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ドラゴンボーイ
File.1 出会い そして死ぬ!?
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俺の名前は際神悠斗、真波学園に通う高校二年生。
なのですが……俺はこの学園で一番に成績が悪く、学校からつけられたFランクにちなんで「フェイラー」なんて呼ばれています。
おかげで去年はひどい1年でしたよ……。
え入学当初からFランFランなんて呼ばれ続けて、実技の授業じゃぁ「おい魔法見せてくれよ」とか「模擬戦しようぜ」などとはやし立てられ、その挑発に易々と乗ってしまいボコボコにされる。
筆記とか体力テストは普通より高い、というより自分で言うのもって感じだけど、なかなかに優秀な成績をたたき出している。
しかし、この学園で最も重要なのは魔法、魔法力なのだ。これが滅法ない俺は昨年の担任の先生に来年の六月にある全学年対抗のグループトーナメントで上位十六位以内に入らないと退学処分にすると言われてしまった。
だから今年こそは、適正無しと判断された魔法を使えるようになって、この学園を卒業してやる!
その目標を胸に、今ちょうど魔法学の授業を受けています。
この学園は午前は魔法学の授業で午後から実習、訓練となっている。
「───とあるように精霊魔法は特定の───」
「───魔力の集合体ですがそれぞれに自我を持ち───」
先生が黒板をまとめながら口で説明をくれる。黒板に魔法陣の構築や、魔法の特徴などがまた書かれていく。俺はそれを必死に写して先生の講義を聴く。
午後の授業は剣の授業。まぁここはさっき説明した通りなのでご愛敬ということで。
授業が終わり、今日の課程はこれで全部終了。クラスの皆がそれぞれに別れて教室から出て行く中、俺は教室に残っている。
これは俺が入学当初からやっている事でそれは静かな教室で瞑想をすることだ。
これを皆が出ていった後の一時間毎日やる。これが効果を示すか示さないかはわからないけども、やらないよりはマシだと思う。
俺が教室での瞑想を続けていると、肩をトントンと叩かれる。
俺はそれが邪魔だとその手を払う。するとまた肩を叩かれる。
もう一度手を払う。またまた性懲りも無く俺の肩を叩いてくる。
なんだよ邪魔だなぁ。邪念が混ざると瞑想にならないんだよ、ほっといてくれないか?
無視していればいずれ止むだろうと思い、肩を叩く手を払うのをやめる。
トントントントントントントントントン
……無視無視、気にしなければいずれ飽きる。どうせ俺が「フェイラー」だと聞いて笑いに来たやつだろう。
トントントントントントントントントントントントントントントン
無視……無視……
トントントントントントントントントントントントントントントントントントントン
「ダー!!邪魔するなー!!」
「キャー!!」
「誰だよ!人の瞑想を邪魔するやつは!?」
俺は声を荒らげながら教室を見渡して叫ぶ。
けれども人が見当たらない。
「あっあれ?どこに?」
すると俺の下の方から「イタタ」という声が聞こえる。気になってそっちの方を見るとそこには一人の女子がいた。
え……?は……?なんで?まっ、まさか!遂にないと思っていた女子からの嫌がらせが始まる!?それだけは!それだけは勘弁してください!
俺がそう懸念するのをよそに、その人は尻もちを着いた状態から立ち上がりおしりに付いた埃を払うとこちらを見て、
「君いつもここで何してるの?」
などと言ってくる。
俺は周りを見渡して誰もいないことを確認し「俺?」と自分を指さす。するとその人はそれを肯定するように首を縦に振る。
俺は普通に話しかけられることが無かったからそれに戸惑いながらも、
「ここで瞑想してるんだよ、これが自分を強くすることにつかながるかどうかはわからないけど、やる価値はあると思うんだ」
それを聞いて興味深そうに俺を見ると、自己紹介をくれた。
「君、面白いね!私氷翠舞璃菜、同じクラスだよ。よろしくね」
俺もそれにならって、
「際神悠斗、よろしく」
「君のその制服の色、君が噂の「フェイラー」なんだ。黒のラインが通ってるのが一番似合うよねこの制服。私なんか青だよ青、あんまりこの制服に合わないよこの色、トホホ……」
この学園はランクを色で分けている。
ランクは上からS、A、B、C、D、E、Fの七つに分かれており制服の袖にその順に白、赤、青、緑、灰、橙、黒といったラインが通っている。
俺はこの学園で唯一の黒、そして氷翠が青色ということはBランクを示している。上から数えて三番目のランク。
「いいじゃないか、俺なんか最低ランクのFだぜ?それに比べたら何万倍もマシだよ」
そんなこんなで俺と氷翠は小一時間教室で話し合い、笑いあった。
気が付くと時計は既に5時半を指しておりいつもよりも帰るのが遅くなってしまった。
