Re:攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。【第一部新生版】

水無月いい人(minazuki)

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第二章 《第一部》ヒーラー 王国篇

第28話「触れる鼓動、交わる唇」

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俺は今、人生最大のピンチを迎えていた。

レイラからの、あの一言。

「ルクスとレイラ、どっちが大事なの?」

その問いに対して、俺は正直に答えたつもりだった。

「レイラに決まってるじゃないか! だってほら! ……胸! そう! 胸だって触った仲だよ? ルクスのはまだ触ってないから!」

……うん。

今思えば、どう考えても言葉選びを間違えた。
女心は難しい……本当に難しい……。

「……『まだ』?」

レイラの声のトーンが、ひどく低くなる。

「……ふーん。ってことは触るつもりなんだね、アスフィ」

「いや! 違うよ?! いや、まぁ気にならないと言えば嘘になるかもしれないけど――」

俺の口は、俺の意思に反して勝手に喋っていた。

――俺もどうやら、嘘はつけないらしい。

そして、当然のようにレイラの拳が飛んできた。

ゴッ!!!

女の子が男の子の顔面に、全力のグーパンを入れるなんて……!

俺は鼻から血を流し、軽く吹っ飛んだ。
慌てて『ヒール』で治したものの、流石に相手の気持ちまでは癒せなかった。

「……『ヒール』も万能じゃないんだよなぁ」

そのままレイラは無言で部屋を出ていき、それ以来、彼女は俺とまともに口をきいてくれなくなった。

***

そして数日後――

レイラが口をきいてくれない以外は、俺の日常は変わらなかった。
朝は剣術、昼は魔法。だけど、夜になると部屋に居づらくなり、俺は街へと出て時間を潰す日々を過ごしていた。

「……俺、なんか間違ったこと言ったかなぁ……」

噴水広場近くのベンチに座り、ぼんやりと夜空を見上げる。

「――君は大体間違えているぞ、アスフィ!」

突然、聞き慣れた声が耳に飛び込んできた。

「……エルザ?」

視線を向けると、そこにはピンクの水玉模様の部屋着を着たエルザがいた。

――なんだ、その格好は!?

「どの辺が?」

「……うーん、大体だ!」

「いやだからどの辺だよ!」

相変わらず、この女王様は適当だ。
その上、まるで悪びれた様子もなく、堂々と街を歩いている。

さすがに、女王がその格好で外出するのは問題あるだろ……。

「……レイラと喧嘩でもしたのかい?」
「まぁね」

「なるほど! アスフィ、君は今部屋に居づらくて、こんなところで時間を潰しているのか!」

「そうだよ! ……いちいち言わなくていいよ……」

エルザは勘が鋭い。気が利くわけじゃないけど、こういう時は余計なことまでズバズバ言ってくるから厄介だ。

「……私はこの国の女王だ。君たちの恋愛事情は分からない」

「なんだよ、急に」

「レイラは、アスフィのことを好いている」

「……うーん、どうなんだろうね。僕らまだ子供だし」

「子供で子供を作ろうと……?」

「……」

エルザは毎回、なんでそんな言葉選びをするのか。

「まぁ、それだけじゃないさ。レイラも、アスフィも、そして……私も。恋愛というのがよく分かっていないのだろうな」

「……らしくないね」

「私も恋する年頃だ。恋で悩むことくらいあるさ」

「ふーん……そうなんだ」

エルザが恋する……?一体どんな相手なんだろう。

「だから君たちはもっとイチャイチャするべきだ!」

「……なぜそうなる」

「だが、程々にしたまえよ?」

「……なにが?」

「イチャイチャするのは構わんが、する時はひに――」

「分かった分かった! 過激なことはしないよ!」

この女王様は一体何を言っているのやら……。

「ま、要するに謝って仲直りしろということだ!」

「何回も謝ってるよ……でも許してくれない」

「近づいて謝ってみたらどうだ? レイラもそれを望んでいるはずだ」

近づいて……か。

そういえば、今まで謝る時、俺は扉の入口付近からレイラに声をかけていただけだった。

そのことをエルザに伝えると――

「……バカか君は!!!」

と、怒鳴られた。

「だって殴られるの嫌だし……痛いし……血だって出るし」
「君が悪いんだから殴られる覚悟くらいするべきだろう? それにアスフィ、君には『ヒール』があるだろう」

ぐっ……!

「いいか? 次はちゃんと近くで目を見て謝ってやれ」

「わ、分かったよ……ありがとうエルザ」

「礼などいいさ! ……それに、アスフィもレイラも私の友達だ。友人同士がこのまま喧嘩をしたままなんていうのは、私は嫌なのだ……」

エルザは夜空を見上げていた。
その横顔は、いつもの野蛮なエルザではなく――

どこか、儚げで寂しそうだった。

「…………ルクスも、レイラと仲直りして欲しいものだな」

彼女は、そう呟いた。

***

そして――

俺は再び、レイラの部屋の前に立っていた。

扉の前で深呼吸をする。

「――レイラ! この前はごめん! ……あれ?」

部屋の中に彼女の姿はなかった。よく見ると、浴室の方から水の音がする。

「……なんだ、風呂かぁ」

俺はしばらく待つことにした。レイラは風呂が好きで、いつも長風呂をする。
この時間、俺はちょっと好きだった。

――妄想が捗るからだ。

「……って何を考えてんだ俺は!!」

我に返る。だが、気づけば脳裏に浮かんでしまう。
レイラの濡れた髪、しっとりとした肌――

「……いやいや! まずいまずい!」

俺は必死に頭を振った。

【妄想は俺の十八番だ】

(……ん?)

