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修学旅行の英雄譚 Ⅰ
敵か?味方か?
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その日の夜、なんとなく目が覚めた。なんで目が覚めたかと聞かれてもなんとなく目が覚めたとしか言えない。今そう言ったし……いやごめん嘘ついた、よくよく考えたらちゃんと理由あったわ。この近くで嫌な感じがしたんだ。
『なんだ、お前も感じたのか?』
一瞬ゾワっとしたというか……空間全体から監視されてるみたいな?
『その感覚は正しいな。しかし……いや、その可能性は十分にありえるな。相棒、少し外に出るぞ。俺達のことを知っているお客さんだ』
俺のことを知ってる?俺のライバルってやつか?
『いいや、俺達ではなくお前達のライバルと言った方が正しいな』
どういうことだ?
全く意味が分からないままアジ・ダハーカに言われた通りにホテルの外に出る。今はちょうど四時頃だが外はまだ少し暗い。
ホテルから出て真っ直ぐ歩いていると門の傍にローブを纏い、一本ずつ帯刀した二人が立っていた。よくよく見るとそのうちの一人が俺と同じ制服を着た青年を担いでいた。
二人に駆け寄り、無言で渡されたローランを引き取る。確認するが完全に気を失っていた。
「ありがとうございます、あの、あんた達は一体?というよりもなんでここって分かったんだ?」
顔を見合わせたあと、片方が口を開く。
「禁龍」
「なっ!」
その場から飛び退き戦闘態勢をとる。
おい、どういうことだよ?何もんだあいつら?
『だから言っただろう?俺達のことを知っていてお前達のライバルだと』
チッ、そういうことかよ。
相手がどう出るか伺っていたが、相手は両手を上げて戦う意思がないことを示す。
「待ってくれ、俺達はお前とやり合おうなんて気はさらさら無い。それによく考えてみろ?ここでお前が本気を出したらこの建物が崩壊する」
男だったのか、フードのせいで分かりずらいな。
もう片方の人が男に話しかける。
「ねぇ、早く帰りましょうよー。この人をここに届けるってのは別に私たちの仕事じゃないでしょ?まだ仕事終わってないんだからあなたの変な正義感に付き合ってる余裕なんてないのよ?」
フードを取った顔と声で女だとわかった、しかも年齢はおそらく俺と同じくらい。
俺は戦闘態勢を解いて二人に話しかける。
「ここじゃなんだし俺の部屋に来てくれ、話すならそこでだ」
すると男は黙ってホテルの入口に向かって歩き始めた。
「ねぇ!だから仕事があるでしょって!」
女の方もそれについて行く。
俺はこの二人を不思議に思いながらもローランを担いで拓翔が寝ている部屋へと向かった。
部屋に到着して、二人を適当な場所に座るように促す。ローランをベットに寝かせてから話を切り出す。
「それで?ローランを助けてくれたっぽいからそこは感謝するけど、俺に接触してきた理由はなんだ?明らかに俺に向けての気配だっただろ?」
拓翔が起きないようになるべく小声で話す。
「俺たちの任務は異端者の排除と禁龍との接触だ。あのものはついでだ」
異端者の排除と聞いた途端に悠斗から魔力が溢れる。
「氷翠か?」
それを見た男はふっと笑った。
「たいしたプレッシャーだな、確かにこれならルビナウスごとき相手にならないか」
「なんでそれを知ってる?」
「言っただろう?俺達の任務は異端者の排除だと。ルビナウスの傍に神父服の男はいなかったか?」
「…………いた」
「教会の上層部はあの男を危険視している。なに、氷翠様の所のお嬢様には手は出させないさ。俺は彼女に個人的な恩があるからね。話がそれたな、だからお前達にはこのことをしておくべきだと判断した。この話を信じるか信じないかはお前の自由だが……」
そのまで話すと急に黙り込んで考え事を始めた。隣の女を方はため息をついている。
「な、なんだよ?」
すると女の方が両手を合わせて謝ってきた。
