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第四章 ヒーラー 模索篇 《第一部》

第45話「再び幕開け」

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 エルザを仲間に迎えた俺達は、
 レイラが眠る部屋で次の目的地について考えていた。
 
「次はどうするのだ?」
「分からん……」
 
 エルザの質問に俺は答える。
 
 『ゼウスを信仰する者』ユピテル、アイツらは放置しては置けない。今もこの世界のどこかで活動しているはずだ。
 あの集団の目的がなんなのか調べるにしても、
 まずは手がかりが必要だ。
 だが、どこから手をつけていいのか分からない……俺とエルザが頭を抱えていると、ルクスが口を開いた。
 
「……でしたら、冒険者協会の大元とされる『水の都フィルマリア』に行くのはどうでしょう?」
「『水の都フィルマリア』……?」
「はい、私のかつての仲間が居るはずです」
 
 ああ、確か、ルクスは一人旅をしている時があったんだよな。その時に出会った仲間のことを言っているのか。
 
「ルクスよ、なぜそこなんだ?」
「かつての仲間に会いたいというのもそうですが、一番の理由は、『水の都フィルマリア』は全ての冒険者の記録をしています。つまり――」
 
 ルクスは俺達に地図を見せながらそう説明する。
 そしてルクスは続ける、
 
『ゼウスを信仰する者』ユピテルの者たちが、皆冒険者だというのなら、何か手がかりが見つかるやもしれません」
「……なるほど」
 
 ルクスの言葉に顎に手をやり頷くエルザ。
 確かに、『ゼウスを信仰する者』ユピテル……アイツらがキャルロットの言う通り冒険者なのであれば手がかりが見つかるかもしれない。それに、アイツらが母さんの『呪い』を付与した者達なら、『解呪』する方法もなにか知っているはずだ……。
 
「では行こう! アスフィ、ルクス! その水の都とやらに」
「『水の都フィルマリア』、です。ただし私も初めて行く場所です。気をつけましょう。ここからだと歩けば二週間程で着くと思います」
「……二週間!?」
 
 二週間というルクスの言葉に驚く俺。
 どうやらこの二人は特に驚く様子はない。
 当たり前だろうという顔をしていた。
 ルクスは旅の経験者だから分かるが、エルザまでも。
 
「そんなのパトリシアに乗れば一週間もかからんだろう!」
 
 それは確かにそうだろう。だが、今はそれが出来ない。
 なぜなら今の俺は大人程の身長がある。
 かつてその白馬に乗った時、エルザと俺とレイラが乗った。
 それは俺は子供でレイラもまた軽かったからだ。
 
 体の小さいルクスはいけるだろう。
 だが、今の俺が乗るとなるとパトリシアが潰れてしまいかねない……。それをエルザに伝えた。
 
「……ということは徒歩になるのか!?」
「そうだ」
「はい、そうなりますね」
「……そんなぁぁぁ! パトリシアーーー!!」
 
 エルザは白馬に乗れない事実に酷く落ち込んでいた。
 部屋の隅っこで膝を抱えている。
 
「……まぁ二週間なんてあっという間ですよ」
「ルクスは旅が長いからな……」
「……パトリシア……」
 
 こうして俺たちは目的地を『水の都フィルマリア』に決めた。
 早速準備に入ることにする。だが、忘れては行けない。
 レイラだ。俺たちが話している間ベッドで眠っている彼女。
 今はルクスの魔法で氷漬けにされている。
 遺体の腐敗が進まない様にだ。
 
