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ベッキーの密偵生活1日目
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噂どおり調理場だけでなく、ルーレシア城内は殺伐としていた。
「やっぱ妥当な額だったわ」
やたら顔の綺麗な(多分騎士とは名ばかりのお貴族様だと思う)騎士の金貨の袋は、多すぎるとは思ったけど、妥当な額だったね。もっと請求すればよかった。
「ベッキーです。よろしくお願いします」
王宮の台所に通されて、料理人一同と顔合わせした。私の1つ上の見習いの少年が、私の仕事内容を手短に話してくれる。私の仕事は、皇太子の夜食や間食(それも王宮の料理と比べれば粗食)作りの手伝い。
皇太子は王族の中でも特に冷酷だと有名な人だ。そして城の王族は皆グルメらしい。皇太子の食事だけでなく、妾腹の皇子や皇女たちがさらに八人、そして美食趣味の国王夫妻の世話や度々訪れる国賓のもてなし料理で、宮廷料理人たちはすでに手一杯だったらしい。なのに、最近皇太子が間食や夜食を所望するようになった。最近、皇妃様の気まぐれで、首になった料理人が数人クビになったことで、さらに大変さに拍車がかかったらしい。だから求人募集となった。だけど、残忍でいつ殺されてもおかしくないという噂が流れているところでわざわざ働きたいと思う者なんていないから、向こうも必死だったみたい。求人募集を風の噂に聞いて来た人たちもよほどお金に困っているか、他に職が見つからないみたいな怪しい人たちばっかりで、経験があって、一番マシだったのがあたいだったみたい。だから、即採用となって、数日後、ここにいる。
「とりあえず、宜しくな!いやー!来てくれて助かった!」
あたいの上司というか、皇太子の夜食や間食を主に作ることになった第3料理長のマッチョな体格のヒゲ面、マットさんが私の手を掴んでブンブン握手する。
父が素人料理の店をやっていたせいで料理の経験はある。ウチは病弱な母親や幼い兄妹を抱えて貧乏だったからね、家族を養うために、父は毎日、流行っていない店に出て行った。あたいもそこの看板娘として、調理の手伝いと給仕をしてたんだけどね、お城の職を選んだ。だって、経済的な助けになるから。1ヶ月働いてルーレシア銀貨1枚。それは、店の売り上げより多いもの。
「まあ、慣れればお前さんにも作れるものが多いだろうから、期待してるぜ」
「はい。頑張ります」
基本、父のレストランと違って、料理人は給仕をしない。宮廷の給仕たちが出来上がった料理を運んでいくから。だから、ルーレシア城の使用人の出入り口から、料理場までが私の歩き回れる範囲。だから、正門から登城する今日以外、じっくりと中を見て回れる機会はない。だけど、少しでも城の間取りや様子をちょっとでも目に焼き付けたかったから、ゆっくりと案内の兵士にの後ろを歩いた。兵士はおしゃべりな新米の男のコ。歩きがてら、どの建物が何か説明しながら、歩いてくれた。
城内は思っていたような華やかな作りではなく、がっしりとした印象。いろいろなところに兵士がいる。で、兵士ではない人たち(文官という人たちらしい)も忙しく動き回っていた。
「お前さんには、当分下ごしらえと出来上がった料理を運んでもらうことにする。くれぐれも粗相のないようにな。皇太子が直々に取りに来るから」
「はっ?」
「皇太子がご自分で夜食や間食を取りにこられるんだよ。だいたい決まった時間に」
「そうなんですか」
「ああ。暗殺の心配でもしてるのかな。最近、あまり宮廷料理も食べてないそうだ。まっ、とりあえず料理さえ出しとけば心配ないから」
「そうなんですか?」
「ああ!冷めても大丈夫な簡単料理だしな!まあ、皇太子の食事だから気は抜けんがな!」
ガハハとマットさんが笑う。
銀貨1枚で死の危険。下ごしらえは別として、冷酷で残忍だと有名の皇太子との対面は「手伝い」の範囲を超えてる気がする。命は惜しい。けど、あの騎士から小袋の金貨以上の臨時報酬をゲットするにはオイシイ役目かも!家族のために頑張ることにするか!
というわけで、気を取り直してあたいはニカッと微笑み返した。
その日の夜、皇太子が食事を取りに来た。あたいは目を合わせないようにお辞儀をしながら、「本日のお食事でございます」といって、料理がおかれた盆を手渡す。
皇太子は無言でそれを受け取って、宮廷とは反対側に歩いて行った。
粗相をしないようにドキドキしたけど、父さんの店で重い料理を運び慣れてたから、手でつまめる料理とパンとスープやサラダの盆は軽すぎるぐらいで、高貴な方とは目を合わせないようにといわれていたので、皇太子を見ることもなく、スンナリと恐怖の役目は終わった。
あの騎士に頼まれたことにほとんどを1日で達成したような気がするけど、2、3日様子を見てから連絡するのがいいよねえ。すぐ報告して、有能だとわかると仕事が増えそうだしさ。
とりあえずいい滑り出しだよね~。
職場も思ったより、普通だし?楽勝!楽勝!