「ごめんね?彼すごくマイペースで、こうやって突拍子もなく黙りこんだりするのよ」
「なぜお前が謝るんだ。禁龍、可能ならば俺達に協力してはくれないだろうか?俺達は奴の素性を知っているわけではないし、バックには強大な組織がいるという。正直俺達だけで成せる任務だとは思えない。それに君にはやつに思う部分もあるだろう?」
なるほど、一理あるな。しかもその言い分だと一応異端者の排除として氷翠のことも諦めたわけではない……か。
「分かった、俺も協力する。それにこのことはそこで寝てる二人ともう一人のやつにも伝えておくけどそれでいいか?」
「構わない、こちらとしても協力者が多いに越したことはない。俺は光崎晶、教会のエージェントだ。こっちは真希オリヴィエ、同じく教会のエージェント」
「俺は際神悠斗、そこで寝てるのが新條拓翔、あんたたちが助けてくれたのがローランだ」
「それで、早速今日のことだが」
そこで静止がかかる。俺達のやりとりを止めたのは隣にいる真希オリヴィエ。
「ちょっと!ちょっと!何勝手に話進めてるのよ!?この人ただの部外者でしょ?勝手に巻き込むなんて!」
「よく考えてみろ、この事件で俺達より先に配属されたエージェントが三人も殉職しているんだぞ?下手したら全滅、よくて共倒れだ」
「それでも教会のため、主のためにと思ってここまで来たんじゃないの!」
「だがこれで俺達が死ねば結局それがいずれ相手側の利潤となってしまうのもそうだろ?なら誰でもいいから協力を仰ぎ、少しでも生存率を上げるのが得策だ」
「なるほど、それでうちのハルをあわよくば贄にしようと?流石にそれは見過ごせねぇなぁ?」
ベットの方から拓翔がそう言う。いつの間に起きていたのか俺達がいる席に座り、光崎を睨む。
「拓翔、起きてたのかよ」
「いうても途中からな?全貌はよく見えねぇけどこいつがまともなこと考えてないってことだけは分かった」
すると次はローランの声が、
「そうだね、それに彼を殺すのは僕だ。君達に邪魔はさせない」
鋭く、冷たい目をしている。初めてローランが俺を助けてくれた時と全く同じ目だ、何かとても危険な色を含んでいる。だが光崎はそれを気にもとめず、むしろそれを可笑しそうに笑う。
「ふっ、君は一度ステインに負けているじゃないか、そんな君がもう一度やつと戦って勝てるとでも?」
ローランは亜空間から剣を取りだして光崎に言う。
「そこまで言うなら今から勝負しようか?これでもし僕が勝てば僕の好きにさせてもらうし、負ければ個人的な感情を抑えて君たちに協力しよう」
光崎は立ち上がり剣の柄を見せる。
「いいよ、なら屋上にでも行こうか。外は人目がつくからね」
そして屋上。
「際神、どういうことこれ?」
今ここにいるのは俺、拓翔、真希オリヴィエ、対峙しているローランと光崎晶、そして久瀬。
「だからな、この二人がローランをここに連れてきて、そのうちの一人とローランが戦うことになったの」
「いやだから俺が言いたいのはそういうことじゃなくて、なんで戦うことになってんだってことだよ」
「なんでって聞かれてもローランが戦おうって言ったからとしか……?」
悪いけどこいつにまでローランのことは教えられない。一週間ほど、主に手合わせのみでの交流だけど、なんとなくこいつは俺と同じ感じがする。
「だーもう!俺はそこを聞いてんだってぇの!」
久瀬は頭を抱える。
「ちょっと貴方達!そろそろ始まるからちゃんと見なさいよ!」
「お前ら朝っぱらから元気だな。なぁ、俺帰っていいかな?」
「なに言ってるのよ!ダメに決まってるでしょ!?」
俺達のやり取りを見て叱るオリヴィエ、それを眠たそうに見る拓翔、部屋に戻ろうとする拓翔を引き止めるオリヴィエ……ここにいる四人にはあの部屋でのシリアスさは全く無かった。
突然、俺たち四人をプレッシャーが襲う。ローランと光崎の方を見ると、互いに剣気を発していた。
ローランの実力も正直測れたものじゃないけど、光崎もなかなかの強者だぞ?ほんとにあいつに勝てるのかよ?