「……なぁエルザ」
「なんだ?」
「レイラが眠れる場所、ないか」
 
 俺はエルザに問う。
 
「うーん……そうだなぁ」
 
 エルザは考え出す。
 ……しばらく考えた末、そうだ! とエルザが言う。
 
「キッチンに大きな冷蔵庫がある! 恐らく、人一人入るくらいの大きさはあるだろう!!」
「……」
「……」
 
 俺とルクスは無言になった。
 レイラを冷凍するっていうのか……。だが他に方法がない。
 俺は仕方ないとしぶしぶ了承した。
 
「……分かった。そこで眠らせてやろう」
「うむ! 大丈夫だ! ちょっと魚臭いかもしれないが、ちゃんと空きはあるし、掃除もしてある!」
「……ほんとかよ」
 
 俺たちはキッチンへと向かった。
 初めて入ったが、大きな冷蔵庫がいくつもあった。
 確かにこれは人も入れそうだな……。
 
「……これレイラが目を覚ましたら怒られそうですね」
「……ああ、その時は連帯責任だ」
「……うむ、そうだな」
 
 レイラが怒ってくるのならそれはいい事だ。
 無事に目を覚ましてくれ……いや、必ず俺が目を覚まさせる。
 俺は自分に言い聞かせ、レイラを冷蔵庫へと移動させた。
 
「では、いこう」
「ミスタリスを空けても大丈夫か?」
「うむ、問題ないだろう……だれもこんな崩壊した場所に住もうとは思わん。ちゃんとこの冷蔵庫は開けられないよう鍵をかけておく」
 
 そして、レイラが入った冷蔵庫に鍵をかけた。
 冷蔵庫になぜ鍵が付いているのか聞くと、どうやら幼いエルザが頻繁に盗み食いをし、それに気づいた祖父であるエルブレイド・スタイリッシュが鍵を付けたそうだ。
 盗み食いがバレたエルザはその後、祖父にめちゃくちゃ怒られ今もトラウマの一つらしい。幼いエルザの伝説色々出てくるな……。
 
 だがこれで安心してミスタリスを出られる。
 
「よし、いこうか」
「行きましょう」
「うむ、いこう!」
 
 俺達はミスタリスを後にした。この国には世話になった。
 色んなことがあった。無くしたものも多いが、得たモノもちゃんとある。
 
「待っててくれ、レイラ、母さん。俺は必ず二人の目を覚まさせてやる」
 
 こうして俺たちはミスタリスを後にした。
 
 ***
 
 俺はあることに気づく。
 
「……なぁ、俺のこの見た目少し目立たないか?」
 
 俺は白髪に赤黒い目、身長も随分と高くなりその高さは、
 エルザと対して変わらない。
 
「そうですね……でしたら私の予備のローブをあげます」 
 
 ルクスはローブの中から自分と同じ予備の真っ黒なローブを俺にくれた。何故予備を持っているのかというのは聞かないでおこう。
 
「実はこのローブにはですね――」
 
 とルクスが解説してくれた。
 どうやらこのローブには人目を抑える効果があるらしい。
 ……効果あるのか? これ、逆に目立たないか?
 俺はルクスを見た時、その異質な見た目から、
 すぐに違和感を覚えたぞ……。少なくとも只者じゃないと。
 ……だがまぁ、せっかくだ。受け取っておこう。
 ルクスは「お揃いですね」と少し嬉しそうだ。
 その俺たちのやり取りにエルザが、「私も欲しい!」と駄々を捏ねたが、ルクスの「もうありません」の一言で終了した。 
 
 しばらく歩いた。ミスタリス王国の近くは緑が豊富だ。
 しばらくするとエルザが駄々をねだした。
 
「私はもうダメだ……パトリシアを呼んでもいいか?」
「ダメです。一人だけ馬に乗るなんてズルいですよ」
「ルクスの言う通りだ、黙って歩けお嬢様」
「なぬ!? 未来の妻になんて口を聞くのだアスフィ!」
「……え? アスフィ、エルザと結婚するんですか?」
「あー、もううるさい。黙って歩け!」
 
 俺達はひたすらに歩いた。
 途中いつもの犬型魔獣が出てきたが、エルザが全て片付けてくれる。どうやら腕が鈍って仕方ないらしい。何も言わずとも前衛を買って出た。凄く頼もしいことである。
 
