Re:攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。【第一部新生版】

水無月いい人(minazuki)

文字の大きさ
56 / 97
第四章 《第一部》ヒーラー 模索篇

第52話『神話と交わる地』

しおりを挟む
 俺たちはアイリスのホームで一夜を過ごした。
 それぞれ疲れ果て、久々に安らぎを感じながら眠りについた。

「……おはようございます、アスフィさん」

「ああ、おはよう。随分と早いな」

「わたくし、睡眠を必要としないので」

 淡々としたアイリスの声に、思わず眉をひそめた。

 こいつ、本当に神なんだな……人間とは根本的に違う存在だ。

 裸のアイリスがベッドのシーツで体を隠し、あぐらをかいて座っていた。
 あくまで自然体で、恥じる素振りすら見せない。その姿に、神秘的な威厳を感じてしまう自分が少し情けない。

「彼女たちはまだ寝ていますよ。……アスフィさん、今からわたくしと少し散歩でもいかがでしょうか」

 かなり早い時間に目覚めてしまった。まだ時間にして朝の六時といったところか。
 俺は目が冴えてしまったので、アイリスの提案に乗ることにした。

 とはいえ……こいつのことだ。またなにか裏があるに違いない。

「大丈夫ですよ、何もしませんので」

 その一言で、俺の疑念を見透かされたことに気づく。心を読まれた……。
 だが、俺はあえて何も言わず、アイリスについていくことにした。

***

 アイリスの言われるがまま街を出た。
 相変わらず住民……いや、アイリスの創造物たちは賑わいを見せていた。
 それらは完璧なものだった。顔立ちや仕草、言葉遣い。すべてが人そのものだ。
 しかし俺はわかっている。彼らは本物ではない。作られた存在だ。

 まるで感情がある様に喋り、笑い、時には怒る。その様子に、胸の奥がザワつく。
 本物と偽物の境目が分からなくなりそうだった。

「なぁ、もしかして俺達人間も神に創造された生き物だったりするのかな」

「……さぁ、どうでしょうか。ご想像にお任せします」

 やっぱりはぐらかされたか……まぁ分かっていたことだが。
 結局、真相なんて神の気分次第でしか教えてもらえないのだろう。

 俺達人間、か。いつのまに俺は自分を「人間」と思い込むようになったんだろう。
 そう考えた瞬間、自分の存在そのものがぐらつくような感覚に襲われた。

 俺はアイリスに言われるがまま付いて行った。そこは冒険者協会だった。

「アイリス、なんでここなんだ? 一番話をするのに向いてないだろ? やかましいし」

「ここのお酒が一番いいんです。かつての人間が出していた酒を再現していますので」

 かつて……か。なんだか悲しい話だな。事情は知らないけど。
 廃れたものを、こうして神の手で再現されているのは皮肉としか言いようがない。

「……少しうるさいですか? では黙らせましょう」

 アイリスはパンッと手を叩いた。すると一斉に黙り、静かになった。誰も一言も喋っていない。
 その光景に、思わず息を呑む。圧倒的すぎる力……これが神か。

 平然とそれを成し得るアイリスを見て、俺は少し悲しくなった……。
 やっぱり人間じゃないんだと……そう思ったからだ。

 俺とアイリスは席に着いた。

「………で、話ってなんだ」

「はい、では単刀直入に言いますね」

 アイリスは真剣な眼差しで俺に言った。言い放ったのだ。

「――アスフィさん、あなたは『どっち・・・』ですか?」

 どっちとはどういうことだ?

「それは『人間』か、『人間じゃない』か、とかそんな話か?」

「いえ、それは分かりきっていることですのでどうでもいいです。わたくしが言っているのは、『神』か『悪魔』かということです」

 ますます分からん……アイリスは何を言っているんだ?