「始まるわよ」
違うことで悩んでた久瀬も、帰りたがっていた拓翔も、真剣に二人の勝負を見る。俺も同じく。
お互い同時に剣を抜く、ローランは二本の直剣、そして光崎は……なんだあの剣?見るだけで寒気がするんだけど、しかも戦うための剣にしては綺麗すぎる。
「あれは『宝剣』トゥーンウィング。あの剣に散りばめられた宝石全てに破魔の力が封じられているわ。『魔』に関わるもの全てがあの剣に切られる」
オリヴィエがそう説明をくれる。そんな剣、ローランに当たったらひとたまりもないじゃないか!
「つまりあいつらの勝負は一撃だってことか、ハル、どうしよう?俺、すげぇワクワクしてきた」
もともと試合とかが大好きな拓翔はこの一撃で決まる勝負を楽しみにしている。
「あのなぁ新條、これは真剣な試合なんだぞ?もっと気を引きしめないとダメだろ?」
そう注意する久瀬も目は輝いている。お前ら揃って試合好きすぎるだろ。
それよりも俺が気になるのはローランのスタイルだ、あいつが二刀で戦うところなんて見たことない。俺が前に「何本も剣持ってるけど多刀で戦わないのか?」と聞いた時にローランは笑って「二刀以上を扱うのは難しいんだよ、僕はまだ練習段階さ、使えるようになれば戦いの幅はかなり広がるけどね」と言っていたんだ。それなのに一発くらえば終わる戦いでそんな中途半端なものを、どうして?
そんなことを考えているとついに両者がほぼ同時に動きだした。
剣を引く火花が、密な聖なるオーラが尾を引き、二人の軌跡を描いていく。この前の合宿で目が速さにだいぶ慣れたので二人の行動はなんとなく分かる。
「どうした!逃げてばかりでは勝てんぞ!」
自身にとって一撃必殺の威力を持つトゥーンウィングを相手に消極的な戦い方をするが、光崎はそれ以上の気迫でローランに迫ってく。
「僕が君から逃げながら戦うことに何も間違いは無いと思うけど?」
自身に迫る刃を片方の剣で防ぎ、受け流しながらもう片方の剣で対抗するが、光崎の手にする剣とローランの剣ではそれ自体に差がありすぎる。しかも慣れない二刀のせいでローランの動きはぎこちなく見え、いつ崩されてもおかしくない状態だ。
縦横無尽に駆け回る軌跡が互いに正面からぶつかり、二人の姿がはっきりと現れる。
まだまだ余裕そうな光崎に対しローランはかなり疲弊した様子だ。
「あのね、聖剣というカテゴリーに属する武器は貴方達にとって天敵、だからそこにあるだけで精神的ダメージを負わせるのよ、それを相手にあんな緊迫した高速の戦いをしてたらどっちが先に尽きるかなんて目に見えてるわ」
「じゃぁこの勝負は最初から光崎が有利だったってことかよ」
「そうなるわね」
バギンッ!と金属が折れる音がした。鍔迫り合いをしていたローランの剣のうち一本が折られてしまった。それを見たローランは焦りを見せ始め、一旦光崎から距離を取る。離れる瞬間にトゥーンウィングが脇すれすれを通るが、それが当たることは無かった。しかし反対に光崎の頬には刀傷ができていた。頬から出る血を拭い鼻を鳴らす。
「どうした?もう降参か?魔法使いと悪魔共はこうも小賢しい連中ばかりだ」
光崎の後ろの壁にはフルーツナイフほどの大きさの短剣が突き刺さっている、そしてローランの左手にはそれと同じ物が握られていた。
「咄嗟に投げたんだけどね、流石に躱すか」
「剣士のくせして飛び道具か、俺を見たり、逃げ回ったりと、戦い方が俗すぎる。まるでゲリラだな」
それを聞いたローランは肩をすくめて笑う。
「メフィストフェレスとの戦いでも同じことを言われたよ。なんとも僕が戦う相手って観察力がいいというか、勘が鋭いというか……そういう君だって教会で育てられた戦士の戦い方とは外れているよね?そうだな……僕が勝ったらそこら辺も教えてもらうよ」
そう言って剣を構える、今度は直剣一本を持ちその剣を後ろに下げる。足を開き左手を前に、半身になって腰を落とす。
