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修学旅行の英雄譚 Ⅰ
File.4 旅行スタート!
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朝食を終えて二日間の自由行動がついに始まる。
「なぁハル、早く行かねぇと時間無くなっちまうぞ?」
他の生徒は皆自分達の計画した場所に向かったが、俺達のグループはまだホテルのエントランスにいた。
「もうちょっと待って、もうすぐ来るはずなんだけど……」
「さっきから誰待ってんだよ?」
エントランスの自動ドアが開いて、一人の女の子が入ってきた。
「お?きたきた、おーい!こっちだぞー」
入口付近で俺たちのことを探していたので手を振って声をかける。一瞬満面の笑みを見せるがすぐに不機嫌そうな顔になりつかつかとこちらに向かって歩いてくる。俺の目も前まで来ると不機嫌そうな顔を顰めて俺の脛を蹴ってきた。
「痛ってぇ!何すんだよ!」
「こんな場所で大声出さないでくれる!?恥ずかしいんだから!」
「だからって人の脛蹴ることないだろ!?」
そんな俺たちのやり取りを見ていた拓翔が訊いてくる。
「痴話喧嘩中わるいけどその人は?」
「これのどこをどう見たら痴話喧嘩になるんだよ……こいつはミラ。リーナ先輩の知り合いの人が送ってくれた今日の案内役だ──イタァッ!だから人の脛蹴るなって!」
俺が横で怒鳴るのを無視して、そして俺には決して見せないだろう柔らかい物腰で拓翔ら二人に自己紹介をする。
「お初にお目にかかります。ミラ・アークノエル、ザスター・メフィスト様の眷属です」
丁寧なお辞儀につられて拓翔と黒澤が戸惑いながらも頭を下げる。
「おい、ここでザスターさんのこと言っても分からないからな?」
耳元でそう言うと、ミラも小声で言い返してくる。
「様をつけなさいよ様を、そんなの分かってるわよ。でも初対面の人の前で挨拶するとついでちゃうんだから仕方ないでしょ?」
はーウゼー、ああ言えばこう言う。なんげこいつはすぐに揚げ足とってくるんだよ?ザスターは気にするなって言ってるけど普通にイライラするわ、なんでこいつ送ってきたんだよほんとに。
「三日ぶりだねミラちゃん、今日はよろしくね」
氷翠がそう挨拶すると、柔和な笑みを見せる。
「舞璃菜さん、先日はどうもお世話になりました。あの時はつい甘えてしまって……」
「いいよぉ気にしなくて、私も楽しかったしまた一緒しようね?」
「もちろん」
氷翠を最後に話がまとまったっぽいので出発するように催促する。
「挨拶は済んだか?ミラも来てくれたことだし出発するぞ?」
「おっしゃ、修学旅行二日目、三日目の自由行動、楽しんでくぞー!」
「「「「オー!」」」」
そう拓翔が音頭をとってようやく俺達の修学旅行がはじまる。
「それで?今日はどこを見て回るおつもりですか?フランスは広いです。二日間と言っても限界はありますので」
「俺達が回るのはここら辺にある露店と、モンサンミッシェルと聖剣の泉とその洞窟、あとはどこでもいいよ。とりあえずこの三つは絶対行きたいって感じだな。行けるかな?」
ミラは目的地を何度も呟きながら考えると、頷いてこれからの動きを教えてくれる。
「それなら今日は露店巡りをしましょう。そこを抜けた先に美術館があります。ゆっくりとお土産でも選びながら行けばいいでしょう」
俺を含める四人もその意見に賛同して今日の動きが決定した。
───露店巡り mens'side
「長い、そして人が多いな。今日平日なのにこんなに人いるのかよ」
「全長約二キロ、平日は八千、休日は一万五千人が行き来する。この地域最大の商店街です。ここにいるだけで一日を過ごせますよ?」
ミラがそう説明をくれる。
二キロ!?よくよく見ると奥の方に建物がうっすらと見えるけどあれが目的地の美術館か?
