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本編

アリステア様のお誘い

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恒例のフィリップ様達とのランチにもすっかり慣れた頃、

「付き合って欲しいところがあるんだが…」

と恥ずかしそうにアリステア様が歴史の授業が終わる頃におっしゃいました。

一瞬、付き合って欲しいといわれた気がして胸が高鳴りましたわ。

「えっ?」

「もうすぐ妹の誕生日なんだが、女が喜ぶものなんてさっぱりわからない。プレゼントを選ぶのを手伝ってもらいたいんだが?この週末空いているか?」

と真っ赤になったアリステア様が続けられた。

シャルトル公爵家の末姫様ね?確か12歳だったかしら?

「ええ。わたくしでよろしければ、喜んでご一緒しますわ」



****

そして土曜日がやってましたの。

前日からワクワクして眠れませんでしたわ。

だってアリステア様とデートですもの。

プレゼント選びのお礼に食事でもしよう。

ということはデートといっても過言ではありませんわよね?

サラスに腕によりをかけておしゃれをしてもらいましたわ。

まあ、行き先は王立学園の学園タウンなので、安全なところなので、2人きりのお出かけですのよ。

学園タウンには学園の生徒と教師ぐらいしか入れませんので、護衛は必要ないのです。

まあ、王太子様ぐらいの方になればその場合にも護衛はつきますけれどね。

貴族の娘としては比較的動きやすい服装、これは主に異国を訪問する時に着る旅衣装なのですけれど、コルセットなどの装着をせず、柔らかい肌着の上に前世でいうワンピースみたいな簡易ドレスなのですけれど、丈はくるぶしまであるので、長時間の歩行は無理なドレスに髪を編み上げて、カジュアル令嬢ルックでお出かけですのよ。

「レティシア様、可愛らしいですわ」

「ありがとう」

支度ができてお茶を飲んできた頃、アリステア様がドアをノックされました。

「お嬢様、アリステア様がいらしてます」

「わかったわ。今すぐ出るから、そう伝えて頂戴」

そして、鏡を一瞥して自分に微笑みかけた。

ん、可愛く仕上がっているわ。


瞳と同じ色の薄緑のドレスとリボンは上品かつ動きやすく仕上がっている。

「いってきます」

「いってらっしゃいませ。お嬢様」

****

ドアを開けると、白いシャツに黒いパンツのアリステア様がいた。

「おはよう、レティー」

美形が着るとなんでもカッコよく見えるけど、白シャツは壊滅的ですわ。

アリステア様のしなやかな筋肉が白いシャツでハッキリと分かる。

上のボタンを2つ外してらっしゃるのは、無意識なのかしら?

首筋と少し覗く肌が艶かしい。

おっ、男の方も色気がありますのね?

わたくしは真っ赤になって、

「おはようございます。アリステア様」

と挨拶を返したけれど、クスッと笑われたような気がした。

「今日も一段と可愛らしいね」

アリステア様からの初めての褒め言葉にわたくしは固まってしまう。

「あっ、ありがとうございます?」

なぜか疑問形になって、テンパるわたくしを見てアリステア様は楽しそうだ。

「さあ、行こう」

ビジュアルだけでもかっこよすぎるのに、この素敵なハスキーボイスで悩殺するなんて、わたくし、前を向けませんわ。わたくしの背中を押す手は大きい。剣だこの男らしい手は鍛錬の賜物ですわね。

アリステア様と歩き始める。

無言で真っ赤になっているわたくしをそつなくエスコートしてくれるアリステア様はやはり公爵家の子息で、その動作はため息が出るほど美しい。

「妹は、シャルロットというのですが、もう12歳でね、そろそろ社交界にデビューの話も出てきているから、近頃おませになって困ってるんだ」

「おませ、ですか」

「うん。わたくしはもう子供ではないのよ?とぬいぐるみを冬至の祝祭のプレゼントをした時にいわれてしまって、子供用のプレゼントならわかるのだけれど、女性へのプレゼントはさっぱりわからなくてね」

