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第九章 アスフィ 交流篇 《第二部》

第119話「率いる者」

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 獣人の少女、レイラ・セレスティアが目を覚ました。
 ――彼女は未だ、困惑していた。
 
 獣人の少女レイラ・セレスティア。
 コルネット村生まれの人間と獣人のハーフである。
 
 綺麗な黒髪に年齢にそぐわない胸の大きな彼女。
 
 レイラはベッドの上でアスフィをただじっと見つめて動かない。
 
 
「……どうしたの? レイラ」
「………………本当にアスフィ? ……それにレイラは死んだはず」
「僕は本当にアスフィだし、レイラはこうして生きている! だろ?」
 
 アスフィがそう言うと、レイラは小さく頷いた。
 
「……ねぇ、アスフィなんか変わった?」
「ああこれね。うん、イメチェン……かな? レイラを驚かそうと思って、レイラが眠っている間に髪色を変えたんだ。似合ってるでしょ?」
「…………うん……カッコイイ。でもなんだか背も伸びた様な……」
「まぁ僕、成長期だからね!」
 
 本当は違う。だが、アスフィは嘘をついた。優しい嘘を。
 知らなくてもいいと、そう思っての事だった。
 
「ねぇ、アスフィ。そっちの女はだれ……?」 
 
 起きるや否や、自分の知らない者を見ると、レイラの表情は険しくなった。
 
「初めまして、わたくしはアイリスと申します。以後お見知り置きを」
「初め……ましてレイラ・セレスティア……です」
 
 レイラは早速人見知りを発動した。
 
「そんなに畏まらなくていいよ、二人とも! どっちも僕の友達だからさ!」
「…………そうですか」
「……分かった」
 
 ……これは打ち解けるのに時間がかかりそうだね。
 
 僕はあまりこういうのが得意では無い。
 
「ここってミスタリス……?」
「うん、ミスタリス。君は気を失って居たんだよレイラ」
「……………………?」
「ああ、いや! レイラはね! 重症だったんだけど、僕が治したんだ!」
「……そうなんだ。流石アスフィだね」
 
 自分は本当は死んでいたなんて言う必要ない……そうだよね。
 
「……アスフィ」
「なに?」
「皆はどこ? エルザとルクス……エルフォードさんも……大丈夫……なんだよね?」
「それは――」
「――うん! 大丈夫!」
「……アスフィ」
 
 レイラの問いかけにアイリスが応じようとしたが、それをアスフィが話を割って入った。
 
 
「…………なぜ止めるのですか?」
 
 アイリスはレイラに聞こえない程小さな声で聞いてきた。
 それに対して、アスフィもまた応じる。
 
「……起きたばかりだからです。あまり刺激を与えたくありません」
 
 アスフィはレイラに気遣ってのことだった。
 
「…………………………」
 
 レイラはぼーっとしていた。
 
「…………………………何の話してるの?」
「いや、この後どうするかの話をしていたんだ! レイラもお腹空いたろ? アイリスとここで待ってて! 食べ物持ってくるから!」
「……うん、分かった」
 
 アスフィは部屋を出た。
 
「……レイラをまだ部屋から出す訳にはいかない。まだそこら中に死体が転がっている。もう少し時間が必要……だよね……フィー」
 
 アスフィは独り言を呟きながらキッチンへと向かった。
 
 
 ……
 …………
 ………………
 
「―――――――――何があったの?」
「…………何のことでしょう」
「レイラ聞こえてた。レイラの耳は人間よりも良いんだよ?」
「……………………そうでしたか」
「それに、レイラはね。あの時、死んだの」
「…………」
「だから生きているこの状態が奇跡だと思ってるの。最初は嬉しかった……よ? アスフィにまた会えたって思った……けど」
「……けど? けどなんでしょう」
 
「―――――――あれはアスフィじゃない」
 
 レイラは確信ついた顔でそう言った。
 
「……わたくしを許して下さい。てっきりただ胸の大きな少女とばかり思っておりました」
「酷いね」
「……ええ、ですのでこうして謝っています」
「なぜ謝る気に?」
「あなたはお兄様とアスフィを見分けることが出来たからです」
「お兄……様?」
「今は分からなくて結構です。ただ、わたくしはあなたを信用することにします。改めてよろしくお願いします、レイラさん」
 
 アイリスはベッドで横になっているレイラに手を差し出した。
 
「……こちらこそ。レイラの事はレイラでいいよ、アイリスさん」
「では、わたくしもアイリスと、そう呼んでください」
 
 ――――アスフィが不在の中、二人はお互いを認め合った。
 
 
 ***
 
 
 レイラとアイリスが仲を深める中、アスフィは一人キッチンで探し物をしていた。
 
「どこだどこだ? こっちか?」
 
 食糧である。巨大な冷蔵庫はいくつもあり、そのほとんどが腐っていた。
 
「やっぱり……これもダメかぁ。でも、腐っているのは分かるけど、そもそも食材時代が少ないような……」
 
 次々と冷蔵庫を開けていくが、見つからない。
 腐っている物ばかり。食べられる物が無い。
 
「ここにもな――誰だっ!」
 
 アスフィはキッチンに入る者の微かな足音を感知した。
 
「…………お前がルクスのお友達ってやつか?」
「……誰ですか? 僕の事をご存知の様ですが」
「俺は敵じゃない……多分……いや、きっとそう……だと思う」
 
 自分の言葉に段々自信を無くし、言葉が霞んでいく男。
 
「聞いているのですか? 僕は誰だと聞いているんです」
「……ああ、悪い悪い。そう怒るな」
 
 飄々とした男は黒のフードを被っていた。
 
「……まさか――」
「…………恐らくお前さんが考えている者だ」
 
 アスフィは杖を向けた。
 
「おっと! やめておこうぜ? お互い勝負にならんだろ? ……それに言ったろ? 敵じゃない」
「そのフードには嫌な思い出があるので……」
「……それはお前の記憶か? それとも別の者・・・か?」
「なにを……あなたは何者ですか」
 
 黒のフードを被った男はフードを取った。
 
「――改めて、俺の名はレイモンド・セレスティア。……娘を迎えに来た」
 
 フードを外した男はレイモンドと名乗った。
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