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修学旅行の英雄譚 Ⅰ
File.1 修学旅行です!
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中間試験を無事にのりきり七月に入った。
「ねぇねぇ悠斗君、もうすぐ修学旅行だね?」
「おー、そういえばそうだな。ヨーロッパに行くんだったか?」
「そーだよ、どこに行くかは分かんないけど。三泊四日で班行動で一緒に行く人いないから悠斗君誘おうかなって思って」
それはありがたい、知らない土地で一人になるのは流石に怖いからな。こういう誘いは大歓迎だ。
「それなら俺もご一緒させてもらおうかな?それで、他にも誰かいるのか?確か三人以上じゃないとダメなはず……」
「それなら大丈夫、新條君誘ったし」
「は?なんで拓翔?お前ら接点あったっけ?」
「試験の後俺が遊びに誘ったんだよ。それで今度の修学旅行の班で一緒するとこになったんだ」
俺の前の席に拓翔が座っていた。いつの間にいたんだよこいつ。
「お前、部活はどうしたんだよ……てかそれなら俺も誘えよな」
「けっ、おめぇは氷翠ちゃんと一緒に住んでんだろうが、そんなやつ誘わねぇよ。部活の方は久しぶりに顔出したら俺の登録が消えてたから辞めたよ」
「そりゃぁ半年か一年も停学させられたやつ部活に戻す気になれんわな」
「うるせぇなー、部活なんかやんなくても俺は十分青春を謳歌してますよ。じゃぁ俺は今日ちょっと用事あるからもう帰るわ」
「おう、じゃぁな」
「ばいばーい」
拓翔と別れて教室には俺と氷翠の二人が残った。
「さっきから気になってたんだけど悠斗君そこで何してるの?なんかずーっとノートに書いてるけど」
「んー?あーこれか、この前あったザスターさんとの戦いを記録してるんだよ。俺はほら、まともな試合してた訳じゃ無いだろ?だからローランに聞いてどんな感じだったか教えて貰ってんだよ」
「私からは何か聞くことないの?」
「いやいや、お前ずっとリーナ先輩といただろ?だから先輩に聞けば確実なの」
「んな!?そんな私のこと信用してないみたいな言い方酷くないですか!」
こういうことに関しては実際信用してないけども……
「でもお前何もしてないだろ?途中から消えたって先輩も心配してたし」
「いやぁそれは……何となく悠斗君の方に行きたくなっちゃって」
なっちゃってって、まぁ何も無かったからいいけどさ、あんな場所に一人で向かうとか危なすぎんだろ、人のこと言えませんけどね。
「でもよかったよねぇ、リーナちゃん先輩が嫁がなくて、だって嫁いじゃったら私達もあの人の家に行くことになるんでしょ?それは嫌だなー」
笑いながらそんなことを言う。
「確かにな、根はいい人だと思うけどアンリ・マンユに操られたままじゃきついな」
そこまで言ってアンラマユのことを思い出して少し気が沈んでしまう。やばい、泣きそう……。あれから何度か自分の中を探してみてもアンラマユの気配は無い。氷が完全に引いたのはいいことだが、それの対価が俺にとっては重すぎる。
「悠斗君の中にいた子の名前ってアンラマユっていうんだっけ?私も会ってみたかったなぁ」
「変なやつだぞ?俺も二回あったくらいだけどな、基本的にすげぇ子供って感じだな、だけどやっぱり永い時間世界を見てきたんだなと思えるところもあったよ」
『まぁ死んだのが幼い頃だからそれを引きずっているんだろうな』
アジ・ダハーカガ唐突に話しだす。毎度毎度びっくりするからやめろって。
氷翠が俺の左腕を興味深そうにじっと見ている。
「これが悠斗君に宿ってるドラゴンなの?」
「人の腕をつんつんすんな。そうだよ、こいつが俺の相棒、アジ・ダハーカだ」
『今更と感じるところもあるが、紹介預かった、アジ・ダハーカだ。よろしく頼むぞ、氷の姫君』
おっと?意外とちゃんとした挨拶をしてらっしゃる。やっぱりそこはドラゴンとしての威厳を保ってるのか。
「うん、よろしく、アジ・ダハーカ。それとごめんね?なんかあなたにも迷惑かけてたみたいで」