その構えを見た光崎は驚き、しかし剣を真っ直ぐ構える。
「おまえがそれを使うのか、面白い!」
トゥーンウィングのオーラを全身に纏い、宝石全てを輝かせる。それはとても眩しく直視することができない。
「うわ!何だこれ!?前が……!」
「おいハル!どうなってんだよ!」
黙って勝負の行方を見ていた二人も急な輝きに後ずさる。
「貴方達、死にたくなければ私の後ろに隠れてなさい。あれを直に浴びれば今の貴方達の実力じゃぁ消滅するわ」
俺達がオリヴィエの後ろに隠れると彼女は腰から剣を抜く。その剣先から白いオーラが溢れ出し盾の形を作る。
「向こうも俺の攻撃に耐える用意はできたようだな」
どういうことかと一瞬俺達の方を向くと、何を見たのかローランは目を見開く。でもそれも一瞬で、意識を目の前の光崎に戻した。
「さて、それじゃぁいかせてもらうよ?」
深呼吸をして一歩、力強く踏み込む。
「六道五輪──七・虚穿」
たった一歩の踏み込みで光に包まれた光崎に近寄り、そのまま水平に剣を振り切る。剣先が音の壁を超えて空気を切り裂く時の鋭い音が聞こえ、耳が耐えられないと見ていた四人は耳を塞ぐ。
二人の距離が触れ合うすれすれまで近づいた時、光崎はトゥーンウィングをコンクリートに突き立てた。
光と音が止んで視覚と聴覚を取り戻す。その直後に見たのは密着した状態で鳩尾部分に刀身を打ち込み、打ち込まれた二人の姿。
「────」
光崎が耳元で何かを囁くと、ローランはそのまま目を閉じ倒れた。
……嘘だろ?ローランが負けた?あの速さについてこれるとかローランの特性を完全に封じたようなもんじゃねぇかよ。
「さて、勝負も着いたし俺達はここで帰らせてもらう。約束だ、俺達に協力してもらう」
そう言って柵から飛び降りる。
「ちょっと待ってよ!」
オリヴィエもそれに続いて柵から飛び降りた。
「おいここ屋上だぞ!」
二人の安否確認のために柵から身を乗り出して下を見るが、二人の姿はもうなかった。
今日の……あれ?何時だっけ?時間決めるの忘れてた……まぁいいか、どうせまた俺達の前に出てくるだろ。
「部屋に戻るぞー。久瀬、ローラン運ぶの手伝ってくれ」
「はいよ」
時計を確認するとだいたい五時、まだ起床時間まで時間があるのでどうするか相談したあと、目を覚まさないローランを久瀬の部屋まで運び、俺たち三人はこれからのことを話し合い、もう一度屋上に出て軽く手合わせをした。
ローランの反応といい光崎の態度といい、気になることがありすぎだ。とりあえず今はこれから始まる氷翠の護衛に励みますか。待てよ?この件を光崎に相談したら意外と協力してくれそうじゃね?またあいつら見つけたら言ってみるか。
『なんだ、お前も感じたのか?』
一瞬ゾワっとしたというか……空間全体から監視されてるみたいな?
『その感覚は正しいな。しかし……いや、その可能性は十分にありえるな。相棒、少し外に出るぞ。俺達のことを知っているお客さんだ』
俺のことを知ってる?俺のライバルってやつか?
『いいや、俺達ではなくお前達のライバルと言った方が正しいな』
どういうことだ?
全く意味が分からないままアジ・ダハーカに言われた通りにホテルの外に出る。今はちょうど四時頃だが外はまだ少し暗い。
ホテルから出て真っ直ぐ歩いていると門の傍にローブを纏い、一本ずつ帯刀した二人が立っていた。よくよく見るとそのうちの一人が俺と同じ制服を着た青年を担いでいた。
二人に駆け寄り、無言で渡されたローランを引き取る。確認するが完全に気を失っていた。
「ありがとうございます、あの、あんた達は一体?というよりもなんでここって分かったんだ?」
顔を見合わせたあと、片方が口を開く。
「禁龍」
「なっ!」
その場から飛び退き戦闘態勢をとる。
おい、どういうことだよ?何もんだあいつら?