「おっと、もうこんな時間か。俺は帰るけど氷翠はどうする?」
「私も帰るよ。一緒に帰ろっか」
女子からそんなこと言われるとなんか緊張する。
「はい、よろしくお願いします」
ついつい敬語になってしまった。生まれてこの方家族以外の女性と話したことがないからこうゆうのは点でダメだな。
「アハハ!なんで敬語なの!?ほんと面白いね!」
「うるさいなぁ、そこは触れてくれるなよ」
「じゃぁ私自分の机に荷物置きっぱだからちょっと待っててね」
「分かったよ。俺も帰る準備しないとな」
俺たち二人はそれぞれの帰る準備を済まして教室を出て校門へとまっすぐ向かう。
「俺こっちだけど氷翠は?」
「私もそっち方面だよ」
「そっか、そういえばなんで俺になんか話しかけてきたんだ?」
そう聞くと氷翠は少し考え込むようにした後に、
「うーんと……気になったから……かな?」
そんだけ捻り出そうとしてそれかよ……。
「ああでもでも、去年から君のことが気になってたってのはあるよ?」
「それはどういう?てかなんで?」
「だって君の名前って筆記試験とか体力テストの上位成績者のところでよく見るもん。それなのに魔法があんだけ出来ないのは不思議すぎると思ってた」
俺が知識や体力を欲し続けるのはもしも俺が魔法が使えるようになった時を想定しての準備だ。でもそれが未だに魔法の才能が開花しない。
俺はその旨を氷翠に伝える。
「俺は知ってる通り魔法がてんで使えないだろ?だけどもしかしたらのことを考えて知識とか体力はつけておこうと思ったんだよ。使えるようになっても何も知りませんじゃダメだろ?」
それを伝えると、
「そっか、君は少しの可能性も逃すまいと努力してるんだね。君は才能に溺れることの無い良い魔法使いになれると思うよ?」
氷翠は俺の目の前にまわって正面からそう言ってくれる。その目はさっきまでの明るい雰囲気とは違い落ち着いた雰囲気を見て取れる。
「そうだといいな、ありがとうな」
「………………」
「…………?」
するとさっきの落ち着いた雰囲気から一変して、明るかった雰囲気に戻り、
「いんやぁいいよぉ!そんなに感謝しなくても!」
「それでも嬉しいよ、これまでそんなこと言ってくれるやついなかったからさ」
すると氷翠は自慢げな顔をした。
「なんだよその顔」
「なんもないですよっと、それじゃぁ私こっちの道だから、また明日ね」
「おう、じゃぁな」
別れを告げてそれぞれの帰る方向へと向かう。
「ああー!そうだ!ねぇ!ちょっと待って!」
後ろから氷翠の叫び声がして、振り向くと氷翠がこちらに向かって走ってきた。
「ハァ、ハァ、今度の土曜か日曜に一緒に買い物でも行こうよ」
突然の誘い……どうしよう……まさか女子と買い物に行くなんて……でも断れないし、まぁ買い物ぐらいならいいかな?
「いいよ、時間はそっちに合わせるから都合がいい時間が見つかったら教えてくれ」
「分かった、じゃぁ連絡先交換しよ」
氷翠からそう促されそれに従い自分の携帯を取り出す。俺が自分の連絡先を表示したまま氷翠を待つが氷翠は自分の体を触ったり、ポッケを確認したりカバンの中を探す。
ある程度探したあとで、
「ごめん、携帯忘れちゃった。また明日でいい?」
「いいよ、それじゃぁ俺夕飯作らなきゃいけないから、また明日な」
「うん、じゃぁね」
そう言って氷翠は自分の帰る道に戻っていく、それを確認した俺も家に向かう。
家に帰る途中、俺は多分年上だと思われるお姉さんに道を教えてくれと声をかけられた。
「あの、すいません、この公園ってどこにあるか分かりますか?」
その公園は俺も行ったことがなかったので地図を見ながらその女性を案内した。
「多分この辺りだと思うんですけど……ええっと?どこだ?」
「この辺りだと思うんですけど……」
「えぇぇ?この公園どこにあるんだ?」
一人呟きながら、おそらく公園周辺だと思う場所を歩き回る。
すると女性が、
「あっ、あと噴水、あの公園です」
「へぇ、あんな場所に公園なんてできてたんだ、知らなかったなぁ」
俺もこの公園に興味がわいてその公園に足を踏み入れる。
公園のシンボルだと思われる噴水前に来て、公園を一望していると、
「ありがとうございました、ここら辺に来たのは初めてでして」
「いえいえ、俺も面白い発見ができて良かったですよ」
「それで、あの、もう一つあるんですけど」
「ん?なんです?」
俺がそう言うと先程とは別人の顔つきになり一言。
「死んでもらえます?」
………………へ?
……今…え?
「ちょっ、ごめんなさい、上手く聞こえなかったかもしれないんでもう一度言ってもらっていいですか?」
俺が無理くり作った笑顔でそう言うと女性は足元に魔方陣を展開させる。
そしてその魔法陣が足元から腰、肩と上昇していき女性の服が変化していた。
魔法使い!?
相手が両手に魔法陣を展開させるとそこから何かが高速で飛び出してきた。
ズドンッ!
