12 / 57
氷の姫と悪魔の中間試験
Period.1 特訓始めます!
しおりを挟む
『全く……今になってようやく目覚めるとは……』
夢の中でアジ・ダハーカに呼ばれた俺は、そうそうに呆れられていた。
「会ってすぐに失礼なやつだな。でもなんでもっと早くから出てきてくれなかったんだよ?」
『俺はお前が生まれてすぐに声をかけ続けていたぞ?でもお前が弱すぎるせいで俺の声が届かなかった。もしくはおまえの器が俺を受け入れられるほど強くなかったのか……』
「多分その両方だろうよ。すみませんね弱くて」
そう言うと以外なことにアジ・ダハーカはそれを否定してくる。しかもそれは俺が思っていたのとは全く違うことだった。
『お前が弱いのは確かにそうだが多分お前の言う弱いと俺の言う弱いは違うな』
「どういうことだ?」
『おそらくお前の言う弱いは己の魔力許容量の小ささ、魔力量の少なさ、自分の魔法適応力の低さの総したものだろうが、それは半分あっているが半分間違っている』
俺は余計分からなくなった。今まで自分がそうだと思っていたものだからそれを否定されると、どう反応していいか分からなくなる。
『お前は決して魔力許容量は小さくないのだ、なんせこの俺を受け入れられるほどなのだからな。しかしだな、お前本来の魔力量が小さく、しかも俺の魔力がお前の魔力と同調していないせいで、その膨大すぎる器を持て余している。そして魔法適応力についてだが、氷姫の慈悲と氷翠舞璃菜の魔力に蝕まれて無事でいるのだからそちらもとても高い』
「氷翠と『氷姫の慈悲』ってそんなに強力なものなのか?」
俺がそう訊くと頷いて答えてくれる。
『本来「回復」という力はどの分野においても究極とされてきたものだ。極めれば永遠を手に入れれるかもしれない力、いくら魔法や魔術が物理法則を超えたものを起こすとしても、生物の本質、輪廻転生まで覆すとなるとそれはほとんど奇跡と等しい。…………ついてこい。お前が何をしたのか教えてやる』
そう言われるがままアジ・ダハーカについて行くと、闇しか無かったはずの空間の一部が凍っている場所を見つける。
『これはお前が氷翠舞璃菜を生き返らせた時に侵食された部分だ。この氷は今も徐々に広がっており、これがこの空間全体を覆い尽くすとお前は死ぬ』
「死ぬ!?そこまでヤバイのかよ!」
目の前の怪物は当然といったように淡々と話す。
『あの時、自分の意識を冥界まで持っていき人一人の魂の情報をその一身に受けたのだ、ほとんどをあの氷姫が受け持ってくれたが、それでも抑えきれなかった。他人の魂を受け入れるほど人の精神は強くない』
「すみません、もっと簡単に教えて欲しいんですけど……」
『はぁ……ようはお前の持てる情報量を一つの器として考えろ。そこにはお前の情報という水が限界まで入っている。そこにそこに他人の情報を注いでみろ』
「俺の情報かその誰かの情報が溢れ出る……?」
『その通りだ。そしてお前と氷翠舞璃菜の魔力が混同してしまったのだ。しかもやつはなかなかに才がある、この俺ですらこれを抑えることができんほどだ』
この時のアジ・ダハーカは敵意を向けるわけでも、悔しがるわけでもなくとても楽しそうだった。
『普通なら他人の魔力を取り込んだ途端に異常をきたすか死に至るものだが……俺が抑えているのもあるが、ここまで制御できるとはな、弱いながらに見事と言える』
「そんな褒めんなってー。なんもでねぇぞ?」
冗談でそう言うが、普通にスルーされてしまった。
『少し話がそれたな。分かったか?おまえは確かに表面上は弱い。だがな、要所要所では能力が抜きん出ている』
「じゃ、じゃぁ俺はどうすれば強くなれる?」
目の前の怪物はまたまた楽しそうに笑って言った。
『ひとつ面白いことを教えてやろう。俺は魔法が使えない』
それを聞いた俺は全く意味が分からず呆然としてしまった。
「……………………はい?」
時刻は遡り、教会での一戦から一週間くらい経った頃、俺はリーナ先輩にまた呼び出されていた。
時が流れるのは早いもので、あの事件が未だに昨日の事のように感じる。
「失礼します。今日はなんの買い出しですか?」
これまで三度呼び出されてはパシリとして働かされた俺は今日もパシリかと身構える。
「今日は何も欲しいものないわよ。今日はアジ・ダハーカについて知ってもらおうと思って呼んだの」
なんだ、そういうことか。俺は一歩下げた足を戻してリーナ先輩が広げているでかい本を覗き込む。
何も読めなかった……
「一文字も読めないんですけど、先輩これ読めるんですか?」
「んー、読めなくはないけどいちいち訳すのめんどくさいし今は魔法使ってるわ。私が読んであげるから聞いてなさい」
「分かりました」
「それじゃぁ、始めるわよ。」
先輩が本に目を落として語り出す。
「昔、この世の災厄、悪意、罪全てを一身に受けた子供がいた。その子供自身に罪はなく、選定により悪神とされてしまう。その子供はただひたすらに虐げられた。罪を犯した者、悪意ある者が暴虐の限りを尽くす。少年が死んだ時、その体から悪意、災厄、罪が溢れ出しそれが形を成す。その者の名は悪神『輪廻の偽神』アンリ・マンユ」
それを聞いていた俺はなんとなく夢に出てきた少年を思い浮かべる。
「善神ゾロアスターが聖なる炎で悪神を倒そうとするも、アンリ・マンユはその身から一体の龍を創り出す。その龍は、ゾロアスターと共に宇宙へと舞い上がり星々を賭けた戦いを始めた。千の魔法を操る邪龍は大いに善神を苦しめる。その身に傷を負えば、そこから災厄が溢れ出す。ゾロアスターが星を創れば邪龍はその星を破壊する。世界を揺るがす戦いの末、ついにその聖なる炎がその身に届き、邪龍は敗れ去る。……ふぅ、疲れるわね。ここまで聞いた感想はどう?」
「なんというか……壮大ですね。要するにアジ・ダハーカは悪意から生まれたんですよね?それでそのアンリ・マンユって神は今どこにいるんですか?」
「ちょっと待ってね。えーっと……」
『アンリ・マンユは今バベルの塔にいる』
俺とリーナ先輩は突然話し出したアジ・ダハーカに驚いていた。
『俺が話し出すのがそんなに珍しいのか?初めましてだなリーナ・グランシェール。そして久しぶりだなファーブニルよ』
知り合いなの?