『別に気にしておらんよ、こいつが強くなるならな。それにしても氷の姫君よ、お前の才は素晴らしいものだ、自分のそれを存分に伸ばしていくといい』
そういえばこいつそんなこと言ってたな。氷翠の才能は凄いって。言われた本人はキョトンとしているが。
「うーん、とりあえずその『氷の姫君』てやつやめて欲しいかな?そんな仰々しい人じゃないよ私」
『ふむ、それなら俺も氷翠舞璃菜と呼ばせてもらおう』
「自己紹介は終わりましたかね?そろそろ帰らないといけないから出たいんだけど」
鞄を肩にかけて立ち上がる。
「あぁ待って待って、私も帰る」
氷翠が自分の席に慌てて向かい、帰りの準備を済ませたのを確認して二人で教室から出る。
「よっと」
氷翠が小さな魔力の玉を作り出して、それで遊びだす。こいつはこれが出来るようになってからほぼ毎日下校の時間に魔力で遊んでいる。
「お前それほんと好きだな」
ふと気になったことがあったので、隣で歩きながら魔力の玉を飛ばして遊んでいる氷翠に訊く。
「そういえば前にザスターさんから貰ったやつどうしてるんだ?」
「あーあれね、それならここにあるよ」
自分の制服の胸元に手を突っ込んで青い宝石を取り出す。
「これのことでしょ?ほんとに綺麗だからさぁ、一時も離したくないんだよね。だからこうやってネックレスにして付けてるんだよ」
なんとなく綺麗な石を海で見つけた小学生の心境みたいに感じてしまった。
「それはザスターさんも喜ぶだろうな」
グラウンドを突っ切っている最中にアジ・ダハーカが突然その宝石について話し出した。
『その石……おそらく賢者の石だろうな。北欧のドワーフのみが精製することのできる希少な鉱石だ。氷翠舞璃菜よ、その石に魔力を込めてみるといい』
言われた通りに魔力を石に込めてみる。
すると賢者の石と呼ばれる宝石が青く光だした。
『賢者の石は本来、魔術を行使する場合の媒体として用いられるものだ。それこそ国一つを滅ぼすほどのな。しかしまぁこの時代だ、そんな魔術魔法も存在しなだろう。だから今となってはこんなただの光る石だ』
へぇー、そんな凄い石なのか、でもなんでザスターさんはそんなもの氷翠に渡したんだろう───て、おい!氷翠!
「おい!魔力が───」
「ふぇ?」
叫ぶがそれも遅く氷翠のここ一週間練られ続けた魔力がグラウンドに落ちる。その瞬間にグラウンドが物凄い勢いで氷が広がり、一瞬でここら一帯を凍らせてしまった。
「コラー!誰だこんな所で無許可で魔法使っとるやつはー!」
やばい!生徒指導の先生だ!
「おおおい!氷翠!走るぞ!あの先生に捕まるのはめんどくさい!」
慌てて氷翠の手を引いて、走り出す。校門まで到達したところで、すごく見覚えのあるゲートらしきものがあったのでその中に飛び込む。眩しさに目を閉じるが、次に目を開けるとグランシェール邸の玄関に到着していた。そこで俺達を待っていたのはローランだった。
「やっぱりお前か、助かったよ」
疲れ切った俺たちの姿を見て笑う。
「氷翠さんが注意をその石に向けている時点でああなることは予想できていたからね。よかったね、僕が先に帰ってて」
「うん?てことは俺たちのこと見てたのか?どっから?」
どこからもローランの気配なんかしなかったし、誰かに見られている感じもしなかったのに。まぁ、俺がこんなこと言ってもって話だけど。
「僕生徒会じゃないか、生徒会室からグラウンド見えるからね、僕だけ先に帰らせてもらったのさ」
生徒会室はグラウンドを見渡せるからな。そこで俺達を見て、ゲートで先に帰ったってことね。
「そういうことか、そういえばお前生徒会だったな、今の時期大変じゃないのか?」
玄関を指さし、三人で玄関に向かう。
「そうでもないよ、生徒会のみんなはすごく優秀だからね」
「でもほら、あの新しく入った一年の書記の子とか」
「彼女もだいぶ落ち着いてきたし、今はもうしっかりと仕事してくれているよ」
「それならよかった」
玄関で靴を脱ぎ、リビングに向かうとエプロン姿のリーナ先輩がいた。エプロンなんか着て何してるんだ?