『だから言っただろう?俺達のことを知っていてお前達のライバルだと』
チッ、そういうことかよ。
相手がどう出るか伺っていたが、相手は両手を上げて戦う意思がないことを示す。
「待ってくれ、俺達はお前とやり合おうなんて気はさらさら無い。それによく考えてみろ?ここでお前が本気を出したらこの建物が崩壊する」
男だったのか、フードのせいで分かりずらいな。
もう片方の人が男に話しかける。
「ねぇ、早く帰りましょうよー。この人をここに届けるってのは別に私たちの仕事じゃないでしょ?まだ仕事終わってないんだからあなたの変な正義感に付き合ってる余裕なんてないのよ?」
フードを取った顔と声で女だとわかった、しかも年齢はおそらく俺と同じくらい。
俺は戦闘態勢を解いて二人に話しかける。
「ここじゃなんだし俺の部屋に来てくれ、話すならそこでだ」
すると男は黙ってホテルの入口に向かって歩き始めた。
「ねぇ!だから仕事があるでしょって!」
女の方もそれについて行く。
俺はこの二人を不思議に思いながらもローランを担いで拓翔が寝ている部屋へと向かった。
部屋に到着して、二人を適当な場所に座るように促す。ローランをベットに寝かせてから話を切り出す。
「それで?ローランを助けてくれたっぽいからそこは感謝するけど、俺に接触してきた理由はなんだ?明らかに俺に向けての気配だっただろ?」
拓翔が起きないようになるべく小声で話す。
「俺たちの任務は異端者の排除と禁龍との接触だ。あのものはついでだ」
異端者の排除と聞いた途端に悠斗から魔力が溢れる。
「氷翠か?」
それを見た男はふっと笑った。
「たいしたプレッシャーだな、確かにこれならルビナウスごとき相手にならないか」
「なんでそれを知ってる?」
「言っただろう?俺達の任務は異端者の排除だと。ルビナウスの傍に神父服の男はいなかったか?」
「…………いた」
「教会の上層部はあの男を危険視している。なに、氷翠様の所のお嬢様には手は出させないさ。俺は彼女に個人的な恩があるからね。話がそれたな、だからお前達にはこのことをしておくべきだと判断した。この話を信じるか信じないかはお前の自由だが……」
そのまで話すと急に黙り込んで考え事を始めた。隣の女を方はため息をついている。
「な、なんだよ?」
すると女の方が両手を合わせて謝ってきた。
「ごめんね?彼すごくマイペースで、こうやって突拍子もなく黙りこんだりするのよ」
「なぜお前が謝るんだ。禁龍、可能ならば俺達に協力してはくれないだろうか?俺達は奴の素性を知っているわけではないし、バックには強大な組織がいるという。正直俺達だけで成せる任務だとは思えない。それに君にはやつに思う部分もあるだろう?」
なるほど、一理あるな。しかもその言い分だと一応異端者の排除として氷翠のことも諦めたわけではない……か。
「分かった、俺も協力する。それにこのことはそこで寝てる二人ともう一人のやつにも伝えておくけどそれでいいか?」
「構わない、こちらとしても協力者が多いに越したことはない。俺は光崎晶、教会のエージェントだ。こっちは真希オリヴィエ、同じく教会のエージェント」
「俺は際神悠斗、そこで寝てるのが新條拓翔、あんたたちが助けてくれたのがローランだ」
「それで、早速今日のことだが」
そこで静止がかかる。俺達のやりとりを止めたのは隣にいる真希オリヴィエ。
「ちょっと!ちょっと!何勝手に話進めてるのよ!?この人ただの部外者でしょ?勝手に巻き込むなんて!」
「よく考えてみろ、この事件で俺達より先に配属されたエージェントが三人も殉職しているんだぞ?下手したら全滅、よくて共倒れだ」
「それでも教会のため、主のためにと思ってここまで来たんじゃないの!」
「だがこれで俺達が死ねば結局それがいずれ相手側の利潤となってしまうのもそうだろ?なら誰でもいいから協力を仰ぎ、少しでも生存率を上げるのが得策だ」
「なるほど、それでうちのハルをあわよくば贄にしようと?流石にそれは見過ごせねぇなぁ?」
ベットの方から拓翔がそう言う。いつの間に起きていたのか俺達がいる席に座り、光崎を睨む。
「拓翔、起きてたのかよ」
「いうても途中からな?全貌はよく見えねぇけどこいつがまともなこと考えてないってことだけは分かった」
すると次はローランの声が、
「そうだね、それに彼を殺すのは僕だ。君達に邪魔はさせない」
鋭く、冷たい目をしている。初めてローランが俺を助けてくれた時と全く同じ目だ、何かとても危険な色を含んでいる。だが光崎はそれを気にもとめず、むしろそれを可笑しそうに笑う。
「ふっ、君は一度ステインに負けているじゃないか、そんな君がもう一度やつと戦って勝てるとでも?」
ローランは亜空間から剣を取りだして光崎に言う。
「そこまで言うなら今から勝負しようか?これでもし僕が勝てば僕の好きにさせてもらうし、負ければ個人的な感情を抑えて君たちに協力しよう」
光崎は立ち上がり剣の柄を見せる。
「いいよ、なら屋上にでも行こうか。外は人目がつくからね」
そして屋上。
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「だからな、この二人がローランをここに連れてきて、そのうちの一人とローランが戦うことになったの」
「いやだから俺が言いたいのはそういうことじゃなくて、なんで戦うことになってんだってことだよ」
「なんでって聞かれてもローランが戦おうって言ったからとしか……?」
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「ちょっと貴方達!そろそろ始まるからちゃんと見なさいよ!」
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「なに言ってるのよ!ダメに決まってるでしょ!?」
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ローランの実力も正直測れたものじゃないけど、光崎もなかなかの強者だぞ?ほんとにあいつに勝てるのかよ?