『ちょっと昔俺がお世話になってな』
リーナ先輩の腕から黄金のドラゴンが浮かび上がり、そこから声が聞こえる。
『やっぱりおめぇさんだったかよ。面倒なの宿しやがったな坊主』
『よく言ってくれるなファーブニルよ。そろそろ決着をつけるか?』
『いらんいらん、おめぇとやっても勝ち目ねえっつの』
ファーブニルとアジ・ダハーカが話し終わったのを確認して、今度はリーナ先輩がアジ・ダハーカに話しかける。
「初めまして、アジ・ダハーカ。自己紹介は要らないようね。あなたが善神ゾロアスターと戦ってから何があったか教えてもらえるかしら」
『よかろう。俺は善神ゾロアスターとの戦いに敗れ、地に落ちた。そこで俺が見たのはあの悪神の何も感じないと言ったような目だった。それを見た俺は我を失うほどに怒った。貴様が俺を生み出したのだ。貴様のために戦っていたのだと。それから俺は我が主に戦いを挑んだ。奴は神でありながら神になりきれなかった。だから勝ち目はあったのだ』
リーナ先輩が話の途中でアジ・ダハーカに質問する。
「ちょっと待って、この本には戦いに敗れたアジ・ダハーカはそのまま姿をしばらく消したとあるけどそれは違うの?」
『違うな、正確には俺は消されたのだ、アンリ・マンユの手によって。俺はあいつから生まれたモノ。あいつの呪縛に打ち勝つことが出来なかった。戦いに敗れてから二百年たった頃に俺は蘇った……完全な一体のドラゴンとしてな、それから俺はひたすらに強さを求めた』
『その被害者の一人が俺ってわけでーす』
『そして俺達は「禁龍」と呼ばれるまでになった』
「でもなんで封印されたんだよ?」
『俺が禁龍と恐れられるようになってからどれくらい経っただろうか……一人の人間が俺の前に現れた』
「英雄スラエータオナね?アジ・ダハーカと討伐した英雄として有名だわ。アジ・ダハーカを常闇に封じた本人ね」
え?マジで?俺さっぱり分かんなかったんだけど……そんな人いたんだ。
アジ・ダハーカはどこか可笑しそうに笑いながら話してくれる。
『あいつか……面白いやつだったよ。あの時代に誰もが俺の事を討伐しようとした中でスラエータオナだけが俺に話を持ちかけてきた』
「話?」
『あぁ、「俺の命をくれてやる。俺はお前を殺したくはない。何もしていないお前に死ねというのはあまりにも酷だ。だから人間がお前にしてきたことを俺の命で許して欲しい」あの時初めて盛大に高笑いしたな』
「それは伝承とはだいぶ違う内容ねこの本には彼がアジ・ダハーカを命懸けで封じたとなってるわ」
『当然だ、俺が俺を封じられたことにしてくれと頼んだのだからな』
突然俺の腕の紋様のうちひとつの魔法陣が宙に浮く。
「え?こんなこと出来んの?なんか浮いてるんですけど?」
『この紋様はスラエータオナが俺を依代に出来ないかと言ってきた時に作ったものだ。他人に宿るドラゴンなど俺が初めてだろうな。そしてスラエータオナは英雄とされ、俺の力を振るいながら戦場を駆け回った。これが真実だ』
「確かにスラエータオナはアジ・ダハーカを討伐してから膨大な魔法力を手に入れたと記されているわね。アジ・ダハーカが宿っていたのなら納得だわ」
『あいつが死んでから受肉不可能となってしまった俺は今のように誰かに宿ることで存在するようになったってわけだ。あいつは俺が出会ってきた中で最高の戦士だった』
そして現在───
「いやいやいや、ちょっと待ってくれ、あの時めっちゃ魔法使えるみたいに言われてたじゃん。しかも『魔の禁龍』とか呼ばれてるのに?」
『たしかに俺はそう呼ばれているが、俺が使えるのは魔法ではなく魔術なんだよ』
「魔法と魔術?違いがさっぱり分からないんだけど?」
『いまの時代は魔法しか使われんからそれも当然かもしれんな。一つ聞くが魔法はどうやって作られ、使われているか知っているか?』
…………そう言われると、たしかに俺は何も知らない。これまで当たり前のように魔法魔法って言って使ってたからそんなこと考えたことも無い。
「そう言われると分からない……かも?」
『魔法とは悪魔が使う魔術を人間が使えるように解析、昇華させたものだ。大昔にファウストという人間がメフィストフェレスと自分の命を対価に契約し、魔術を学んだ。それが魔法の始まりだ』
「じゃぁお前が魔法が使えないってのは」
『そうだ、俺が使っていたのは魔術。そして俺を宿したお前が使えるのも魔法ではない。魔術なのだ』
「悪魔と同じ力が使えるってことか?」
『簡単に言えばそうだな。そして魔法と魔術の最大の違いは発動条件だ』
「発動条件……?」
『魔法は現象を完全に理解し、それを魔方陣に書き記したもの。よって魔力が無くとも誰でも使うことが出来る。魔力を有しているものに比べれば格段に落ちるがな。それに対し魔術はおのれのイメージを魔力を以て超常現象として引き起こすもの』
アジ・ダハーカが宙に魔方陣を展開する。それを見た俺は不思議に思った。
「それ魔法陣じゃん。結局魔法使えるのかよ」
アジ・ダハーカはそれを否定する。
『これは確かに魔法陣だが、こいつ自体にはなんの意味も持たない。よく見てみろ。お前の腕にある魔方陣と同じものだ』
「ほんとだ!じゃぁなんで?」
『魔術を介した魔法陣はそのものの紋様が展開されるのだ。よってこれは魔法陣であって魔法陣で無い』
「なる……ほど?俺が使えるのが魔術でお前を宿してるなら俺の紋様はそれになるわけ?」
『やっと冴えた発言をしたな。その通りだ。因みに魔法に比べて魔力は魔力消費量が多い。今日から特訓を始めるとリーナ・グランシェールが言っていたぞ?』
「それってどういう───」
『そろそろ時間だ、目覚めんと殺すぞ?』
自分の周りにありえない程の魔法陣を展開し始める。
ちょっと待てってそれ本気で撃つの?死ぬよ俺?