「あら、三人とも帰ったのね、おかえりなさい。夕飯はもう少し後だから、荷物とか片付けちゃなさい」
「ただいまです、それはそうとなんで先輩がキッチンに立ってるんですか?料理出来ましたっけ?」
玉ねぎを刻みながら答える。
「失礼ね、料理くらいできるわよ、というか私一回悠斗に振る舞っているはずよ?それに今日はお母さんが家にいないのよ、だから私がってわけ」
そういえばそうだったな。俺、先輩のお粥を絶賛した記憶があるわ。今日はリーナ先輩のお母さんいないのか、あの人いるといるで困るけど、いないってのも寂しいな。
「ほら、そんなところで突っ立ってないで」
おおっと、そうだった荷物荷物……。
三人は自分の部屋に戻り、荷物の整理を済ませる。ここに住み始めて二週間ほど経つが未だにこの部屋の広さに慣れない。何かしようとするのにいちいち立ったり歩いたりしないといけないのが面倒だが、住まわせてもらっている身としてそんなこと言えず、自分の部屋がどれだけ住みやすかったかを実感する。まぁ慣れれば気にならなくなるんだろうけどもさ。
部屋着に着替えてリビングに戻るとこの部屋全体にいい匂いが漂っていた。
「今日はホワイトシチューよ、おかわりもあるから沢山食べなさい」
匂いに釣られて他の二人もぞろぞろとリビングに集まる。
『いただきます』
「三人とも、そろそろ修学旅行よね?ヨーロッパは綺麗なところよ、私の実家もあるしよくしてもらうように手配しておくわね」
そういえば先輩の生まれヨーロッパだって言ってたな。
「先輩て何人なんですか?ヨーロッパとしか聞いてなかったですから」
「私はドイツ人よ。とはいってもお父さんが日本人のハーフだから、純粋なドイツ人ではないけどね」
ローランが補足の説明をくれる。
「姉さんのご両親のうち、魔法を使えるのは母型の家系なんだよ、どういう経緯か全く縁のないはずの二人がドイツで出会ってしまってね。その時に姉さんのお父さんが一目惚れしたらしいんだ。その時のことを家にいるといつも姉さんに語っているよ」
ローランの説明が終わった途端に先輩がため息をつく。
「あの人は仕事はよくできて他の人からの信頼も厚いのだけれど……お母さんのことになった途端に人が変わったように語り始めるのよ。同じ話を何回聞かされたことか……」
「それだけ、グランシェールさんは奥さんのことが大切なんだろ、でも確かに何回も聞かされると気が滅入るよね」
玄関から第三者の声がして、そちらを見ると結斗さんが帰ってきたところだった。
「あら、おかえりなさい結斗、遅かったじゃない」
「ただいま、急に用事が入ってね、グラウンドが凍ったからそれの片付けをしろって言われたんだよ。全く、大変だったよ。犯人見つけたら絶対に復讐するよ」
俺と氷翠の肩が同時に震える。それを見たローランが苦笑いをしている。お前も俺たちを逃がしたんだから共犯だぞ!
「悠斗君と舞璃菜さんにも手伝ってもらおうかな?」
若干怒り気味でそう言ってくる……この人絶対俺達のせいって分かってるんじゃないのか!?
