Re:攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。【第一部新生版】

水無月いい人(minazuki)

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第二章 《第一部》ヒーラー 王国篇

第14話 「S級剣士の本気と、ガラス越しの誘惑」

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そして再び話はワイバーン討伐に戻る。ワイバーン討伐クエストへの同行。俺たちが部屋で休んだあとの次の日だ。

「ワイバーンってどんなの?」

「うむ、あいつらは群れで行動するドラゴンみたいなやつだ」

「え、ドラゴン!? それも群れ!? 大丈夫なのそれ」

ワイバーン――ドラゴンの亜種であり、群れで行動する危険な魔獣。そんな相手を討伐するクエストに、俺たちは三人だけで挑むことになった。

メンバーはエルザ、レイラ、そして俺。団長であるエルザの父親は不在。そんな状態で果たして戦えるのか……不安が拭えない。

どう考えても厳しい気がする。俺はほとんど戦力にならない。レイラは強いが、まだ剣の特訓はしていない。エルザ曰く、

『実践を見てから剣の特訓をしよう! その方が早い!』

とのことだ。

つまり、俺たちはあくまで見学、同行という形になる。

「でも、それなら僕たちが行く意味あるの?」

「あるさ!」

エルザは胸を張って即答した。

「実際の戦場を見ておくのは、どんな訓練よりも学びになる! それに、アスフィの回復があるなら、レイラも戦える!」

「……つまり、僕はただの保険ってこと?」

「違うな!」

エルザがズイッと俺に顔を近づける。

「アスフィはレイラの『支え』だ! いざって時、アスフィの魔法があるからこそ、レイラが思い切り戦えるのだ!」

何故そこに自分を含めないのかよく分からん。

「……そんなに頼られても、僕、攻撃できないし……」

「気にするな! それより、しっかり見て学べ! それが今回の目的だ!」

エルザの言葉に、俺は小さく息を吐く。たしかに、実戦を見ることは貴重な経験になる。でも、本当にそれだけで済むのか。
そんな不安を抱えつつ、俺たちはワイバーン討伐の場へと向かった。

「そういえばエルザって冒険者になってまだ浅いよね」

「うむ、一年も経っていないな」

十五歳になったばかりのエルザ。冒険者になれるのは十五歳からだ。
日が浅いのも当然ではある。それ故に俺は心配なのだった。

「このクエスト、推奨ランクA級でしょ? ……僕ら、戦力にならないよ?」

「心配するな! 私はS級だ!」

「「……えっ」」

俺とレイラは思わず声を揃えて驚いた。
日が浅いのにS級!? 俺の父さんはA級……それよりも上!?

「ど、どういうことだよ……!?」

「何がだ?」

「だって、S級って……滅多にいないはずだよね!? 僕の父さんだってA級なんだぞ!? それより上って……!」

「S級って……師匠より強い……よ?」

「うむ、アスフィの父か。確かA級だと言っていたな」

「うん、僕の父さんはA級だよ。冒険者歴もエルザより長い」

「……恐らくそれが私が貰った『祝福』だ。あと……お、おじいちゃんの特訓のせいかも……」

エルザはおじいちゃんの話になると弱々しくなる。どんだけ怖いんだよ先代の王!
しかし、『祝福(さいのう)』はこうも人の人生を変えるのか。
どれだけ冒険者歴が長かろうと、『祝福』の前では意味を成さないのか。

「それでいうとレイラ。君も相当だ。恐らくだが、しっかりとした実践と訓練を重ねれば、私と同じくらい強くなってもおかしくは無い」

「……ゃった」

「えーーーいいなぁ、僕は?」

「アスフィは……分からん!ヒーラーはそもそも役割が違う」

「ちぇ」

なんだか俺だけ仲間はずれみたいだ。たしかにヒーラーは回復するだけだ。
ましてや俺は支援魔法すら使えない。本当の意味で回復するだけしかできないヒーラー。

「……だがアスフィ、君は他のヒーラーを遥かに凌駕する治癒力を持つ。それは国の宝とも言える程に。故にランクなどでは測ることは出来ない」

ヒーラーは評価されにくい。父が優秀と評価する母さんもそうだったように。

「今回僕達は何もしなくていいの?」

「ああ!見ているだけで構わない!」

「……レイラも戦う」

「いや、君はまだダメだレイラ。ワイバーン個々はBランク相当。私から見るに今のレイラもBランク相当だが、ワイバーンはさっきも言った様に群れで行動する。それ故に推奨ランクはAなのだ」

さっきレイラも戦うとか言ってなかったか……?