そう戸惑っている間にも魔法陣輝きだし俺に向けてなにか撃つ準備を始めた。
瞬間───俺の目の前が真っ白になった───
「うわぁぁぁぁああああ!って夢で死ぬわけないか……そう言えば特訓がどうとか言ってたけど」
家のインターフォンが鳴り続けていることに気づき、カーテンを開けて外を確認する。するとジャージ姿のリーナ先輩が玄関の前に立っていた。
俺の視線に気づいた先輩に呆れ笑いしながら「はやくしなさい」と言われたので手早く準備して外に向かう。
「お待たせしました!」
「ようやく来たわね。それじゃぁ始めましょうか」
「よろしくお願いします。最初は何を?」
「そうね……とりあえず魔力を完全に解放してくれる?」
言われた通りに魔力を解放する。
「オッケー。その状態をキープしてね、そのまま走るわよ」
「走るんですか?この状態で?」
「そうよ?さぁ行きましょうか。とりあえず二十キロランニング行きましょうか」
「はい!?」
「ほら!ペース崩さない!魔力は常に解放する!」
「は、はぃぃぃぃ!」
「魔力の上限をあげるには一度魔力を限界まで使い切るのが一番手っ取り早いわ。魔力を垂れ流しにしながらランニングをするのが一番効果的ね」
竹刀片手に自転車で俺の後ろをついてくる先輩が説明をくれる。
「で、でも……なんでランニングなんですか?」
「これが一番特訓っぽいでしょ?あっ!魔力閉じちゃダメよ!」
バシンッ!と竹刀で尻を叩かれる。
「イッタ!何すんすか!」
抗議するも、先輩は特に気にした様子もなく竹刀の先端をこちらに向ける。
「口答えする余裕あるなら走りなさい」
なんでこの人こんなに熱血なのよ!?
川の堤防を二十キロ走破した俺に次に待ちかまえていたのは、公園での筋トレだった。
「あの……俺日頃から筋トレしてるんで……いまさらする必要ありますか?」
腕立てしながら、背中に乗る先輩にまた抗議する。
「あなた、今度の試験でのトーナメントで勝ちたいんでしょう?それならこのくらいこなしなさい」
「そ……そんな事言われても……グヘェ」
重さに耐えきれずに地面に崩れてしまった。
「コラ、勝手に崩れちゃダメじゃない。最初からやり直し」
「休憩させて欲しいっす」
「何言ってるの、この後まだまだやる事あるんだから。ほらちゃっちゃとやる」
「ヒィィィィィ……」
なんとか地獄のような初日の筋トレを終えた俺は、朝の支度を済まして学校に向かう。
なんかもう既に筋肉痛になってるんだけど……あの人加減って知ってるのかな?これ毎日続けてたら死ぬよ俺?しかも身体がやけに重いし。
『ククク、リーナ・グランシェールのトレーニングは思った以上に過酷なものだったな。見ていて面白かったぞ?』
うるせー。こちとら魔力も空っぽで気だるさマックスなんだよ。筋トレ中に無駄に魔力消費するしよぉ。
『だがこのトレーニングでお前の魔力量が上がっているのは確かだ、俺もお前がしごかれている最中に魔力の同調を計っているが、なかなか順調だぞ?』
たのむから早くそれを済ませてくれよ……俺はまだ死にたくないぞ?
