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第三章 ヒーラー 愛の逃避行篇 《第一部》

第36話「エルフの村と双子の少女」

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 エルフの森の最深部に辿り着いた俺たち。
 未だエルフの子供達から罵倒を浴びせられていた。
 もちろんルクスではなく俺だけである。
 
 俺はもう大丈夫だとルクスの胸から離れた。
 
「……ふぅ……君たち、僕はバケモノじゃないよ? ほら!」
 
 と俺は両手を大きく広げ子供たちに話しかける。
 
「……あれ? バケモノの気配が消えた!」
「ほんとだ! 気のせいだったのかな」
 
 俺はエルフの子供たちに精一杯善良な市民だということをアピールした。するとトレイが俺に向かって、
 
「……アスフィ殿、消せたのか」
「…………なんのことかな? じゃあ進もうか」
「アスフィ……」
 
 トレイとルクスは俺を見て不思議そうにお互いを見つめていた。そんなに俺が気になるのか? 別に不思議な事じゃないだろ? 俺は『人間』なのだから。
  
 俺たちはこのエルフの村の村長に話を聞くことになった。
 トレイが今、村長に話をしに行ってくれていた。
 その間俺とルクスは、エルフの子供たちと遊んでいた。
 
「これが水魔法です。そしてこれが――」
 
 とルクスが色んな属性の魔法を披露してくれた。
 それを見たエルフの子供たちと俺は地べたに三角座りをし、拍手する。
 
「おおー兄ちゃんすげぇー!」
「お兄ちゃんすごいねっ!」
「………ぷっ……ル、ルクスのお兄ちゃんすごーい!」
 
 俺は子供たちに便乗した。
 
「アスフィまで……それに私はお姉さんですよ皆さん」
 
 エルフの子供たちはビックリしていた。
 そんなの嘘だー! と言う子供たち。
 これはルクスが女だと信じていない顔だな。まあそれもそうだよな。俺も初めてルクスを見た時、勘違いしたものだ。
 
 よし、仕方ない。ここは俺が一肌脱ぐか。
 
「そうだよ? 君たち、ルクスはお姉さんなんだ! 僕が証明してあげよう!」
「ほんとー?」
「見せて見せてー!」 
 
 俺は子供達の要望の為、ルクスに抱きつき、ルクスの小さな胸を揉んだ。
 
「ほらっ! 見るんだ子供達! ルクスにはこのようにちゃんと胸が――」
「……魔法を撃ちますよ」
 
 と言い俺を殴ってくるルクス。
 
「いやもう殴ってるからルクス……」
「アスフィが悪いんです」
 
 そんなやり取りがあってからしばらく経ち、
 ようやくトレイが戻ってきた。
 
「待たせた。では村長に会いに行こう」
「分かったよ」
「はい」
 
 エルフの森を抜けた先にあるこの村は、
『エルフ村』と言うらしい。どうやらエルフは名前なんかには拘らない種族のようだ。そのまんま過ぎる。
 村には藁で出来た家が沢山ある。
 藁だけではなく、木造建ての家もある。
 流石はエルフだ。自然を余すことなく使いこなしている。
 そしてなにより、広い。俺たちが育った村よりも広い。
 下手をすると、ミスタリス王国よりも広いかもしれない。
 流石は大自然を住処にしているだけはある。
 
 そうして案内された場所は、藁の家だった。
 村長はどうやらここに居るらしい。
 村長は木造建てじゃなく藁にいるのか。何故あえて脆い方に住んでいるんだろうか。
 そして「どうぞ中へ」と中から声がし、入る事にした。
 
「初めまして、わしが村長のゾルスと申しますじゃ」
「初めまして、アスフィです」
「お久しぶりです、村長。ルクスです」
 
 そうか、ルクスは一度来た時に面識があったのか。
 ゾルスと名乗るエルフの老人は杖を付いて立っていた。
 藁の家はとても狭かった。恐らくここに住んでいるのでは無いのだろう。頑張って十人入れるか入れないかという広さだ。
 それに中にはほとんど何も無い。
 あるのは座布団代わりの藁が敷いてあるだけ。
 こんな所で流石に生活は出来そうにない。
 村長として話すための場所だろうなここは。
 そして、ゾルスの両側には二人のエルフが立っていた。
 
「初めまして、コレイです」
「初めまして、コルネです」
 
 瓜二つの彼女達はそう自己紹介した。
 白く薄い布を纏った彼女達。
 整った顔立ちの彼女達。コレイと名乗るエルフの胸は大きく少し屈めば零れそうだ。
 一方、コルネと名乗るエルフは、胸が小さい。
 俺はどっちも好きだけどね……!
 そしてエルフ特有の長い耳に思わず俺の目は釘付けになった。
 
「お、おおおおおおおお」
「こいつらはわしの娘ですじゃ」
「なるほど、お義父さんのですか」
「……トレイよ、こいつはなにをいってるのかの?」
「私にも分かりません村長」
「……アスフィはいつもこんな調子なんです……気にせず話を続けてください」
 
 なんだよ、雑な紹介だなルクス。
 いつもこんな調子って……いつもでは無いだろう。
 全くルクスは嫉妬でもしているのだろうかね。
 
「……では話を進めるとしようかのう。今回トレイからフォレスティアに行きたいと聞いておるが?」
「はい、お義父さん、娘さん達を僕に下さい――」
「アスフィ……いい加減にして下さい。話が進みません」
「ホッホッホいいのじゃよルクス殿。だれがやるかのクソガキが。クソガキにやる娘なんておらんよホッホッホ」
 
