるからよ。じゃぁまたな」
拓翔が部屋から出ていく。窓から外にいる拓翔が見え、そしてあいつからはこの距離にいて痺れる程の電気が溢れていた。
先輩の携帯がなり、先輩が携帯をスピーカーにして通話を始める。
『団長にこの件を伝えました。援軍を送ってくれるそうですが……あちらも相当忙しいらしく手配に最低十時間かかってしまうそうです。私達は新條君と共に生徒たちを守ります。残念ですが、純粋な戦闘力ではあなた達には及びませんしね。討伐の決行は夕方、生徒たちをがこのホテルに戻ってからです。それでは』
決行は夕方……俺達はどうすればいいんだろ?
「さて、ローラン、悠斗、舞璃菜。ご飯行きましょうか」
リーナ先輩が疲れ切っているローランの手を取り俺達を昼食に誘う。
「いやいやいや、こんな緊迫した状況で何言ってんすか先輩?」
「そうだよリーナちゃん先輩、私達も何かしないと」
俺と氷翠の批判に意外そうな顔をする。
「だから今からご飯食べるんでしょ?日本にもあるじゃない。『腹が減っては戦ができぬ』これから最高のパフォーマンスをしたいならしっかりとお腹を満たして疲れを取りなさい。休息も戦いのうちよ。今から夕方までは藤舞がなんとかしてくれるから。オリヴィエさんも一緒にどう?」
「え?私も?でも……関係ない人から施しを受ける理由は……」
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「いいじゃないかオリヴィエ、久しぶりの再会なんだから君の話も聞かせてよ」
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「なら行きましょうか」
なんとも納得いかないし、気乗りもしないが……半ば強引に夕方までを楽しんだ。
──◇◇◇──
そして夕方──約束の時間になった。
地下鉄で聖剣の泉手前まで来ている俺達は敵にバレないように草むらの裏に隠れていた。
「先輩、いつまでここにいるんですか?早く倒しに行きましょうよ」
「もう少し待ちなさい。もうすぐ来るから」
「来るって誰がですか?会長が援軍の手配にはかなり時間がかかるって言ってたじゃないですか。待ってないで行きましょうよ」
「あれ?僕が来るって悠斗君達には言ってなかったのかい?」
どこからか結斗さんの声が聞こえた。見渡してもどこにも結斗さんの姿は見えないし気配すら感じない。
「悠斗君、こっちだよこっち。下見て」
聞こえる声のとおりに下を向くと、俺の影から先輩の顔が出ていた。
「うわぁ!結斗さん!?どこにいるんすか!」
「よっと、どこって悠斗君の影じゃないか。いやぁ久しぶりの影移動は疲れるなぁ」
「『影』って……てことはずっと俺の影にいたんすか?」
なるほど、これで合点がいった。結斗さんがいつもいつもなんの前触れもなく現れるのは影にいるからだ。ブレイビンフィールドでも、学校のリーナ先輩の部屋でも、結斗さんは影の中で移動してるから誰にも見つからないのか。
「でも影に隠れてたならもっと早く来てくれても」
「人数はなるべく少ない方がいいだろう?俺は影の中なら瞬間移動に等しい速さで移動できるからね。だからこうやってギリギリまで来なかったんだ」
またまた、この先輩は奇妙な力をお持ちで……。
不思議な先輩の秘密がまたひとつ解けたと納得していると、オリヴィエが結斗さんに話しかける。
「あなたが深那結斗ね?」
「そういう君は、オリヴィエさんだね。晶がお世話になってるようだね」
「そうでもないわよ。それにしても……お互い、厄介な相棒を持ったわね」
なんの話しか分からなかったが結斗さんには伝わったようで薄い笑みを浮かべて首を傾げる。
「まぁその話はおいといて、もうすぐ向かうんだろ?だから団長からこれを貰ってきたよ」
俺の影の中から俺達が着ているのと全く同じ制服が、男子用三着と女子用二着ずつ出てきた。
「ありがとう結斗。さぁ、みんな着替えて。もうすぐ出るわよ」
着替え終わって何か特別な何かがあるかと思いきやそんなこともなかった。
「先輩、この服なんですか?」
「これ?ただの服よ?」
はい!?じゃぁただ着替えただけじゃん!
「嘘よ、そんなに驚いた顔しないの」
「そりゃ驚きますよ!何かあるかと思うじゃないですか」
「これには防御用魔法陣が繊維レベルで組み込まれている特注の戦闘服よ。完全な防御力はゼロだけどそれでも致命傷は免れられるほどには丈夫よ」
おお!やっぱちゃんとすげぇじゃん!
「さて、みんな準備万端ね?みんなの楽しい修学旅行を潰した罰、そして私達の家族のローランを苦しめた罰を彼らに受けてもらいましょう!」
『はい!』「おう!」「うん!」
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