俺はそれに反応できず、体に衝撃が走る。自分の体を見ると二本の槍が刺さっている。しかも実際の槍ではなく、属性を槍状に形成したものだ。俺の体を貫く槍が俺の体から消滅すると先程まで栓がされていた穴から大量の血が流れていく。
「なん……で……」
声を出そうにも痛みと驚きで声にならない。
「あなたが殺されることを責めたいのなら私じゃなくて、あなたに宿るものに言いなさい」
女性はその場に倒れる俺を見下しながらそんなことを言う。
「じゃあね、道案内ありがと」
そんなことを言うと、その女性はこの場を去っていった。
ー◇◇◇ー
腹部に激痛を感じながら俺はその場に倒れていた。
あぁ、短い人生だったな───まぁ死んじまうならそんなもんか───でも、もちょっとぐらい楽しみたかったなぁ───学校卒業して、一人旅に出て───世界中を回りたかったよなぁ───
穴の空いた自分の腹に手を当てる、その穴からは温かく赤い液体がとめどなく流れており、手に付いたそれを見て自分が死に近づいていることをより実感する。
周りが寒くなり、痛みも感じなくなっていき、視界も朧気になる中で俺の視界には黄金色に輝く夕陽が映っていた。
そして目の前にあの夕陽の色とは違うもっと輝かしい黄金色が映る。
ん?あれは?あの色は……あの時と同じ……また、俺を救ってくれるのかな……
「ごめんなさい……また、あなたを救ってあげられなくて……でも今回はあの時とは違う。あなたには───」
そこで俺の気は遠のいていき、目の前が真っ暗になった。
ジリリリリリリリリリリリリリ!
目覚まし時計の音が聞こえる。
うーん、もう朝か……今何時?
時計を見ると六時をさしていた。
「ふぁぁぁああ、六時か、支度しよ」
朝ごはんのトーストを作り、コップにジュースを注いで食べ始める。
その時に、俺はあることが疑問に思い食べる手を止めた。
徐々に昨日のことが頭に浮かんでくる。
あれ……?俺……昨日……公園に行って……腹を刺されて……殺されたはず……?
俺は慌てて自分の腹を確認するが、何かを刺された跡なんてどこにも無かった。
なんで生きてるんだ?いや、生きられたことはいいんだけど……なんで自分の家で寝ていた?分からない……。
俺は混乱している頭を一旦落ち着かせて朝の準備を終えていつもより十五分ほど早く家を出た。
そして昨日俺が殺された公園を探す。しかしそんな公園は見つからずそこはただの工事現場だった。せめて俺の流した血の跡ぐらいはと思ったがそれも見つからなかった。
それじゃぁ俺が昨日殺されたのは夢……なのか……?それにしてはリアリティがありすぎるし俺は昨日刺された痛みをはっきりと思い出せる。
俺はそのまま学校に向かった。
「うーん……そんな公園聞いたことないなぁ。その公園で何かあったの」
「いや、なんでもないよ、ゴメンな変な事聞いちまって」
俺は学校に着いた後すぐに氷翠にその公園について話した。やはりあの公園は存在しないらしく、昨日のあの場所で殺人があったかどうかなども聞いてみたが逆に心配されるだけだった。
「ほんとにそんな公園聞いたことないけどなぁ……そんなに気になるなら今日の放課後に一緒に行ってみる?」
「い……いや、今日の朝に実はもう行ってきたんだ、ほんとにあそこに公園があったはずなんだけどなぁ」
氷翠が携帯に指を滑らせて何かを調べている。
「何調べてんの?」
携帯の画面を俺に向けてくる。
「今言ってた公園。やっぱりそんな公園ないよ?そんなに言うならやっぱり一緒に行こうか?」
「いいの?ありがとな」
「あっ、ほら、先生来たしもうすぐ授業始まるよ?席につかないと」
「おっ、そうだな、それじゃまた昼休みか放課後に」
「うん、放課後絶対忘れないでよ?」
俺が席に着き、他の生徒も席に着くとそれを確認した先生が口を開く。
「それではHRをはじめます」
ー◇◇◇ー
今日の課程が全て終わり、生徒達がぞろぞろと教室から出ていく。
「くあぁぁぁぁ……終わったー」
いつも通り教室で瞑想を始めたいところだが、今日はそれが出来ない。
「悠斗君」
今日は珍しく約束があるからだ。俺は声のかかった方に返事をする。
「おし、じゃぁ行きますか」
そう言って机から勢いよく立ち上がり、教室の扉に足を向けた時に、
「あぁいや、瞑想してからでいいよ」
そんなことを言われる。
「いいのか?あれ結構な時間やってるけど?
大丈夫か?家の人とか心配すると思うけど……まぁ、氷翠がいいならそれでいいけど。
そんな俺の考えに答えるように氷翠が返す。
「いいよいいよ、私も今日は暇だし。なんなら私もやりたいしね」
家の人からは許可もらってるのね。それなら大丈夫か。
「そうか、それならお言葉に甘えて」
「うん、じゃぁ私も隣でやりながら待ってるね」
「邪魔だけはすんなよ?」
一応釘を刺しておこう……
氷翠のご好意によって日課の瞑想をやっている最中なのだが、やっぱり昨日のことが気になって集中出来ない。いや……集中出来ない理由は多分ほかにもあると思うんだけど、やっぱり昨日の事が大きい。
どう考えてもあれが夢だとは思えない。だって昼休みに氷翠に「メアド交換する約束したよな?」と確認したら「うん、したよ」って言ってたし……あれが夢だっていうなら俺はあの後家に帰ってすぐに寝てたことになる……?それか俺が忘れただけ?いやいやいや、そんな昨日のことなんかすぐに忘れないでしょ。
何度考えても俺が殺されたのは現実だという答えに辿り着く。だけどそれを俺のもっと奥の部分が認めようとしない。
背中に悪寒が走る。俺は自分の腹の槍が刺さった部分に手をやる。
あの場面で死にかけたなら誰が助けてくれた?