「まあ、それは大変ですわね」

「いつまでも愛らしい妹のままでいてもらいたかったのだが、女の子というのは成長が早いのだろうね」

「ええ」

「私が12歳の頃は相変わらず剣術に夢中だったから、色気付くこともなかったのだが」

「まあ、ではアリステア様には婚約者はいらっしゃいませんの?」

「親戚からそういう話が出たこともあったらしいが、父もまず文武からがモットーの人でね、その辺はあまり構われなくて、女性とあまり関わることもなかったから、こういうことは苦手で」

「ええ」

「弟たちとは剣と交えてコミュニケーションしていたし、周りの友達もそういう武道バカばかりだったから。母上は社交に忙しいし、本当に困ってたんだ」


「男の子と女の子は違いますものねえ」

「ああ」

「あの、アリステア様、ここのお店は女の子の間で評判がよろしいのよ?」

わたくしはリーシア様とエルメリア様がよく行くお店にアリステア様をお連れすることにした。

ショーウィンドウにはお花やレース、可愛らしい小物が飾られている。

「見るからに異世界、だな」

アリステア様の言葉にわたくしの緊張もほぐれて、ホッとしましたわ。

小物屋には女の子が好きそうな可愛らしい宝石箱や髪留め、リボンや、レターセット、ロマンチックな詩集からお菓子までたくさんのものが売られている。

「これなんかはどうかしら?宝石箱なら装飾品よりも趣味を問いませんわ」

わたくしが手にしたのは宝石箱だった。金の箱の上にはリボンの細工がされていてその真ん中に飴玉のような宝石が埋まっている。

サイドの四面にも細やかなデザインが施されていて、豪華だけれど、とても可愛らしいわ。髪留めでもいいのだけれど、女の子なら好きな人からもらいたいっていうこともありえるでしょうし、お兄様からいただくにはこれが妥当な気がするわ。

「では、それにしよう」

わたくしは、可愛らしい髪留めを見つけて笑顔になった。

銀の櫛形の髪留めなのですけれど、トップに宝石がついていて、アップにした時に映えそうですわ。

「それも、もらうことにしよう」

アリステア様は髪留めを摘まれると宝石箱と共にお買い上げになった。

「思ったより買い物が早く片付いてよかった。ありがとう」

「ええ。シャルロット様のお誕生日が楽しみですわね」

そしてアリステア様お勧めのカフェでお茶をした。

「足は大丈夫か?」

「ええ。そんなに歩いていませんから」

わたくしは、紅茶にスコーン、アリステア様は異国のコーヒーを注文する。

「まだ、昼には早すぎるから、これから公園などを散歩して、それから食事をすることにしても大丈夫か?」

「ええ。素敵なアイデアですわね。ありがとうございます」

わたくしの言葉に笑顔になられたアリステア様とカフェで休憩して、公園のベンチに座ってたわいないお話をしてから、珍しい異国の料理も出すという小料理屋に行きましたの。

珍しいお食事に囲まれながら、アリステア様には近衛騎士団に付くまでのお話をたくさんしていただきました。わたくしは、緊張で胸が詰まって笑顔でお話をお聞きするのに精一杯だったのですけれど。

「今日は楽しかった。ありがとう。付き合ってくれた礼だ」

と顔を赤らめて綺麗に包装された箱をアリステア様に渡されましたわ。

「わたくしも、楽しかったです」

「また学校で、な」

女子寮の前まで送ってくださったアリステア様とお別れしたのは午後のお茶の時間の少し前ぐらいかしら?

きゃー!アリステア様からプレゼントをいただいたわ!

と、早速開いたプレゼントはわたくしが見つめていた髪飾りとお菓子。

そのお菓子をお茶受けにして午後のお茶の時間を楽しみながら、サラスにデートに全貌を語り尽くした後、どれだけアリステア様がかっこよかったかトークまで繰り広げて、あっという間に夜になってしまいましたわ。

とにかく前よりももっと色々なアリステア様のことを知ってますます好きになりましたの。

髪飾りは日曜は眺めるだけに留めておきましたけれど、早速月曜に使わせてもらいましたわ。それを見て嬉しそうに微笑んだアリステア様を見て、心が蕩けたことは内緒ですけれどね。



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