「あの…もし見つけたらどうするんですか?」
恐る恐る聞いてみると手の平に炎を出して当然のように答える。
「燃やす」
すみませんでした……。俺は心の中で真剣に謝った。
「まぁそれはいいさ、それよりも二年生はもうすぐ修学旅行か、確か場所はフランスだったよね?」
「はい、そうですけど……なんで結斗さんが知ってるんですか?」
シチューを器によそって自分の席に着く。「いただきます」と手を合わせて食べ始める。
「うちの学校はフランス、イギリス、ドイツの三ヶ所を順番に回っているんだ、僕達が去年ドイツだったから君たちはフランスだよ」
去年はドイツだったのか、でもそれリーナ先輩にとってはただの実家帰りだよな。
「今ただの実家帰りって思ったでしょう?」
心を読まれたみたいにそう言われる。
「なんでわかったんですか……」
「顔に出てたわよ。うーん……確かに実家帰りと言われればそうなのかもしれないけどあの時は旅行だと割り切ってたから気にならなかったわ」
「でもリーナずっとフランスがいい、イギリスがいいって愚痴を言ってたじゃないか」
「もう!それを言わないでちょうだい!」
リビングに笑い声が響く。いつも凛としてる先輩だけどちゃんと年相応なエピソードあるんだ。
赤面したままの先輩がコホンと咳払いして話を戻す。
「そ、そんなことより、フランスは自然が綺麗な場所だから存分に堪能してらっしゃい」
「「はーい」」
食事を終え、それぞれ自分の部屋に戻ろえとする二人を呼び止めて、自分の部屋に来るように言う。
「宿題とか風呂とか終わったら俺の部屋来て」
「分かった」
「うん、いいよ」
夜の八時頃、氷翠とローランが俺の部屋に来た。
「お待たせ悠斗君───て、何やってるの?」
俺は床に大量の雑誌を広げて修学旅行先の観光地やお土産をチェックしていた。
「おぉ、来たか。今から修学旅行について話そうぜ、適当に座ってくれ」
二人は雑誌の周りを囲うように座る。
「今日の放課後興味無いーみたいな雰囲気出してたくせに一番浮かれてるじゃん」
座って早々氷翠にそう言われる。だって仕方ないじゃないか、楽しみだったんだから。いくら友達が拓翔しかいなかったとはいえ修学旅行というものは心躍る催し物だ。
「しかも今は、氷翠にローランもいるしな。楽しみじゃない訳が無い」
氷翠とローランが首を傾げて俺の方を見る。やべ、今の声に出てたか?
「ま、まぁ、今のうちに下調べしておくのも悪くないかなーって思って二人を呼んだんだよ。ローランはクラスは違うけどほら、お土産とか被らないようにしたいし」
新しく増えた友達と行けて舞い上がっているのも本当だが、今回の目的はあくまでもこっち。
「確かにそうだね、悠斗君達はどこまわるつもり───」
「俺達はまだ話してないけど希望としては───」
「でも私は───」
当日のことを想定しながら自分達の回るルートや、買う予定のお土産などを確認していく。そうそうこういうの!こういうのを待ってたんですよ!俺は!
話し合いがある程度進んだところで氷翠が一枚の写真を見つける。
「ねぇ見て見て、聖剣の泉だって、こんな山奥にこんな綺麗な場所あるんだね」
「どれどれ……?おお!すげぇ綺麗だな!向こう行ったら見に行くか?」
「行く行くー!」
「よし、なぁローランは───」
ローランもパラパラとその記事を見ていたが、あるページを開いたところでピタリと止まった。そしてそのページを真剣に見る。
「ローラン?どうした?」
「ねぇ悠斗君、これ見て」
「ん?」
ローランが指さすのは先程の泉ではなくその隣の写真の洞窟だった。
「この洞窟にはね、一本の剣が封じられているんだよ。さっきの泉とも関わりがあるんだ」
「へぇ、聖剣って言うとやっぱりエクスカリバーか?」
聖剣といえばエクスカリバー、これは誰でも思う。アーサー・ペンドラゴンが使っていた聖剣、選定の剣。
しかし、ローランの口から出た名前は俺の知っているものではなかった。
「デュランダル」
「デュランダル?そんな剣があるのか」
「……まさかこんな機会に再会するなんてね。僕はもう寝るとするよ。ありがとう、悠斗君」
「おう、また明日な」
なんだったんださっきの?