教室に到着して席に座るとちょうど始業のチャイムが鳴り、学校での一日が始まる。
放課後───
「ダァァァァァァァァァアア!終わったー!」
一日が終わり、この疲れきった体を休めると思うとなんだか涙が出てくる。正直今日一日何したか覚えてない。
「なんか今日一日お疲れみたいだったけどなんかあったの?」
「おー氷翠、今日朝から先輩に死ぬほどしごかれたんだよ。これがこれから毎日あると思うと……」
机に伏していた体を起こして氷翠に訊く。
「そう言えばあれから体は大丈夫か?」
「特に異常はないかな。おかげさまで毎日元気だよ」
「そうか、それはよかった」
「あ、でもひとつあるとすれば最近めっちゃ眠たいんだよね」
「それは多分、生き返った反動だろ?蘇生ってかなり本人と術者の体力と魔力持ってくらしいし。リーナ先輩にも言われてたじゃんか」
それはリーナ先輩から聞いていたことで、蘇生術は本来、もっと大掛かりな儀礼らしい。それをあれだけの規模でなんの触媒もなく行ったもんだから当分は疲れが取れないと言われている。
「リーナちゃん先輩がああ言ってたけど、これかなりしんどいよ」
氷翠はなぜかリーナ先輩のことをリーナちゃん先輩と呼んでいる。このことについてはほん人も特に気にしていない様子なので何も言わないけど、聞いてるこっちとしては違和感がすごい。だってあの人ちゃん付けされるような人じゃないだろ?
「ずっと気になってたけどなんでリーナちゃん先輩なんだ?」
俺がそう訊くと氷翠は当然と言ったように答える。
「え?だってその方がかわいくない?」
「そんな理由……まぁ氷翠らしいっちゃ氷翠らしいけど」
あとで先輩に聞いてみよう。そして俺も呼んでみよう。
会話がそこで途切れてしまい、静かな空気が流れる。教室には椅子にだらしなく座る俺と、前の席に座る氷翠しかいなかった。
「そういえばこれから集まりがあるって言ってなかったっけ?リーナちゃん先輩の家にこいって言われてた気がするんだけど」
突然氷翠がそんなこと言い出す。
「あぁ!そう言えばそうだった!時間あとどれくらい?遅れたら何かしら罰があるとか言われてた気がするんだけど!」
俺は勢いよく立ち上がって氷翠にそう言う。
「わーお!それは大変だ!急がないと!」
急いで準備して、廊下に出たところでローランを見つけたので声をかける。
「おーい!ローラン!待って!俺達も一緒に行く!」
「やぁ悠斗君、急がないと姉さんに罰ゲームくらうよ?あの人そういうの本気でやる人だから」
俺と氷翠とローランの三人は走ってグランシェール邸に向かい、時間ギリギリに到着する。
玄関前の門のチャイムを押し、先輩に到着したことを伝える。
「先輩、後輩三人到着しました」
チャイムに備え付けられたスピーカーから先輩の声が聞こえる。
『ギリギリだったわね。折角罰ゲーム用意してたのにこれじゃ面白くないじゃない』
「ほんとに何用意してたんですか!?」
『門の鍵開けたから中に入りなさい。いつもの部屋に来てちょうだい』
言われた通りに部屋に向かう。部屋にはリーナ先輩と結斗さんがいた。机の上には何やら怪しい瓶が三本置いてあった。
あれの中身飲ませるつもりだったな?危なかった、俺はまだ死にたくないぞ?……あれ?今日これ何回言った?
「みんな集まったわね?それじゃぁまず最初に、悠斗君と氷翠さんは今日からこの家に住んでもらうわ」
………………………………。
……………………は?
「「えええええええええええええええ!?」」
俺と氷翠の叫び声が屋敷中に響いたのは言うまでもなかった。
当たり前だ!急にそんなこと言われるなんて思うはずないだろう!?
隣にいる氷翠もこの宣言に驚いていた。
「そ、そそそ、そんな急に言われても!家の人に何も言ってないのに」
「それなら安心して?私が既に手を回しておいたわ」
そう言われて言葉も出ない氷翠。
「俺もアパートの解約とか色々手続きしなきゃいけないし」
先輩は机の上に何枚かの書類を出した。
「それなら大丈夫よ、ここにちゃんと書類があるもの」
「そこはやってくれてねぇのかよ!?」
なんでやってくれてないのよ!そこややって頂戴よ!
「というわけで、ようこそグランシェール邸にへ。私達はあなたを家族として迎えるわ」
そうして、俺と氷翠はリーナ先輩とローランと結斗さんと一日を過ごすことになった。
その夜、俺は一人で、アパート解約のために書類をまとめたりしてました。
誰か手伝ってよ!