殺されたこと、生き返ったこと、それが事実だと断定できないせいで寒気がする。さっきも悪寒が走ったし、そろそろやめにするか……やっぱり全く集中出来ない。
俺は隣で静かにしてる氷翠に声をかける。
「なぁ、だいぶ早いけどそろそろ行こうぜ?」
あれ?氷翠がいない?どこいった?とゆうか未だにちょっと寒いんだけど。背中になにか冷たいものが……まさか!?
俺は勢いよく後ろを振り向く。案の定俺の背中を凍らせにかかっている氷翠の姿が。
「邪魔するなって言っただろー!!」
「うわぁーん!ごめんなさーい!」
氷翠がどっか逃げてったので帰ってくるまで荷物を整えている時に時計を見ると始めてから十分しか経ってなかった。
あいつ……十分も持たなかったのかよ……
しばらく教室で待ってると氷翠が教室の扉から顔を半分出してこちらを見ていた。
氷翠は「もう怒ってない?」とでも言いたそうな顔でこっちを見てくるので「早くしろと」威圧してさっさと準備させる。
互いに荷物を持って教室を出てグラウンドを横断して校門を出る。
「全く、邪魔するなって言っただろ?」
「ごめん!ごめんて、集中力持たなかったんだよ」
「ならせめて俺の邪魔をしないでくれよ」
「分かったって、今度からは多分邪魔しないから」
氷翠は笑ってそんなことを言う。
まぁ次から邪魔しないならそれでいいけど。
……って待て、多分って言った?多分って言ったよな!?
「多分じゃな────」
「それで悠斗君の言ってた公園ってどこら辺にあるの?」
氷翠が俺の文句を遮って話を切り出す。
「ん?今何か言いかけた?」
「いや、もういいです……」
「?それで、その昨日君が行った公園はどこにあるの?」
「あ、あぁ、案内するよ。朝に行った時になかったから多分ないと思うけど」
俺は昨日の俺を殺した魔法使いを連れていった時と同じ道順であの公園に向かう。
「一応、ここにあったんだけど……」
「やっぱり無いじゃん、夢だったんじゃないの?」
「そんな訳ないって!」
「でも、朝に行った時もなかったんでしょ?」
それを言われると何も言えない。
「それは……そうだけど」
「じゃぁ諦めなよ?」
「でもあれが夢だとは思えないんだよなぁ」
あの時のあの魔法使いにかけられた言葉、腹を貫かれたあの痛み、死の間際に見たあの黄金色。あれが夢で、それで済ますことが出来るならどれだけいいだろうか……。これは俺が意固地になっているだけなのかもしれない。それでもあの事件を夢で終わらせたくないと俺の心のどこかで考えてしまう。
「そろそろ帰ろ?あっ!そうだ!昨日私が携帯忘れたせいでメアド交換してなかったよね?」
考え込んでいる俺に氷翠がそう声をかける。
「あぁ、そう言えばそうだったな。今日は持ってきたの?」
そう聞くと氷翠は何故か自信満々に鞄をあさり携帯を取り出す。
「ジャジャーン!ほらほらー、今日はちゃんとありやすぜ?」
ありやすぜ?って……
俺も自分の携帯を取り出して、自分のアドレスを氷翠に見せる。
「ほら、これが俺のアドレス」
「オッケー」
氷翠が俺の携帯と自分の携帯を操作して互いの携帯にアドレスを登録する。
「はい、できたよ」
渡された携帯の連絡先の一覧を見て女医の名前が追加されたことに喜びを感じながらも今後のことについて聞く。
「それで買い物は結局いつ行くんだ?」
「それはまたメールでもするよ。そのために連絡先交換したんだし」
「それもそうだな」
「それじゃぁ私もう帰るね」
もう帰るのか、俺はどうしようかな……もう少しここら辺を探索してみるか。
「俺はまだここに残るよ」
それを聞いた氷翠は嘆息しながら、
「もう、諦め悪いなぁ、なにか成果あったら教えてね」
「おう」
「それじゃぁね」
うーん……氷翠も帰っちゃったしどうしようかな?朝見た時無かっただけでもしかしたらもうすぐ出てくるかもしれないしな。それだったらもう幽霊公園だよな……とりあえず記憶を頼りに昨日俺が殺された場所にでも行ってみるか。
俺は自分が殺された場所と思われる場所に向かい記憶を頼りにその場にたどり着く。
確かここだよな?全く血痕も無いしそもそも俺がいた時はしたアスファルトだったからな、こんなに雑草だらけじゃなかったぞ?やっぱり夢だっか。
俺はそう自分の中で結論づけて、自分の家に帰ることにした。
自分の中では解決したと思っていたが、それでも俺は心のどこかにある不安を拭うことは出来なかった。
なのですが……俺はこの学園で一番に成績が悪く、学校からつけられたFランクにちなんで「フェイラー」なんて呼ばれています。
おかげで去年はひどい1年でしたよ……。
え入学当初からFランFランなんて呼ばれ続けて、実技の授業じゃぁ「おい魔法見せてくれよ」とか「模擬戦しようぜ」などとはやし立てられ、その挑発に易々と乗ってしまいボコボコにされる。
筆記とか体力テストは普通より高い、というより自分で言うのもって感じだけど、なかなかに優秀な成績をたたき出している。
しかし、この学園で最も重要なのは魔法、魔法力なのだ。これが滅法ない俺は昨年の担任の先生に来年の六月にある全学年対抗のグループトーナメントで上位十六位以内に入らないと退学処分にすると言われてしまった。
だから今年こそは、適正無しと判断された魔法を使えるようになって、この学園を卒業してやる!