にしてもレイラはもうBランク相当なのか。凄いな。流石うちのレイラだ。
俺はきっとEランクが妥当ってとこか。もしくは最低ランクのGも有り得る。

そうこうしているうちに目的地に着いた。

「え、もしかして……飛んでるあれ全部?」

「ああ、そうだ。あれがワイバーンだ」

「……多いね」

俺は目の前の光景に息を呑んだ。
空を舞う影、その一つ一つが巨大な翼を広げている。鋭い爪と牙、そして何より、その数――目視できるだけでも二十体はいる。
Bランク相当の魔獣が二十体以上……たしかに、これなら推奨ランクAなのも納得だ。

「では見ていてくれ」

そういうとエルザは一人でワイバーンの群れがいる方へ、走っていった。

推奨ランク――それは冒険者協会が定めるクエストの難易度を示す指標だ。

例えば、推奨ランクAのクエストであれば、Aランクの冒険者が数人で挑むことが前提となる。もちろんこれは決まりではなく、あくまで「死なないため」の目安として設けられているものだ。だが、推奨であるとはいえ、完全に無視していいわけではない。

なぜなら、冒険者協会には明確なルールも存在する。

『クエストに一人で行くことなかれ』

これは、冒険者協会が定める重要な規則の一つ。昔、ある人物が単独でクエストに挑み、死亡したことがきっかけで制定された。

どれほどの実力があろうと、何が起こるかわからないのが冒険。強敵に遭遇することもあれば、不測の事態に陥ることもある。そのため、単独行動は極力避けるべきだとされているのだ。

本来なら、俺たちはこのクエストに参加できないはずだった。

推奨ランクA級のクエストに対し、俺たちは冒険者ですらない。ただの同行者に過ぎない。つまり、このクエストは実質エルザ一人のもの――本来なら、規則違反に当たるはずだった。

ただし、そのルールが適用されるのはあくまでA級まで。

S級の冒険者には、その制限はない。

なぜなら――

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

エルザの雄叫びが轟く。

その瞬間、彼女の姿が消えた。いや、違う――速すぎて目で追えないだけだ。

次の瞬間、空に舞っていたワイバーンの一体が斬撃を受け、爆発したように血しぶきを撒き散らしながら地面に叩きつけられる。

俺は息を呑む。

――そう、S級にはルールは適用されない。

なぜなら、彼らは圧倒的に強いから。

エルザは一人でワイバーンの群れを相手にしていた。支援魔法は一切ない。俺が使えないから当然だ。
だが、エルザは魔法とは違う固有の強化手段を使っている。

「『超身体強化ハイブースト』!」

そう唱えた瞬間、エルザのスピードが格段に上がった。
目で追うことが難しいほどに。いや、ほとんどのものは見ることが出来ないないだろう。おれもその一人。
ただしレイラを除いて――

「レイラ見えるの?」

「……うん、ギリギリだけどね」

エルザは空高くジャンプし、空にいるワイバーンをたたき落とし続けた。
まるでハエでも落とすかのように。

「すげぇや……」

「……だね」

エルザは俺たちの想像以上に強かった。Sランクというのも頷ける強さだ。

剣術の才能に恵まれたものは、時々魔法とは違う強化手段を得ることがある。
あの盗賊のリーダーハンベルも使っていたものだ。ただしこれは全員が使えるものでは無い。
才能と努力が必要不可欠。