……
…………
………………

しばらくすると、レイラが風呂から出てきた。

「や、やぁレイラ。……風呂は気持ちよかったかい?」

レイラは俺を一瞥し、無言でベッドに向かう。

相変わらずの無視だ。

――もうこうなったら、実力行使だ!

俺は意を決し、彼女の目の前に立つ。

「レイラ……!」

距離は、わずか二十センチ。

「……な、なに?」

レイラは本で顔を隠した。

「こんなの今は必要ない邪魔だ! えいっ!」

俺は本を取り上げ、放り投げた。

「アスフィ!! 何するの!」

そして――

「僕はレイラが好きだ!」

俺は彼女に、真正面から想いをぶつけた。その言葉が、俺の口から飛び出した瞬間、レイラの体がピクリと震えた。

――沈黙。

俺の心臓は、爆発しそうなほどに高鳴っていた。
レイラの顔は本を取られて素顔が露わになり、俺の視線と真正面からぶつかる。

距離は――わずか十センチ。

逃げることはできない。

「……え?」

レイラの声は、驚きと戸惑いに満ちていた。だけど、俺はもう引けなかった。
ここで逃げたら、一生後悔する。ここで誤魔化したら、もう二度とこの気持ちを伝えることはできない。

そして、これで断られたら俺は本当に死ぬ。

「……レイラはどうなの?」

たった一言。

だけど、この一言を言うまでに、どれだけの勇気を振り絞ったか。

鼓動が耳の奥で暴れまわる。

体が強張る。

呼吸が浅くなる。

レイラは、俺の言葉に驚いたように目を見開いていた。

沈黙が長く続く。

レイラの頬がじわじわと赤く染まり、揺れる瞳が俺を映していた。

「……レイラも……アスフィが好き……だよ?」

その言葉を聞いた瞬間、俺は心臓が一瞬止まったような気がした。

だけど――

「でも……」

レイラは、俯きながら言葉を続ける。

「これが恋愛としての好きなのかが分からないんだよ……」

俺は思わず息を呑んだ。

――恋愛としての好き。

それがどういう意味を持つのか、俺は考えたことがなかった。

レイラが好きだという気持ちは確かだ。彼女と一緒にいたい。守りたい。
手を繋ぎたいし、胸も揉みたいし、抱きしめたいとも思う。でも、それが本当に恋なのか?

「……正直僕もよく分からない……だから」

俺は、ゆっくりとレイラの胸に手を当てた。

「……ア、アスフィ……?」

レイラが小さく声を上げる。

もちろん、揉んでるわけじゃない。俺はただ――鼓動を確かめたかった。

「……どう? ドキドキしてる?」

「……うん。恥ずかしいしドキドキしてるよ」

レイラの心臓の鼓動は、俺の手のひらを通して伝わってくる。

速い。

俺と同じくらい、速い。

「なら、これが好きって感情なんじゃないかな?」
「……そう……なの?」

レイラは、じっと俺を見つめていた。

――分からないことばかりだ。

でも、今この瞬間、俺たちの間に確かにあるこの感情は、たぶん間違いじゃない。
俺たちはまだ子供だ。大人のような恋愛なんて、きっと分からない。
でも、それでも――

「僕たちはまだ子供だ。だからその……そういうのはまだ出来ない。だから、これで許してよ」

俺は、レイラの唇にそっとキスをした。

たった一瞬の触れ合い。

でも、それは俺にとって初めてのキスで――

「……アス……フィ?」

レイラが驚いたように俺を見つめている。

俺も驚いていた。なんで俺、キスなんて……。

「……ごめん。嫌だったら謝るよ」

「……嫌なんかじゃない……嫌なんかじゃないよ!!」

突然、レイラが俺を押し倒してきた。

「わっ!? レ、レイラ!?」

次の瞬間――

レイラの唇が、もう一度俺に触れた。
それは、最初のキスよりもずっと長くて、ずっと深いものだった。

獣人だからなのか?それとも、レイラだからなのか?
レイラは何度も何度も俺の唇を求めてくる。

俺の心臓は、もう壊れるんじゃないかってくらいに高鳴っていた。
このまま、俺はレイラに呑み込まれるのかもしれない――。

もうこのまま身を任せて……そう思っていた。

――ガチャッ。

と、扉が開く音がした。

嫌な予感がした。すごく、すごく嫌な予感がした。

「――どうだいアスフィ! ちゃんと謝れ……た……かい」

聞き覚えのある声がした。
その瞬間、レイラの動きがピタッと止まり、俺も硬直する。

「……パ、パ、パ」

エルザが何か言おうとしている。

「パパパ?」

何かのパーティーでも始まるのかな?

「パパーーーーーー!! レイラとアスフィがいやらしいことしてるぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」

その場の空気が崩壊した。

……なんか、この光景、前にも見た気がするんだけど。
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