「この人混みの中を歩くの?ごめんなさい、私もうリタイアしていい?」
黒澤は既にぐったりとしていた。
「おいおいまだ入ってもねぇのに疲れるなよ?荷物なら俺が持ってやるからよ」
拓翔はいつもと変わらず元気だ、こういう時にこいつみたいな元気さが羨ましい。
「ねーねーここで留まってないで早く行こうよ」
「そうですね、お土産とかはここで買ってしまいましょう。皆さんの求める物ほとんどが揃ってると思いますよ?」
そうしてミラを先頭に五人で商店街の中を歩いていく。どこを見ても日本じゃ見ないような食べ物やアクセサリー、小物が売られている。五人揃って気になる店に入ったり、腰を落として商品を眺める。
「へぇーこんなん売ってんのか、おっ?こっちのやつかっけぇな。俺これ買おっかな?」
俺と一緒に品物が置かれたシートの前にしゃがんでいる拓翔は色々手に取りながら、品定めをしている。
「おい、売り物をそんなにベタベタ触るんじゃねぇよ。買うならまだしも、おっちゃんに失礼だろ?」
「ハッハッハッ、気にしなくていいよ別に、俺としてはそうやって楽しんでもらえる方が嬉しいからね?」
目の前であぐらをかいて座る四十代くらいのナイスミドルは、朗らかに笑ってそう言う。
「決めた!おっちゃん、俺これにするよ」
そう言って手に取ったのは虎を象ったキーホルダー、その胴体部分にちいさな文字で「Bête tonnerre」と書かれている。
「まいど、坊主ら東洋人か?しかも学生と見えるが?」
「日本人ですよ。学校の行事で来ました。ところでこれなんて読むんですか?」
虎の胴をおっちゃんに見せて訊く。
する両手を鉤爪状にして答えてくれた。
「それはアジアの方で『雷獣』を意味する。昔中国に行った時に見つけてな、試しに自分で作ってみたんだよ」
雷獣か、拓翔にピッタリなんじゃないのか?
拓翔も俺と同じことを思ったのか、興味深そうにキーホルダーを見つめる。
「へぇ、おっちゃんありがとう。大事にするよ」
「おう、また縁があったらな」
「長い間居座ってすみませんでした」
俺達が立ち去ろうとすると、おっちゃんに呼び止められる。
「ちょっと待てちょっと待て」
自分のポケットに手を突っ込んでまさぐり、取り出したのはなにかの破片。それを笑顔で俺に渡す。
「な、なんですかこれ?怪しいものじゃないですよね?」
「いいから受け取ってくれ、売りもんじゃねぇし金は取らねぇよ」
どう見てもただの破片なので喜んでいいのか分からず……。
「ありがとうございます?」
「おう!じゃぁまたな」
そうして露店から離れて氷翠達と合流し、次の店に向かう。昨日の夜にここで全員買い物を済ませると話しているので今日の買い物は実質これで終わり。
───雑貨屋 girls'side
さっきまで五人で見て回っていたが、男子共が露店に屯し始めたのを見て自分達は道を挟んで反対側の雑貨屋に入ることにした。
内装はまあまあ凝っており、店内に流れる音楽が落ち着いた雰囲気を醸し出して今の若者の心を見事に掴んでいる。言い方は悪いかもしれないが確かにここなら店の雰囲気に流されて何か買ってしまうだろう。そう、まるで目の前の氷翠さんのように。
「待ちなさい氷翠さん、決めるには早すぎるわよ?」
品物を手に取り速攻でレジに向かおうとしていた彼女の肩に手を置きストップをかける。
「いやいやそんなことないよ?ちゃんと考えたって」
まっぴらな嘘だ。誰が見ても三秒と満たない間に会計を済ませようとしていた。噂ではどこかのお嬢様らしいが、感覚が私達一般市民とはやはりずれているらしい。
