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ティールザードの戦い

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エリアスはリーラの矢を残りの影たちに放つ。それは見事に命中して、ハインリッヒの影を一掃した。

「待てといった私の声が聞こえなかったのか?」

振り返ると、ルーレシアの皇太子、ハインリッヒがエリアスを憎々しげに見つめている。

「私は愛しい人以外の誰の指図も受けません」

「セシリアを返してもらおう。あれは私のものだ」

「ガートランドとルーレシアの婚姻は結ばれず、正式に破棄されたことはあなたもご存知でしょう?」

「セシリアは生きている。そして、あれが生きている以上私のものになる。一介の騎士が王族に楯突こうなんて死罪に値する。私の影たちを消した罪も重い。私の手で直接お前を葬ってやろう」

ハインリッヒはそういって剣を抜いた。

「あの方を傷つけた罪、償っていただきます」

エリアスも剣を抜いて、構えた。

ルーレシアの皇太子は大陸でも大変戦いのスキルが高く「紫の死神」という通り名が付く程、たくさんの命を血祭りに上げてきた剣の名手だ。

やはり噂通りだ。一瞬の隙もない。

エリアスと自分と同じ瞳の死神を向かい合う。

両者一歩も動かない。

剣を構えながら、詠唱を唱えていく。

「リーラの矢、シルフィールドの刃、集い、交じりて、剣に宿れ」

エリアスの言葉で彼の剣は光を纏う。

エリアスの剣から光が放たれ、ハインリッヒを撃ち抜いた。

だが、それは致命傷にはならず、皇太子の体を包む闇に飲まれていく。

「なっ…馬鹿な!」

「愚かなのはお前の方だ。今度は私がお返しをする番だ」

その言葉と共にハインリッヒが切り込んできた。

キーン、キーン、と剣を打ち合う音が響く。

ハインリッヒの腕は噂通り、かなりのもので隙が無いのと、すごい速さで剣で切り込んでくる為、ルーレシアで1、2を争う騎士といわれているエリアスさえ自衛するのに手一杯だ。

「ガートランドの騎士も大したことはないな」

「姫様の祖国を貶す言葉は許しません」

「これからはあの女の国はルーレシアになる」

「あの方は私の愛しい方です。あなたには指一本触れさせません!」

剣を交わしては、離れるといった動作が繰り返された。

「私に命令するでない」

「そのセリフあなたにそっくりお返しします」

「シルフィールドの刃よ、我の声を聞け、闇を切り裂け!」

エリアスの詠唱で出させた風の刃はハインリッヒの肩と髪を切り裂いたが、

闇に飲み込まれて効力を失っていく。

「無駄だ、といった筈だ」

ハインリッヒが振るった剣から闇の刃がエリアスに向かって放たれた。

それは光の防御魔法によって弾かれたが、このまま戦いが続けばどこまで持ちこたえられるかわからない。

「もう、遊びは終わりだ」

ハインリッヒは力任せに剣を振るうのではなく、的確に弱点を突いてくる。そしてそれはエリアスの右肩を貫いた。

「うっ!」

負けるわけにはいかない。エリアスが死ねば馬車の周りの光の壁も消える。

「エリアス!エリアス!」

エリアスの声を聞いて馬車の中にいるセシリアの悲鳴が響く。

「姫、私は、大丈夫です。絶対にここに来てはなりませんよ!」

利き手の肩を突かれて、互角だった剣の威力が半減している。

「やはり、お前がセシリアを守護していたのだな」

「あの方は私の光。私の命に代えてもお守りします」

「ふっ、面白い。ここでお前が死ねば、大人しくルーレシアに戻ることだろう」

「そうはさせない」

2本の剣が重なり合い、ハインリッヒの剣はエリアスの剣を押し返し、エリアスの体を切り裂こうとした時、エリアスの体から光が放たれた。

それは幾千もの矢になりハインリッヒを貫く。

「そんな馬鹿な…」

森が光に包まれた瞬間、ハインリッヒの体が地面に倒れ込んだ。

エリアスは最後の力を振り絞ると剣を突き立てた。

それと同時に馬車を覆っていた光が消える。

馬車からセシリアが出て来た時、

ルーレシアの皇太子とエリアス両名が地面に倒れていた。

両者は地面を染め上げる血で赤く染まっている。

「きゃあああああああ!エリアス!エリアス!」

セシリアは目の前に広がる光景を見て、気を失った。


























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