その目標を胸に、今ちょうど魔法学の授業を受けています。
この学園は午前は魔法学の授業で午後から実習、訓練となっている。
「───とあるように精霊魔法は特定の───」
「───魔力の集合体ですがそれぞれに自我を持ち───」
先生が黒板をまとめながら口で説明をくれる。黒板に魔法陣の構築や、魔法の特徴などがまた書かれていく。俺はそれを必死に写して先生の講義を聴く。
午後の授業は剣の授業。まぁここはさっき説明した通りなのでご愛敬ということで。
授業が終わり、今日の課程はこれで全部終了。クラスの皆がそれぞれに別れて教室から出て行く中、俺は教室に残っている。
これは俺が入学当初からやっている事でそれは静かな教室で瞑想をすることだ。
これを皆が出ていった後の一時間毎日やる。これが効果を示すか示さないかはわからないけども、やらないよりはマシだと思う。
俺が教室での瞑想を続けていると、肩をトントンと叩かれる。
俺はそれが邪魔だとその手を払う。するとまた肩を叩かれる。
もう一度手を払う。またまた性懲りも無く俺の肩を叩いてくる。
なんだよ邪魔だなぁ。邪念が混ざると瞑想にならないんだよ、ほっといてくれないか?
無視していればいずれ止むだろうと思い、肩を叩く手を払うのをやめる。
トントントントントントントントントン
……無視無視、気にしなければいずれ飽きる。どうせ俺が「フェイラー」だと聞いて笑いに来たやつだろう。
トントントントントントントントントントントントントントントン
無視……無視……
トントントントントントントントントントントントントントントントントントントン
「ダー!!邪魔するなー!!」
「キャー!!」
「誰だよ!人の瞑想を邪魔するやつは!?」
俺は声を荒らげながら教室を見渡して叫ぶ。
けれども人が見当たらない。
「あっあれ?どこに?」
すると俺の下の方から「イタタ」という声が聞こえる。気になってそっちの方を見るとそこには一人の女子がいた。
え……?は……?なんで?まっ、まさか!遂にないと思っていた女子からの嫌がらせが始まる!?それだけは!それだけは勘弁してください!
俺がそう懸念するのをよそに、その人は尻もちを着いた状態から立ち上がりおしりに付いた埃を払うとこちらを見て、
「君いつもここで何してるの?」
などと言ってくる。
俺は周りを見渡して誰もいないことを確認し「俺?」と自分を指さす。するとその人はそれを肯定するように首を縦に振る。
俺は普通に話しかけられることが無かったからそれに戸惑いながらも、
「ここで瞑想してるんだよ、これが自分を強くすることにつかながるかどうかはわからないけど、やる価値はあると思うんだ」
それを聞いて興味深そうに俺を見ると、自己紹介をくれた。
「君、面白いね!私氷翠舞璃菜、同じクラスだよ。よろしくね」
俺もそれにならって、
「際神悠斗、よろしく」
「君のその制服の色、君が噂の「フェイラー」なんだ。黒のラインが通ってるのが一番似合うよねこの制服。私なんか青だよ青、あんまりこの制服に合わないよこの色、トホホ……」
この学園はランクを色で分けている。
ランクは上からS、A、B、C、D、E、Fの七つに分かれており制服の袖にその順に白、赤、青、緑、灰、橙、黒といったラインが通っている。
俺はこの学園で唯一の黒、そして氷翠が青色ということはBランクを示している。上から数えて三番目のランク。
「いいじゃないか、俺なんか最低ランクのFだぜ?それに比べたら何万倍もマシだよ」
そんなこんなで俺と氷翠は小一時間教室で話し合い、笑いあった。
気が付くと時計は既に5時半を指しておりいつもよりも帰るのが遅くなってしまった。
「おっと、もうこんな時間か。俺は帰るけど氷翠はどうする?」
「私も帰るよ。一緒に帰ろっか」
女子からそんなこと言われるとなんか緊張する。
「はい、よろしくお願いします」
ついつい敬語になってしまった。生まれてこの方家族以外の女性と話したことがないからこうゆうのは点でダメだな。
「アハハ!なんで敬語なの!?ほんと面白いね!」
「うるさいなぁ、そこは触れてくれるなよ」
「じゃぁ私自分の机に荷物置きっぱだからちょっと待っててね」
「分かったよ。俺も帰る準備しないとな」
俺たち二人はそれぞれの帰る準備を済まして教室を出て校門へとまっすぐ向かう。