そしてエルザが使っていた『超身体強化(ハイブースト)』は、盗賊のリーダーが使うものとは次元が違うものだった。
これは彼女固有の『強化技術・・・・』だ。

「ふう、いやぁ疲れたよ」

「凄いね!本当に強かったんだエルザ」

「……うん、すごい」

「ハッハッハ!当然さ!私はパパ……団長より強いからな!」

もうそこまで言ったんならパパでいいだろう。

「これで終わり?」

「ああ、全部倒した。後は帰って報告するのみだ」

「……なんかあっけなかったねアスフィ」

「そうだね、参考にならないよこれ」

「そうとは限らない、レイラには私の動きが追えていたようだが?」

「……うん」

戦闘しながら俺達の様子を伺う余裕まであったのか。
Sランク冒険者はここまで強いのか。SSの勇者辺りはどんだけバケモンなんだ……?

「さて!帰ろう!」

「これって報酬でるの?」

「……出ないな!!」

「ええーなんで!?」

「……そんなの……おかしい」

「君達は戦っていないからな……」

ぐうの音も出ない。でも一応危険なクエストに同行したのだから、なにかしらの報酬は欲しいとこだ。

「……うーん、不満そうだな。ならこうしよう。ワイバーンを一匹討伐してみよう!」

「ワイバーンを?」

「そうだ!君達二人で協力してね!」

「……で、でもワイバーンはもう居ないよ」

「レイラの言う通りだよ」

「……そういうかと思ってな。一匹だけ飛べない個体を残しておいた」

地面に転がっているワイバーンの死体の山にまだ生き残っていたものがいた。

「私が君たち用に叩き落としておいた一匹だ!あいつはもうしばらく飛ぶ力はない。だが、君たちからすれば強敵だろう」

俺達が不満を言うとこまでお見通しだったのな。どこまでもいってもこいつはエルザ・スタイリッシュだった。

「レイラ、やるよ!」

「……うん、アスフィ」

俺達は戦闘態勢に入る。ワイバーンも俺たちをターゲットと認識したようだ。
こいつは強い。エルザがバッサバッサと簡単に斬っていたが、それはあくまでエルザだからだ。
俺達はまだ冒険者ではない。そんな俺たちからすれば飛べないワイバーンと言えど強敵であるのは間違いない。

「レイラ、こいつBランク相当らしいけど……いける?」

「……頑張る、よ」

そして――

ワイバーンが勢いよく俺たちに向かって突進してきた。
飛べないのになんて速さしてやがるんだ!

「レイラ!」

「……うん!」

レイラのショートソードと、ワイバーンの爪がぶつかり合う。

金属と爪が擦れ合い、火花が散る。しかし――

「う、……押し返せない!!」

レイラの腕が震え、じりじりと後退していく。ワイバーンの圧倒的な膂力が、彼女の剣を押し込んでいた。

「頑張れレイラ!」

俺は思わず叫ぶ。

だが、ワイバーンは容赦なく爪に力を込め、さらにレイラを押し込もうとする。

このままでは――!

レイラとワイバーンがぶつかり合っているのに、俺は応援ぐらいしか出来ない。
回復魔法しか使えない俺は。

【簡単だろ?】

(全然簡単じゃねぇ……)

また声だ。なんなんだ一体。

「どうすればいい……レイラの助けになるには……」

「アスフィよ、君はヒーラーだ。何をすべきなのかは明白だろう」

「何って、回復しか使えないんだよ」

……そうだ。回復しか使えないヒーラー。俺は母さんのように支援魔法を使える訳では無い。

「回復魔法があるじゃないか」

「回復、魔法……ハッそうか!」

俺はエルザの言葉に気が付いた。自分が何をすべきかを。
俺の『ヒール』は大体どんなものでも癒せる。それはダメージだけでは無い。

「レイラ!頑張れ!」

「う、うん……!!」

「『ヒール』!」

レイラの体が淡く光り輝く。

「はああああああああああああ!!」

力強い叫びとともに、彼女の身体が発光する。

さっきまで押され気味だったレイラが、突如として力を爆発させ、一気にワイバーンを押し返した。

「ギャゥゥゥゥゥ!!」

ワイバーンが悲鳴を上げる間もなく――

レイラの一閃が、ワイバーンの巨体を一刀両断する。

鮮血が舞い、巨大な魔獣が地に崩れ落ちた。

俺は支援魔法を使った訳では無い。レイラのスタミナを回復した。
スタミナを回復したレイラと、既にエルザ戦で手負いのワイバーン。消耗戦となればレイラのスタミナを回復すればこっちの勝ちという訳だ。