「あなたこの修学旅行にいくら持ってきたの?」
日本のお嬢様が一体いくら持ってきているのかなんとなく興味が湧いたのでそう聞いてみる。途中まで数えていた氷翠さんだが、面倒くさくなったのか財布の中身をそのまま見せてくれた。
「あまり人に財布を見せるものじゃ───」
呆れながらも財布の中を見た途端に思考が停止したのがわかった、財布には日本円で数十万入っている。紙幣だけでそれだけあるのだから、小銭を合わせるといくらになるのか……。自分の財布の中身は数万程度しか入っていない。
「お父さんがね?修学旅行のこと話したらこれだけくれたんだ」
分かった、感覚がずれているのはこ氷翠さんじゃなくて彼女の親だ。
「杏美ちゃん?どうしたの?」
『常識』という概念に囚われトリップしている私の顔を覗き込んでくる。そのおかげで抜け出すことができた。
よくよく見ると結構可愛いわよねこの子、決して発育がいいわけではないがこじんまりした体にはしっかりと女性らしいラインが見えるし、日本人だとは思えない瑠璃色の眼もとても綺麗だ。黙っていればほとんどの人には美少女に写るだろう。黙っていれば……。
「どっちなの?」
最近際神と新條の二人といるのをよく見かける。ほかの女子とはあまり話さず、この三人はよくつるんでいる。そうなればどっちなのかは気になって当然、けれど聞いても首を傾げるだけで何も答えない。
「…………やっぱりなんでもない。こんな所で屯しているとほら、男子共が待ってるわよ?」
店の入口付近で際神と新條が話している、女子の買い物は長いとよく言われるけど、あの二人はもう少し楽しんでもいいのでは?
「黒澤さん、あなたは何も買わないのですか?」
ミラさんが自分の鞄にビニール袋を押し込みながらそう聞いてくる。
「私そんなにお金ないのよ。最後に向かうお店で済ませるから気にしないで」
とゆうかあなたも衝動買いしたのね。しっかりしてそうな見た目してるけどもしかしてだけど中身ポンコツなのかしら?
「む?黒澤さん、あなた今失礼なこと考えてましたね?」
「そんなことないわよ。ほら、用が済んだのならはやく行きましょ?」
二人でお店から出ようとするとレジの方から声がかかる。
「二人ともちょっと待って!これだけお会計済ませるから」
その手にはさっき手に取っていた物と+αでいくつかの品物が抱えられていた。
いつの間にそんなに……いや、あれだけのお金があるわけだし杞憂だったか。
あれ?私だけこのお店で何もしてない……?まぁいいか、もともとこの旅行自体乗り気じゃないしね。
「ごめんお待たせー」
氷翠さんが戻ってきたので私達は店を後にして二人の元に向かった。
「うわ、氷翠お前どんだけ買ったんだよ」
氷翠さんの荷物を見た際神はそう驚きながらも荷物の大半をかっぱらう。
「全部欲しかったんだもん」
特にそれに対してとやかく言うことも無く自然に二人並んで歩き出す。
それに早足で近付いて並ぶ新條。
「あの三人、仲がいいですね」
不意にミラさんが私にそう話しかける。
「そうね、見てて恥ずかしくなるくらいにね」
「おーい!黒澤!ミラ!置いてくぞ!」
前方の際神がこっちに手を振っている。
「あなたは混ざらなくていいんですか?」
「いいのよ別に、私にはあんなキャッキャウフフな空間無理だわ」
そう言うとミラさんは少し意地の悪い笑顔を見せて言う。
「その割には嬉しそうに見えますけどね?」
そんな馬鹿な、昨日初めて会って初めて話した人達に思い入れするわけがない。……まぁでも、少しくらいならいてやってもいいかな?
