全てを極めた最強の俺が次に目指したのは、最弱でした。

第二章 幻影の都市ヴァルフォート編

第23話: 再会への誓い

悠斗は静かに森の中を進んでいた。緋奈を攫われてから数日が経った。足元に転がる枯れ枝や苔むした岩は、彼にとってもう障害ではない。ただ、一心に進むべき道を求め、彼は目を凝らし耳を澄ませる。

「……痕跡は確かにこの辺りに続いている」

足を止め、地面を覗き込む。かすかに残された靴跡と、微かに漂う魔力の痕跡。それを頼りに、悠斗は再び前進する。

――緋奈のことが頭から離れなかった。

「悠斗さん、こんな風景が広がってる場所、他にあるんですかね？」

かつて緋奈が目を輝かせながら言った言葉が思い出される。彼女は、あの無邪気な笑顔の裏に何かを抱えていた。それを知りながらも、悠斗は深く踏み込むことをしなかった。

「……俺が守るって決めたんだ」

彼の手に握られた杖が静かに魔力を宿し始める。杖と大剣――転生して手にした不思議な力。この世界に降り立ったときから存在した武器たちだ。どうしてこの二つの武器が彼に宿るのか、その答えは未だ掴めていないが、今はそれで良い。緋奈を助けるためには、全力を尽くすだけだ。

森の奥深くに広がる古びた神殿にたどり着いたとき、悠斗の心は一瞬緊張した。

「……ここにいるな」

石造りの柱が崩れ、蔦が絡みつく荒れ果てた神殿。中からは僅かだが人の気配と魔力の波動が感じ取れる。悠斗は慎重に足を踏み入れると、暗い空間に目を凝らした。

その奥、魔力の光に照らされているのは、拘束された緋奈だった。両手を縛られ、柱に固定されている彼女の姿が見えた瞬間、悠斗の血が逆流する。

「……緋奈！」

彼の叫びに、緋奈が顔を上げる。涙で濡れた瞳が悠斗を捉えた。

「悠斗さん……来てくれたんですね……」

その言葉に応えるように、悠斗は神殿の中心に向かって駆け出す。しかし、彼の行く手を阻むように魔法陣が輝き出し、その中から黒いローブを纏った男が現れた。

「ここまで来るとはな……だが、この娘は渡さない」

悠斗は相手の姿を睨みつけながら、静かに杖を構える。

「お前らが何の目的で緋奈を攫ったのかは知らない。だが――」
彼の目が鋭く光る。「俺に手を出したことを、後悔させてやる」

戦闘が始まった。悠斗の杖から放たれる魔力の波動が神殿全体を震わせる。一方で、相手も強力な魔術を次々と放ってくる。悠斗はその攻撃を巧みに避けながら、一つ一つ反撃の手を加えていく。

「悠斗さん、早く逃げて……私のことなんて！」

緋奈の叫びが響く。しかし、悠斗は顔を歪めながら答えた。

「ふざけるな！お前を置いていくなんて、俺にはできない！」

そう言い放つと同時に、彼の杖が強烈な閃光を放つ。その一撃でローブの男が後退する隙に、悠斗は緋奈のもとへ駆け寄る。

「緋奈、大丈夫か！」

「ごめんなさい……私、何もできなくて……」

彼女の声はか細かった。しかし、悠斗は彼女の手を取りながら静かに呟いた。

「お前が無事なら、それでいい」

そのとき、ローブの男が再び立ち上がり、手の中に新たな魔法陣を展開し始めた。その視線は悠斗ではなく、緋奈に向けられていた。

「――貴様のせいで計画が狂った。だが、この娘だけでも連れて行く！」

その瞬間、魔法陣が輝き、緋奈の体が宙に浮かび上がる。

「緋奈！」

悠斗が必死に掴もうとするが、緋奈は光とともに消え去った。彼の手には、かすかな温もりだけが残る。

「また……攫われた……」

拳を握りしめる悠斗の顔には悔しさが滲んでいた。しかし、彼の目に浮かぶ涙の奥には、再び彼女を救い出すという強い決意が宿っていた。

「必ず助ける。何度でも――」

悠斗は杖を握り直し、再び足を踏み出した。その先に待つのがどんな運命であろうとも、彼は立ち止まらない。

彼の心には、緋奈を救い出し、共に未来を切り開くという覚悟があった。