「始まるわよ」
違うことで悩んでた久瀬も、帰りたがっていた拓翔も、真剣に二人の勝負を見る。俺も同じく。
お互い同時に剣を抜く、ローランは二本の直剣、そして光崎は……なんだあの剣?見るだけで寒気がするんだけど、しかも戦うための剣にしては綺麗すぎる。
「あれは『宝剣』トゥーンウィング。あの剣に散りばめられた宝石全てに破魔の力が封じられているわ。『魔』に関わるもの全てがあの剣に切られる」
オリヴィエがそう説明をくれる。そんな剣、ローランに当たったらひとたまりもないじゃないか!
「つまりあいつらの勝負は一撃だってことか、ハル、どうしよう?俺、すげぇワクワクしてきた」
もともと試合とかが大好きな拓翔はこの一撃で決まる勝負を楽しみにしている。
「あのなぁ新條、これは真剣な試合なんだぞ?もっと気を引きしめないとダメだろ?」
そう注意する久瀬も目は輝いている。お前ら揃って試合好きすぎるだろ。
それよりも俺が気になるのはローランのスタイルだ、あいつが二刀で戦うところなんて見たことない。俺が前に「何本も剣持ってるけど多刀で戦わないのか?」と聞いた時にローランは笑って「二刀以上を扱うのは難しいんだよ、僕はまだ練習段階さ、使えるようになれば戦いの幅はかなり広がるけどね」と言っていたんだ。それなのに一発くらえば終わる戦いでそんな中途半端なものを、どうして?
そんなことを考えているとついに両者がほぼ同時に動きだした。
剣を引く火花が、密な聖なるオーラが尾を引き、二人の軌跡を描いていく。この前の合宿で目が速さにだいぶ慣れたので二人の行動はなんとなく分かる。
「どうした!逃げてばかりでは勝てんぞ!」
自身にとって一撃必殺の威力を持つトゥーンウィングを相手に消極的な戦い方をするが、光崎はそれ以上の気迫でローランに迫ってく。
「僕が君から逃げながら戦うことに何も間違いは無いと思うけど?」
自身に迫る刃を片方の剣で防ぎ、受け流しながらもう片方の剣で対抗するが、光崎の手にする剣とローランの剣ではそれ自体に差がありすぎる。しかも慣れない二刀のせいでローランの動きはぎこちなく見え、いつ崩されてもおかしくない状態だ。
縦横無尽に駆け回る軌跡が互いに正面からぶつかり、二人の姿がはっきりと現れる。
まだまだ余裕そうな光崎に対しローランはかなり疲弊した様子だ。
「あのね、聖剣というカテゴリーに属する武器は貴方達にとって天敵、だからそこにあるだけで精神的ダメージを負わせるのよ、それを相手にあんな緊迫した高速の戦いをしてたらどっちが先に尽きるかなんて目に見えてるわ」
「じゃぁこの勝負は最初から光崎が有利だったってことかよ」
「そうなるわね」
バギンッ!と金属が折れる音がした。鍔迫り合いをしていたローランの剣のうち一本が折られてしまった。それを見たローランは焦りを見せ始め、一旦光崎から距離を取る。離れる瞬間にトゥーンウィングが脇すれすれを通るが、それが当たることは無かった。しかし反対に光崎の頬には刀傷ができていた。頬から出る血を拭い鼻を鳴らす。
「どうした?もう降参か?魔法使いと悪魔共はこうも小賢しい連中ばかりだ」
光崎の後ろの壁にはフルーツナイフほどの大きさの短剣が突き刺さっている、そしてローランの左手にはそれと同じ物が握られていた。
「咄嗟に投げたんだけどね、流石に躱すか」
「剣士のくせして飛び道具か、俺を見たり、逃げ回ったりと、戦い方が俗すぎる。まるでゲリラだな」
それを聞いたローランは肩をすくめて笑う。
「メフィストフェレスとの戦いでも同じことを言われたよ。なんとも僕が戦う相手って観察力がいいというか、勘が鋭いというか……そういう君だって教会で育てられた戦士の戦い方とは外れているよね?そうだな……僕が勝ったらそこら辺も教えてもらうよ」