夢の中でアジ・ダハーカに呼ばれた俺は、そうそうに呆れられていた。
「会ってすぐに失礼なやつだな。でもなんでもっと早くから出てきてくれなかったんだよ?」
『俺はお前が生まれてすぐに声をかけ続けていたぞ?でもお前が弱すぎるせいで俺の声が届かなかった。もしくはおまえの器が俺を受け入れられるほど強くなかったのか……』
「多分その両方だろうよ。すみませんね弱くて」
そう言うと以外なことにアジ・ダハーカはそれを否定してくる。しかもそれは俺が思っていたのとは全く違うことだった。
『お前が弱いのは確かにそうだが多分お前の言う弱いと俺の言う弱いは違うな』
「どういうことだ?」
『おそらくお前の言う弱いは己の魔力許容量の小ささ、魔力量の少なさ、自分の魔法適応力の低さの総したものだろうが、それは半分あっているが半分間違っている』
俺は余計分からなくなった。今まで自分がそうだと思っていたものだからそれを否定されると、どう反応していいか分からなくなる。
『お前は決して魔力許容量は小さくないのだ、なんせこの俺を受け入れられるほどなのだからな。しかしだな、お前本来の魔力量が小さく、しかも俺の魔力がお前の魔力と同調していないせいで、その膨大すぎる器を持て余している。そして魔法適応力についてだが、氷姫の慈悲と氷翠舞璃菜の魔力に蝕まれて無事でいるのだからそちらもとても高い』
「氷翠と『氷姫の慈悲』ってそんなに強力なものなのか?」
俺がそう訊くと頷いて答えてくれる。
『本来「回復」という力はどの分野においても究極とされてきたものだ。極めれば永遠を手に入れれるかもしれない力、いくら魔法や魔術が物理法則を超えたものを起こすとしても、生物の本質、輪廻転生まで覆すとなるとそれはほとんど奇跡と等しい。…………ついてこい。お前が何をしたのか教えてやる』
そう言われるがままアジ・ダハーカについて行くと、闇しか無かったはずの空間の一部が凍っている場所を見つける。
『これはお前が氷翠舞璃菜を生き返らせた時に侵食された部分だ。この氷は今も徐々に広がっており、これがこの空間全体を覆い尽くすとお前は死ぬ』
「死ぬ!?そこまでヤバイのかよ!」
目の前の怪物は当然といったように淡々と話す。
『あの時、自分の意識を冥界まで持っていき人一人の魂の情報をその一身に受けたのだ、ほとんどをあの氷姫が受け持ってくれたが、それでも抑えきれなかった。他人の魂を受け入れるほど人の精神は強くない』
「すみません、もっと簡単に教えて欲しいんですけど……」
『はぁ……ようはお前の持てる情報量を一つの器として考えろ。そこにはお前の情報という水が限界まで入っている。そこにそこに他人の情報を注いでみろ』
「俺の情報かその誰かの情報が溢れ出る……?」
『その通りだ。そしてお前と氷翠舞璃菜の魔力が混同してしまったのだ。しかもやつはなかなかに才がある、この俺ですらこれを抑えることができんほどだ』
この時のアジ・ダハーカは敵意を向けるわけでも、悔しがるわけでもなくとても楽しそうだった。
『普通なら他人の魔力を取り込んだ途端に異常をきたすか死に至るものだが……俺が抑えているのもあるが、ここまで制御できるとはな、弱いながらに見事と言える』
「そんな褒めんなってー。なんもでねぇぞ?」
冗談でそう言うが、普通にスルーされてしまった。
『少し話がそれたな。分かったか?おまえは確かに表面上は弱い。だがな、要所要所では能力が抜きん出ている』
「じゃ、じゃぁ俺はどうすれば強くなれる?」
目の前の怪物はまたまた楽しそうに笑って言った。
『ひとつ面白いことを教えてやろう。俺は魔法が使えない』
それを聞いた俺は全く意味が分からず呆然としてしまった。
「……………………はい?」
時刻は遡り、教会での一戦から一週間くらい経った頃、俺はリーナ先輩にまた呼び出されていた。
時が流れるのは早いもので、あの事件が未だに昨日の事のように感じる。
「失礼します。今日はなんの買い出しですか?」
これまで三度呼び出されてはパシリとして働かされた俺は今日もパシリかと身構える。
「今日は何も欲しいものないわよ。今日はアジ・ダハーカについて知ってもらおうと思って呼んだの」
なんだ、そういうことか。俺は一歩下げた足を戻してリーナ先輩が広げているでかい本を覗き込む。
何も読めなかった……
「一文字も読めないんですけど、先輩これ読めるんですか?」
「んー、読めなくはないけどいちいち訳すのめんどくさいし今は魔法使ってるわ。私が読んであげるから聞いてなさい」
「分かりました」
「それじゃぁ、始めるわよ。」
先輩が本に目を落として語り出す。
「昔、この世の災厄、悪意、罪全てを一身に受けた子供がいた。その子供自身に罪はなく、選定により悪神とされてしまう。その子供はただひたすらに虐げられた。罪を犯した者、悪意ある者が暴虐の限りを尽くす。少年が死んだ時、その体から悪意、災厄、罪が溢れ出しそれが形を成す。その者の名は悪神『輪廻の偽神』アンリ・マンユ」
それを聞いていた俺はなんとなく夢に出てきた少年を思い浮かべる。
「善神ゾロアスターが聖なる炎で悪神を倒そうとするも、アンリ・マンユはその身から一体の龍を創り出す。その龍は、ゾロアスターと共に宇宙へと舞い上がり星々を賭けた戦いを始めた。千の魔法を操る邪龍は大いに善神を苦しめる。その身に傷を負えば、そこから災厄が溢れ出す。ゾロアスターが星を創れば邪龍はその星を破壊する。世界を揺るがす戦いの末、ついにその聖なる炎がその身に届き、邪龍は敗れ去る。……ふぅ、疲れるわね。ここまで聞いた感想はどう?」
「なんというか……壮大ですね。要するにアジ・ダハーカは悪意から生まれたんですよね?それでそのアンリ・マンユって神は今どこにいるんですか?」
「ちょっと待ってね。えーっと……」
『アンリ・マンユは今バベルの塔にいる』
俺とリーナ先輩は突然話し出したアジ・ダハーカに驚いていた。
『俺が話し出すのがそんなに珍しいのか?初めましてだなリーナ・グランシェール。そして久しぶりだなファーブニルよ』
知り合いなの?