「俺こっちだけど氷翠は?」
「私もそっち方面だよ」
「そっか、そういえばなんで俺になんか話しかけてきたんだ?」
そう聞くと氷翠は少し考え込むようにした後に、
「うーんと……気になったから……かな?」
そんだけ捻り出そうとしてそれかよ……。
「ああでもでも、去年から君のことが気になってたってのはあるよ?」
「それはどういう?てかなんで?」
「だって君の名前って筆記試験とか体力テストの上位成績者のところでよく見るもん。それなのに魔法があんだけ出来ないのは不思議すぎると思ってた」
俺が知識や体力を欲し続けるのはもしも俺が魔法が使えるようになった時を想定しての準備だ。でもそれが未だに魔法の才能が開花しない。
俺はその旨を氷翠に伝える。
「俺は知ってる通り魔法がてんで使えないだろ?だけどもしかしたらのことを考えて知識とか体力はつけておこうと思ったんだよ。使えるようになっても何も知りませんじゃダメだろ?」
それを伝えると、
「そっか、君は少しの可能性も逃すまいと努力してるんだね。君は才能に溺れることの無い良い魔法使いになれると思うよ?」
氷翠は俺の目の前にまわって正面からそう言ってくれる。その目はさっきまでの明るい雰囲気とは違い落ち着いた雰囲気を見て取れる。
「そうだといいな、ありがとうな」
「………………」
「…………?」
するとさっきの落ち着いた雰囲気から一変して、明るかった雰囲気に戻り、
「いんやぁいいよぉ!そんなに感謝しなくても!」
「それでも嬉しいよ、これまでそんなこと言ってくれるやついなかったからさ」
すると氷翠は自慢げな顔をした。
「なんだよその顔」
「なんもないですよっと、それじゃぁ私こっちの道だから、また明日ね」
「おう、じゃぁな」
別れを告げてそれぞれの帰る方向へと向かう。
「ああー!そうだ!ねぇ!ちょっと待って!」
後ろから氷翠の叫び声がして、振り向くと氷翠がこちらに向かって走ってきた。
「ハァ、ハァ、今度の土曜か日曜に一緒に買い物でも行こうよ」
突然の誘い……どうしよう……まさか女子と買い物に行くなんて……でも断れないし、まぁ買い物ぐらいならいいかな?
「いいよ、時間はそっちに合わせるから都合がいい時間が見つかったら教えてくれ」
「分かった、じゃぁ連絡先交換しよ」
氷翠からそう促されそれに従い自分の携帯を取り出す。俺が自分の連絡先を表示したまま氷翠を待つが氷翠は自分の体を触ったり、ポッケを確認したりカバンの中を探す。
ある程度探したあとで、
「ごめん、携帯忘れちゃった。また明日でいい?」
「いいよ、それじゃぁ俺夕飯作らなきゃいけないから、また明日な」
「うん、じゃぁね」
そう言って氷翠は自分の帰る道に戻っていく、それを確認した俺も家に向かう。
家に帰る途中、俺は多分年上だと思われるお姉さんに道を教えてくれと声をかけられた。
「あの、すいません、この公園ってどこにあるか分かりますか?」
その公園は俺も行ったことがなかったので地図を見ながらその女性を案内した。
「多分この辺りだと思うんですけど……ええっと?どこだ?」
「この辺りだと思うんですけど……」
「えぇぇ?この公園どこにあるんだ?」
一人呟きながら、おそらく公園周辺だと思う場所を歩き回る。
すると女性が、
「あっ、あと噴水、あの公園です」
「へぇ、あんな場所に公園なんてできてたんだ、知らなかったなぁ」
俺もこの公園に興味がわいてその公園に足を踏み入れる。
公園のシンボルだと思われる噴水前に来て、公園を一望していると、
「ありがとうございました、ここら辺に来たのは初めてでして」
「いえいえ、俺も面白い発見ができて良かったですよ」
「それで、あの、もう一つあるんですけど」
「ん?なんです?」
俺がそう言うと先程とは別人の顔つきになり一言。
「死んでもらえます?」
………………へ?
……今…え?
「ちょっ、ごめんなさい、上手く聞こえなかったかもしれないんでもう一度言ってもらっていいですか?」
俺が無理くり作った笑顔でそう言うと女性は足元に魔方陣を展開させる。
そしてその魔法陣が足元から腰、肩と上昇していき女性の服が変化していた。
魔法使い!?
相手が両手に魔法陣を展開させるとそこから何かが高速で飛び出してきた。
ズドンッ!
