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再び深淵の森へ

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セシリア様がルーレシアの王太子によって他の場所に移らされたのではないのは明らかだった。

それはベッキーの証言からもわかったし、あの男は明らかにセシリア様を取り逃したのだ。

王太子の手駒の隠密たちがセシリア様を探してルーレシア内を動き始めていた。

いつもの酒屋で腹ごしらえをしながら、愛しい姫が行きそうなところを頭に浮かべる。

セシリア様がなんからの方法で城を抜け出したのであれば、どこに向かうだろうか?

少なくとも彼女の顔が知られている隣国の国々ではない。

昼間は男の子の身なりで誤魔化せるとはいえ、夜になればセシリア様の美しさは隠せない。

エリアスの女神は全ての男を魅了するのだ。

毎夜、あの男も私の姫に触れたのだろうか?

エリアスはすぐにルーレシアの王太子を斬り殺しに行きたくなったが、セシリアの探し出して安全なところに確保することが先決だった。

セシリア様が何らかの方法で自分で姿を消したのなら、やはりあの詩にも何か意味があるのかもしれませんね。

あの古代の詩は妖精に攫われて、取り替えっ子された娘と彼女の幼馴染の男の子が森で再び出会い、男の子が取り替えっ子の呪いを解いて、女の子を森から助け出すという詩だ。

「森…深淵の森……ありえるかもしれませんね」

深淵の森ならセシリア様も一度は足を踏み入れたところだ。エリアスがあそこに行けることも知っているし、顔も知られていない。それに(魔術師以外には顔を知られていないから)あそこに逃げ込んでも安全だ。2、3日で女の足で行ける距離ではないけれど。何らかの方法で城から抜け出して、深淵の森に向かったのかもしれない。

「セシリア様、今すぐ行きますからね」

太陽が沈んで月が顔を出す共にエリアスは自馬を走らせて深淵の森を目指した。

 ◇ ◇ ◇

2日間休む暇もなく、馬を駆って、深淵の森にたどり着いた。

いつも行きなれた森のはずなのになかなか目指す魔術師の家が見つからない。

先程から同じ場所をグルグルと回っている気がするのだ。

特に目印もない森だから、そう見えるのかもしれないが。

愛しい姫に会いたくて焦っているということもあるのかもしれない。

森中を歩き回って、やっと見慣れた魔術師の家が見えてきた。

そして、その家のドアを叩いた。

しばらくして深淵の森の魔術師が顔を出した。

深淵の森の魔術師は私をすんなり家に招き入れてくれた。

この間よりもさらに整頓されて、キッチンのお湯が沸いている。

「ちょうどお茶にしようと思ってたんですよ」

魔術師が見やった方向を見ると、部屋が増えている。

「増築されたんですか」

「ええ。可愛らしい同居人が増えましてね」

彼の言葉と共に台所から彼女が現れた。

黒髪、緑の瞳に猫のような瞳のセシリア様と同じ背丈の娘が、目を潤ませて立っている。

またか

今までそういう目で見られたことは数え切れない程だった。隣に(おそらくパートナーの)魔術師がいるのに私に向かって、そういう目で見つめてくる娘を冷たく見つめ返した。

「では、先を急いでいるので、これで」

確かにいると確信していたのにセシリア様はいなかった。

それなら長居は無用だ。

エリアスは魔術師と隣の娘に背を向けて深淵の森を後にした。
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