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第十章 アスフィ 感情迷走篇《第三部》
第154話「もう一人」
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目を瞑ると、色んな自分が見えてくる。まるで短い夢でも見ているようだ。しかし再び目を開けるといつもの自分。それが何度も何度も繰り返し見せられる。あったかもしれない可能性の自分。
――きっと僕は、一人じゃないのだ。
***
あれから僕は右手の衝動を抑えきれず、獣人の女性の胸を無意識に揉んでいた。流石にもう呆れたのか、それとも慣れたのか女性は僕の手を解こうとはしなかった。こうして話している今も僕の右手は胸にある。
「そうなんですね。レイラは昔から父親の事が嫌いだったと」
「そう。でも、仕方ないわね。あの子からすれば理由も分からず突然自分の父親が消えたんだもの」
確かに。僕は胸を揉みながら頷いた。
「で、レイラとレイモンドについてなんですが、僕に心当たりがあります」
「本当に!?」
「ええ。ただ、少し遠いというか……危ないというか……」
恐らく二人は『アルファ宮殿』に来るはず。レイモンドは母親の居場所を知っていたようだし。
「……あ」
「どうしたの? まだ左手も疼くのかしら?」
「い、いえ。違います」
人を胸揉み魔みたいに言わないで欲しい。
「僕、あなたの名前聞いていませんでした。レイラの母親という認識でしか無くて……」
「あら、忘れていたわ! 私の名前は……」
「…………ん? どうしました?」
「……ライラ。私の名前はライラ」
「ライラさんですね、了解です!」
何故一瞬躊躇ったのだろう……?
「ちなみに僕はアスフィ・シーネットです!」
「ええ、知っているわ」
「ですよね!」
「偶に帰ってくるレイラからえっちな男の子とよく聞いていたもの」
「……そ、そうですか」
レイラめ。なんて事を言っているんだ。僕はえっちなんかじゃない!
「あ、そういえばライラさんは攫われたとお聞きしましたが?」
「それはレイモンドからかしら?」
「はい、レイモンドからです」
「……攫われたのはそうね。間違いじゃないわ」
「その言い方だと何かありそうですね」
「脱獄? したのよ」
脱獄!? この人は囚人だった……!? そんな、まさかこんな美人が悪人なのか!?
「ああ、ごめんごめん! そんな怖がらないで」
「いやぁ、普通に怖いんですけど。そもそも何故攫われたんですか?」
「……私は夫、レイモンドに迷惑を掛けてしまったの」
「迷惑?」
どちらかと言うとレイモンドのほうが迷惑を掛けていそうなものだけど……。
「彼は私にとって大切な人……でも彼はそんな私を――」
「ちょっと待って下さい」
「……え?」
誰かいる。これは殺気だ。それも僕じゃない。ライラさんの方に向けられたものだ。
「出てきて下さい。殺気がだだ漏れですよ」
そう言うと、男が一人、また一人と姿を現した。
今まで何も感じなかったのに。
「……そこの女を渡せ」
「嫌です」
「ガキが調子に乗るな。周りを見てみろ」
……囲まれた。黒いフードの集団。『ゼウスを信仰する者』だ。
「どうしてこの人を狙うんですか?」
「ガキには関係ない」
困ったなぁ。この数は流石に無理だ。フィーやケンイチならともかく、僕には戦闘能力なんて無い。剣なんて以ての外だ。
「……下がっていて、アスフィくん」
「え、ライラさん? まさか戦う気ですか?」
「子供は大人が守るものなのよ。それに、あの人達の狙いは私だから」
それはそうだろうけど、この人数は無理だろう。
ざっと見て二十人って所だ。そんな数の暴力に僕達は囲まれている。
何もしない訳にもいかない。僕にも何か……
「行け、お前ら!!」
リーダー格のような大柄な男が声を上げた。
その瞬間、僕らを囲っていた者達が一斉に襲いかかってきた。
「――ライラさんっ!! 僕の手を!!」
「え!?」
「早く!!」
「え、うん?」
僕はライラさんの手を掴んだ。
《――さぁ、目覚めの時間だよ、ケンイチ。少しで良い。僕に力を貸してくれ》
……
…………
………………
「な、なんだ!? ぐあああああああ」
アスフィとライラを襲った者達が全員吹き飛んだ。
「……俺を呼んだって事はアスフィ・シーネット。この体は俺のモノって事で良いんだよな?」
「アスフィ……くん?」
「フンッ……誰がアスフィだ。俺の名前はケンイチだ」
「……そう、あなたがそうなのね」
ライラとケンイチと名乗る二人の周りには『ゼウスを信仰する者』が倒れていた。
「探していたわ、ケンイチ」
