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賭けの結末
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深淵の森は始めて来た時よりも、のどかで平和だった。
暗い塔の生活に辟易していた私は、魔術師のフィニアンとご飯を食べる時以外は外で過ごした。
あの夜抱かれてから一回も変に迫って来られたりしていない。
やはり約束どおり、エリアスに会わせてくれるためにここに連れてきてくれたのだろう。
普段、町の薬剤師に売りに行くために魔法薬を作ったりしているフィニアンとの生活にも少し慣れてきて、数日が経った頃、ちょっとフィニアンにあたってしまった。
「ええ。そういう風にイライラしているのは、エリアスがここに来てくれると思ってないからでしょう?」
「そんなことないわ!エリアスは私を裏切らない!絶対探し出してきてくれるわ!」
「すごい自信ですねえ」
「だって、私たち愛しあっているのもの。完璧に通じ合ってるから、ここに来てくれるわ」
「もし、他のところに探しに行ってるかもしれない」
「ううん。絶対ここに来てくれるわ。賭けてもいい」
「では、もし、あなたがエリアスとここから出て行かなかった時は、私のいうことをなんでも聞いてくださいね」
「ええ。なんでも聞くわ。エリアスが来ないわけないもの」
「あなたが勝ったら、祝福の魔術で二人を送り出しましょう」
「ありがとう」
フィニアンは私の言葉にフッと笑うと魔法薬を作りに別室に行ってしまった。
だから、私は日の当たる緑豊かな森でゆったりとエリアスが迎えに来てくれるのを待っていた。
そして運命の日がやって来た。
◇ ◇ ◇
あの時私は、その時キッチンで慣れない家事をしていた。そして懐かしい愛しい人の声とフィニアンの声が聞こえて、エリアスがついに迎えに来てくれたことを知った。ドキドキしながら、髪を整えて、キッチンから急いで顔を出した。
やっぱりあのメッセージで気づいてくれたのね!
エリアスは数ヶ月前よりも少し痩せていたけれど、あいかわらずとても暖かい瞳をしていた。
駆け寄って抱きつきたかったけれど、ガートランドの姫として教育を受けて来たので、いくらそうしたくてもできない。二人は会話中なので、話の腰を折ることもできない。だから、フィニアンの隣に立った。
愛しい人が私の方を向く。
思わず泣きそうになって、彼の名前を呼ぼうとした瞬間、
まるで他人を見つめるような冷ややかな菫色の瞳に射抜かれて、言葉が出てこない。
「では、先を急いでいるので、これで」
!!!!!!
エリアスはルーレシア城に行った筈だ。そこで私のしたことをきっと知ったに違いない。
エリアス以外に抱かれた私を見つめる冷たい瞳。
エリアスは踵を返して、魔術師の家のドアを開けて出て行った。
「賭けは私の勝ちですね。セシリア姫」
フィニアンが、私の隣で呟いた。
暗い塔の生活に辟易していた私は、魔術師のフィニアンとご飯を食べる時以外は外で過ごした。
あの夜抱かれてから一回も変に迫って来られたりしていない。
やはり約束どおり、エリアスに会わせてくれるためにここに連れてきてくれたのだろう。
普段、町の薬剤師に売りに行くために魔法薬を作ったりしているフィニアンとの生活にも少し慣れてきて、数日が経った頃、ちょっとフィニアンにあたってしまった。
「ええ。そういう風にイライラしているのは、エリアスがここに来てくれると思ってないからでしょう?」
「そんなことないわ!エリアスは私を裏切らない!絶対探し出してきてくれるわ!」
「すごい自信ですねえ」
「だって、私たち愛しあっているのもの。完璧に通じ合ってるから、ここに来てくれるわ」
「もし、他のところに探しに行ってるかもしれない」
「ううん。絶対ここに来てくれるわ。賭けてもいい」
「では、もし、あなたがエリアスとここから出て行かなかった時は、私のいうことをなんでも聞いてくださいね」
「ええ。なんでも聞くわ。エリアスが来ないわけないもの」
「あなたが勝ったら、祝福の魔術で二人を送り出しましょう」
「ありがとう」
フィニアンは私の言葉にフッと笑うと魔法薬を作りに別室に行ってしまった。
だから、私は日の当たる緑豊かな森でゆったりとエリアスが迎えに来てくれるのを待っていた。
そして運命の日がやって来た。
◇ ◇ ◇
あの時私は、その時キッチンで慣れない家事をしていた。そして懐かしい愛しい人の声とフィニアンの声が聞こえて、エリアスがついに迎えに来てくれたことを知った。ドキドキしながら、髪を整えて、キッチンから急いで顔を出した。
やっぱりあのメッセージで気づいてくれたのね!
エリアスは数ヶ月前よりも少し痩せていたけれど、あいかわらずとても暖かい瞳をしていた。
駆け寄って抱きつきたかったけれど、ガートランドの姫として教育を受けて来たので、いくらそうしたくてもできない。二人は会話中なので、話の腰を折ることもできない。だから、フィニアンの隣に立った。
愛しい人が私の方を向く。
思わず泣きそうになって、彼の名前を呼ぼうとした瞬間、
まるで他人を見つめるような冷ややかな菫色の瞳に射抜かれて、言葉が出てこない。
「では、先を急いでいるので、これで」
!!!!!!
エリアスはルーレシア城に行った筈だ。そこで私のしたことをきっと知ったに違いない。
エリアス以外に抱かれた私を見つめる冷たい瞳。
エリアスは踵を返して、魔術師の家のドアを開けて出て行った。
「賭けは私の勝ちですね。セシリア姫」
フィニアンが、私の隣で呟いた。
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