俺はそれに反応できず、体に衝撃が走る。自分の体を見ると二本の槍が刺さっている。しかも実際の槍ではなく、属性を槍状に形成したものだ。俺の体を貫く槍が俺の体から消滅すると先程まで栓がされていた穴から大量の血が流れていく。
「なん……で……」
声を出そうにも痛みと驚きで声にならない。
「あなたが殺されることを責めたいのなら私じゃなくて、あなたに宿るものに言いなさい」
女性はその場に倒れる俺を見下しながらそんなことを言う。
「じゃあね、道案内ありがと」
そんなことを言うと、その女性はこの場を去っていった。
ー◇◇◇ー
腹部に激痛を感じながら俺はその場に倒れていた。
あぁ、短い人生だったな───まぁ死んじまうならそんなもんか───でも、もちょっとぐらい楽しみたかったなぁ───学校卒業して、一人旅に出て───世界中を回りたかったよなぁ───
穴の空いた自分の腹に手を当てる、その穴からは温かく赤い液体がとめどなく流れており、手に付いたそれを見て自分が死に近づいていることをより実感する。
周りが寒くなり、痛みも感じなくなっていき、視界も朧気になる中で俺の視界には黄金色に輝く夕陽が映っていた。
そして目の前にあの夕陽の色とは違うもっと輝かしい黄金色が映る。
ん?あれは?あの色は……あの時と同じ……また、俺を救ってくれるのかな……
「ごめんなさい……また、あなたを救ってあげられなくて……でも今回はあの時とは違う。あなたには───」
そこで俺の気は遠のいていき、目の前が真っ暗になった。
ジリリリリリリリリリリリリリ!
目覚まし時計の音が聞こえる。
うーん、もう朝か……今何時?
時計を見ると六時をさしていた。
「ふぁぁぁああ、六時か、支度しよ」
朝ごはんのトーストを作り、コップにジュースを注いで食べ始める。
その時に、俺はあることが疑問に思い食べる手を止めた。
徐々に昨日のことが頭に浮かんでくる。
あれ……?俺……昨日……公園に行って……腹を刺されて……殺されたはず……?
俺は慌てて自分の腹を確認するが、何かを刺された跡なんてどこにも無かった。
なんで生きてるんだ?いや、生きられたことはいいんだけど……なんで自分の家で寝ていた?分からない……。
俺は混乱している頭を一旦落ち着かせて朝の準備を終えていつもより十五分ほど早く家を出た。
そして昨日俺が殺された公園を探す。しかしそんな公園は見つからずそこはただの工事現場だった。せめて俺の流した血の跡ぐらいはと思ったがそれも見つからなかった。
それじゃぁ俺が昨日殺されたのは夢……なのか……?それにしてはリアリティがありすぎるし俺は昨日刺された痛みをはっきりと思い出せる。
俺はそのまま学校に向かった。
「うーん……そんな公園聞いたことないなぁ。その公園で何かあったの」
「いや、なんでもないよ、ゴメンな変な事聞いちまって」
俺は学校に着いた後すぐに氷翠にその公園について話した。やはりあの公園は存在しないらしく、昨日のあの場所で殺人があったかどうかなども聞いてみたが逆に心配されるだけだった。
「ほんとにそんな公園聞いたことないけどなぁ……そんなに気になるなら今日の放課後に一緒に行ってみる?」
「い……いや、今日の朝に実はもう行ってきたんだ、ほんとにあそこに公園があったはずなんだけどなぁ」
氷翠が携帯に指を滑らせて何かを調べている。
「何調べてんの?」
携帯の画面を俺に向けてくる。
「今言ってた公園。やっぱりそんな公園ないよ?そんなに言うならやっぱり一緒に行こうか?」
「いいの?ありがとな」
「あっ、ほら、先生来たしもうすぐ授業始まるよ?席につかないと」
「おっ、そうだな、それじゃまた昼休みか放課後に」
「うん、放課後絶対忘れないでよ?」
俺が席に着き、他の生徒も席に着くとそれを確認した先生が口を開く。
「それではHRをはじめます」
ー◇◇◇ー
今日の課程が全て終わり、生徒達がぞろぞろと教室から出ていく。
「くあぁぁぁぁ……終わったー」
いつも通り教室で瞑想を始めたいところだが、今日はそれが出来ない。
「悠斗君」
今日は珍しく約束があるからだ。俺は声のかかった方に返事をする。
「おし、じゃぁ行きますか」
そう言って机から勢いよく立ち上がり、教室の扉に足を向けた時に、
「あぁいや、瞑想してからでいいよ」
そんなことを言われる。
「いいのか?あれ結構な時間やってるけど?
大丈夫か?家の人とか心配すると思うけど……まぁ、氷翠がいいならそれでいいけど。
そんな俺の考えに答えるように氷翠が返す。
「いいよいいよ、私も今日は暇だし。なんなら私もやりたいしね」
家の人からは許可もらってるのね。それなら大丈夫か。
「そうか、それならお言葉に甘えて」
「うん、じゃぁ私も隣でやりながら待ってるね」
「邪魔だけはすんなよ?」
一応釘を刺しておこう……
氷翠のご好意によって日課の瞑想をやっている最中なのだが、やっぱり昨日のことが気になって集中出来ない。いや……集中出来ない理由は多分ほかにもあると思うんだけど、やっぱり昨日の事が大きい。
どう考えてもあれが夢だとは思えない。だって昼休みに氷翠に「メアド交換する約束したよな?」と確認したら「うん、したよ」って言ってたし……あれが夢だっていうなら俺はあの後家に帰ってすぐに寝てたことになる……?それか俺が忘れただけ?いやいやいや、そんな昨日のことなんかすぐに忘れないでしょ。
何度考えても俺が殺されたのは現実だという答えに辿り着く。だけどそれを俺のもっと奥の部分が認めようとしない。
背中に悪寒が走る。俺は自分の腹の槍が刺さった部分に手をやる。
あの場面で死にかけたなら誰が助けてくれた?