「神でも、悪魔でもない。一応人間のつもりだ」

 俺のよく分からないという表情からアイリスは続ける――

「あなたからは不思議なモノを感じます。『神』のようなもなければ、『悪魔』のような邪気も感じない。神のわたくしもなんて言ったらいいのか分からないのですが……あなたはですか?」

「……当たり前だ。俺はこの世界のシーネット家で生まれたアスフィ・シーネット十二歳だ。この世界以外で生まれた覚えは無い」

 もう少しで十三になるけどな。しかし俺の回答にアイリスは納得いっていない様子だ。

「そうですか……やはり彼女に聞くしかないのでしょうか」

「……俺もその彼女ってゼウスか?俺はお前もそうだが、その神とやらに聞きたいことが山ほどあるんだが、どこに行けば会えるか分からないか?もしくはお前が教えてくれるのが一番話が早いんだが?」

「先日も言いましたが、神は見つけようと思って見つけられるものではありませんよ?それと、わたくしから教える事はありません」

「俺にはそんなに時間がある訳じゃない」

 そうだ……レイラに母さん……。俺は目覚めさせたい人が二人もいる。そして二人を手に掛けた、黒フードの集団。

 母さんは父さんがいるから一応は大丈夫だとは思うが、万が一ということもある。それにレイラは置き去りだ。その万が一が起きれば俺はこれ以上自分を制御出来る気がしない。

「アスフィさん、では一つ助言を授けます」

「助言?」

「はい、神の言葉ですよ? 有難く聞いて下さいね」

 アイリスはそう前置きし、俺に助言する――

『アスフィさん、神を見つけるのではなく、自分がやるべき事を成しなさい。そうすれば、神の方からあなたに会いに来るでしょうね』 

 アイリスは神々しい光を放ちそう言った。神の方からくる……か。

 俺は神に会うのが目的では無い。俺の目的はレイラと母さんを目覚めさせる事だ。
 だが、神は何か知っている……ゼウスだけじゃない。コイツらは……神という生き物は俺たちの知らないことを『何か』知っている。それを聞く為にはやはり会うしかない。

 それに神の中には『ゼウスを信仰する者(ユピテル)』について何か知っている者が居るかもしれない。

「………アイリス、一緒に来てくれないか?」

『あら、まさかわたくしを誘っているのですか?……残念ながらわたくしにはこの街を復権させるという目的がありますので。ですが、もし何かあればまた相談くらいなら乗りますよ? いつでも歓迎しますので』

 そう言い終わると、
 アイリスの神々しさは消えていく。そして周りにいた者たちもまたそれに応じて、喋り出す。

「……では、戻りましょうか」

「ああ、そうだな」

 俺たちの散歩はこれで終了……ってこれのどこが散歩だよ。

***

 戻ってくるとルクスとエルザが起きていた。
 二人でどこに行っていたのかと聞かれたが、アイリスが『デート』です。と口元に人差し指をあて、言う。それにまた、のせられる彼女達。

 やれやれ、アイリスはどうやら人間を弄ぶのがご趣味なようだ。まだ根に持ってるのかね、この神は……。

***

 俺たちは次の目的地について話し合っていた。
 結局ここには『ゼウスを信仰する者(ユピテル)』についての手がかりは得られなかった。それにルクスのかつての冒険者仲間という連中も……。しかし、それについては大丈夫というアイリス。

「この街が滅んだのは十数年も前です。その後に訪れたのであれば死んでは居ないかと思いますよ?」

 そうか、ルクスの仲間はこの国が滅んだ後に来たのか。そうなると確かに、まだ生きている可能性があるな。

 だが、ハイディの家族は分からないな。アイリスはある家族がやってきたと言っていたが、それがもしハイディの家族ならもう……。

「次は私に決めさせてくれ」

 エルザが突然ニヤリと笑って言ってきた。なんだか嫌な予感がするなぁ……。
 ルクスは地図を広げてくれた。

「私はここがいいぞ!」

 エルザは地図に指を差す。

「『炎城ピレゴリウス』ですか。なかなか面白いところに行きたいようですね」

 アイリスが笑う……。
 おい、神を笑わせるって嫌な予感しかしない。もちろん俺は反対する。

「却下だ」

「なぜだアスフィ!? 次は私の番だろう!?」

「そんな順番制にした覚えは無いし、そもそも名前が不吉すぎる」

「ふふっ、アスフィさん。そうでもないかと思いますよ?」

 アイリスが笑いながら言ってくる。
 いやもう神のお前が笑ってる時点で嫌な予感しかしないんだよなぁ……。

「『炎城ピレゴリウス』に行けば、あなたの求めている人物・・・・・・・と会えるかもしれません」

 俺が求めている……?
 また俺は神に試されているのか?