「あー、うるさいわよ際神!ただでさえ人が多くてしんどいんだから大声出さないでちょうだい!」
これまで友達なんて作ったこともなかったし私自身ローラン君一筋で周りなんて見てこなかったけど……こういうのもたまには悪くわないわね。
「なぁハル、早く行かねぇと時間無くなっちまうぞ?」
他の生徒は皆自分達の計画した場所に向かったが、俺達のグループはまだホテルのエントランスにいた。
「もうちょっと待って、もうすぐ来るはずなんだけど……」
「さっきから誰待ってんだよ?」
エントランスの自動ドアが開いて、一人の女の子が入ってきた。
「お?きたきた、おーい!こっちだぞー」
入口付近で俺たちのことを探していたので手を振って声をかける。一瞬満面の笑みを見せるがすぐに不機嫌そうな顔になりつかつかとこちらに向かって歩いてくる。俺の目も前まで来ると不機嫌そうな顔を顰めて俺の脛を蹴ってきた。
「痛ってぇ!何すんだよ!」
「こんな場所で大声出さないでくれる!?恥ずかしいんだから!」
「だからって人の脛蹴ることないだろ!?」
そんな俺たちのやり取りを見ていた拓翔が訊いてくる。
「痴話喧嘩中わるいけどその人は?」
「これのどこをどう見たら痴話喧嘩になるんだよ……こいつはミラ。リーナ先輩の知り合いの人が送ってくれた今日の案内役だ──イタァッ!だから人の脛蹴るなって!」
俺が横で怒鳴るのを無視して、そして俺には決して見せないだろう柔らかい物腰で拓翔ら二人に自己紹介をする。
「お初にお目にかかります。ミラ・アークノエル、ザスター・メフィスト様の眷属です」
丁寧なお辞儀につられて拓翔と黒澤が戸惑いながらも頭を下げる。
「おい、ここでザスターさんのこと言っても分からないからな?」
耳元でそう言うと、ミラも小声で言い返してくる。
「様をつけなさいよ様を、そんなの分かってるわよ。でも初対面の人の前で挨拶するとついでちゃうんだから仕方ないでしょ?」
はーウゼー、ああ言えばこう言う。なんげこいつはすぐに揚げ足とってくるんだよ?ザスターは気にするなって言ってるけど普通にイライラするわ、なんでこいつ送ってきたんだよほんとに。
「三日ぶりだねミラちゃん、今日はよろしくね」
氷翠がそう挨拶すると、柔和な笑みを見せる。
「舞璃菜さん、先日はどうもお世話になりました。あの時はつい甘えてしまって……」
「いいよぉ気にしなくて、私も楽しかったしまた一緒しようね?」
「もちろん」
氷翠を最後に話がまとまったっぽいので出発するように催促する。
「挨拶は済んだか?ミラも来てくれたことだし出発するぞ?」
「おっしゃ、修学旅行二日目、三日目の自由行動、楽しんでくぞー!」
「「「「オー!」」」」
そう拓翔が音頭をとってようやく俺達の修学旅行がはじまる。
「それで?今日はどこを見て回るおつもりですか?フランスは広いです。二日間と言っても限界はありますので」
「俺達が回るのはここら辺にある露店と、モンサンミッシェルと聖剣の泉とその洞窟、あとはどこでもいいよ。とりあえずこの三つは絶対行きたいって感じだな。行けるかな?」
ミラは目的地を何度も呟きながら考えると、頷いてこれからの動きを教えてくれる。
「それなら今日は露店巡りをしましょう。そこを抜けた先に美術館があります。ゆっくりとお土産でも選びながら行けばいいでしょう」
俺を含める四人もその意見に賛同して今日の動きが決定した。
───露店巡り mens'side
「長い、そして人が多いな。今日平日なのにこんなに人いるのかよ」
「全長約二キロ、平日は八千、休日は一万五千人が行き来する。この地域最大の商店街です。ここにいるだけで一日を過ごせますよ?」
ミラがそう説明をくれる。
二キロ!?よくよく見ると奥の方に建物がうっすらと見えるけどあれが目的地の美術館か?
