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1章

1話 目を覚ましてください

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暗い。肌の感触からしてここは水の中だろうか。どうして…?
寒さは感じない。音はどうだろうと耳に集中してみる
…が、聞こえてくるのは水の音ばかり。そりゃそうだろうと結論づけたが、案外この状況に冷静に判断できている自分がいるのに【私】は少し感心した。自分で。
まぁ、何故かここは心地良い。
だからなのかずっとここにいたいとすら思ってしまう。

(どうせ夢かなんかだろう…妙にリアルな夢だなぁ……白昼夢か?)


「………ぃ……」
(だれ……?)

「ぉ…き………」
(なんて言ってるの?)

「お……き…………て」
(お、き、て?一応起きてますよ?…)

「おきて」
(え?まって……この声…は………?)

「そうだよ、やっと君に会えた」

目を開けて見てみると、少し視界がぼやけていた。しかし、
数秒も掛からないぐらいでだんだんはっきりしてくる。
そして、完全にはっきり見えるようになると目の前に、もう鏡や写真で何度か見たか分からない【私】の顔があった。
感情が読めない笑みで、そこにいた。
服装は【私】が今着ているらしい部屋着と同じのようで、薄緑のパーカーと黒色のジャージのいつものだ。

だが、観察してみて理解する。それは【私】であって【私】ではないと。よくよく見れば目の色も違う。目の前にいるそれは…違う、別の…なにか。
言葉にできないことに多少悔しくなった。

(多少ね…多少……うん。)

「あ、もういい?」

どうやら【私】が情報整理をしているのを待ってくれていたようだ。
なぜに?

「ん…」

咄嗟にでたのは掠れた声だったが、同意したことは伝わるだろう。
もうこれ以上声を出せるような気がしないが。

というか、考えていることが分かるなら早めに言って欲しかったと、
【私】は力まずに目の前を力なく睨む。相手が気づかないように。

「とにかく、時間が無いから私が何者なのかとかはすっ飛ばして本題に入るけど、
今まで身に覚えがないことを周りから言われてたでしょう?
例えば、何時にどこどこにいたよね~とかさ。」

事実だ。確かに変だとは思った。そもそも【私】は外へ積極的に出るほうじゃない。
ドッペルゲンガーとかなら面白そうだけど、ただの似た人だと言って話はだいたい終わっていた。何回も。
ただ、何か変だとは薄々気づいていた。
いつの間にか時間が何時間も過ぎていた、ということがあったからだ。
そこまでのことがあったのに深く考えないということは
【私】は天然なのかもしれない。
(自分で言っとけば天然じゃなくなるよね?)

「それは私がやったこと。
あなたの体に何かしたという訳じゃない、
ただ、あなたの体が欲しいだけなの。
だからお願い…
おもてであるあなたから、うらである私に…その体をっ……っ!」

話が終わるか終わっていないかのところで突然眩い光に包まれた。
その光は【私】を護るのように、子供をあやすかのように、
優しく、暖かく、【私】を包んだ。

「っ!く…るしっ!
誰がっ!?誰もここには干渉できないはずなのに!?くそっ!」

目の前にいる私は【私】を睨みつけながら苦しそうに手をこちらに向けてきた。
ここで逃すまいと。
今にでも頭を捻り潰そうと、確実に、殺気を丸出しにしながら。
その光景に震えた。さっきとまるで違う様子の自分が殺そうとしてくるのだ。
自分が殺しにくるというだけでも恐ろしいのに、
優しそうな(?)奴が急に人が変わって殺しにくるのだ。
正気でいろと言う方がおかしい。

「絶対!お前を殺して…私が表になって、いつかっ!!…………」

手が眼前まできた時、急な眠気が【私】を襲った。
夢の中なのに眠気があるというのもおかしな話だ。

(なんで……………これ……ゆ……め……じゃ?)