「ふぁー!悠斗君!悠斗君!これめっちゃ美味しそうだよ!」
おっと、氷翠のこと忘れてた。
「あー、俺それ食べれないんだよ───」
まぁ明日聞けばいいかな?
「ねぇねぇ悠斗君、もうすぐ修学旅行だね?」
「おー、そういえばそうだな。ヨーロッパに行くんだったか?」
「そーだよ、どこに行くかは分かんないけど。三泊四日で班行動で一緒に行く人いないから悠斗君誘おうかなって思って」
それはありがたい、知らない土地で一人になるのは流石に怖いからな。こういう誘いは大歓迎だ。
「それなら俺もご一緒させてもらおうかな?それで、他にも誰かいるのか?確か三人以上じゃないとダメなはず……」
「それなら大丈夫、新條君誘ったし」
「は?なんで拓翔?お前ら接点あったっけ?」
「試験の後俺が遊びに誘ったんだよ。それで今度の修学旅行の班で一緒するとこになったんだ」
俺の前の席に拓翔が座っていた。いつの間にいたんだよこいつ。
「お前、部活はどうしたんだよ……てかそれなら俺も誘えよな」
「けっ、おめぇは氷翠ちゃんと一緒に住んでんだろうが、そんなやつ誘わねぇよ。部活の方は久しぶりに顔出したら俺の登録が消えてたから辞めたよ」
「そりゃぁ半年か一年も停学させられたやつ部活に戻す気になれんわな」
「うるせぇなー、部活なんかやんなくても俺は十分青春を謳歌してますよ。じゃぁ俺は今日ちょっと用事あるからもう帰るわ」
「おう、じゃぁな」
「ばいばーい」
拓翔と別れて教室には俺と氷翠の二人が残った。
「さっきから気になってたんだけど悠斗君そこで何してるの?なんかずーっとノートに書いてるけど」
「んー?あーこれか、この前あったザスターさんとの戦いを記録してるんだよ。俺はほら、まともな試合してた訳じゃ無いだろ?だからローランに聞いてどんな感じだったか教えて貰ってんだよ」
「私からは何か聞くことないの?」
「いやいや、お前ずっとリーナ先輩といただろ?だから先輩に聞けば確実なの」
「んな!?そんな私のこと信用してないみたいな言い方酷くないですか!」
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笑いながらそんなことを言う。
「確かにな、根はいい人だと思うけどアンリ・マンユに操られたままじゃきついな」
そこまで言ってアンラマユのことを思い出して少し気が沈んでしまう。やばい、泣きそう……。あれから何度か自分の中を探してみてもアンラマユの気配は無い。氷が完全に引いたのはいいことだが、それの対価が俺にとっては重すぎる。
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「変なやつだぞ?俺も二回あったくらいだけどな、基本的にすげぇ子供って感じだな、だけどやっぱり永い時間世界を見てきたんだなと思えるところもあったよ」
『まぁ死んだのが幼い頃だからそれを引きずっているんだろうな』
アジ・ダハーカガ唐突に話しだす。毎度毎度びっくりするからやめろって。
氷翠が俺の左腕を興味深そうにじっと見ている。
「これが悠斗君に宿ってるドラゴンなの?」
「人の腕をつんつんすんな。そうだよ、こいつが俺の相棒、アジ・ダハーカだ」
『今更と感じるところもあるが、紹介預かった、アジ・ダハーカだ。よろしく頼むぞ、氷の姫君』
おっと?意外とちゃんとした挨拶をしてらっしゃる。やっぱりそこはドラゴンとしての威厳を保ってるのか。
「うん、よろしく、アジ・ダハーカ。それとごめんね?なんかあなたにも迷惑かけてたみたいで」
『別に気にしておらんよ、こいつが強くなるならな。それにしても氷の姫君よ、お前の才は素晴らしいものだ、自分のそれを存分に伸ばしていくといい』
そういえばこいつそんなこと言ってたな。氷翠の才能は凄いって。言われた本人はキョトンとしているが。
「うーん、とりあえずその『氷の姫君』てやつやめて欲しいかな?そんな仰々しい人じゃないよ私」