「この人混みの中を歩くの?ごめんなさい、私もうリタイアしていい?」
黒澤は既にぐったりとしていた。
「おいおいまだ入ってもねぇのに疲れるなよ?荷物なら俺が持ってやるからよ」
拓翔はいつもと変わらず元気だ、こういう時にこいつみたいな元気さが羨ましい。
「ねーねーここで留まってないで早く行こうよ」
「そうですね、お土産とかはここで買ってしまいましょう。皆さんの求める物ほとんどが揃ってると思いますよ?」
そうしてミラを先頭に五人で商店街の中を歩いていく。どこを見ても日本じゃ見ないような食べ物やアクセサリー、小物が売られている。五人揃って気になる店に入ったり、腰を落として商品を眺める。
「へぇーこんなん売ってんのか、おっ?こっちのやつかっけぇな。俺これ買おっかな?」
俺と一緒に品物が置かれたシートの前にしゃがんでいる拓翔は色々手に取りながら、品定めをしている。
「おい、売り物をそんなにベタベタ触るんじゃねぇよ。買うならまだしも、おっちゃんに失礼だろ?」
「ハッハッハッ、気にしなくていいよ別に、俺としてはそうやって楽しんでもらえる方が嬉しいからね?」
目の前であぐらをかいて座る四十代くらいのナイスミドルは、朗らかに笑ってそう言う。
「決めた!おっちゃん、俺これにするよ」
そう言って手に取ったのは虎を象ったキーホルダー、その胴体部分にちいさな文字で「Bête tonnerre」と書かれている。
「まいど、坊主ら東洋人か?しかも学生と見えるが?」
「日本人ですよ。学校の行事で来ました。ところでこれなんて読むんですか?」
虎の胴をおっちゃんに見せて訊く。
する両手を鉤爪状にして答えてくれた。
「それはアジアの方で『雷獣』を意味する。昔中国に行った時に見つけてな、試しに自分で作ってみたんだよ」
雷獣か、拓翔にピッタリなんじゃないのか?
拓翔も俺と同じことを思ったのか、興味深そうにキーホルダーを見つめる。
「へぇ、おっちゃんありがとう。大事にするよ」
「おう、また縁があったらな」
「長い間居座ってすみませんでした」
俺達が立ち去ろうとすると、おっちゃんに呼び止められる。
「ちょっと待てちょっと待て」
自分のポケットに手を突っ込んでまさぐり、取り出したのはなにかの破片。それを笑顔で俺に渡す。
「な、なんですかこれ?怪しいものじゃないですよね?」
「いいから受け取ってくれ、売りもんじゃねぇし金は取らねぇよ」
どう見てもただの破片なので喜んでいいのか分からず……。
「ありがとうございます?」
「おう!じゃぁまたな」
そうして露店から離れて氷翠達と合流し、次の店に向かう。昨日の夜にここで全員買い物を済ませると話しているので今日の買い物は実質これで終わり。
───雑貨屋 girls'side
さっきまで五人で見て回っていたが、男子共が露店に屯し始めたのを見て自分達は道を挟んで反対側の雑貨屋に入ることにした。
内装はまあまあ凝っており、店内に流れる音楽が落ち着いた雰囲気を醸し出して今の若者の心を見事に掴んでいる。言い方は悪いかもしれないが確かにここなら店の雰囲気に流されて何か買ってしまうだろう。そう、まるで目の前の氷翠さんのように。
「待ちなさい氷翠さん、決めるには早すぎるわよ?」
品物を手に取り速攻でレジに向かおうとしていた彼女の肩に手を置きストップをかける。
「いやいやそんなことないよ?ちゃんと考えたって」
まっぴらな嘘だ。誰が見ても三秒と満たない間に会計を済ませようとしていた。噂ではどこかのお嬢様らしいが、感覚が私達一般市民とはやはりずれているらしい。
「あなたこの修学旅行にいくら持ってきたの?」
日本のお嬢様が一体いくら持ってきているのかなんとなく興味が湧いたのでそう聞いてみる。途中まで数えていた氷翠さんだが、面倒くさくなったのか財布の中身をそのまま見せてくれた。