鼻歌気分で賄いを食べて、家族の待つ家路についた。
「やっぱ妥当な額だったわ」
やたら顔の綺麗な(多分騎士とは名ばかりのお貴族様だと思う)騎士の金貨の袋は、多すぎるとは思ったけど、妥当な額だったね。もっと請求すればよかった。
「ベッキーです。よろしくお願いします」
王宮の台所に通されて、料理人一同と顔合わせした。私の1つ上の見習いの少年が、私の仕事内容を手短に話してくれる。私の仕事は、皇太子の夜食や間食(それも王宮の料理と比べれば粗食)作りの手伝い。
皇太子は王族の中でも特に冷酷だと有名な人だ。そして城の王族は皆グルメらしい。皇太子の食事だけでなく、妾腹の皇子や皇女たちがさらに八人、そして美食趣味の国王夫妻の世話や度々訪れる国賓のもてなし料理で、宮廷料理人たちはすでに手一杯だったらしい。なのに、最近皇太子が間食や夜食を所望するようになった。最近、皇妃様の気まぐれで、首になった料理人が数人クビになったことで、さらに大変さに拍車がかかったらしい。だから求人募集となった。だけど、残忍でいつ殺されてもおかしくないという噂が流れているところでわざわざ働きたいと思う者なんていないから、向こうも必死だったみたい。求人募集を風の噂に聞いて来た人たちもよほどお金に困っているか、他に職が見つからないみたいな怪しい人たちばっかりで、経験があって、一番マシだったのがあたいだったみたい。だから、即採用となって、数日後、ここにいる。
「とりあえず、宜しくな!いやー!来てくれて助かった!」
あたいの上司というか、皇太子の夜食や間食を主に作ることになった第3料理長のマッチョな体格のヒゲ面、マットさんが私の手を掴んでブンブン握手する。
父が素人料理の店をやっていたせいで料理の経験はある。ウチは病弱な母親や幼い兄妹を抱えて貧乏だったからね、家族を養うために、父は毎日、流行っていない店に出て行った。あたいもそこの看板娘として、調理の手伝いと給仕をしてたんだけどね、お城の職を選んだ。だって、経済的な助けになるから。1ヶ月働いてルーレシア銀貨1枚。それは、店の売り上げより多いもの。
「まあ、慣れればお前さんにも作れるものが多いだろうから、期待してるぜ」
「はい。頑張ります」
基本、父のレストランと違って、料理人は給仕をしない。宮廷の給仕たちが出来上がった料理を運んでいくから。だから、ルーレシア城の使用人の出入り口から、料理場までが私の歩き回れる範囲。だから、正門から登城する今日以外、じっくりと中を見て回れる機会はない。だけど、少しでも城の間取りや様子をちょっとでも目に焼き付けたかったから、ゆっくりと案内の兵士にの後ろを歩いた。兵士はおしゃべりな新米の男のコ。歩きがてら、どの建物が何か説明しながら、歩いてくれた。
城内は思っていたような華やかな作りではなく、がっしりとした印象。いろいろなところに兵士がいる。で、兵士ではない人たち(文官という人たちらしい)も忙しく動き回っていた。
「お前さんには、当分下ごしらえと出来上がった料理を運んでもらうことにする。くれぐれも粗相のないようにな。皇太子が直々に取りに来るから」
「はっ?」
「皇太子がご自分で夜食や間食を取りにこられるんだよ。だいたい決まった時間に」
「そうなんですか」
「ああ。暗殺の心配でもしてるのかな。最近、あまり宮廷料理も食べてないそうだ。まっ、とりあえず料理さえ出しとけば心配ないから」
「そうなんですか?」
「ああ!冷めても大丈夫な簡単料理だしな!まあ、皇太子の食事だから気は抜けんがな!」
ガハハとマットさんが笑う。
銀貨1枚で死の危険。下ごしらえは別として、冷酷で残忍だと有名の皇太子との対面は「手伝い」の範囲を超えてる気がする。命は惜しい。けど、あの騎士から小袋の金貨以上の臨時報酬をゲットするにはオイシイ役目かも!家族のために頑張ることにするか!
というわけで、気を取り直してあたいはニカッと微笑み返した。
その日の夜、皇太子が食事を取りに来た。あたいは目を合わせないようにお辞儀をしながら、「本日のお食事でございます」といって、料理がおかれた盆を手渡す。
皇太子は無言でそれを受け取って、宮廷とは反対側に歩いて行った。
粗相をしないようにドキドキしたけど、父さんの店で重い料理を運び慣れてたから、手でつまめる料理とパンとスープやサラダの盆は軽すぎるぐらいで、高貴な方とは目を合わせないようにといわれていたので、皇太子を見ることもなく、スンナリと恐怖の役目は終わった。
あの騎士に頼まれたことにほとんどを1日で達成したような気がするけど、2、3日様子を見てから連絡するのがいいよねえ。すぐ報告して、有能だとわかると仕事が増えそうだしさ。
とりあえずいい滑り出しだよね~。
職場も思ったより、普通だし?楽勝!楽勝!
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