 笑いながら罵倒してくる村長ゾルス。
 顔は笑っているが目がマジだ。目は全然笑っていない。
 
「ははは、またまた~お義父さん」
「……アスフィ」
「ホッホッホ面白いクソガキじゃのう。殺意が湧いてきたわいホッホッホ」
「……村長もおやめ下さい」
 
 俺と村長は笑っていた。両者引かずひたすら笑っていた。
 村長の目は殺意が宿っていた。俺はそれに気づかない。いや、気付いていたけど引いたら負けると思った。
 
 そして俺たちを止めようとするルクスとトレイであった。
 
 ……
 …………
 ………………
 
「……フォレスティアに行くのは構わん」
「本当ですか村長」
「ああ、ルクス殿が言うんだ。このクソガキも悪い奴ではないんじゃろう」
 
 ルクスって結構エルフ達に信頼されてるんだな。流石は先生だ。
 
「ありがとうございます村長」
「ありがとうございますお義父さん」
 
 やったぜ! なんとかフォレスティアに入れそうだ。
 ついでに、その横にいる娘さん達もくれないかな。
 そして村長は更に続ける――
 
「ただし、監視としてコイツらを連れていく」
「……え?」
「私達もですか?」
 
 そういうのはコレイとコルネ、彼女達である。
 驚いている彼女達は、続けて言う――
 
「ま、待ってください村長っ! 私たちはまだ納得しておりません!」
「そうですよ! 村長っ!」
「コレイにコルネよ、このクソガキからは邪悪なモノを感じる。隠しているようじゃがわしの目はごまかせん」
「………ふーん……『僕』にね?」
「ホッホッホ……ただの年寄りと侮ってもらってはこまるぞクソガキよ」
 
 コレイとコルネはどうゆう事?
 とお互い見つめ合い不思議そうな顔をしている。
 どうやらこの村長、長生きしているだけはあるな。
 エルフというのは長寿な生き物らしい。母さんの話で聞いたことがある。それなのに杖をつくほど歳をとっているということはそれだけ長生きしているという証拠なのだろう。
 
「頼むぞ、コレイ、コルネよ」
「娘さんは僕に任せて下さいお義父さん!」
「ホッホッホ、お前に言っとらんわクソガキ殺すぞ」
「……村長言葉が乱暴です」
 
 トレイが村長にまあまあと落ち着かせている。
 ルクスもまた俺をずっとつねっている。
 嫉妬か? ルクスのやつさっきからもしかして嫉妬してるのか? 可愛いな全く。
 
「分かりました、このアスフィとやらを監視すればいいのですね」
「いいのですね?」
「ああ、頼むぞ2人とも」
「「承知しました」」
 
 そう言って村長に一例するコレイとコルネ。
 それにしても酷い話だ。監視って……まるで俺が『悪者』みたいじゃないか。……そうか、ルクスはこういう気持ちだったのか。その間ルクスは黙っていた。
 
「では行きましょう娘さん達! 僕に付いてきてください!」
「案内するのは私たちですよ客人」
 
 コレイが口を開く。
 そしてそれに便乗する形でルクスもまた、
 
「そうですよアスフィ」
「分かってるよ。よろしくね二人とも」
 
 こうして俺たちはコレイ、コルネという監視兼、案内役の彼女たちとフォレスティアに向かうことになった。
 
「目指すは獣人の国だー!」
「はしゃぎすぎです客人」
「そうですよ客人」
 
 コレイとコルネは俺に言う。釣れないなぁこの子たち。
 客人って……名前で呼んで欲しいよなぁ。
 
「僕の名前アスフィなんだけど……」
「分かってますよ客人」
「はい、存じてますよ客人」
「ははは残念ですね、アスフィ」
 
 そう言って笑うルクスは少し嬉しそうだった。
 何がそんなに嬉しいのやら……。
 
 ***
  
 俺たちはフォレスティアに向かうことになった。
 メンバーは、
 
 ・コレイ(胸が)
 ・コルネ(胸が)
 ・ルクス(形が綺麗)
 ・俺(アスフィ)
 
 である。フォレスティアへの入口は、頑丈そうな石の門にて閉ざされていた。
 
 どうして閉ざされているのか聞くとどうやらこの先は魔獣が出るらしい。フォレスティアへ行くのはかなり大変そうだ。
 
「……当時は私も苦労しました。なんせ一人でしたから」
「ルクスには案内役は居なかったの?」
「はい、居ませんでした」
 
 ってことは、案内というよりやっぱり監視がメインか。
 ルクス曰く、この先は魔獣が多いがエルフの森のような複雑な道ではないとのことだ。
 つまり、強いものであれば誰でもたどり着けるということ。
 なるほど、フォレスティアは三段構えになってるのか。
 エルフの森で不審な点がないか門番であるトレイに試され、
 そして最深部に辿り着いても村長の許可がいる。その上強者じゃないとフォレスティアに着くことはできない。なんと恐ろしいんだフォレスティア……。
 セキュリティ万全すぎるよフォレスティア。
 
「では石門を開けます客人。離れてください」
 
 胸が大きい方のコレイがそういうと、門が開かれた。
  
「ガゥゥゥゥゥゥゥ」
 
 門を開けた瞬間、待っていたのは魔獣の群れだった。
 おいおい、門の前で待ち伏せしていたってことか?
 その瞬間、胸の小さい方のコルネが魔獣に向かって飛び出して言った。槍だ。石を削った鋭い槍を持った彼女は魔獣をなぎ倒していく。
 
「すげぇぇぇぇぇ」
「コルネは武闘派です客人」
 
 胸が大きい方のコレイは、自慢げにそう言うのだった。
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