殺されたこと、生き返ったこと、それが事実だと断定できないせいで寒気がする。さっきも悪寒が走ったし、そろそろやめにするか……やっぱり全く集中出来ない。
俺は隣で静かにしてる氷翠に声をかける。
「なぁ、だいぶ早いけどそろそろ行こうぜ?」
あれ?氷翠がいない?どこいった?とゆうか未だにちょっと寒いんだけど。背中になにか冷たいものが……まさか!?
俺は勢いよく後ろを振り向く。案の定俺の背中を凍らせにかかっている氷翠の姿が。
「邪魔するなって言っただろー!!」
「うわぁーん!ごめんなさーい!」
氷翠がどっか逃げてったので帰ってくるまで荷物を整えている時に時計を見ると始めてから十分しか経ってなかった。
あいつ……十分も持たなかったのかよ……
しばらく教室で待ってると氷翠が教室の扉から顔を半分出してこちらを見ていた。
氷翠は「もう怒ってない?」とでも言いたそうな顔でこっちを見てくるので「早くしろと」威圧してさっさと準備させる。
互いに荷物を持って教室を出てグラウンドを横断して校門を出る。
「全く、邪魔するなって言っただろ?」
「ごめん!ごめんて、集中力持たなかったんだよ」
「ならせめて俺の邪魔をしないでくれよ」
「分かったって、今度からは多分邪魔しないから」
氷翠は笑ってそんなことを言う。
まぁ次から邪魔しないならそれでいいけど。
……って待て、多分って言った?多分って言ったよな!?
「多分じゃな────」
「それで悠斗君の言ってた公園ってどこら辺にあるの?」
氷翠が俺の文句を遮って話を切り出す。
「ん?今何か言いかけた?」
「いや、もういいです……」
「?それで、その昨日君が行った公園はどこにあるの?」
「あ、あぁ、案内するよ。朝に行った時になかったから多分ないと思うけど」
俺は昨日の俺を殺した魔法使いを連れていった時と同じ道順であの公園に向かう。
「一応、ここにあったんだけど……」
「やっぱり無いじゃん、夢だったんじゃないの?」
「そんな訳ないって!」
「でも、朝に行った時もなかったんでしょ?」
それを言われると何も言えない。
「それは……そうだけど」
「じゃぁ諦めなよ?」
「でもあれが夢だとは思えないんだよなぁ」
あの時のあの魔法使いにかけられた言葉、腹を貫かれたあの痛み、死の間際に見たあの黄金色。あれが夢で、それで済ますことが出来るならどれだけいいだろうか……。これは俺が意固地になっているだけなのかもしれない。それでもあの事件を夢で終わらせたくないと俺の心のどこかで考えてしまう。
「そろそろ帰ろ?あっ!そうだ!昨日私が携帯忘れたせいでメアド交換してなかったよね?」
考え込んでいる俺に氷翠がそう声をかける。
「あぁ、そう言えばそうだったな。今日は持ってきたの?」
そう聞くと氷翠は何故か自信満々に鞄をあさり携帯を取り出す。
「ジャジャーン!ほらほらー、今日はちゃんとありやすぜ?」
ありやすぜ?って……
俺も自分の携帯を取り出して、自分のアドレスを氷翠に見せる。
「ほら、これが俺のアドレス」
「オッケー」
氷翠が俺の携帯と自分の携帯を操作して互いの携帯にアドレスを登録する。
「はい、できたよ」
渡された携帯の連絡先の一覧を見て女医の名前が追加されたことに喜びを感じながらも今後のことについて聞く。
「それで買い物は結局いつ行くんだ?」
「それはまたメールでもするよ。そのために連絡先交換したんだし」
「それもそうだな」
「それじゃぁ私もう帰るね」
もう帰るのか、俺はどうしようかな……もう少しここら辺を探索してみるか。
「俺はまだここに残るよ」
それを聞いた氷翠は嘆息しながら、
「もう、諦め悪いなぁ、なにか成果あったら教えてね」
「おう」
「それじゃぁね」
うーん……氷翠も帰っちゃったしどうしようかな?朝見た時無かっただけでもしかしたらもうすぐ出てくるかもしれないしな。それだったらもう幽霊公園だよな……とりあえず記憶を頼りに昨日俺が殺された場所にでも行ってみるか。
俺は自分が殺された場所と思われる場所に向かい記憶を頼りにその場にたどり着く。
確かここだよな?全く血痕も無いしそもそも俺がいた時はしたアスファルトだったからな、こんなに雑草だらけじゃなかったぞ?やっぱり夢だっか。
俺はそう自分の中で結論づけて、自分の家に帰ることにした。
自分の中では解決したと思っていたが、それでも俺は心のどこかにある不安を拭うことは出来なかった。
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