『ふむ、それなら俺も氷翠舞璃菜と呼ばせてもらおう』
「自己紹介は終わりましたかね?そろそろ帰らないといけないから出たいんだけど」
鞄を肩にかけて立ち上がる。
「あぁ待って待って、私も帰る」
氷翠が自分の席に慌てて向かい、帰りの準備を済ませたのを確認して二人で教室から出る。
「よっと」
氷翠が小さな魔力の玉を作り出して、それで遊びだす。こいつはこれが出来るようになってからほぼ毎日下校の時間に魔力で遊んでいる。
「お前それほんと好きだな」
ふと気になったことがあったので、隣で歩きながら魔力の玉を飛ばして遊んでいる氷翠に訊く。
「そういえば前にザスターさんから貰ったやつどうしてるんだ?」
「あーあれね、それならここにあるよ」
自分の制服の胸元に手を突っ込んで青い宝石を取り出す。
「これのことでしょ?ほんとに綺麗だからさぁ、一時も離したくないんだよね。だからこうやってネックレスにして付けてるんだよ」
なんとなく綺麗な石を海で見つけた小学生の心境みたいに感じてしまった。
「それはザスターさんも喜ぶだろうな」
グラウンドを突っ切っている最中にアジ・ダハーカが突然その宝石について話し出した。
『その石……おそらく賢者の石だろうな。北欧のドワーフのみが精製することのできる希少な鉱石だ。氷翠舞璃菜よ、その石に魔力を込めてみるといい』
言われた通りに魔力を石に込めてみる。
すると賢者の石と呼ばれる宝石が青く光だした。
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へぇー、そんな凄い石なのか、でもなんでザスターさんはそんなもの氷翠に渡したんだろう───て、おい!氷翠!
「おい!魔力が───」
「ふぇ?」
叫ぶがそれも遅く氷翠のここ一週間練られ続けた魔力がグラウンドに落ちる。その瞬間にグラウンドが物凄い勢いで氷が広がり、一瞬でここら一帯を凍らせてしまった。
「コラー!誰だこんな所で無許可で魔法使っとるやつはー!」
やばい!生徒指導の先生だ!
「おおおい!氷翠!走るぞ!あの先生に捕まるのはめんどくさい!」
慌てて氷翠の手を引いて、走り出す。校門まで到達したところで、すごく見覚えのあるゲートらしきものがあったのでその中に飛び込む。眩しさに目を閉じるが、次に目を開けるとグランシェール邸の玄関に到着していた。そこで俺達を待っていたのはローランだった。
「やっぱりお前か、助かったよ」
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「氷翠さんが注意をその石に向けている時点でああなることは予想できていたからね。よかったね、僕が先に帰ってて」
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「ほら、そんなところで突っ立ってないで」
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「今日はホワイトシチューよ、おかわりもあるから沢山食べなさい」
匂いに釣られて他の二人もぞろぞろとリビングに集まる。
『いただきます』
「三人とも、そろそろ修学旅行よね?ヨーロッパは綺麗なところよ、私の実家もあるしよくしてもらうように手配しておくわね」
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ローランの説明が終わった途端に先輩がため息をつく。
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「あら、おかえりなさい結斗、遅かったじゃない」
「ただいま、急に用事が入ってね、グラウンドが凍ったからそれの片付けをしろって言われたんだよ。全く、大変だったよ。犯人見つけたら絶対に復讐するよ」
俺と氷翠の肩が同時に震える。それを見たローランが苦笑いをしている。お前も俺たちを逃がしたんだから共犯だぞ!
