攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)

文字の大きさ
192 / 282
第十章 アスフィ 感情迷走篇《第三部》

第156話「才能」

しおりを挟む
 わらわは猫の案内のもと、その緑髪の人物に会いに行くことにした。

 わらわに力はあっても体力は無い。その例の人物に会いに行くと軽々しく言ったはいいものの、正直何度もバテたし何度も後悔した。
 ありえないほど長い坂道に、暑すぎて溶けそうな砂漠地帯、地面が岩や石でゴツゴツし一歩踏み出す事に休憩したくなるそんな未知な道。

 わらわの猫はこんな所まで偵察していたのか。これは帰ってから褒美をやる必要があるかもしれない。

 とはいえ、わらわには何もない。

「……猫、何が欲しい?」
「急になにを?」
「……いや、何でもない。案内を続けてくれ」

 ***

 そうして様々な未知を体験してようやく、見つけた。例の少女だ。

『誰?』
「わらわはバス――」
「危ない!!」

 猫がわらわを突き飛ばした。

「猫! お前! 何……を……」

 わらわを突き飛ばした猫の右手が無かった。

「……何だ? 何がおきた」

 一瞬の出来事で全く理解できなかった。名乗ろうとしたら、猫に突き飛ばされ、気づけばその猫の右手が無い。

 それよりも、おかしい。わらわの力はわらわを目視した瞬間『魅了』され、虜になる。何でも言うことを聞く傀儡と。
 この緑髪の少女は、今もわらわの事をじっと見つめている。それなのに……

「『魅了』が効かない、だと」
『ふーん、君才能持ちなんだね』

 才能……? 違う! わらわは……私は才能が無いから姉を、家族を憎んだんだ!

「私に才能なんて無い!!」
『あるよ、才能。』

 何なのだこいつは……! 猫め! 言っていた事と違うではないか! 私の方が上じゃないのか!!

「私には力がある! 他者を魅了する力だ! それがなぜお前は効かないんだ」
『……それは才能に過ぎない』
「違う! 私に才能なんて無い! だから私は……」
『……なら、祝福だ。君には祝福がある』

 何だそれは……。祝福? まさか私のこの力が、他者を魅了するこの力がこいつの言う『祝福』というものなのか……?

「ぐっ……バステト様、お逃げください」

 猫は右手から大量の血を流していた。もちろん言われなくともそうする気だった。こんな化け物私なんかが勝てるわけない……!

 ……でも、逃げられなかった。

『どうしたの? 逃げないの?』
「……そうしたい……けど、どうやら私にも情というものがあったみたい」
『ふーん』

 私はこの緑髪の少女を見た瞬間、初めて恐怖を感じた。
 この世界は平和だった。よくある漫画やアニメのような化け物も居ない。居るのは私の思い通りになる人々だけ。

 そんな世界でまさかこれほどの恐怖を感じるとは思わなかった。今すぐにでも逃げ出したい。でも、この世界に来て初めての従者である猫……この子・・・を置いてなんか行けなかった。

「走るよ! 猫!」

 私は彼の左上腕を掴もうとした。

「……あ、あれ?」

 でも、スカした。掴もうとした腕がそこには無かった。

『逃さないよ』
「……何で……私達が何をしたというの!?」

 今の私はもう”バステト”なんかでは無かった。ただの白狐 沙理奈であった。

『私を見た』
「それだけ!?」

 それだけで……そんなことだけで私の従者を……! 許さない!

『……殺気。私とやる気?』
「そ、そうよ」

 私の声は上ずっていた。見えない攻撃の恐怖。こうして立っているだけでもやっとだ。

「私の力はあなたには通じない! でも! それでも彼を置いてはいけない!」
「バステト……様……」
『そうなんだ。じゃどうするの?』

 そんなの分からない。もしかしたら身体的接触でもすれば私の力でも通じるかもしれない。でも、それも不確か。違えば私に待っているのは『死』だ。そもそもこの少女に近づく方法さえ思いつかない。……どうすればいいの!?

「……バステト様、僕にいい案があります」
「何!?」

 何でもいい。この窮地を抜け出せるのなら何でも……!

「僕に触れてください」
「……え?」
「これはあなたには言いたくなかった。……僕はあなたの力、『魅了』によって従者を名乗った訳ではありません。ただ惚れたのです。あなたの容姿に惹かれた。だから嘘をついていました」

 こんな時に一体何を言っているの。

「僕は嘘つきなんですよ」

 猫は笑っていた。

 じゃあなんで私の魅了が効かなかったの。

「あなたが思っているであろう疑問にお答えします。バステト様、あなたに『魅了なんて力はありません・・・・・・・・・・・・

 ………………え?