「俺を? 俺はアンタなんか知らねぇ」
「でしょうね。アスフィくんには悪いけど、ライラは本当の私の名前じゃないもの」
何言ってんだこの女。
「改めて、私の名前は白狐沙理奈。ケンイチ、あなたと『盟約』を交わしにきたわ」
――きっと僕は、一人じゃないのだ。
***
あれから僕は右手の衝動を抑えきれず、獣人の女性の胸を無意識に揉んでいた。流石にもう呆れたのか、それとも慣れたのか女性は僕の手を解こうとはしなかった。こうして話している今も僕の右手は胸にある。
「そうなんですね。レイラは昔から父親の事が嫌いだったと」
「そう。でも、仕方ないわね。あの子からすれば理由も分からず突然自分の父親が消えたんだもの」
確かに。僕は胸を揉みながら頷いた。
「で、レイラとレイモンドについてなんですが、僕に心当たりがあります」
「本当に!?」
「ええ。ただ、少し遠いというか……危ないというか……」
恐らく二人は『アルファ宮殿』に来るはず。レイモンドは母親の居場所を知っていたようだし。
「……あ」
「どうしたの? まだ左手も疼くのかしら?」
「い、いえ。違います」
人を胸揉み魔みたいに言わないで欲しい。
「僕、あなたの名前聞いていませんでした。レイラの母親という認識でしか無くて……」
「あら、忘れていたわ! 私の名前は……」
「…………ん? どうしました?」
「……ライラ。私の名前はライラ」
「ライラさんですね、了解です!」
何故一瞬躊躇ったのだろう……?
「ちなみに僕はアスフィ・シーネットです!」
「ええ、知っているわ」
「ですよね!」
「偶に帰ってくるレイラからえっちな男の子とよく聞いていたもの」
「……そ、そうですか」
レイラめ。なんて事を言っているんだ。僕はえっちなんかじゃない!
「あ、そういえばライラさんは攫われたとお聞きしましたが?」
「それはレイモンドからかしら?」
「はい、レイモンドからです」
「……攫われたのはそうね。間違いじゃないわ」
「その言い方だと何かありそうですね」
「脱獄? したのよ」
脱獄!? この人は囚人だった……!? そんな、まさかこんな美人が悪人なのか!?
「ああ、ごめんごめん! そんな怖がらないで」
「いやぁ、普通に怖いんですけど。そもそも何故攫われたんですか?」
「……私は夫、レイモンドに迷惑を掛けてしまったの」
「迷惑?」
どちらかと言うとレイモンドのほうが迷惑を掛けていそうなものだけど……。
「彼は私にとって大切な人……でも彼はそんな私を――」
「ちょっと待って下さい」
「……え?」
誰かいる。これは殺気だ。それも僕じゃない。ライラさんの方に向けられたものだ。
「出てきて下さい。殺気がだだ漏れですよ」
そう言うと、男が一人、また一人と姿を現した。
今まで何も感じなかったのに。
「……そこの女を渡せ」
「嫌です」
「ガキが調子に乗るな。周りを見てみろ」
……囲まれた。黒いフードの集団。『ゼウスを信仰する者』だ。
「どうしてこの人を狙うんですか?」
「ガキには関係ない」
困ったなぁ。この数は流石に無理だ。フィーやケンイチならともかく、僕には戦闘能力なんて無い。剣なんて以ての外だ。
「……下がっていて、アスフィくん」
「え、ライラさん? まさか戦う気ですか?」
「子供は大人が守るものなのよ。それに、あの人達の狙いは私だから」
それはそうだろうけど、この人数は無理だろう。
ざっと見て二十人って所だ。そんな数の暴力に僕達は囲まれている。
何もしない訳にもいかない。僕にも何か……
「行け、お前ら!!」
リーダー格のような大柄な男が声を上げた。
その瞬間、僕らを囲っていた者達が一斉に襲いかかってきた。
「――ライラさんっ!! 僕の手を!!」
「え!?」
「早く!!」
「え、うん?」
僕はライラさんの手を掴んだ。
《――さぁ、目覚めの時間だよ、ケンイチ。少しで良い。僕に力を貸してくれ》
……
…………
………………
「な、なんだ!? ぐあああああああ」
アスフィとライラを襲った者達が全員吹き飛んだ。
「……俺を呼んだって事はアスフィ・シーネット。この体は俺のモノって事で良いんだよな?」
「アスフィ……くん?」
「フンッ……誰がアスフィだ。俺の名前はケンイチだ」
「……そう、あなたがそうなのね」
ライラとケンイチと名乗る二人の周りには『ゼウスを信仰する者』が倒れていた。
「探していたわ、ケンイチ」
「俺を? 俺はアンタなんか知らねぇ」
「でしょうね。アスフィくんには悪いけど、ライラは本当の私の名前じゃないもの」
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