「流石だ、君達は期待を裏切らないね!アスフィ、レイラ!」

「ま、まぁね……『ヒール』」

俺は自分にヒールをかけスタミナと魔力を回復した。

「……アスフィ、君が『ヒール』で治せないものはなんだ?」
「うーん、なんだろう」

俺は少し考える。回復魔法は万能ではないが、ある程度の傷ならすぐに治せる。けど、致命傷や即死級のダメージはさすがに無理だ。呪いがそうだ。

「…………そうか。では、本当に帰るとしよう!」

エルザはそう言って、大きく頷く。

「えっ、ちょっと待って、それってどういう――」

俺が聞き返す間もなく、エルザはくるりと踵を返し、颯爽と歩き出した。

こうしてワイバーン討伐クエストは無事クリアした。初めての戦いに勝てた俺は少し嬉しかった。

「まぁほとんどなにもしてないけど……」

「……何言ってるの。アスフィのお陰で勝てたんだよ……ありがとう」

「レイラ……こっちこそありがとう」

「ハッハッハ!本当に仲がいいな君達は!……あ、そういえば、パパが君たちに相応しい部屋を用意したと言っていたが、どんな部屋だったのだ?私も遊びに行っていいか!?」


エルザよ、ここは王室ではないのにパパと言っているぞ。副団長の設定はどうしたんだ。

「部屋?……あ」

「……よかったよ。アスフィが大はしゃぎしてた」

「そうか!なら今度私も遊びに行くとしよう!」

エルザが遊びに来る……ガラス張りの風呂……ハッ!
俺は気づいてしまった。

「大歓迎だよ! エルザ!! 是非遊びに来てよ!」

「おお! そうか! そんなに歓迎してくれるとは思わなかった! では今度メイド達に隠れてお忍びで行くとしよう!」

「ああ! 是非!! あ、お風呂は入ってこないでね」

「ん? ああ! 分かった!」

俺が念押しすると、エルザはあっさりと頷いた。しかし――

「……アスフィまさか……」

レイラが何かに気づいたような声を漏らす。

「どうしたのレイラ? 早く帰ろう!」

「……うん」

レイラは俺をじっと見つめた後、ため息をついて歩き出した。

俺はまた新たな楽しみが増えた。今度こそレイラのレイラを! しかも今回はエルザも……!

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」

「アスフィどうしたのだ急に」

「早く帰ろう!僕は疲れたから寝たい!」

「君は『ヒール』で回復できるじゃないか」

そんな正論聞きたくない。

「……もう『ヒール』じゃ治せないくらい疲れたんだ!」

「早速君に治せないものが判明したな!ならパトリシアを呼ぼう」

「……また乗れるの?」

どうやらレイラはパトリシアが気に入ったようだ。初めてミスタリスに来る道中で乗せてもらった馬だ。
たしかにあの白馬は乗り心地がいい。……あれ?でも今回パトリシアに乗って来てないよね。
どうやって?と聞く前にエルザが大声を上げた。

「パーーーーーートリーーーーシアーーーーーーーーー」

まさかの原始的な呼び方!!そんなんで来るわけ……と思って五分ほど待っていたら――
白い白馬が走ってきた。

「え、そんなんでくるの?」

「パトリシアは私の相棒だ!私いる所にパトリシア、アリだ!」

「すごい……」

レイラは感心し、パトリシアを撫でていた。

「では帰るとしよう!」

「よし帰ろう!今すぐ帰ろう!」

「……うん!」

それぞれが違う思惑で大はしゃぎし、白馬でミスタリス王国に帰ることになった。
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