『彼の言う通り、君に魅了なんて力はない。あるのは祝福』

 意味がわからない。だったら今まで付いてきた従者達は!? 私に食べ物を多く恵んでくれた人々は!?
 皆、私に魅了されていたからじゃないの!?

 祝福って何……。

「……何で私を王と……バステトにさせたの……」
「言ったでしょう。僕は嘘つきなんです。あなたを僕の物にできるのなら僕はどんな嘘もつく。他の従者については、単にあなたのカリスマ性に惚れたのです。かくいう僕もそのうちの一人なワケですが」
「ここに連れてきたのはなぜ?」
コレ・・に関しては誤算でした」
『……ねぇ、まさかコレって私のこと?』

 少女は顔をしかめた。

「僕はあなたが隠れて泣いているのを知っていました。……いつか僕に聞かせてくれましたよね。あなたのお姉さんについて」
「そんな事あった……かな」
「ありました。僕は記憶がいいんです。そして執念深くもある」
「それが何……?」
「あなたはこの世界の住人じゃない。だから不安になっていた。……そこで僕は考えた。あなたを悲しませない方法を」

 それがこれ……? こんなとこに連れてくるのがあなたのしたかった事なの?

「この緑髪の少女は『神』と呼ばれている人物です。彼女の名は『死の神・オーディン』」
「死、死の神!?」

 なぜ私をそんな危ないやつの所へ!?

「でも勘違いしないでください!! 僕だって惚れた女性を死なせたくはありません。このオーディンにはもう一つ名があるんです。またの名を『全知全能の神』」
「全知全能……?」

 神とか何だか良くわからない! 普通なら信じられないけど、この状況をみれば信じられる。この少女は人間じゃない。
 だから猫の言うことも少しだけ分かる。

「『全知全能の神』であればあなたを元の世界に帰す事ができるかもしれないと思ったのです。……あわよくば僕もあなたと一緒にあなたの世界へ――」

『長い』

 緑髪の少女が一言。何をしたのか分からなかった。私には退屈そう呟いただけに見えた。

 その瞬間、彼の首が私の足元へと転がってきた。

「……あ……ああああああああああああああああああ」
『結構待ってあげたつもりだけどね。流石に長過ぎる』
「オーーーーーーディーーーーーーーーーーンッッッッッッッ!!!!」

 現実でも、この世界でも孤独だった私に常に寄り添ってくれた。私のお願いを嫌な顔せず聞いてくれていた。
 あの時、私がここへ案内するよう命じた時、渋っていたのはこうなる事を危惧していたからだったのね。

『さ、あとは君だけだ』

 結局、いい案とは何だったのだろう。私に触れて何がしたかったのだろう。最期にもう一度だけ触れたかったとかだろうか。
 ……なら私の方から触れてあげる。

 私は足元に転がっていた猫の頭を拾い上げ、胸に抱え頭を撫でた。

「…………せめて最期に名前くらい聞きたかったな」
『さようなら』

 私は猫の頭を抱え、死を受け入れた。『死の神』だ。死の象徴だ。これは勝てる勝てないの問題じゃない。
 出会ってしまった・・・・・・・・。それだけのこと。

「……セリナお姉ちゃん」

 私は何故かはわからないが、あれほど憎んでいた姉の名前を呼んでいた。

 ………………。

 …………まだ? 私はいつ死ぬの? やるなら早くして欲しい。この胸の中にある彼と一緒に死にたい……。
 死にたい……死にたい? ……死んだらまたあそこに戻るのかな。あんなに死にたかった。でも死ねなかったあの世界へ……?

「……嫌だ。そんなの嫌だ……死にたくない……私死にたくないよお姉ちゃん!!!」

 私は顔を上げ叫んだ。

「――よく言った。死にたいなんて簡単に言うもんじゃない。それは死にたくなかった者達に失礼だ」

 私の前に一人の男が立っていた。体格は大柄でまだ若い。右手には大きな剣。

「……誰?」
「名乗る程の者ではない」

 そんなセリフ本当に言う人居るんだと私は思った。
 
 
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜

ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。 アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった 騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。 今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。 しかし、この賭けは罠であった。 アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。 賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。 アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。 小説家になろうにも投稿しています。 なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。

男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。 授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

神々に見捨てられし者、自力で最強へ

九頭七尾
ファンタジー
三大貴族の一角、アルベール家の長子として生まれた少年、ライズ。だが「祝福の儀」で何の天職も授かることができなかった彼は、『神々に見捨てられた者』と蔑まれ、一族を追放されてしまう。 「天職なし。最高じゃないか」 しかし彼は逆にこの状況を喜んだ。というのも、実はこの世界は、前世で彼がやり込んでいたゲーム【グランドワールド】にそっくりだったのだ。 天職を取得せずにゲームを始める「超ハードモード」こそが最強になれる道だと知るライズは、前世の知識を活かして成り上がっていく。

処理中です...