「ハッハッハ! やはり剣だ! 剣は全てを救う! パパの力も感じられるぞ! 私は以前より強くなったのだ!!」
「良かったですね」
「良かったな」
 
 エルザは一人テンションが上がっていた。
 
 ……
 …………
 ………………
 
 夜になった。夜はルクスが集めてくれた山菜と、
 エルザが狩ってきた熊だ。
 また、熊肉か……。ここら辺の野生は熊しかでない。
 ……最悪飽きたら魔獣を食べるしかないか。魔獣って食べれるのだろうか。
 
「ルクスは料理が上手いな!」
「旅をしていた時に、ある人が作っていたのを見ていましたから」
「ああ、レイラの父親か」
「……どういうことだ?」
 
 俺とルクスはエルザに説明した。
 ルクスもまた俺に語ってくれたルクスの人生を簡略化し、
 エルザに話していた。
 
「……なるほど、レイラの父親が勇者の……」
「はい、私はその人にお世話になりました」
「今のルクスが居るのはその人のおかげだもんな」
「はい、その通りです。現在はどこで何をしているのかは分かりませんが……」
 
 そう言って焚き火に薪を入れるルクス。
 焚き火の炎に照らされるエルザが神妙な顔で口を開く。
 
「……引っかかる」
「……なにがだ?」
「レイラの父親……黒いフードを被っていた……」
 
 ああそうか。そういうことか。
 
「はっ……そんな……ありえません!」
 
 どうやらルクスも察したようだ。
 
 ルクスの命の恩人と言っても過言では無いレイラの父親。
 それが……まさか。いや、俺も考えないようにしていただけかもしれない。そんな妙なフードを被る者はそうそう居ない。それをエルザが発言したことが、俺はまた胸がザワついた。
 エルザは勘が鋭い……それも怖いほどに。
 そんな彼女がそう言うのだ。
 
「……いや、私の思い違いかもしれない、すまない」
「………ありえま……せんよ」
「そうだな……ルクスに生きる術を教えたやつだ。少なくとも良い奴だと俺も思う」
 
 そうして、焚き火を交代で見張りながら俺達は眠りについた。
 
 *** 
 
 翌日の早朝。なんだか体が妙に暖かい……。
 俺は目を覚ました。
 
「…………なんで?」
 
 俺の右腕にルクス。
 左腕にエルザが腕を絡めて抱きついていた。
 同じ水玉の寝巻きを着て。
 
「……はぁ、起きろお前たち」
「……ん、ああもう起きたのか早いな」
 
 エルザは目を擦りながら起きたが、ルクスはまだ起きない。
 
「……見張りはどうした。火が着いている内は魔獣は寄って来ないが、火が消えていたらどうするんだ。あと、魔物は火でも関係ないらしいぞ」
「私は寝ているルクスにちゃんと頼んだぞ」
 
 ……それでルクスは起きたのか?
 今もルクスはなかなか起きない。
 俺の腕に涎を垂らしながら熟睡している。
 
「……ルクス、起きろ。………起きないか、仕方ない」
 
 俺はルクスの小さな胸を揉みしだいた。
 
「えいっ」
「…………ん……はっ! ななな、なにをするんだい! 今僕の胸を揉んだだろう!?」
 
 起きた。
 
「おはよう、ルクス」
「お、おはようございます……」
「……おいアスフィ! 私の方が大きいぞ! ほら! どうした」
「よし、じゃあ出発だな」
「おいっ!」
 
 エルザが胸を寄せてアピールしてくる。いつもの俺なら飛び込んだろう。だが、今の俺はなんというか……そんな感情になれなかった。レイラの件があるからなのか、俺の今の姿のせいなのか。それは俺にも分からない……。
 
 そうしてしばらく歩く。
 
 途中、盗賊が出てきた。その立派な装備置いてきな、とかその身ぐるみ剥がせてもらうぜお嬢ちゃん達……とかなんとか言っていたがあっさりやられた盗賊達だった。相手が悪い。全てエルザが切り伏せたのだ。俺は少し盗賊に同情した。 
 
 そして更に歩く。
 同じような出来事が一週間ほど続いた。
 かなり歩いたと思う。そうして歩いた末、今までとは違う景色が見えてきた。
 
「…………砂漠?」
 
 辺り一面砂の景色が広がっていた。
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