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若干怒り気味でそう言ってくる……この人絶対俺達のせいって分かってるんじゃないのか!?
「あの…もし見つけたらどうするんですか?」
恐る恐る聞いてみると手の平に炎を出して当然のように答える。
「燃やす」
すみませんでした……。俺は心の中で真剣に謝った。
「まぁそれはいいさ、それよりも二年生はもうすぐ修学旅行か、確か場所はフランスだったよね?」
「はい、そうですけど……なんで結斗さんが知ってるんですか?」
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「なんでわかったんですか……」
「顔に出てたわよ。うーん……確かに実家帰りと言われればそうなのかもしれないけどあの時は旅行だと割り切ってたから気にならなかったわ」
「でもリーナずっとフランスがいい、イギリスがいいって愚痴を言ってたじゃないか」
「もう!それを言わないでちょうだい!」
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「「はーい」」
食事を終え、それぞれ自分の部屋に戻ろえとする二人を呼び止めて、自分の部屋に来るように言う。
「宿題とか風呂とか終わったら俺の部屋来て」
「分かった」
「うん、いいよ」
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「おぉ、来たか。今から修学旅行について話そうぜ、適当に座ってくれ」
二人は雑誌の周りを囲うように座る。
「今日の放課後興味無いーみたいな雰囲気出してたくせに一番浮かれてるじゃん」
座って早々氷翠にそう言われる。だって仕方ないじゃないか、楽しみだったんだから。いくら友達が拓翔しかいなかったとはいえ修学旅行というものは心躍る催し物だ。
「しかも今は、氷翠にローランもいるしな。楽しみじゃない訳が無い」
氷翠とローランが首を傾げて俺の方を見る。やべ、今の声に出てたか?
「ま、まぁ、今のうちに下調べしておくのも悪くないかなーって思って二人を呼んだんだよ。ローランはクラスは違うけどほら、お土産とか被らないようにしたいし」
新しく増えた友達と行けて舞い上がっているのも本当だが、今回の目的はあくまでもこっち。
「確かにそうだね、悠斗君達はどこまわるつもり───」
「俺達はまだ話してないけど希望としては───」
「でも私は───」
当日のことを想定しながら自分達の回るルートや、買う予定のお土産などを確認していく。そうそうこういうの!こういうのを待ってたんですよ!俺は!
話し合いがある程度進んだところで氷翠が一枚の写真を見つける。
「ねぇ見て見て、聖剣の泉だって、こんな山奥にこんな綺麗な場所あるんだね」
「どれどれ……?おお!すげぇ綺麗だな!向こう行ったら見に行くか?」
「行く行くー!」
「よし、なぁローランは───」
ローランもパラパラとその記事を見ていたが、あるページを開いたところでピタリと止まった。そしてそのページを真剣に見る。
「ローラン?どうした?」
「ねぇ悠斗君、これ見て」
「ん?」
ローランが指さすのは先程の泉ではなくその隣の写真の洞窟だった。
「この洞窟にはね、一本の剣が封じられているんだよ。さっきの泉とも関わりがあるんだ」
「へぇ、聖剣って言うとやっぱりエクスカリバーか?」
聖剣といえばエクスカリバー、これは誰でも思う。アーサー・ペンドラゴンが使っていた聖剣、選定の剣。
しかし、ローランの口から出た名前は俺の知っているものではなかった。
「デュランダル」
「デュランダル?そんな剣があるのか」
「……まさかこんな機会に再会するなんてね。僕はもう寝るとするよ。ありがとう、悠斗君」
「おう、また明日な」
なんだったんださっきの?
「ふぁー!悠斗君!悠斗君!これめっちゃ美味しそうだよ!」
おっと、氷翠のこと忘れてた。
「あー、俺それ食べれないんだよ───」
まぁ明日聞けばいいかな?
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