「あまり人に財布を見せるものじゃ───」
呆れながらも財布の中を見た途端に思考が停止したのがわかった、財布には日本円で数十万入っている。紙幣だけでそれだけあるのだから、小銭を合わせるといくらになるのか……。自分の財布の中身は数万程度しか入っていない。
「お父さんがね?修学旅行のこと話したらこれだけくれたんだ」
分かった、感覚がずれているのはこ氷翠さんじゃなくて彼女の親だ。
「杏美ちゃん?どうしたの?」
『常識』という概念に囚われトリップしている私の顔を覗き込んでくる。そのおかげで抜け出すことができた。
よくよく見ると結構可愛いわよねこの子、決して発育がいいわけではないがこじんまりした体にはしっかりと女性らしいラインが見えるし、日本人だとは思えない瑠璃色の眼もとても綺麗だ。黙っていればほとんどの人には美少女に写るだろう。黙っていれば……。
「どっちなの?」
最近際神と新條の二人といるのをよく見かける。ほかの女子とはあまり話さず、この三人はよくつるんでいる。そうなればどっちなのかは気になって当然、けれど聞いても首を傾げるだけで何も答えない。
「…………やっぱりなんでもない。こんな所で屯しているとほら、男子共が待ってるわよ?」
店の入口付近で際神と新條が話している、女子の買い物は長いとよく言われるけど、あの二人はもう少し楽しんでもいいのでは?
「黒澤さん、あなたは何も買わないのですか?」
ミラさんが自分の鞄にビニール袋を押し込みながらそう聞いてくる。
「私そんなにお金ないのよ。最後に向かうお店で済ませるから気にしないで」
とゆうかあなたも衝動買いしたのね。しっかりしてそうな見た目してるけどもしかしてだけど中身ポンコツなのかしら?
「む?黒澤さん、あなた今失礼なこと考えてましたね?」
「そんなことないわよ。ほら、用が済んだのならはやく行きましょ?」
二人でお店から出ようとするとレジの方から声がかかる。
「二人ともちょっと待って!これだけお会計済ませるから」
その手にはさっき手に取っていた物と+αでいくつかの品物が抱えられていた。
いつの間にそんなに……いや、あれだけのお金があるわけだし杞憂だったか。
あれ?私だけこのお店で何もしてない……?まぁいいか、もともとこの旅行自体乗り気じゃないしね。
「ごめんお待たせー」
氷翠さんが戻ってきたので私達は店を後にして二人の元に向かった。
「うわ、氷翠お前どんだけ買ったんだよ」
氷翠さんの荷物を見た際神はそう驚きながらも荷物の大半をかっぱらう。
「全部欲しかったんだもん」
特にそれに対してとやかく言うことも無く自然に二人並んで歩き出す。
それに早足で近付いて並ぶ新條。
「あの三人、仲がいいですね」
不意にミラさんが私にそう話しかける。
「そうね、見てて恥ずかしくなるくらいにね」
「おーい!黒澤!ミラ!置いてくぞ!」
前方の際神がこっちに手を振っている。
「あなたは混ざらなくていいんですか?」
「いいのよ別に、私にはあんなキャッキャウフフな空間無理だわ」
そう言うとミラさんは少し意地の悪い笑顔を見せて言う。
「その割には嬉しそうに見えますけどね?」
そんな馬鹿な、昨日初めて会って初めて話した人達に思い入れするわけがない。……まぁでも、少しくらいならいてやってもいいかな?
「あー、うるさいわよ際神!ただでさえ人が多くてしんどいんだから大声出さないでちょうだい!」
これまで友達なんて作ったこともなかったし私自身ローラン君一筋で周りなんて見てこなかったけど……こういうのもたまには悪くわないわね。
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