『ちょっと昔俺がお世話になってな』
リーナ先輩の腕から黄金のドラゴンが浮かび上がり、そこから声が聞こえる。
『やっぱりおめぇさんだったかよ。面倒なの宿しやがったな坊主』
『よく言ってくれるなファーブニルよ。そろそろ決着をつけるか?』
『いらんいらん、おめぇとやっても勝ち目ねえっつの』
ファーブニルとアジ・ダハーカが話し終わったのを確認して、今度はリーナ先輩がアジ・ダハーカに話しかける。
「初めまして、アジ・ダハーカ。自己紹介は要らないようね。あなたが善神ゾロアスターと戦ってから何があったか教えてもらえるかしら」
『よかろう。俺は善神ゾロアスターとの戦いに敗れ、地に落ちた。そこで俺が見たのはあの悪神の何も感じないと言ったような目だった。それを見た俺は我を失うほどに怒った。貴様が俺を生み出したのだ。貴様のために戦っていたのだと。それから俺は我が主に戦いを挑んだ。奴は神でありながら神になりきれなかった。だから勝ち目はあったのだ』
リーナ先輩が話の途中でアジ・ダハーカに質問する。
「ちょっと待って、この本には戦いに敗れたアジ・ダハーカはそのまま姿をしばらく消したとあるけどそれは違うの?」
『違うな、正確には俺は消されたのだ、アンリ・マンユの手によって。俺はあいつから生まれたモノ。あいつの呪縛に打ち勝つことが出来なかった。戦いに敗れてから二百年たった頃に俺は蘇った……完全な一体のドラゴンとしてな、それから俺はひたすらに強さを求めた』
『その被害者の一人が俺ってわけでーす』
『そして俺達は「禁龍」と呼ばれるまでになった』
「でもなんで封印されたんだよ?」
『俺が禁龍と恐れられるようになってからどれくらい経っただろうか……一人の人間が俺の前に現れた』
「英雄スラエータオナね?アジ・ダハーカと討伐した英雄として有名だわ。アジ・ダハーカを常闇に封じた本人ね」
え?マジで?俺さっぱり分かんなかったんだけど……そんな人いたんだ。
アジ・ダハーカはどこか可笑しそうに笑いながら話してくれる。
『あいつか……面白いやつだったよ。あの時代に誰もが俺の事を討伐しようとした中でスラエータオナだけが俺に話を持ちかけてきた』
「話?」
『あぁ、「俺の命をくれてやる。俺はお前を殺したくはない。何もしていないお前に死ねというのはあまりにも酷だ。だから人間がお前にしてきたことを俺の命で許して欲しい」あの時初めて盛大に高笑いしたな』
「それは伝承とはだいぶ違う内容ねこの本には彼がアジ・ダハーカを命懸けで封じたとなってるわ」
『当然だ、俺が俺を封じられたことにしてくれと頼んだのだからな』
突然俺の腕の紋様のうちひとつの魔法陣が宙に浮く。
「え?こんなこと出来んの?なんか浮いてるんですけど?」
『この紋様はスラエータオナが俺を依代に出来ないかと言ってきた時に作ったものだ。他人に宿るドラゴンなど俺が初めてだろうな。そしてスラエータオナは英雄とされ、俺の力を振るいながら戦場を駆け回った。これが真実だ』
「確かにスラエータオナはアジ・ダハーカを討伐してから膨大な魔法力を手に入れたと記されているわね。アジ・ダハーカが宿っていたのなら納得だわ」
『あいつが死んでから受肉不可能となってしまった俺は今のように誰かに宿ることで存在するようになったってわけだ。あいつは俺が出会ってきた中で最高の戦士だった』
そして現在───
「いやいやいや、ちょっと待ってくれ、あの時めっちゃ魔法使えるみたいに言われてたじゃん。しかも『魔の禁龍』とか呼ばれてるのに?」
『たしかに俺はそう呼ばれているが、俺が使えるのは魔法ではなく魔術なんだよ』
「魔法と魔術?違いがさっぱり分からないんだけど?」
『いまの時代は魔法しか使われんからそれも当然かもしれんな。一つ聞くが魔法はどうやって作られ、使われているか知っているか?』
…………そう言われると、たしかに俺は何も知らない。これまで当たり前のように魔法魔法って言って使ってたからそんなこと考えたことも無い。
「そう言われると分からない……かも?」
『魔法とは悪魔が使う魔術を人間が使えるように解析、昇華させたものだ。大昔にファウストという人間がメフィストフェレスと自分の命を対価に契約し、魔術を学んだ。それが魔法の始まりだ』
「じゃぁお前が魔法が使えないってのは」
『そうだ、俺が使っていたのは魔術。そして俺を宿したお前が使えるのも魔法ではない。魔術なのだ』
「悪魔と同じ力が使えるってことか?」
『簡単に言えばそうだな。そして魔法と魔術の最大の違いは発動条件だ』
「発動条件……?」
『魔法は現象を完全に理解し、それを魔方陣に書き記したもの。よって魔力が無くとも誰でも使うことが出来る。魔力を有しているものに比べれば格段に落ちるがな。それに対し魔術はおのれのイメージを魔力を以て超常現象として引き起こすもの』
アジ・ダハーカが宙に魔方陣を展開する。それを見た俺は不思議に思った。
「それ魔法陣じゃん。結局魔法使えるのかよ」
アジ・ダハーカはそれを否定する。
『これは確かに魔法陣だが、こいつ自体にはなんの意味も持たない。よく見てみろ。お前の腕にある魔方陣と同じものだ』
「ほんとだ!じゃぁなんで?」
『魔術を介した魔法陣はそのものの紋様が展開されるのだ。よってこれは魔法陣であって魔法陣で無い』
「なる……ほど?俺が使えるのが魔術でお前を宿してるなら俺の紋様はそれになるわけ?」
『やっと冴えた発言をしたな。その通りだ。因みに魔法に比べて魔力は魔力消費量が多い。今日から特訓を始めるとリーナ・グランシェールが言っていたぞ?』
「それってどういう───」
『そろそろ時間だ、目覚めんと殺すぞ?』
自分の周りにありえない程の魔法陣を展開し始める。
ちょっと待てってそれ本気で撃つの?死ぬよ俺?
