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第五章 ヒーラー 追憶篇《第一部》

第67話「本心」

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 俺はエルザの思いもよらない言葉に一瞬戸惑った。
 ルクスもまた困惑しているようだった。
 
「………憎いのだ」
「俺……がか?」
「そうだ」
 
 俺エルザに何か悪いことしたっけ? ……されたことなら心当たりあるんだが。まさか花を摘みに行くと言ったエルザをからかったことか? ……そんな雰囲気では無さそうだな。
 
「……分かった、受け止めるから教えてくれ」
「………いいのか? 本当に」
「ああ」
「お前には……出来ないことかもしれない……それでもいいのか?」
 
 俺にはできない……? 言ってくれるなエルザ。
 そんなことを言われたら何がなんでもやってやる。
 
「ああ任せろ。なんでもやってやる……お前がそれで救われるのなら俺はなんでもやる覚悟だ!」
「………本当か? 本当の本当なのだな?」
「ああ! 任せろっ!」
 
 俺はエルザに言い切った。
 エルザもまたそれに安堵したような表情に変わった。
 そしてエルザは――
  
「なら私と結婚してくれ!!!!!」
  
 ・・・。
 うーーーーーーーーーーーーーーーーーん?
 あれ? 今そんな話だったっけ……?
 俺が憎いから最悪死んでくれとか言われる覚悟だったんだが……。どういうことだこれ。
 
 《『アッハッハッハッハッ! エルザの嬢ちゃんやっぱおもしれーや!』》
 
 うるさい、内野がうるさい。
 
「待て、エルザ……すまない、急かしすぎた……もうちょっと考えて言葉を喋ってくれ。お前は今、言葉を間違えた」
「ああ、そうかすまない……私としたことが……」
 
 はぁ、よかったなんだ間違いか。ビックリしたよまじで。
  
「夫になってくれ!!!!!!」
 
 
「……聞き間違いじゃなかったのかよ」
「エルザ……」
「だってそうだろう!? 私だってアスフィが好きだ! 大好きなのだ! なのになんだ!? 昨日ディンが作り出した幻想の中で私はルクスに約束しただろう! 勝負をしようって! なのになのに! 昨日夜廊下を歩いていたらアスフィの部屋から甘い声が聞こえるでは無いか!! ああもちろん私もいつもみたいに邪魔してやろうと思ったさ! でもルクスが「僕っ子」になっていたんだ! そんなのもう私の空気ぶち壊しムードじゃ崩せないだろう!!」
 
 エルザは早口でまくし立てた。
 しかもやっぱり意図的だったのかよあの邪魔。白状しやがったこのお嬢様。
 
「はぁ……はぁ………」
「お、おう」
「大変だったんですね……エルザも」
 
 若干俺たちは引き気味だった。いつものエルザ……ではなかった。確かにこれはさらけ出したといえばそうだが……。
 
「……ん? 待て、エルザ。お前ルクスの幻想の世界に入れたのか?」
「……はぁ……ん? ああそうだが」
 
 待て待てどういうことだ。手を握りしめていたから? いや、俺もルクスの手をしっかり握りしめていたぞ? 手汗が出る程にな。それなのになんでエルザだけルクスの世界に意識を持った状態で入れたんだよ。これについてもまたディンに聞いておくか。
 
「にしてもエルザお前、そんなに俺のこと好きだったのか」
「ああ! 私はレイラを……友達を守れなかった。あの時、死んでもいいと……天国で会えると本気でそう思った。そこに白馬の王子様の如くアスフィが現れたのだ。そんなもの好きになるに決まっているだろう……」
 
 ということらしい。
 
 幼少期のエルザお嬢様は昔から絵本が大好きだった。その大半は物語に白馬の王子様が出ててくるとのこと。見た目に反してめちゃくちゃ乙女なエルザだった……。 
 
「パトリシアに乗っていれば完璧だっただろう」
「……そうかよ」
「エルザは幼少より変わりませんね……」
  
 俺たちはお互いの本心を全てさらけだした。
 その後も話し合った……どれだけ好きかとかそんな話だ。
 だが、これによって待ち受けているのは誰もが想像できることだ。
  
 《『こりゃ修羅場だな……』》
  
 気が付けば日は暮れ夜になっていた。あれからディンは帰ってこない。またアイツら会議でもしてんのかね。
 しかしこれからは、本格的に注意しないといけない。
 ディンが言っていた『刺客』とやら。恐らく……いや、十中八九相手はだろう。
 アイリスや戦神アレスにさえ勝てなかったというのに、
 そんな奴らに攻めてこられたら勝てる気がしない……。
 また守れなかったなんて俺はゴメンだ。 
 
「――アスフィ、お風呂に入りましょう」
「アスフィ! 今日は私も一緒だ!」
  
 何も考えてなさそうだなこいつらは。
 いつものルクスとエルザだ。俺はきっとまた間違える。
 
 《『その時は俺が正す』》
 
(ああ、そうしてくれ)
 
 まずはこの修羅場をどうにかして、そしてマキナを探す旅に出る……。これが俺達の最優先事項だ。
  
「……ああ今行く」
 
 ***
 
 翌朝。
 
 ベッドが狭い……。
 
「暑苦しい……狭いぃ」
 
 寝苦しい……流石に一つのベッドに三人は無茶だろ……。
 結局あんまり眠れなかったな。だが、これからは眠れる時間なんてない。いつ刺客が襲ってくるか分からない。
 
「……もう少しだけ寝るか」
 
「あっははは! 君たちアツアツだねー!」
 
 ディンがノックもせずに入ってきた。
 
「……ああ、おかげで暑苦しくて眠れなかったよ」
「まぁ私としては全然いいよ! 『アスガルド帝国』の人口が増えるのはいい事だからね!」
「……」
 
 なんのことを言っているのやら……。
 
「さぁそこの眠ったフリをしてアスフィに抱きついている二人! 君達も起きる時間だよ!」
「………」
「………」
「お前ら起きてたのかよ……」
 
 ルクスとエルザは起きていた……。
 
「昨夜はその……眠れなかったからな」
「そ、そうですね……はい」
「うんうん楽しそうでなによりだよ!! で、いつ産むんだい?」
 
 デリカシーなしかこいつ。 俺は咄嗟に話題を変える――
 
「……なぁディン、マキナはどの辺にいると思う」
「え? うーんそうだねぇ……マキナは基本ひとつの所に留まることが多いよ? ……フィーなら知ってるんじゃないかな?」
 
(どうなんだ?)
 
 《『心当たりならある』》
 
「分かった。助かるディン」
「うんうんいいって事だよ! もう行くのかい? もうしないの? 昨夜のアレ!」
 
 ルクスとエルザは顔を真っ赤にしていた。
 
「お前見てたのか……?」
「私は知りたがりの神様でね! どんな些細なことでも知恵として蓄えたいんだよ!」
「………そうかよ……やっぱ神は何考えてんのか分かんねぇ」
「もう行くならせっかくだし、この街を案内してあげるよ! 観光ってやつだね! ほら、君達まだここに来てそんなに見て回ってないでしょ!」
 
 いや、そんな暇無いんだがな……
 と思っていたが腹も空いたし一応頷いておくか。
 
「分かった、ディン頼む」
「おっけー! 任せてよ!」
 
 
 俺達はディンの家を出た。神木を降り、久しぶりに街を見た。相変わらずここは色んな人種がいる。
 
「そうそう! この子達も昨夜の君たちと同じことをしてね――」
「もういいってその話」 
 
 ディンはエルザ並か、それ以上に空気の読めない神だった。
 
 
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