そこで私は、深い所へ落ちていくような感覚に陥る。



ーーーーーーーーーーーーーーー


目が覚める。
カーテンの隙間から日差しが差し込み、まだ眠気のある私を完全に起こそうとする。
「あ……れ?
………………やっぱり夢か。」
まだ目が覚めたばかりで自分の部屋で1人、朧気おぼろげに呟いた。
そして今まで見ていた夢の内容を思い返してみる。

あんな悪夢を見るなんて、運が悪い日なのかなと思いながら、
いつものように学校へ行く準備をする。今は朝の6時だ。
私は準備をするのが遅いのでこのくらいに起きて準備したら丁度いい。

しかしまぁ、この世界は不思議なものだ。
一般人でも、誰でも目の色や髪の色が様々なのだ。

カーテンを開け、窓を見てみると通行人がスマホをいじっていたり、
近所の人達が話しているのがちらほら見えた。
だが、この2階の窓からでも髪の色が見える。

(カラフル…と言っても、激しい色などはあまりないけど、
同じ日本人だったら髪や目の色なんて統一されて産まれてこないものかな?)
なんて2次元好きの人達の楽園みたいなこの世界のことを不思議に思う。

私はというとこの世界ではむしろ希少であるとされている色の、長めの黒髪だ。
いつも髪はロングヘアだ。結ぶのが面倒くさいという訳では決してない。
現に体育の時間は1本結いとかにしていたりもする。
そして目の色は、青色だ。青と言っても少し暗めの青で、初対面ではそのせいか暗い印象を持たれてしまう。

気だるげにベッドから立ち上がると顔を洗いに洗面所へふらふらしながら行く。
いつも通り顔を洗い、さっぱりした気分で顔を上げると…

「え..........なにこれ…」

私の目が、目の色が変わっていた。
両目が変わっていた。
少し暗い青く澄んだ目が今にも燃えているかのような赤い目に、変わっていた。

ここら辺で普通の人なら叫んでいるか気絶するか意識を一旦どこかへ投げてしまっていると思う。
だが私はそこら辺が疎く、滅多なことではそうならない。
今この状況が滅多なことなのでは?そう思うだろう。私もそう思った。

自分がいかに驚かないかはよく分かっているつもりでいたが、
こうなってくると他人が死んでいても驚かないのでは?とさえ思ってしまう。
まあ、こうなってしまったのには理由があるのだが…。

「どうして……っ!あの夢の?
私にそっくりな………あれ?戻っていく…」

その目は、だんだん赤みが失っていき、深い青色に戻っていく。

「なんだったの?もしかして本当に夢じゃなかった?
………いや、見間違いだったんだ。そう…でしょ?」

誰も聞いていないというのに1人、孤独を感じさせるように呟く。
滅多なことで驚かないとはいえ、精神的にはあまり強い方ではない。
自分に言い聞かせるさまはまるで信じたくないことを隠そうとするよう…。

「……………」

重い足取りで、女子らしくない、綺麗だが大人の仕事部屋のような自分の部屋へ戻る。
いつも以上に素早く制服に着替え、鞄を持ち、簡単に髪をとかしたあと、1階のリビングへ行く。簡単な朝食を作る。
両親は仕事で居ない。むしろこの家にはもう二度と来ることは無いだろう。

育児放棄。いや、その方が私にとっては嬉しい限りだ。
無駄に大きい、例え10人家族の…珍しい家族だとしたも広さを感じるほどの家と、
私が一生普通に生活して使っても使い切れない膨大な金を残していった。
それらは、ただ私に孤独と寂しさを感じさせるようにしていった。

先程の滅多なことでは驚かない理由というのは両親のせいだ。
心から笑えと言われても無理になってしまった。
両親の愛情…昔はあったそれは、
私が成績優秀らしいことに気づくと、すぐになくなった。
両親は私に厳しく当たるようになり、更には

「この家とお前が生活できるぐらいの金をやる。
俺が決めた学校へ行き、将来は俺の下で働け。」

と言い放った。私に将来を選ばせてはくれないの?そう聞くと、

「お前に選択権があると思うな。」

だと。俺の下で?世界的に有名な企業の社長の下で?
今思えば笑わせてくれる。
だけど根っから精神が弱かった私は泣くのを一生懸命堪えた。


は親だとすら思っていない。
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