そう言って剣を構える、今度は直剣一本を持ちその剣を後ろに下げる。足を開き左手を前に、半身になって腰を落とす。
その構えを見た光崎は驚き、しかし剣を真っ直ぐ構える。
「おまえがそれを使うのか、面白い!」
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「うわ!何だこれ!?前が……!」
「おいハル!どうなってんだよ!」
黙って勝負の行方を見ていた二人も急な輝きに後ずさる。
「貴方達、死にたくなければ私の後ろに隠れてなさい。あれを直に浴びれば今の貴方達の実力じゃぁ消滅するわ」
俺達がオリヴィエの後ろに隠れると彼女は腰から剣を抜く。その剣先から白いオーラが溢れ出し盾の形を作る。
「向こうも俺の攻撃に耐える用意はできたようだな」
どういうことかと一瞬俺達の方を向くと、何を見たのかローランは目を見開く。でもそれも一瞬で、意識を目の前の光崎に戻した。
「さて、それじゃぁいかせてもらうよ?」
深呼吸をして一歩、力強く踏み込む。
「六道五輪──七・虚穿」
たった一歩の踏み込みで光に包まれた光崎に近寄り、そのまま水平に剣を振り切る。剣先が音の壁を超えて空気を切り裂く時の鋭い音が聞こえ、耳が耐えられないと見ていた四人は耳を塞ぐ。
二人の距離が触れ合うすれすれまで近づいた時、光崎はトゥーンウィングをコンクリートに突き立てた。
光と音が止んで視覚と聴覚を取り戻す。その直後に見たのは密着した状態で鳩尾部分に刀身を打ち込み、打ち込まれた二人の姿。
「────」
光崎が耳元で何かを囁くと、ローランはそのまま目を閉じ倒れた。
……嘘だろ?ローランが負けた?あの速さについてこれるとかローランの特性を完全に封じたようなもんじゃねぇかよ。
「さて、勝負も着いたし俺達はここで帰らせてもらう。約束だ、俺達に協力してもらう」
そう言って柵から飛び降りる。
「ちょっと待ってよ!」
オリヴィエもそれに続いて柵から飛び降りた。
「おいここ屋上だぞ!」
二人の安否確認のために柵から身を乗り出して下を見るが、二人の姿はもうなかった。
今日の……あれ?何時だっけ?時間決めるの忘れてた……まぁいいか、どうせまた俺達の前に出てくるだろ。
「部屋に戻るぞー。久瀬、ローラン運ぶの手伝ってくれ」
「はいよ」
時計を確認するとだいたい五時、まだ起床時間まで時間があるのでどうするか相談したあと、目を覚まさないローランを久瀬の部屋まで運び、俺たち三人はこれからのことを話し合い、もう一度屋上に出て軽く手合わせをした。
ローランの反応といい光崎の態度といい、気になることがありすぎだ。とりあえず今はこれから始まる氷翠の護衛に励みますか。待てよ?この件を光崎に相談したら意外と協力してくれそうじゃね?またあいつら見つけたら言ってみるか。
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私の幸せに貴方はいりません
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無能なので辞めさせていただきます!
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ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
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【完結】英雄様、婚約破棄なさるなら我々もこれにて失礼いたします。
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微ざまぁあり。
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