そう戸惑っている間にも魔法陣輝きだし俺に向けてなにか撃つ準備を始めた。
瞬間───俺の目の前が真っ白になった───
「うわぁぁぁぁああああ!って夢で死ぬわけないか……そう言えば特訓がどうとか言ってたけど」
家のインターフォンが鳴り続けていることに気づき、カーテンを開けて外を確認する。するとジャージ姿のリーナ先輩が玄関の前に立っていた。
俺の視線に気づいた先輩に呆れ笑いしながら「はやくしなさい」と言われたので手早く準備して外に向かう。
「お待たせしました!」
「ようやく来たわね。それじゃぁ始めましょうか」
「よろしくお願いします。最初は何を?」
「そうね……とりあえず魔力を完全に解放してくれる?」
言われた通りに魔力を解放する。
「オッケー。その状態をキープしてね、そのまま走るわよ」
「走るんですか?この状態で?」
「そうよ?さぁ行きましょうか。とりあえず二十キロランニング行きましょうか」
「はい!?」
「ほら!ペース崩さない!魔力は常に解放する!」
「は、はぃぃぃぃ!」
「魔力の上限をあげるには一度魔力を限界まで使い切るのが一番手っ取り早いわ。魔力を垂れ流しにしながらランニングをするのが一番効果的ね」
竹刀片手に自転車で俺の後ろをついてくる先輩が説明をくれる。
「で、でも……なんでランニングなんですか?」
「これが一番特訓っぽいでしょ?あっ!魔力閉じちゃダメよ!」
バシンッ!と竹刀で尻を叩かれる。
「イッタ!何すんすか!」
抗議するも、先輩は特に気にした様子もなく竹刀の先端をこちらに向ける。
「口答えする余裕あるなら走りなさい」
なんでこの人こんなに熱血なのよ!?
川の堤防を二十キロ走破した俺に次に待ちかまえていたのは、公園での筋トレだった。
「あの……俺日頃から筋トレしてるんで……いまさらする必要ありますか?」
腕立てしながら、背中に乗る先輩にまた抗議する。
「あなた、今度の試験でのトーナメントで勝ちたいんでしょう?それならこのくらいこなしなさい」
「そ……そんな事言われても……グヘェ」
重さに耐えきれずに地面に崩れてしまった。
「コラ、勝手に崩れちゃダメじゃない。最初からやり直し」
「休憩させて欲しいっす」
「何言ってるの、この後まだまだやる事あるんだから。ほらちゃっちゃとやる」
「ヒィィィィィ……」
なんとか地獄のような初日の筋トレを終えた俺は、朝の支度を済まして学校に向かう。
なんかもう既に筋肉痛になってるんだけど……あの人加減って知ってるのかな?これ毎日続けてたら死ぬよ俺?しかも身体がやけに重いし。
『ククク、リーナ・グランシェールのトレーニングは思った以上に過酷なものだったな。見ていて面白かったぞ?』
うるせー。こちとら魔力も空っぽで気だるさマックスなんだよ。筋トレ中に無駄に魔力消費するしよぉ。
『だがこのトレーニングでお前の魔力量が上がっているのは確かだ、俺もお前がしごかれている最中に魔力の同調を計っているが、なかなか順調だぞ?』
たのむから早くそれを済ませてくれよ……俺はまだ死にたくないぞ?
教室に到着して席に座るとちょうど始業のチャイムが鳴り、学校での一日が始まる。
放課後───
「ダァァァァァァァァァアア!終わったー!」
一日が終わり、この疲れきった体を休めると思うとなんだか涙が出てくる。正直今日一日何したか覚えてない。
「なんか今日一日お疲れみたいだったけどなんかあったの?」
「おー氷翠、今日朝から先輩に死ぬほどしごかれたんだよ。これがこれから毎日あると思うと……」
机に伏していた体を起こして氷翠に訊く。
「そう言えばあれから体は大丈夫か?」
「特に異常はないかな。おかげさまで毎日元気だよ」
「そうか、それはよかった」
「あ、でもひとつあるとすれば最近めっちゃ眠たいんだよね」
「それは多分、生き返った反動だろ?蘇生ってかなり本人と術者の体力と魔力持ってくらしいし。リーナ先輩にも言われてたじゃんか」
それはリーナ先輩から聞いていたことで、蘇生術は本来、もっと大掛かりな儀礼らしい。それをあれだけの規模でなんの触媒もなく行ったもんだから当分は疲れが取れないと言われている。
「リーナちゃん先輩がああ言ってたけど、これかなりしんどいよ」
氷翠はなぜかリーナ先輩のことをリーナちゃん先輩と呼んでいる。このことについてはほん人も特に気にしていない様子なので何も言わないけど、聞いてるこっちとしては違和感がすごい。だってあの人ちゃん付けされるような人じゃないだろ?