「………そもそもなぜエルザはここに行きたいんだ?」

「おじいちゃんが生前、そこには伝説の剣があると言っていたのだ!」

「……なんだよその胡散臭いの」

 どうせ孫を喜ばせる為の嘘だろう……。
と思っていると――

「ありますよ」

 アイリスは真剣な顔で言った。

「本当か!?」

「はい、伝説の剣、ありますよ?」

「本当にあるのかよ」

「私は聞いたことありませんね……」

 アイリスの言葉にエルザが食いついた。
 ルクスは聞いたことがないらしい。もちろん俺もない。
 昔、冒険者をやっていた父さんなら知っているのだろうか?
 まぁ知っていても父さんはそんな事言わないな。だいたい俺に教えてきたのは剣術ばかりで、知識になるような事は殆ど母さんが教えてくれたし。

「では伝説の剣を求めて『炎城ピレゴリウス』にいざ出撃だ!」

「まぁ行く宛てもないし別に良いか……」

 伝説の剣とか求めてる人物とか色々気になるし。それに、『呪い』や『ゼウスを信仰する者(ユピテル)』についても何か分かるかもしれない。

「私はあまり乗り気になれないですが……」

 ルクスは乗り気じゃないようだった。名前が不吉過ぎるし無理もない。

「……皆さん、『炎城ピレゴリウス』でまた何があったか、わたくしにお話を聞かせて下さいね」

 アイリスは笑顔でそう答えた。嫌な笑顔だ。神に踊らされているようなこの感覚……。
 もし何かあったら全てエルザのせいにしよう。 

***

 そして俺たちは『水の都フィルマリア』を発ち、『炎城ピレゴリウス』に向かって歩き出した。

「……なぁルクス」

「はい? なんでしょう」

「仲間の件はいいのか?」

「はい、アイリスの話では死んではいないようなので……彼らは決して強いとは言えませんが、運は良い方なので大丈夫だと思います」

「そうか、ならいいんだが」

 今回はルクスが行きたいと言っていたからな。落ち込んでいなくてよかった。

「……もしかしてアスフィ、心配してくれたんですか?」

「まぁ一応な」

「ふふっ、ありがとうございますアスフィ」

 ルクスは満面の笑みでそう答えた。その笑顔を見て、なんとなくホッとする。
 俺はこうして仲間と旅を続けられることに感謝しつつ、歩みを進めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【運命鑑定】で拾った訳あり美少女たち、SSS級に覚醒させたら俺への好感度がカンスト!? ~追放軍師、最強パーティ(全員嫁候補)と甘々ライフ~

月城 友麻
ファンタジー
『お前みたいな無能、最初から要らなかった』 恋人に裏切られ、仲間に陥れられ、家族に見捨てられた。 戦闘力ゼロの鑑定士レオンは、ある日全てを失った――――。 だが、絶望の底で覚醒したのは――未来が視える神スキル【運命鑑定】 導かれるまま向かった路地裏で出会ったのは、世界に見捨てられた四人の少女たち。 「……あんたも、どうせ私を利用するんでしょ」 「誰も本当の私なんて見てくれない」 「私の力は……人を傷つけるだけ」 「ボクは、誰かの『商品』なんかじゃない」 傷だらけで、誰にも才能を認められず、絶望していた彼女たち。 しかしレオンの【運命鑑定】は見抜いていた。 ――彼女たちの潜在能力は、全員SSS級。 「君たちを、大陸最強にプロデュースする」 「「「「……はぁ!?」」」」 落ちこぼれ軍師と、訳あり美少女たちの逆転劇が始まる。 俺を捨てた奴らが土下座してきても――もう遅い。 ◆爽快ざまぁ×美少女育成×成り上がりファンタジー、ここに開幕!

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

処理中です...