攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)

文字の大きさ
129 / 282
第八章 フィー 幻想大戦篇《第二部》

第106話 「悪意」【楓視点】

しおりを挟む
 楓の名前は須藤すどうかえで。都内では名の知れた高校の二年生です。須藤 剣一ケンイチの妹でもあります。楓の兄は昔、剣道を習っていました。その実力は中学生にして全国大会で優勝する程です。楓は兄がとても誇らしいと思っていました。それと同時に、嫉妬もしていました……。
 
 兄が剣道を始めたきっかけは名前が剣一だからと至ってシンプルでした。両親は剣のように強くなって欲しいという意味で付けたみたいですが、兄はそれを本当に実現させてしまいました。
 
 そんな誰もが認めるお兄ちゃんは、高校で変わってしまいました。習っていた剣道を辞め、勉学に努めた……楓は剣道を習っていた兄が大好きでした。それを兄はあっさり辞めてしまったのです。兄曰く、勉強の方が自分の為になるとのことです。当時中学三年生だった楓はそれが許せませんでした。 
 
 それから楓は兄と同じ高校を目指しました。
 理由は、兄にもう一度剣道の道に進むよう説得する為です。
 もちろんそれは学校だけじゃなく家でも言っていました。
 そのせいで毎日喧嘩の日々です。
  
 そして、兄と同じ高校に入って楓は気付いたのです。
 
 兄がクラスに馴染めていないことに。
 
 馴染め無いだけならまだしも、イジメのような扱いを受けていると楓はそれを友人の口から聞きました。しかし、どうすることもできません。楓は兄と毎日のように喧嘩をしていたので。
 
 そんなある日の事です。ある情報が楓の耳に入ってきました。
 
 いじめられていた男子が屋上から飛び降りたと。
 
 楓はまさかと思い、屋上へ走りました。
 
 そこには沢山の人。兄のクラスの方達と思われる上級生達です。
 
 ヒソヒソとなにかを話している。
 
 その内容に耳を澄ますと、須藤 剣一・・・・・の名前が出てきました。 
 
 楓は一心不乱に人混みをかき分け、屋上にある高台の上に立ち、下を見ました。
  
 ――そこにお兄ちゃんは居なかった。 
 
「……え? どういうこと?」
 
 楓は不思議に思いました。飛び降りたのに死体がない。
 
 ……そうか、そうだよね。お兄ちゃんがそんなバカな真似する訳ない。
 
 楓は安堵しました。良かったと。
  
「――君! そんな所に立っちゃ危ないよ!!!」
 
 先生方が話を聞きつけ、屋上にやって来ました。
 
「……すみません、すぐに降ります」
 
 楓は声のする方を振り返りました。
 
「やっぱ嘘だよな、あの臆病なフィーだぜ?」
「臆病者は飛び降りるなんて勇気もねぇよな!」
「あーしもそう思うね、フィーにそんな度胸ある訳ないし?」
 
 クラスの方達が口を揃えて言う、フィーという人物。
 
 楓はそれが兄の事を言っているのだと、すぐに気付きました。
 フィーという意味は分かりませんが、なんとなく分かったのです。なにより、人が死んだかもしれないという状況に誰も何も思っていない。それに楓は凄く腹が立ちました。
 
「楓のお兄ちゃんの悪口を言うなっ!!!!」
  
 楓は思わずそんな事を口走っていました。
 大好きなお兄ちゃんだったから。憧れていたお兄ちゃんだったから。それを何も知らない他人が侮辱するのだけは許せませんでした。
 
「おい、お前フィーの妹か?」
「……須藤剣一の妹です」
「……ちょっと楓ちゃん!?」
 
 兄のクラスメイトです。金髪にピアス。いかにも不良という見た目をした男子。そこに友人が屋上に駆けつけました。
 
「楓ちゃん! なにしてるの!? 早く降りて! 危ないよ!!」
「……フィーは臆病だ。事実、飛び降りてなんかいないじゃねぇか。今頃トイレにでも隠れてクソでもしてんだろ」
「…………なんですって?」
 
 楓は頭が真っ白になりました。今すぐその顔面を殴りに行く。兄を侮辱する者を今すぐに。そう思い、高台を降りようとした瞬間――
 
「あ」
 
「楓ちゃん!!!!!?」
  
 楓は足を滑らせてしまいました。
 
 落ちていく体。
 
 だんだんと遠くなっていく屋上。
 
 その屋上からは悲鳴が上がっています。
 
 でも、不思議と楓は怖くありませんでした。
 
 それは突然の出来事だったからというのもあると思います。
 
 しかし、それ以上に楓は思いました。
 
「お兄ちゃん……今までありがとう」
 
 感謝の言葉を吐いたのです。
 
 自分でも何故こんなことを言ったのか分かりません。
   
 やがて――
 
 楓は地面に大きく叩きつけられ、呆気なく死にました。
 
 
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜

ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。 アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった 騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。 今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。 しかし、この賭けは罠であった。 アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。 賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。 アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。 小説家になろうにも投稿しています。 なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。

男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。 授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

神々に見捨てられし者、自力で最強へ

九頭七尾
ファンタジー
三大貴族の一角、アルベール家の長子として生まれた少年、ライズ。だが「祝福の儀」で何の天職も授かることができなかった彼は、『神々に見捨てられた者』と蔑まれ、一族を追放されてしまう。 「天職なし。最高じゃないか」 しかし彼は逆にこの状況を喜んだ。というのも、実はこの世界は、前世で彼がやり込んでいたゲーム【グランドワールド】にそっくりだったのだ。 天職を取得せずにゲームを始める「超ハードモード」こそが最強になれる道だと知るライズは、前世の知識を活かして成り上がっていく。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

処理中です...