「ずっと気になってたけどなんでリーナちゃん先輩なんだ?」
俺がそう訊くと氷翠は当然と言ったように答える。
「え?だってその方がかわいくない?」
「そんな理由……まぁ氷翠らしいっちゃ氷翠らしいけど」
あとで先輩に聞いてみよう。そして俺も呼んでみよう。
会話がそこで途切れてしまい、静かな空気が流れる。教室には椅子にだらしなく座る俺と、前の席に座る氷翠しかいなかった。
「そういえばこれから集まりがあるって言ってなかったっけ?リーナちゃん先輩の家にこいって言われてた気がするんだけど」
突然氷翠がそんなこと言い出す。
「あぁ!そう言えばそうだった!時間あとどれくらい?遅れたら何かしら罰があるとか言われてた気がするんだけど!」
俺は勢いよく立ち上がって氷翠にそう言う。
「わーお!それは大変だ!急がないと!」
急いで準備して、廊下に出たところでローランを見つけたので声をかける。
「おーい!ローラン!待って!俺達も一緒に行く!」
「やぁ悠斗君、急がないと姉さんに罰ゲームくらうよ?あの人そういうの本気でやる人だから」
俺と氷翠とローランの三人は走ってグランシェール邸に向かい、時間ギリギリに到着する。
玄関前の門のチャイムを押し、先輩に到着したことを伝える。
「先輩、後輩三人到着しました」
チャイムに備え付けられたスピーカーから先輩の声が聞こえる。
『ギリギリだったわね。折角罰ゲーム用意してたのにこれじゃ面白くないじゃない』
「ほんとに何用意してたんですか!?」
『門の鍵開けたから中に入りなさい。いつもの部屋に来てちょうだい』
言われた通りに部屋に向かう。部屋にはリーナ先輩と結斗さんがいた。机の上には何やら怪しい瓶が三本置いてあった。
あれの中身飲ませるつもりだったな?危なかった、俺はまだ死にたくないぞ?……あれ?今日これ何回言った?
「みんな集まったわね?それじゃぁまず最初に、悠斗君と氷翠さんは今日からこの家に住んでもらうわ」
………………………………。
……………………は?
「「えええええええええええええええ!?」」
俺と氷翠の叫び声が屋敷中に響いたのは言うまでもなかった。
当たり前だ!急にそんなこと言われるなんて思うはずないだろう!?
隣にいる氷翠もこの宣言に驚いていた。
「そ、そそそ、そんな急に言われても!家の人に何も言ってないのに」
「それなら安心して?私が既に手を回しておいたわ」
そう言われて言葉も出ない氷翠。
「俺もアパートの解約とか色々手続きしなきゃいけないし」
先輩は机の上に何枚かの書類を出した。
「それなら大丈夫よ、ここにちゃんと書類があるもの」
「そこはやってくれてねぇのかよ!?」
なんでやってくれてないのよ!そこややって頂戴よ!
「というわけで、ようこそグランシェール邸にへ。私達はあなたを家族として迎えるわ」
そうして、俺と氷翠はリーナ先輩とローランと結斗さんと一日を過ごすことになった。
その夜、俺は一人で、アパート解約のために書類をまとめたりしてました。
誰か手伝ってよ!
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
お馬鹿な聖女に「だから?」と言ってみた
リオール
恋愛
だから?
それは最強の言葉
~~~~~~~~~
※全6話。短いです
※ダークです!ダークな終わりしてます!
筆者がたまに書きたくなるダークなお話なんです。
スカッと爽快ハッピーエンドをお求めの方はごめんなさい。
※勢いで書いたので支離滅裂です。生ぬるい目でスルーして下さい(^-^;
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
妹しか愛していない母親への仕返しに「わたくしはお母様が男に無理矢理に犯されてできた子」だと言ってやった。
ラララキヲ
ファンタジー
「貴女は次期当主なのだから」
そう言われて長女のアリーチェは育った。どれだけ寂しくてもどれだけツラくても、自分がこのエルカダ侯爵家を継がなければいけないのだからと我慢して頑張った。
長女と違って次女のルナリアは自由に育てられた。両親に愛され、勉強だって無理してしなくてもいいと甘やかされていた。
アリーチェはそれを羨ましいと思ったが、自分が長女で次期当主だから仕方がないと納得していて我慢した。
しかしアリーチェが18歳の時。
アリーチェの婚約者と恋仲になったルナリアを、両親は許し、二人を祝福しながら『次期当主をルナリアにする』と言い出したのだ。
それにはもうアリーチェは我慢ができなかった。
父は元々自分たち(子供)には無関心で、アリーチェに厳し過ぎる教育をしてきたのは母親だった。『次期当主だから』とあんなに言ってきた癖に、それを簡単に覆した母親をアリーチェは許せなかった。
そして両親はアリーチェを次期当主から下ろしておいて、アリーチェをルナリアの補佐に付けようとした。
そのどこまてもアリーチェの人格を否定する考え方にアリーチェの心は死んだ。
──自分を愛してくれないならこちらもあなたたちを愛さない──
アリーチェは行動を起こした。
もうあなたたちに情はない。
─────
◇これは『ざまぁ』の話です。
◇テンプレ [妹贔屓母]
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾もあるかも。
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング〔2位〕(4/19)☆ファンタジーランキング〔1位〕☆入り、ありがとうございます!!
【完結】英雄様、婚約破棄なさるなら我々もこれにて失礼いたします。
紺
ファンタジー
「婚約者であるニーナと誓いの破棄を望みます。あの女は何もせずのうのうと暮らしていた役立たずだ」
実力主義者のホリックは魔王討伐戦を終結させた褒美として国王に直談判する。どうやら戦争中も優雅に暮らしていたニーナを嫌っており、しかも戦地で出会った聖女との結婚を望んでいた。英雄となった自分に酔いしれる彼の元に、それまで苦楽を共にした仲間たちが寄ってきて……
「「「ならば我々も失礼させてもらいましょう」」」
信頼していた部下たちは唐突にホリックの元を去っていった。
微ざまぁあり。
婚約者に親しい幼なじみがいるので、私は身を引かせてもらいます
Hibah
恋愛
クレアは同級生のオーウェンと家の都合で婚約した。オーウェンには幼なじみのイブリンがいて、学園ではいつも一緒にいる。イブリンがクレアに言う「わたしとオーウェンはラブラブなの。クレアのこと恨んでる。謝るくらいなら婚約を破棄してよ」クレアは二人のために身を引こうとするが……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる