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癒しの光

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エリアスの婚約者であることを執事に話したセシリアは、エリアスの寝室で愛しい男の手を握っていた。

「エリアス、ごめんなさい、私のせいで」

スカイブルーの瞳から涙が流れる。

エリアスの顔は黒髪と相まってますます青白く死人のようだ。

「あなたがいないと駄目なの。あの塔でだってあなたと会える希望があったから、正気でいられたのよ?」

セシリアは懸命にベッドに横たわるエリアスに話しかける。

「お願いよ、エリアス、私の元に戻って来て?」

ティールザードには魔術師もいるが、先程魔法薬を持参して来た魔術師は宮廷魔術師で、執事のカールが王家に早馬で伝達を伝えて、すぐやって来た。魔術師の話によると生命を元に光魔法を大量に使い果たしたので、このような状態になっているとのことだった。

シェーフィールドの治癒師アシュタルがヒーリングのトレーニングの時にいっていた言葉を思い出す。

「ヒーリングとは大いなる全ての光とあなた様を繋ぐことです。あなたがその光の1つになれば他者もヒーリングすることができます」

ヒーリングの光は大いなる全ての光、それには無限の愛のエネルギーでできているという。

エリアスを愛する心なら誰にも負けないわ。

セシリアは今彼女にできることをすることを決意した。

泣いていても何も解決しない。

起こったことを後悔したり、罪悪感に駆られてもエリアスは戻ってこない。

セシリアにできること、それはヒーリングだ。

エリアスの冷たい手を両手で包むこんで口付けた。

「エリアス、誰よりも、世界で一番愛してるわ」

セシリアは己の心の中の愛の光をエリアスに注ぎ込んでいく。

アシュタルに一応「合格点」を貰ったとはいえ他者へのヒーリングはこれが初めてだ。

セシリアはエリアスとの思い出を心の中に思い浮かべていく。

ガートランドの城の庭園で最初に会った誕生日の日、危険に陥った小さなセシリアを救った紫の瞳の少年は太陽のような暖かい微笑みをくれた。

綺麗な瞳…、王子様みたい。

それが彼の第一印象で、セシリアはあの時恋に落ちた。

もっとも幼女だったのでそれが恋という感情だとは気がつかなかったのだが。

それから異国の少年はガートランドで騎士の修行をすることになり、忙しい訓練の合間にセシリアと遊んでくれた。

エリアス、大好きよ。

その少年は厳しい訓練の末セシリアの騎士となる。ガートランドの近衛の騎士団の正装の白い騎士服を着て、彼女の手を取り、跪く。

「セシリア・ガートランド姫、私の女神よ。私、エリアス・レスター・ティールザードは、あなたに一生この身を捧げ、私の剣をあなたのために使うことを誓います」

菫色の瞳と目が合って、神聖な誓いの儀式の場だというのに胸が高鳴ったことを覚えている。

んっ?ティールザード?

誓いの儀式は魂の契約ともいえる重いもので、正式名を名乗ることが不可欠だ。この時にしか名前を聞いたことがなく、いつもはエリアス・レスターと名乗っていた為すっかり忘れていた。

あっ!

この国にある3家の公爵家のうちの1つであるアルザス領のアルザス公爵が元王族であることは明らかだった。ならば、医者や魔術師が急いで駆けつけてくれたのも不思議ではない。

セシリアも「死んだ事にしたとはいえ」元王族だ。その命を彼女の為に躊躇することもなく使ってセシリアを守ってくれた。

「エリアス、愛してるわ」

いつだって、どこにいてもこの暖かいセシリアを包む光は彼女を守り、勇気づけてくれた。

今度は私があなたを救う番だわ。

エリアスがセシリアにくれた愛の光の出来事を一つ一つ思い出しながら、一晩中、癒しの光魔法を注ぎ込んでいった。

魔力をほとんど持たないガートランドの人間であるセシリアは聖なる魔法が使える筈がないのだが、愛しい婚約者を見つめて癒しの光を注ぐセシリアは聖女そのものの光を全身から放っていた。



















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